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堀淳一

本 北海道 地図の中の鉄路 JR北海道全線をゆく、各駅停車の旅

北海道 地図の中の鉄路 JR北海道全線をゆく、各駅停車の旅

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    ココパナ  |  北海道  |  不明  |  2021年04月13日

    北海道大学で物理学の教授を務めた堀淳一(1926-)氏による素晴らしい趣味本で、出版時現存した北海道のJR線について、地形図と照らし合わせながら、その線形の面白さや、車窓を読み説いていく、というものである。路線は「全線の開通年代順」に、以下の様に並べられている。1) 富良野線 2) 函館線 3) 根室線 4) 留萌線 5) 千歳線 6) 室蘭線 7) 宗谷線 8) 釧網線 9) 石北線 10) 札沼線 11) 日高線 12) 江差線 13) 石勝線 14) 海峡線。こうして書いてみて、現存線で全線開通が一番早かったのが富良野線だったというのは、私もなかなか意外だった。それにしても、北海道の線路は随分を減ってしまった。美しい車窓風景が見られた羽幌線、興浜北線、名寄線、湧網線、士幌線、深名線、万字線、胆振線、富内線、松前線、その他多くの線路が、失われてしまった。本書の内容に戻ろう。本書では路線ごとに、まずは20万分の1地形図でその全貌を紹介し、要所要所で、新旧の5万分の1及び2万5千分の1地形図を引用しながら、解説を加える方法で記述が進められていく。(各地図は、転載の際に適宜拡縮が行われているが、その比率もきちんと記載してある)。線路を辿って地形を読み解く、という試みが面白くなるのは、鉄道の地形的制約が大きいことに由来する。回転半径、上り勾配には限界があり、工事の省力化と、目的地到達の短時間化の折衷案として路線が決定されていく。川を渡るには効率的に架橋する角度も検討しなくてはならない。さらに集落には駅を設ける必要があるが、駅の設置にはある程度の広さの平坦な場所が不可欠だ。だから、線路の線形を辿るということは、当地の地勢学や地誌そのものを検討することに繋がっている。どこの谷を通って分水嶺を超えることがもっとも合理的か。現路線に決定するまでにどのような検討が行われたと考えられるか。また、線路の付け替えなどは、どのような価値観を勘案してなされたのか。これらの考察は、多様な要素を含んでいるから、とても楽しいのだ。面白かった一例を挙げてみよう。根室線の末端に近い茶内駅以東では、線路がずっと尾根道(分水嶺)に敷かれている。通常、川に沿って敷かれる線路において、これは世界的にみてきわめて珍しい路線配置だ。この地の低湿な土壌と、台地の形態的特徴を背景として、必然的にこのようなものになった、と本書では語られている。函館線蕨岱駅付近の峠越えの変遷も本書の解説で一層興味が高まった。また「窓から見える山容」への記述も面白い。例えば、名寄盆地西側にある一見普通な山なみが、主尾根とこれに並行して孤立峰が連なるユニークな形をしていることも、あらためて指摘されてみないと、わからないことだ。地質の硬軟による浸蝕差で生まれた珍しいものとのこと。それにしても、本書で引用された数々の地形図は見ていて楽しい。引用されている地形図のうち、私が特に見どころだと感じるものについて。 ・昭和26(1951) 函館線落部駅付近 ; 路線変更のタイミングで、落部駅新旧2つが掲載 ・昭和42(1967) 根室線新得駅付近 ; 狩勝峠越の新旧両線さらに北海道拓殖鉄道が掲載 ・昭和28(1953) 室蘭線伊達付近 ; 海岸線に沿って走る旧室蘭線(現在はトンネル)が掲載 ・昭和44(1969)と平成12(2000)の有珠山 ; 1977年の噴火前後で変化した山容(車窓風景) 前者には胆振線も掲載 ・大正6(1917) 函館線ニセコ付近 ; 旧線の線形が掲載 厳密な測量を経ない等高線にも注目 ・昭和3(1928) 門別付近; 日高線の前身日高拓殖鉄道が掲載 門別にはすでに競馬場が見える ・昭和28(1953) 苫小牧付近 ; 苫東開発前の海岸を走る日高線が掲載 ・平成3(1991) 苫小牧付近 ; 最近廃止された苫小牧港開発社線が掲載 ・昭和33(1958) 夕張登川付近 ; 旧登川支線の全貌が掲載 ざっと挙げてみたが、どれも食い入るように見てしまう地形図である。その他、根室線では、線路の付け替えをもたらした2つのダムと、それに伴って消えた2つの駅(滝里駅;滝里ダム と 鹿越駅;金山ダム)のダム完成前後の姿も示されている。堀氏の文章はいつもながらの味わい。エッセイ風な自由な書き振りで、興味のあることはどんどん書くし、そうでないことはほとんど触れない。私個人的に、共感したのは、例えば、根室線糸魚沢駅付近のチライカリベツ川周辺の湿原の車窓美が素晴らしいこと、釧路湿原のシラルトロ沼周辺の散策路がまたとない楽しいものであること、などである。一方で、場所によっては毒舌が過ぎるところもあるかもしれない。例えば、留萌線の書き振りは冷たく、増毛駅については、何もない、駅前を10分ふらついて終わりだし、留萌線もほとんど乗客がいない、といった体。ちなみに、私も昨年、留萌線で増毛まで行ったのだが、深川-留萌間は座席が全て塞がるくらいの乗客だったし、留萌-増毛間も10人以上の乗客だった。増毛も歴史あるきれいな町で、駅前にある保存された旧旅館建築、旧食堂建築、駅から丘に上がったところにある北海道最古の現役の木造校舎の増毛小学校など私は大好きだし、国稀酒造、旧商家丸一本間家なども是非オススメした訪問地だ。それに美味しいお寿司屋さんやラーメン屋さんもある。そういったことに、あまり興味のない堀氏の記述は、観光という点では鵜呑みにされない方がいいでしょう。とはいえ、地図と旅が好きな人であれば、間違いなく楽しめる一冊です。

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