カール・Th･ドライヤー コレクション 短編集

1940年代から1950年代にかけてカール・Ｔｈ・ドライヤーは他の監督の短編映画の脚本を書いたほか、幾つかの短編映画の監督を自ら行っている。これらの短編映画はすべて政府の機関が資金を出して作らせた宣伝映画であり、それゆえに従来はドライヤーの作家論の中では殆ど取り上げられてこなかった。またこれらの短編映画はあまり上映の機会もなく、一般的にもほとんど知られてこなかった。ドライヤーの短編映画はドライヤーの世界の中では今でも未知の領域に属している。本ＤＶＤは、世界で初めて、ドライヤーが生涯に監督した全ての短編映画を収録するものである。
無声映画の時代に故国デンマーク以外の国でいくつかの映画を製作せざるを得なかったドライヤーであったが、1940年代から50年代にかけて彼が作った短編映画は全てデンマークで作られた。またこれらの短編映画が何らかの形で政府の機関による広報・宣伝という目的を持って作られているために、彼の短編映画にはデンマークの歴史や文化や社会の主題がはっきり見られる。最初の二作品、未婚の母親の問題を扱った「母親支援」、井戸水の汚染の問題を扱った「田舎の水」は同時代のデンマークの社会問題を扱っている。また「癌との戦い」は癌治療における当時の最新の方法である放射線治療を紹介している。
こうした短編映画の全ての中に、ドライヤーの長編劇映画の中に見出される作家性が発見できる。「村の教会」や美術映画「トーヴァルセン」は、ドライヤーの美術的なものに対する非常に強い関心をはっきりと示している。ハムレットの舞台となったクロンボー城に関する「城の中の城」には、歴史調査に対するドライヤーの関心が表れている。
ドライヤーの短編映画の中でもとりわけ有名で、傑作として知られている「彼等はフェリーに間に合った」には、彼の劇映画「吸血鬼」にあるような不気味な感覚がある。またあまりにも恐るべき現実を示したゆえに、公開すらされず、後には現存しないドライヤーの短編映画とさえ思われていた「田舎の水」にも、人間が恐るべきものに囲まれて生活しているという状況がはっきりと描写されている。デンマークのモダンな橋を記録した「ストーストレーム橋」は抽象絵画のようなコンポジションによって、「裁かるるジャンヌ」をも想起させてくれる。
ここに収録された7本の短編映画は、ドライヤーが自ら監督した短編映画の全作品であり、この偉大な映画監督が短編映画の領域でも優れた仕事をしていたことを証言してくれるものであり、また、映画監督ドライヤーの作家性を考える際にも決して無視することのできない芸術的豊かさを提示するものである。

（メーカー資料より）