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森見登美彦

本 熱帯 【2019年本屋大賞ノミネート作品】

熱帯 【2019年本屋大賞ノミネート作品】

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    けちょう  |  東京都  |  不明  |  2019年01月13日

    やりおった。森見登美彦がやりおった。完全に先を越された、抜け駆けである、超出し抜かれた感ハンパないんである、悔しいです。 ことの発端は大晦日に遡る。コタツもない、ミカンもない、TVもついていないこの部屋に、スマホの着信音が鳴った。学生時代の友人だ。年末の挨拶をするような奴だったか、と思い出る。果たして「沈黙読書会だ。1月6日18時、表参道に来い」と切ろうとする。待て、何だその〈沈黙読書会〉ってのは。どうにか聞き出したところによると、〈それは何らかの「謎」を抱えた本を持ち寄って語り合う会であるという〉〈面白いのは、そうやって持ち寄られた謎を解くことが「禁じられている」ことである〉。「兎に角、1冊持って来い。そうだな、あれはどうだ、ねっ(ツーツー)」え?なぜそこで切った?そういう奴だよ、お前はねっ。 「ねっ」。ねつ、熱、ああ「熱帯」。そこで思い出す。あの本は学生時代に、かの友人と京都へ旅した特に嵐山の渡月橋のど真ん中で拾ったのだった。それは〈推理小説ではないし、恋愛小説でもない。歴史小説でもないし、SFでもなく、私小説でもない。ファンタジーといえばファンタジーだが〉かなり面白かった気がする。たしか、ある若者が美しい島に流れ着くが、記憶を失っていて自分が誰か分からない、そこに佐山尚一という男が現れ。そうだ、この佐山尚一が「熱帯」の作者だ。それからどうだっけ? Amazonは便利である。「熱帯」佐山尚一で検索するとすぐに出てきた。が、在庫切れ再入荷予定なし。〈暴夜書房〉というのが取扱店らしいが連絡が取れないとのこと。18件のレビューに目を通す。驚く事に、誰もがこの本を捜している。風呂の中で読んでいて寝てしまい起きたら本が消えたとか、途中まで読んで鍋敷きにしているうちに失くなったとか、どうやら最後まで読んだ人がいないらしい。かくゆう私も、京都からの帰りの新幹線で続きを読もうとしたら「熱帯」は鞄の中から消え失せていたのを思い出したのだった。この本こそ〈沈黙読書会〉に相応しいではないか。途中までしか読めない本。次回作のネタになりそうだ。 ないと言われればどうしても手に入れたいのが人の性だが、仕方がない。検索に引っかかった森見登美彦の最新作『熱帯』を取り敢えずポチった。届いた本を読み始めて呆然とした。そして冒頭へ戻る。 森見登美彦がやりおった。 15ページ目にして佐山尚一の「熱帯」が登場。しかも16年前、森見も途中までしか読まないうちに本を失くしたという。その上、23ページ目には〈沈黙読書会〉に参加。忘れもしない幾何学模様のシンプルな表紙の「熱帯」を持つ女性に遭遇。その女性の発した〈この本を最後まで読んだ人はいないんです〉。何これ、ノンフイクションなの。その後も〈暴夜書房〉が出てくるは、訳あって「熱帯」を途中までしか読んでいない人々が現れ、〈学団〉なる読書会を結成。うろ覚えの記憶を持ち寄り「熱帯」のストーリーを追っていくという展開。 更には〈汝にかかわりなきことを語るなかれ〉で始まる4章こそ、私の記憶に残る「熱帯」なのであった。怪しい、まことに怪しむべきことだ。森見登美彦は「熱帯」佐山版を密かに所有しているのではないか。執筆に行き詰まって「熱帯」の力を拝借したのではないか。 それにつけても悔やまれるのは、京都から「熱帯」を連れ帰れなかった事だ。かの友人奴が、もっと早く〈沈黙読書会〉に私を誘わなかった事だ。『熱帯』は私が書きえた小説だ。それを持ってすれば、物書きの端くれとして憧れのあの「ファンタジーノベル賞」を手中にできたやもしれない。悔しいです。

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