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黒汁滴る女性ジャズ・ヴォーカル42傑

Tuesday, December 4th 2007



ストレンジ・デイズ
「奇妙な果実」。そして「禁断の果実」。
〜黒人女性ジャズ・ヴォーカルの開拓者たち

1950年代から1960年代後半にかけてアメリカ中を揺るがした黒人解放運動の大きな流れは、音楽の世界にも当然の如く大きな影響を与えました。サム・クックしかり、ジェームス・ブラウンしかり―――。

Billie Holiday遡ること10余年。1939年という遙か昔に存在した、黒人差別の問題を直接的に訴えかける衝撃的な歌詞をもつ曲「奇妙な果実」。この曲を初めて、NYのナイト・クラブ「カフェ・ソサエティ」で披露したのが、ご存知ビリー・ホリデイでした。 

南風に揺れる「奇妙な果実」。黒人に対する差別、横行するリンチをメタファーとしたこの歌は、大論争を巻き起こし、間もなく発売されたレコードは大きな成功を彼女にもたらしました。「『奇妙な果実』は、頑固な偏見を持つ人と真っ直ぐな人を分ける力がある」と、彼女自らが語ったこの曲のヒットがあって初めて、真のブラック・ジャズ・レディーの歴史の扉が開かれたと認識してもよいでしょう。

Ella Fitzgeraldさらに遡ること5年。1934年11月21日に16歳のエラ・フィッツジェラルドは、N.Y.のハーレムにあるアポロ・シアターでデビューを果たしました。ソロでの活動を開始したのは、1941年から。1956年から64年のVerve時代の作品は、現代に至っても「女性ジャズ・ヴォーカル・アルバムの最高峰」として高い評価を受け、「The First Lady of Jazz」の名を欲しいままにしています。

1960年2月13日のベルリン公演を収録した『エラ・イン・ベルリン』の「マック・ザ・ナイフ」は元々、三文オペラをドイツの聴衆向けにその日限りのサービスとして披露したものの、あまりに熱狂的な拍手を受け、後に彼女の十八番のレパートリーに加えられました。

Sarah Vaughanそのビリー・ホリディ、エラと並ぶ3大巨星のひとりが、1940年代にデビューしたサラ・ヴォーン。当時最先端のビ・バップのスタイルを歌唱に活かした、モダン・ジャズ・シンガーの先駆者でもあります。ジャズの枠にとどまらないポピュラー傾向の作品も多く、50年代には、マーキュリー・レコードと、そのサブ・レーベルのエマーシー・レコードに膨大な数の録音を残し全盛期を迎えます。

晩年となるパブロ・レコード時代には、円熟した歌唱で、82年、パブロでの最後のアルバム『枯葉』や83年にグラミー賞を受賞した『Gershwin Live!』などの名盤を生みました。このヒトもまた、晩年まで「ジャズの女王」の名を欲しいままにしたひとりなのです。

Dinah Washington1943年、ライオネル・ハンプトン楽団の専属シンガーとしてキャリアをスタートさせたダイナ・ワシントンは、50年代に入り、ソロ・シンガーとしての道を歩み始めます。幅広いスタイルを持ち得たそのソウルフルな歌声は、R&Bチャートやポップ・チャートを制するなど、多くのセグメントで高い評価を受けることになりました。

極めつけは、1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバル。マックス・ローチウィントン・ケリーらとの演奏は、映画『真夏の夜のジャズ』にも収録され、彼女の残した名演のひとつとして語り継がれています。

Carmen Mcrae カーメン・マクレーも、女性ジャズ・シンガー史を語る上で、避けては通れない重要シンガーのひとりです。50年代デッカ時代、60年代コロンビア時代と、特にバラード群に、じっくりと耳を傾けさせる趣の名唱を多く残しています。

彼女はヴォーカルよりも先に、ピアニストとしての才能を認められました。「引き語り」という点から見れば、ロバータ・フラックのようなジャズの要素を汲んだシンガー・ソングライター筋のアーティスト達にも大きな影響を残したことを記さなければならないでしょう。

Nina Simone冒頭で記した60年代公民権運動に最も深い関わりをみせたジャズ・レディーといえば、57年にベツレヘムからデビューしたニーナ・シモンでしょう。

オスカー・ブラウンJr.作「禁断の果実」では、アダムとイブのリンゴの話を引用し、人種差別問題と真っ向から対峙。「奇妙な果実」との相関性が話題を呼びました。ボブ・ディランのカヴァーなど、プロテスト色濃いニュー・フォーク〜SSW系のカヴァーの多さからも、新時代の黒人女性シンガーとして注目を浴びる存在となりました。


