『不灯港』 公開記念! 内藤隆嗣監督 インタビュー
Thursday, July 30th 2009
第18回 PFF スカラシップの権利を獲得し、7月18日より公開されている『不灯港』。その作風から”日本のアキ・カウリスマキ”だなんて称されている内藤監督ですが、内藤監督は内藤監督・・・小手伸也氏演じる”万造”は監督ご自身だと・・・お話ししていて、そう、強く思いました。じわじわとくるユーモアと少しのキッチュさを覗いていくと、何よりものキュートさが男のロマン?この映画をご覧になった後に、もれなく”万造ファン”になっちゃった方・・・お友達になりましょう!
INTERVIEW and TEXT: 長澤玲美
僕、“野郎”って言葉が大好きなんですよね。大志を抱いて、がんばりそうな姿がまた、無骨で不器用で野暮ったい。“野郎”っていう意味の本当の意味は、よく分からないんですけど。
どうもありがとうございます。光栄です。
そうですね。
ええ。
そうですね、はずかしながら(笑)。
あれはですね、2004年の5月・・・5年くらい前ですね。
あれは「銭形金太郎」の構成に携わっている人間がいまして、当時だいぶ、貧乏さんっていうのはいっぱい出演しちゃって、「最近なかなかいいタマがいねえ」とかって、「お前ちょっと出てくんねえか」って言われたのがきっかけですね。実際、家に来てもらって、貧乏に値するかの検証をして、「あ、これは貧乏だな」って言って、出してもらったんですよね(笑)。
ないですね。テレビ側が単に、「ここに生活してる貧乏学生がいる」っていうことで。
ええ、そうですね。
本当です。それはしっかりとした、「あれさえ読めば本当に映画が撮れる」って、僕も自信を持って言える本ですね。(「映画秘宝」などを出している出版社、洋泉社さんから出版されている、西村雄一郎さん著の本です)
そうですね。まず第一に今まで1800円くらい払って観ていた映画の世界が「一人でも撮れる」っていう事実に僕はびっくりしたんですね。もちろんそれぞれにクオリティーの違いはありますけど。でも、それが一番大きかったですね。「じゃあ、撮ってみようかな」と軽い気持ちで始まりましたけどね、最初は。
そうですね。その前に、初めてカメラを触った段階で自分を撮ったものがあるんですけど、それは映画とは呼べないような代物だったんで、 『MIDNIGHT PIGSKIN WOLF』が事実上の初めての自主映画になりますね。
ええ、そういうことですね。
自分で言うのもこっぱずかしいですけど、「今までにない邦画だよね」とかって聞きましたね。あとは、「万造のキャラクター、いいよね」とか(笑)・・・それは男性の方から。
初めてプロのスタッフさんと一緒に作った映画ですので、非常に思い入れはあります。撮り終えて、今1年経つんですけど、客観的にいい面も悪い面も見えてきてると思います。「もうちょっとああしとけばよかったな」とかはありますけどね。
単純な話しなんですけど、僕は宮崎の県北の方の出身なんですけど、まさにこの映画に出てくるような小さな港で育ちました。目の前がもう海でして、親父はすごい教育熱心だったんで、ファミコンとかゲームボーイとか買ってもらえなかったんですよね。だからもう、必然的に海に出て、釣りをする毎日でした。ですから、小さい頃から漁師さんとか海とかはよく見てたんで、「この映画の職業は何にしよう?」って考えた時に、漁師っていうのは結構早く決まりましたね。
そうですね。ビジュアルとか漁師さんが「どんな生活をしてるのか?」っていう、だいたいのざっくりとしたものは取材なしで書き進めていったんですけど、漁師さんは実際、船の上でどういった作業をするのかっていうような、専門的なものとかは取材はしていきました。
もともとは、北の果ての非常に寒々しい港をイメージしてたんですけど、予算を考えるとなかなか遠くまでは行けなくて。それで関東近辺で探していて、房総の港をいろいろ見て行ったんですけど、千倉の港が非常に、僕のイメージしてたサイズとか世界観にぴったりで。それと何か本当に、かわいらしく見えたんですよ、あの港が。(プレスシートによりますと・・・『不灯港』の出所は、「不凍港」であり、寒々しい土地が舞台の映画にしようと思われていたそうですが、実際に「不凍港」と呼ばれる港は日本にはなく、もっと極北。タイトルも別のものをつけるつもりだったそうですが、あれよあれよと、万造の心の栄枯盛衰にも合っているし、じゃあ、一文字変えて『不灯港』に、となってしまいました・・・とのことです)
はい。そこだと思いますね。「おとぎ話のようなイメージで作れるな」と思って。スタッフの方がいろんなところを探して来てくれまして、すごい大きな港で鯨も揚げるようなところもあったんですけど、まあ、そこはちょっと、この映画のテイストと離れるなあと思って。
そうですね、千倉町にあるお店です。
