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「ジュリーニの超深刻フォーレ」

2007年12月7日 (金)

連載 許光俊の言いたい放題 第130回

「ジュリーニの超深刻フォーレ」

 少し前、バッハ・コレギウム・ジャパンの「ロ短調ミサ」について書いた。実はあれ以来、何度か聴いた。というのも、小さいお手頃なステレオで聴くと、器楽が奥に引っ込み、声楽のよさだけが強調されることがわかったから。そうすると信じがたいほど猛烈にきれいに聞こえるのである。

 しかし、だ。そもそも宗教曲というのは美しくなければならないのだろうか。それは人間の不安や恐怖や不幸を表現し、また鎮めるべきものではないのか。ジュリーニがフィルハーモニア管弦楽団を指揮したフォーレの「レクイエム」、1962年のライヴはまさにそのような演奏である。
 ジュリーニが同じ楽団を指揮したDG盤はすでに名演奏としてよく知られている。実際のところ、立派、上等、雄大、壮大かつ美しい、「クラシックの王道」的演奏である。
 だが、今度出た1962年のライヴはまったく違う。異常さを感じさせる遅さといい、合唱やオーケストラの暗さといい、いかにも立派な芸術という感じのDG盤とは対極にある超生々しい演奏なのである。私は聴き始めるや、あまりの深刻さにたじろいだ。
 第1曲の冒頭からして異様な緊迫感だ。オーケストラの不気味で不吉な音色を聴けば、これからどんな恐ろしい演奏が展開されるかはたちどころに了解されよう。
 合唱のダイナミックレンジの異常な広さ。言葉の明瞭さ。表現のパレットの多彩さ。たとえば、「永遠の光を!」と叫ぶところの荒々しいまでの迫力は鳥肌ものである。終わりの部分のオーケストラの暗い表情も、とてもロンドンの楽団とは思えない。
 第2曲の生々しい悲しさも尋常ではない。とにかく合唱の表現力がものすごい。いったいどこの団体かと思ったら、かのヴィルヘルム・ピッツが指導していたフィルハーモニア合唱団だった。イギリスの合唱は水準が高く、確かに常に美しいハーモニーを聴かせてくれる。だが、この演奏ではそんなレベルの話ではなく、表現主義的なほどに強烈に心の揺れ動きを表現しているのだ。
 一転して第3曲では甘美な音楽が聴かれるし、「ホザンナ」のあたりは堂々と勝ち誇ってすらいる。第4曲は、まさに慰めといった様子で、やさしい美しさがあふれ出る。第5曲ではとろけるように甘いカンタービレ。
 ともかく、フォーレ「レクイエム」に関して、これほど大きな振幅を持つ劇的な演奏はほとんど存在しないだろう。しかも、演出の結果ではなく、激越な感情移入によってこうした音楽になったのである。最近の演奏家たちみたいにアイディア勝負で「こうやってみました」という類の音楽ではないのだ。演奏家が作品のまっただ中を生きているのである。血が通っているどころか、血が噴き出しているような演奏なのである。たとえば、ドイツ・ルネサンスの画家グリューネヴァルトの有名な「磔刑図」のように。
 当日出演していた人の回想が解説書に記されている。この曲では合唱の人数をぐっと減らしたのだというが、その効果は聴けばわかる。ちなみに、このコンサートではなんと前半にこの曲を演奏し、後半にヴェルディの「4つの聖歌」が演奏された。さすがに、ヴェルディのほうは、曲も落ちるし、演奏も前半の張りがない。
 音質は、この年代ならもっとよくていいはずだ。しかし、確かにこれはあえて発売する意味がある演奏である。聴いているうちに、音質のことなどどうでもよくなる。今後、私が「ジュリーニのフォーレ」と言う場合には、DG盤ではなく、こちらになるだろう。この作品を徹底的に精神的に演奏した例としては、チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルがあったが、あれに劣らない。きれいごとではない、恐怖と不安と慟哭と陶酔の音楽であり、この曲のもっとも深刻な演奏のひとつだ。

 ところで、ベルティーニのライヴのマーラーがいよいよ発売されるが、絶対のお勧めは第4,6番の2枚組。晩年の静かな深みが満喫できる第4番。それとは正反対に激烈な第6番。両極端の組み合わせである。特に6番は悪魔が憑いたかのようなドス黒い音楽で、これまで私たちが抱いていたベルティーニのイメージを完膚なきまでに破壊する。あまりにも暴力的で危険で血なまぐさいマーラー演奏であり、まるでテンシュテットのようだ。私はこれを聴いていると、正気が失われ、妙な精神状況になる。デモーニッシュとはこういう音楽のことを言うのである。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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