Bessie Smith勿論このほかにも、彼女達のさらなるルーツとなる、または同時代の黒人女性ジャズ・シンガーは多数存在します。

ビリー・ホリデイも尊敬していたという「ブルースの女帝」ベッシー・スミスは、近代アメリカのポピュラー音楽史において、後に活動する多くの女性歌手たち(だけではありませんが)に多大な影響を与え続けています。マリアン・アンダーソンマヘリア・ジャクソンといった黒人霊歌のディーヴァたちの作品も同様です。他、カウント・ベイシーや、ハリー・ジェイムス楽団のもとで、ブルース、スウィング、バラード歌った実力派ヘレン・ヒュームズ。ブルース&ゴスペルにどっぷりながらも、ダイナ・ワシントン系のR&Bマナーをも聴かせるデラ・リーズ。比肩なき美貌を持つといえば、このヒト、54年の映画『カルメン・ジョーンズ』で黒人女性として初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた女優兼シンガーのドロシー・ダンドリッジ。同じくショウ・シンガーとしてならしたパール・ベイリーアーサ・キットなどなど。

プロローグ的にご紹介した、黒人女性ジャズ・シンガーの大まかな歴史とその流れ。

現代へ脈々と続く「ブラック・マジック・ウーマン」の系譜を踏まえるためにも、現在入手可能なディスクを、「濃ゆい」アイテムを中心にご紹介していきましょう。


 
Mainstreamレーベル:Girls Vocal編 めでたくスタート!


Maxine Weldon / Right On
4 Maxine Weldon 『Right On』

 ジャズ評論家レナード・フェザーに見出されたシンガー、マキシン・ウェルドンのデビュー・アルバム(70年)にして、Mainstream初の新人女性シンガー盤としても有名な本作。ポール・ハンフリー、ウィルトン・フェルダーなど西海岸きっての名プレイヤー/バイプレイヤー達がバックを固め、マキシンのアーシーな魅力を存分に引き出しています。2曲のディラン・ナンバー、CCRのジョン・フォガティ「Lodi」といったロック古典をディープ&スワンプなテイストたっぷりに歌い上げる様は圧巻!ハイライトは、アレサのフィルモアでの熱唱も頭をよぎる、メロウ仕立てのブレッド名曲「Make It With You」カヴァー!Mainstreamのヴォーカル作品では、アリス・クラークと並びフリーソウル界隈でも人気の1曲。



Maxine Weldon / Chilly Wind
4 Maxine Weldon 『Chilly Wind』

 名手アーニー・ウィルキンスの指揮のもと71年に制作されたマキシン・ウェルドンのセカンド。バックには、ブルー・ミッチェル、ボビー・ブライアント、アーニー・ワッツ、ポール・ハンフリー、フレッド・ロビンソンといったMainstreamオールスターズが集結。ジェイムス・テイラー「Fire And Rain」、レナード・コーエン「Hey,That's No Way To Say Goodbye」、ランディ・ニューマン「I Think It's Going To Rain Today」といったSSW系カヴァーでの持ち前のどろりとした語り口も秀逸ならば、「Ain't Nobody」、「Country Son」等ジャンプ・ナンバーでの熱い歌唱も最高にドロくさくファンキー!



Sarah Vaughan / A Time In My Life
4 Sarah Vaughan 『A Time In My Life』

 こんな大物までもがMainstream色にどっぷり!サラ・ヴォーンが全編8ビートでR&B〜ロック/ポップ・ヒットをカヴァーした71年の異色作。ジョン・レノン「Imagine」、ボブ・ディラン「If Not For You」、ジョン・セバスチャン「Magical Connection」といったロック名曲が大半を占める中、一番人気はやっぱり、レアグルーヴ・ファンにはお馴染み、マーヴィン・ゲイ「Inner City Blues」の激渋カヴァーでしょう!じっくり聴かせます!「On Thinking It Over」をはじめブライアン・オーガー楽曲を3曲も取り上げているのも、レアグル系リスナーには嬉しいハプニング!?総指揮は名手アーニー・ウィルキンス。バックにはジョー・パスらが参加。






Alice Clark
4 Alice Clark 『Alice Clark』

 満場一致のフリーソウル大名盤!そのパワフルな歌唱力と伸びやかな歌声はまさに宝石と呼ぶに相応しいシンガー、アリス・クラークが唯一残した作品であり、超レア盤としても有名なMainstream盤。「Never Did I Stop Loving You」「Don't You Care」などのフロア定番曲、「Don't Wonder Why」といったこみあげ系の名曲までトータルで楽しめる傑作。バーナード・パーディ(ds)、コーネル・デュプリ(g)、ゴードン・エドワーズ(b)などN.Y.の一流ミュージシャンが参加していると「噂」されているように、バックの演奏も完璧!