そうなんですよね。千倉町には、漁師さんとかが行くような赤提灯があって、カウンターで水割りを飲むようなちっちゃいお店がいっぱいあったんですけど、そうではなくて、万造っていうキャラクターからすると、ベルベットソファーとかが置いてあるような、ちょっとしっとりとしたバーっていうので探しました。
僕も大好きなんです(笑)。
そうですね。最初に僕がイメージした漁師像とマッチする方がなかなか見つからなくて。それでイメージを広げていった中で小手さんを紹介して頂いて、「彼ならこの3つの条件を兼ね備えられることが出来る」と・・・。あ、でも誤解しないで頂きたいんですけど、決して、普段からああいう方ではないので(笑)。
そうですね。その3つの条件の他に、普通に静かに演じていても何かおもしろく映る人、観察しているとおもしろく見える人、っていうのもキャスティングの1つのポイントだったんですけど、そこが難しかったんですよね。
本当に神が降って来たような気がしましたね(笑)。
まさお役の広岡くんは、オーディションをして選ばせて頂きまして。美津子役の宮本さんは、僕とプロデューサーと演出部の方で話し合って、何人か候補が上がってきた中で、宮本さんの資料をじっくり見ると、「すごくいいね」という、みんなの意見が合致した瞬間だったんですよね。この方なら万造という朴訥な不器用な人間をめちゃくちゃにしてくれるようなものを持っているような、内に秘めた、謎めいた女をやって頂けるなと。
あのワンシーンを最大限に印象付けてくれる方がいいなと思っていました。それで、この静かな町に一軒だけ、若者相手に経営しているファッションショップのオーナーが「麿さんだったらおもしろいんじゃないかな」って。ダイアモンドさんは、万造とは対極をなすようなビジュアルと渡世人のようなサーファーというイメージにぴったりでした。
いや・・・実はですね、本当は麿さんにも同じように抑え気味でとお願いしてました。ですから、登場してからしばらくは淡々としたやり取りなんです。でも最後にはどんどん盛り上がってきちゃいまして。これもこれでいいかなと。最後は麿さんらしくやって頂きました。
もう必死に口八丁、手八丁、この品物を買わせる・・・的屋的に(笑)。
「あれじゃあ、買っちゃうよなあ」っていう(笑)。
そうなんですよね。僕はスクリーンに映って、登場している人達の普段の生活がすごくテンション高く感じちゃうことがあって。そこは何か、違うんじゃないかなっていうか。「そこまで日常のボルテージから離れちゃうと冷めるな」って思っちゃうんですよ。まあ、僕もやってることはその逆だから、結局は一緒のことかもしれないんですけど。映画になった途端、セリフをしゃべるっていうか。だったら、僕はもっと日常のこのテンション、会話とかも必要最低限がいいんですよね。
- --- 主人公の万造でさえ、“漁師限定!合同お見合いの会”のためのアピール映像を撮る時にやっと、ちゃんとしゃべりますもんね?「万造って、どんな声なんだろう?」って想像しちゃいました。
これが、いい声してるんですよね(笑)。冒頭10分くらい、セリフがほとんどないんですけど、でもあれは偶然というか、単にしゃべる必要がないシーンが続いたっていうのもありまして。やっぱり、映画の始まり方って、僕はゆっくりいきたいんですよ。重要セリフもいっぱいあるんじゃなくて。
- --- 万造と美津子とまさおが3人でサングラスをかけて、ドライブに行くシーンがありますよね?ピクニックっぽいようなことをしていて。先ほどのお話しで、千倉町の港は「おとぎ話のようなイメージで作れると思った」とおっしゃっていましたが、あのシーンも独特ですよね?(笑)。
そうですね(笑)。ピクニックに出かける前に感情のブレとか揺れとか、そういうシーンが続いたっていうのがありましたんで、1回ここでぽんっとガス抜きをしようという意味合いでも、夢の世界みたいなところに連れていって、何も考えずに3人を過ごさせようと思って・・・まあ、万造なりの家族サービスみたいなことをやりたかったんですよ。カメラも動かさずに本当にゆっくりしている様を撮ろうとか、あとはあのぴょこぴょこさせるのも、最初からやってもらうイメージがありましたね。
- --- あのぴょこぴょこしてるシーンは、試写会場でも笑いが起きてました(笑)。
本当ですか(笑)。海外に行くと、「あのシーンは何だ?」って言う人多いんですよ、結構。
- --- その「何だ?」というのは、疑問に思う・・・「意味が分からない」という?
そうですね。「あそこだけカメラ目線で、誰に向けてあの遊びをやってるんだ」って。「3人の中で遊んでるのか?それとも、あれは何だ?」って言うんですよね。でも僕は、あそこのシーンはもう、カメラ目線でお客さんも一緒になって楽しんでもらおうと(笑)。
- --- 海外ですと、より意味を求める傾向に?
