「酩酊マーラーでよれよれ三昧」
Tuesday, February 19th 2008
許光俊の言いたい放題 第135回
「酩酊マーラーでよれよれ三昧」
文芸評論家の川村二郎氏が亡くなった。大学院のときの私の先生だった。氏についてはとてもではないがこのコラムでは書き切れないので、「ステレオサウンド」誌に書かせていただいた。それでもまだ書き漏らしたことはいくつもある。
川村氏は大のクラシック好きで、数年前にも『音楽と文学の間』(論創社)という本の中でアファナシエフと対談していたし、日本でまだマーラーの作品がさして注目されない時代からこの作曲家についてエッセイを書いていたりしていた。
マーラーと言えば、先頃、ガリ・ベルティーニのライヴが数曲発売されたばかりであるが、やはりライヴでジョルジュ・プレートルの演奏も出た。
プレートルは、ごく最近、ニューイヤー・コンサートに登場した。彼が出演すると聞いたときには、レコード産業の看板指揮者ばかりが出てくる、売らんかな丸出しのコンサートにどうして彼が呼ばれたのかといぶかしく思った。ただし見てみればたちまちわかるように、プレートルは独特の存在感を持っている人である。きわめて堂々としており、優雅を感じさせるたちふるまいは、たとえ年齢が進んでもマゼールやアバドやメータやムーティには見られないものだ。古きよきヨーロッパの匂いがすると言ってもいい。私は一昨年だったか、ドレスデンで彼が指揮する『幻想交響曲』を聴いた。演奏も悪くはないが、こんな「指揮者はオーケストラより偉いんだ」とごく当たり前に表現できる人がまだいたのだなあと感慨を抱いた。もっとも彼の音楽自体は、熱っぽいと言えば聞こえがよいが、荒っぽい部分もあって、本来はあまり私の好みではない。なのだが、今回のマーラーは予想以上に楽しめた。
交響曲第5番は、コンサートゴーアーが泣いて喜ぶ熱演で、ネットリドロドロ型。細部の粗さなど問題にならない、ライヴならではのおもしろさがある。叙情的な楽節はテンポを落としてこれでもかと纏綿とやる。とにかくメロディを粘っこく歌い抜くのだ。あちこちでウィーンのワルツ風の、19世紀ヨーロッパ的な濃厚で退廃的な味がある。アダージェットなど、最初は意外におとなしいが、徐々に乱れてきて、やがてはやりたい放題に。陶酔というより、酩酊だ。もちろんテンポは極遅で11分以上かかる。若者がこんなことをすると馬鹿にしか見えないが、老人がやるとほほえましいので得である。しかし、もしかしたら、ロマン主義とは結局こういうものなのかもしれない。
その一方で、あちこちで遠慮のない盛り上げも。フィナーレの最後など、テンポをビュンビュン速め、お客はもんどりうっての大喝采。もとが放送録音のため、強弱に関してはリミッターがかけられているようだが、とにかく緩急の差が大きい、うねりにうねる演奏である。
第6番は、ほとんど同じ時期の演奏にもかかわらず、なぜかずいぶん抑制されているのが不思議である。第1楽章などまったく陰惨でも暴力的でもない。上品と言えば上品である。低弦など実におとなしい。最初は物足りない感じがしたが、聴き進めると、このおとなしさ、力の抜け具合が意外にいいのだ。ただ、ごくわずかの箇所で突発的にせっかちになるところなどがあって、変である。
何よりもゆっくりした第3楽章がすばらしい。この楽章、普通はいかにも寂しいとか辛いといった感じで奏されることが多い。緩徐楽章ではあるが、突き刺すような強さを持った音楽である。ところが、プレートルの演奏は非常に柔らかく、静かで、やさしく、甘美な陶酔感すらあるのだ。悲劇の押し売りをしないのである。弦楽器群はさすがウィーンの楽団だけあって、ウィーン・フィルみたいな繊細な響きを聴かせてくれる。微妙な音色の美しさは格別で、やはり底力が並ではない。うっすらとした甘みが、何の抵抗感もなく聴いている人間にしみこんでくる。ちょっとばかり、例の第5番のアダージェットみたいな雰囲気なのである。もしかしたら「ヴェニスに死す」には第5番よりこちらのほうが似合うのではないかとまで考えてしまった。プレートルからこんな、すべてを許しているような諦念に満ちた第3楽章が聴けるとは思いもよらなかった。まさに癒し系の美しさである。
録音は、どちらも快適。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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