Ernestine Anderson / Free Soul - Classic Of
4 Ernestine Anderson 『Free Soul - Classic Of』

 「第2のサラ・ヴォーン」とも呼ばれたアーネスティン・アンダーソンが、78〜87年にかけてConcordレーベルに残した20枚にも及ぶアルバムからのセレクト。ブルージー且つスモーキーな歌唱と伴奏の多くがピアノ・トリオであることから、ジャズ・ヴォーカルの範疇で語られる彼女だが、「Hello Like Before」や「Mercy Mercy Mercy」などではソウル・シンガーとしての魅力と実力も再認識できる。




Marlena Shaw / Who Is This Bitch Anyway
4 Marlena Shaw 『Who Is This Bitch Anyway』

 80年代後半のレアグルーヴ・ムーヴメントと共に再評価されたソウル・ジャズ・シンガー、マリーナ・ショウの75年発表の最高傑作。今だにフロアの定番とされているロバータ・フラックの名カヴァー「Feel like Makin' Love」をはじめ、都会で生きる女の強さと内省を、そのディープな歌声で見事に表現した1枚。バックには、デヴィッド・T・ウォーカー(g)、チャック・レイニー(b)ら名手が揃う。




Abbey Lincoln / Abbey Is Blue
4 Abbey Lincoln 『Abbey Is Blue』

 50年代はガビー・リーの名で歌っていた彼女。夫マックス・ローチのプロパガンダ志向に影響を受け、『We Insist!』や『Percussion Bitter Sweet』などでもスピリチュアルな名唱を残すアビー・リンカーンの59年Riverside録音作品。「Afro Blue」、「Long As You're Living」などでの真っ黒なフィーリングが耳にこびりつく、紛れもない最高傑作!




Betty Carter / Out There With Betty Carter
4 Betty Carter 『Out There With Betty Carter』

 ヴォーカリストを超えたジャズ・レディー・ジャイアンツとして尊敬を集めるベティ・カーター。58年Peacockに吹き込んだ超レアな初リーダー作。後に、カーメン・マックレーに「彼女こそ唯一のジャズ・シンガー」と言わしめた実力はこの頃から折り紙つき。そして、目を惹くのは豪華な演奏陣。ケニー・ドーハム(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、サヒブ・シハブ(bs)、ウィントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)らモダン・ジャズ黄金期の面々が顔を揃える。




Nina Simone / It Is Finished: Nina Simone 1974
4 Nina Simone 『It Is Finished: Nina Simone 1974』

 73年の初来日時と同メンバーによるニューヨークでのライブ録音盤。民族楽器をふんだんに採り入れた楽曲が並び、彼女のアーシ−な魅力を増幅させる。2曲のスタジオ録音のうち、アフリカン・パーカッションがニーナと並走する「Funkier Than A Mosquito's Tweeter」は、レアグルーヴ・クラシックとしても有名。




<Esther Phillips / What A Diff'rence A Day Makes
4 Esther Phillips 『What A Diff'rence A Day Makes』

 リトル・エスター時代から、ブルース、ジャズ・スタンダード、ポピュラー・ソングなど様々な音楽要素を柔軟な解釈と天性の歌声でモノにしてきたエスター・フィィリップス。70年代になると、CTI傘下のKuduレーベルに移籍し、独特のソウル・ジャズ・フィーリングを完成させた。75年の本作では、オージェイズ曲「One Night Affair」やダイナ・ワシントンなどでおなじみのタイトル曲を都会的でライトなタッチで昇華し、見事ヒットさせている。




Etta Jones / My Mother's Eyes
4 Etta Jones 『My Mother's Eyes』

 あのベティ・カーターと実力的には肩を並べていたものの、意外と見過ごされがちになっているのがこのエッタ・ジョーンズ。とにかく歌の上手さは一級品!ヒューストン・パーソンがプロデュース(サックスでも参加)を手掛けた78年Muse原盤の本作では、アイドリス・ムハマド(ds)、ジミー・ポンダー(g)、ソニー・フィリップス(key)といった「ドス黒い」メンツがバックを固める。  




Dee Dee Bridgewater / Just family
4 Dee Dee Bridgewater 『Just Family』

 チック・コリア(key)、スタンリー・クラーク(b)、アイアート・モレイラ(per)といったリターン・トゥ・フォーエヴァー面子に加え、ジョージ・デューク(key)、デヴィッド・T・ウォーカー(g)など、あまりにも豪華すぎるフュージョン・オールスターズがバックを固めたディー・ディー嬢の78年作。「黒さ」という点では少し退けをとるが、ソウル・マナーにも長けたフュージョン・ファンク・サウンドは、この時代ならではの溌剌とした空気感を強く感じさせる。





  



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