そうですね。疑問に感じたことはやっぱり、すぐに聞いてきますね。「映画を100%理解したい」と思ってくれているというか。
- --- 赤い布やほっかむり、バラの花など、万造のロマンチシズムみたいなものを赤で表されたそうですが、美津子は赤いほっかむりをして、かごを持っていて、もう・・・赤ずきんちゃんですよね?(笑)。赤ずきんちゃんっていうようなイメージもあったんですか?
たしかに美津子は赤いほっかむりにかごにと、後半赤ずきんちゃんに見えてしまう瞬間がやってきますね。しかし美津子のキャラクター全てが赤ずきんちゃんそのものではなく、単に一部です。この映画は、日常の題材を選びながら非日常を描く、つまりある種おとぎ話のようなテイストを目指しましたので、美津子に赤ずきんちゃんの姿がちらついた人はこの映画の最後に何かしら意味合いを発見できるかもしれません。
- --- 縫物のシーンは、万造のキャラクターをより好きになってしまうシーンですよね。
そうですね。家の実家にもああいう足踏みミシンがずっとあって、僕の勉強机の真横にあったんですよ。昔からああいうミシンを母親が引いてる姿を見ていたんですよね。で、僕もよくそうやって、刺繍とか時々やるんですけど。
- --- 未だにですか?
学生の頃、服をちょっとリメイクしたりとか。万造も、ちょっとああいうプレゼントを自分の手で作るっていう・・・この野暮ったさで描こうかなと思いました。
- --- あの足踏みミシンは、内藤さんのご実家から持ってきたということではないですよね?
違いますね。あれは美術さんに探してきてもらいました。
- --- あのミシンに対して、細かいこだわりみたいなものはあったんですか?
あのミシンは実際もう・・・探せばあるんですけど、リアルにあんまり売ってないらしいんですよね。ですから、美術さんが探しやすいように、あんまり年代とかは限定せずに、足で踏むタイプのもので、かつケーブルがまだ生きてるものをとオーダーしました。
- --- おもしろい小道具ですよね。最近ああいうミシンはあまり見ませんし(笑)。
そうですね(笑)。走ってるようにも見えますしね、愛に向かって。
- --- 愛に向かって・・・(笑)。音楽のお話しも伺いたいんですが、松本章さんが担当されていますよね。港町に彼らのような音楽が重なることによって、よりおかしな雰囲気になりましたよね。作品に流れる音楽のイメージは初めからはっきりあったんですか?
撮影を終えてから、「音楽、誰にしましょう」って話しになって。プロデューサーの方が松本章さんと昔よくお仕事されていたので、僕のこういうテイストの映画だったら、「松本さんにお願いしたら、絶対上手くいくんじゃない?」と。僕はその時初めて松本さんを知ったんですけど、音楽を聴いてみると、すごく面白くて。それでお願いすることになりました。僕は初めから、この映画でかけたい音楽とか強いイメージが結構あったので、松本さんに「ここはこういうテンポで、こういうテイストでいきたい」とお伝えして、「じゃあ、こんな感じかな」って答えてもらって・・・っていうようなやりとりをしていきました。
- --- 挿入曲で「ズキズキドキュン」も使われていましたね。あの曲は、山下敦弘監督の『ばかのハコ船』からの引用になると思うのですが・・・。
そうですね。海沿いの食堂でかけた「ズキズキドキュン」は、「店内のBGM何か用意しなきゃな」っていう話しになった時に幸い、松本さんは山下さんの作品でも音楽を担当されていたんで、使わせて頂けることになりました。
- --- あのシーンでは、ダイアモンド☆ユカイさん演じる竜二がご飯を豪快に食べる、その食べっぷりに美津子は惚れてしまうんですよね?(笑)。
そうです(笑)。
- --- 美津子があのシーンで、竜二が食べてるところを頬杖をつきながらじーっと見つめてますよね?(笑)。万造に向ける視線ではない視線を向けているので、2人がどうなったかはあの後描かれていなくても、美津子はお化粧も濃くなっていくし、服装も派手になっていくので、「あ、そういうことか」って(笑)。
万造とは全く違うワイルドな食べっぷりと装いとサーフボード・・・「ああ、夢持ってるいい男」っていう(笑)。それで、ああいう視線で見ちゃったんでしょうね。
- --- そこで流れるのが「ズキズキドキュン」で(笑)。
そうなんですよね(笑)。そういう意味でもぴったりだったんですよね。
- --- 内藤さんのお考えの中で、映画に流れる音楽というものはどのように捉えられていますか?
