交響曲第3番『英雄』　カラヤン＆BPO（1982 LIVE DVD）

BPO創立100周年ライヴ！　
カラヤン／『英雄』

１９８２年４月３０日ライヴ。ベルリン・フィル創立100周年記念演奏会の映像が海外初ＤＶＤ化。シュヴァルベ、コッホ、ライスターなど往年の名手が並ぶＢＰＯを相手に、晩年のカラヤンが凄まじい燃焼を見せた貴重な記録です。

　１９８２年４月３０日、ベルリンのフィルハーモニーにおけるライヴ収録。この年に創立100周年を迎えたベルリン・フィルが４月から５月にかけておこなった記念演奏会シリーズ初日のコンサートにおける演奏で、当時のドイツ連邦共和国首相ヘルムート・シュミットらがＶＩＰ席に陣取る特別な環境下、指揮者もオケも最高の燃焼をみせた凄絶な記録です。

　立錐の余地もなく聴衆で埋め尽くされたホールに現れたカラヤンはこのとき７４歳。後年のように介添えの手を借りることなく登場するその姿はまだ充分に精力的で、晩年のカラヤン映像を象徴するパイプ状の黒い背もたれもここでは見られず、乱れ髪にも構わない一心不乱の気迫みなぎる指揮ぶりが印象的。

　アタッカで続けられた第三楽章と第四楽章とのほんの短い合間に、したたる汗を払い飛ばすかのように顔をぬぐい、オケをせきたてんばかりに指揮棒を構え直すしぐさなど、無修正ライヴならではの貴重な瞬間。このあとまもなく肉体的な衰えを隠し切れなくなってしまうカラヤンとしては、全盛時代の威風を伝えるほとんど最後の映像と言えるのではないでしょうか。

　そんなカラヤンの力強さに触発されたように、ベルリン・フィルが当時のこのオケにしか不可能といいたい凄い馬力を聴かせてくれます。造型はいわゆるカラヤン流の流線型、まさに怒涛のごとく俊足を飛ばすそのパワーとエネルギーには唖然とするばかり。
　このような倍管編成によるベートーヴェン演奏を時代錯誤というのは簡単でしょうが、その圧倒的な感銘にはやはり抗うすべもありません。

　実際、この日のオケのノリようは映像を見ていても容易に感じられるところで、そのすさまじい燃焼度は手綱を一瞬引き誤れば空中分解しかねない危険を孕んでもいるのですが、このときのカラヤンには天下無双のこの荒馬を乗りこなすに充分な力があったようで、両者のスリリングともいえる駆け引きに聴き入るうち、全編５４分弱が素晴らしい手応えだけを残してアッというまに過ぎ去ってゆきます。

　カラヤンとしても、この日の演奏は会心の出来だったとみえて、まさに圧巻のコーダとともに全曲を閉じた瞬間、こぼれるような笑顔を浮かべたカラヤンがオケに投げキッスをするという、この指揮者としては大変に珍しいシーンが収められています。

　ちなみにこの日、オケのトップを弾いているのは、いまや伝説的な名コンマス、ミシェル・シュヴァルベ。木管にもローター・コッホとカール・ライスターという名手が並び、カラヤン時代のベルリン・フィルを支えた名プレイヤーの姿がかいま見えるという点も、この映像のもうひとつの見どころとなっています。


・ベートーヴェン：交響曲第３番 変ホ長調 op.55『英雄』
　ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

収録：1982年4月30日、ベルリン、フィルハーモニー