HMVインタビュー:Luis

2009年11月24日 (火)

interview

Luis

そう、例えるなら……眺めていると気分が落ち着いて元気になれる、お気に入りの写真のような音楽ね。どこに行く時も、お財布に入れて持ち歩けるお守りみたいなもの。明るく、前向きな気持ちになれるサウンドトラック、それが今回のアルバムのコンセプト。

--- まずはこれまでの生い立ちから訊かせてください。子どもの時からミュージシャンを目指していたのですか?

そう。子どもの時からずっとシンガーに憧れていたわ! 幼稚園のお絵描きの時間には、ステージの上で歌っている自分の姿を描いていたくらい。お祖父ちゃんはピアノを弾いていて、お父さんは大のジャズファンでたくさんのレコードをコレクションしてた。両親は共に音楽に理解があったから、音楽のレッスンを受けさせてくれたの。私はピアノとギター、弟はバイオリンを習ってた。でも早くステージに上がって歌いたかったからピアノの練習を続けながら、高校卒業後すぐにケルン音楽大学を受験したの。そこでちゃんとしたボイス・トレーニングを受け始めて、ボーカル・スキルを磨いたわ。今一緒に活動しているバンド・メンバーとも大学で知り合ったの。

--- 家庭以外に音楽的な環境はありましたか?

あまりなかったわ。高校では音楽の授業もなかったし、クワイアー(聖歌隊)もなかった……。友達もあまり音楽に興味なかったから、私の夢を応援してくれたのは家族だけだった。たまに孤独な気分に襲われたのを覚えてる。私が6歳だった時に、お祖父ちゃんが使い古したラジオをくれたの。その時初めて、外の世界にはたくさんの音楽があるって知ってとても興奮したわ。ほとんど毎日ラジオを聴いて過ごした。朝、お母さんが起こしにきた時も枕の下に隠して聴いていたわ。

--- 最初のお気に入りの曲、もしくは影響を受けたアーティストを教えてください。

1988年頃だったかしら。レコード・プレーヤーを持っている友達の家でトレーシー・チャップマンを聴いたの。家に帰ってからすぐにお父さんに「トレーシー・チャップマンって知ってる?」って訊いたら、A面にトレーシー・チャップマン、B面にビリー・ホリデイをダビングしたカセット・テープをくれたの。聴き始めの頃は、ビリー・ホリデイはそんなに好きじゃなかったけど、初めてもらったカセットだったから両面何度も聴いた。少しずつビリー・ホリデイの良さが分かってきて、大のお気に入りアーティストになったわ。

--- 自分で曲を書き始めたのはいつ頃からでしたか?

トレーシー・チャップマンに出会ってからは、毎日両親に「ギター買って!」ってねだったわ。そして、ついにクリスマス・プレゼントにギターを買ってもらえたの。その日から自分の部屋でギターの練習をしながら歌ってたら、そのうちお父さんが安物のマイクを買ってきてくれて、古いテープレコーダーをくれたの。自分で曲を書いて歌うようになったのはそれからね。両親も私の曲をちゃんと聴いてくれて、褒めてくれたから自信が持てるようになった。今でも、お母さんはライブに来てくれるの。この頃には自分の進む道は音楽以外にないって確信してたわ。

--- 音楽的なインスピレーションを受けるバンド、もしくはミュージシャンがいれば教えてください。

ジル・スコットのライブは素晴らしいわね。彼女はドイツで公演したことはないけど、近くのヨーロッパの国でライブがある時は、必ず足を運ぶようにしているわ。ジルのステージを観ながらいろんなことを吸収してるの。ギタリストからもインスピレーションを受けるわ。ジミ・ヘンドリックス、レニー・クラビッツ、ジョン・メイヤー、ジョン・リー・フッカー……。アントニオ・カルロス・ジョビンもそうね。歌詞だとジョニー・キャッシュ、プリンス、エリカ・バドゥ。ポエティックな詞を書くアーティストに惹かれるの。英語じゃなくてもチコ・バルケ、エリス・レジーナ、カエターノ・ヴェローゾの歌詞にはピンとくるものがあるわ。

---アルバムの制作が始まったのはいつ頃からですか? また、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

取りかかりはじめたのは3年前から。「ニュー」が最初に書いた曲だったと思う。春の始め頃から、ギタリストのモ・ソウルと自宅のスタジオで曲作りを始めて、普段の生活で感じるちょっとした幸せとか、生きていることの喜びを表現したかったの。そう、例えるなら……眺めていると気分が落ち着いて元気になれる、お気に入りの写真のような音楽ね。どこに行く時も、お財布に入れて持ち歩けるお守りみたいなもの。明るく、前向きな気持ちになれるサウンドトラック、それが今回のアルバムのコンセプト。落ち込んで気分が晴れない時、このアルバムを聴きながらドライブをすると、車を降りた頃には気持ちが落ち着いてるわ。でも、アルバム全曲がハッピーなラブソングではないの。「ゴッデス」は、私の心の中にある自己嫌悪や自己否定、そういったネガティブな感情を洗い流してくれる曲。今でもステージで歌うと泣きそうになるわ。歌い終わるとすっきりして、もう一度歩き出そうって気分になれるの。

---音楽を継続するモチベーションはどこからくるのでしょうか。

音楽そのものからね。音楽は日常に幸せを運んできてくれる。キレイな衣装で着飾って、ステージに立ってみんなの注目を集めたいとか、お金を目的にしたことは一度だってない。音楽は、私たちの心をつなぐもの。好きなものじゃなければ、本気で打ち込むことなんて出来ないでしょ? 私が一生涯、本当にやりたいこと、それが音楽なの。

---ずばりあなたにとって音楽とは何ですか?

初恋の相手、食事を美味しくする魔法のスパイスね。私のエネルギーをキラキラと映し出してくれる惑星で、いつも側をくるくると回っているの。

---最後に日本のファンにコメントをお願いします。

日本は未知の世界。アルバムがリリースされてとても興奮したわ。たくさんの情報の海の中で、私を見つけてくれてとても嬉しい。やっぱり音楽は国境を越えるのね。