結果論ですけど、音楽をかけたシーンって、非常に印象に残っちゃうんですよね。そういう意味では、そのシーン、そのシーンを音楽ってすごく助けるし、高める効果があると思うんです。僕はその時のシーンに合う、心を表してるような曲をそのままのせるんじゃなくて、突然、不意にかける方が好きでして。あんまり合ってない曲をのせることによって、違う印象を強くさせる効果を狙ってますね。
- --- 繰り返しの音楽が多いですよね?
アレンジして使ってますね。あと、万造のテーマっていうのを1つ設けたんですよ。それはバーで流したトランペットなんですけど、あれを基本に、万造ががんばる時にはあれを流そうと(笑)。
- --- 『不灯港』のオフィシャルのHPを開くと流れるあの曲ですよね?
そうです、あれが万造のテーマです。
- --- 万造が持っていた船の名前は、“野郎丸”でしたけど、あれと対といいますか・・・“外道丸”って船も出てきましたよね?あれは狙って・・・。
“外道丸”は、漁師さんからお借りしていた船に偶然書いてあったんですけど、“野郎丸”に関しては、美術さんにお願いして書いてもらいました。
- --- “外道丸”あっての“野郎丸”だったんですね(笑)。
いや・・・“外道丸”は単に偶然です。僕はあれに何の意味も求めてないです(笑)。僕は、万造という人間を“野郎丸”っていう船に乗せたかったんですよ。
- --- それはどういう思いがあってのことなんですか?
僕、“野郎”って言葉が大好きなんですよね。
- --- そうなんですか(笑)。
ええ(笑)。僕、自分が使ってた財布とか、学生時代自分の机にも“野郎”って書いていたくらい大好きなんです。そういう野暮ったさのルーツって、この2文字なのかなって今思うんですよね。大志を抱いて、がんばりそうな姿がまた、無骨で不器用で野暮ったい。“野郎”っていう意味の本当の意味は僕、よく分からないんですけど。
- --- なんで「“野郎丸”なんだろう?」っていうのが今分かって、すっきりしました(笑)。
でも、“外道丸”ってよく気付きましたね(笑)。
- --- 文字とか名前とかって、すごく気になっちゃうんですよね(笑)。お時間がもうそろそろのようですので・・・7月18日(土)より、渋谷ユーロスペースにてロードショー、その後、全国順次公開ということですが、改めて、最後に一言ありましたら・・・。
自分の産み落とした子供が成長して入学する瞬間だと思いますので、本当にこれから世に出ていって、どういう風にみなさんに受け入れられるか、非常に緊張しながら見守っています。おとぎ話のようなテイストで赤ずきんちゃんっていうキーワードが頭に浮かんだ方は、それをそのままラストまで持っていってもらって、ラストシーンを噛み砕いてみて下さい。ぜひぜひ、劇場に足を運んでもらって、劇場で体感してもらえるとうれしいです。
- --- 「『不灯港』の後、次回作の構想はすでにありますか?」という質問に「次回は山奥を舞台に小さなロッジを経営するハンター、イノシシ猟師を主人公に話を考えています」とありましたが、それは変わらずに?
やりたいです。“マタギ”という職業です。
- --- またちょっと、テーマとするところが特殊な設定といいますか。
コミュニティーとしては小さいですけど、今も熊とかを狙ってそれを食べて、その肉を売ってっていう生活を営んでる人達がいるんですね。だけど、動物愛護主義団体からすると、「それはもってのほかだ」っていう目線もありますし、おもしろいものを描けるんじゃないかなって思ってますね。
- --- 『不灯港』後のさらなる新作“またぎ”に関する作品もたのしみにしておりますね。
長い目でお見守り下さい。
- --- 本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
『不灯港』 予告編
7月18日(土)より、ユーロスペースにて夏休みロードショー中!全国順次!
- プレゼント『不灯港』を、そして万造を愛している人しか入会が許されない、その名も”万造ファンクラブ”より、限定特典!”いぶし銀の鯛チャーム付き携帯ストラップ”を抽選で3名様にプレゼント!
※応募締切 2009年8月31日(月)
※応募の受付は、終了いたしました。たくさんのご応募、ありがとうございました。
※1. 応募には会員登録が必要になります。(新規会員登録は⇒コチラ)
※2. 会員登録のお済みの方は、詳細と応募フォームへ
![]()


1981年6月19日宮崎県生まれ。2005年東京都立大学・理学部数学科卒業。在学中1年間休学、世界約30ヶ国を放浪の末、帰国し復学。卒業後制作した自主映画『MIDNIGHT PIGSKIN WOLF』がぴあフィルムフェスティバル2006にて企画賞(TBS賞)を受賞し、第18回PFFスカラシップの権利を獲得し、『不灯港』を撮る。『不灯港』は、第18回 PFF スカラシップ作品であり、第38回 ロッテルダム映画祭 コンペティション部門正式出品された。
- 関連特集(HMVサイト内)

