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周防監督による「それボク」勉強会

2007年6月26日 (火)

5月28日。東京日比谷にある東宝本社にて、 周防正行監督による『それでもボクはやってない』の「勉強会」が
開催されました。監督自身が語る「それボク」の見所とは?たっぷりと語って頂きました。


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Shall we ダンス? 』以来、11年ぶりに作品を発表された周防監督ですが、興行マーケットの変化について実感されていることはありますか?

“洋画コンプレックス”というものがなくなったと感じます。僕が高校生のころには「日本映画はダサイ」というイメージがあり、映画ファンも洋画しか観ていませんでしたが、今の若い人は洋画も邦画も分け隔てなく、同じ映画という土俵の中で自分がおもしろいと思うものを探して観ていると感じます。
今の60歳以上の方々、日本映画が元気だった頃を知っている方たちが、映画館に戻ってきていることも大きいと思います。昨今の日本映画の元気な状況を受けて、もう一度日本映画を観るという楽しみが、復活してきていると思います。
また、「それボク」のキャンペーンでいろいろ地方に行きましたが、それぞれのシネコンで働いている若い人たちが、自分らの職場に誇りを持って、活き活きと働いているのにも驚きました。自分達の映画館で見せている映画に、愛情を持って仕事をしている。映画館自体にも、活発な空気を感じました。
僕は洋画と同じ土俵で勝負したいとずっと思ってきましたが、気がついたら同じ土俵にいるというのを強く感じます。

監督の映画制作の動機はまず「驚き」だと仰られています。今回の映画も日本の裁判制度を知り、驚き、それが怒りに変わってきた。その怒りが制作動機のひとつだと語られています。映画を製作し、それが大ヒットするという結果となりましたが、監督の中で驚きや怒りに変化はありましたか?

相変わらず、怒り続けています。
実は先日も、知り合いから、知人が痴漢でつかまってしまい、どうしたらいいかと相談を受けました。お決まりのように現行犯逮捕され、3日間勾留された。3日目に耐え切れなくなり、自白して出てしまったそうです。
その後、起訴とも不起訴とも言ってこないし、被害にあった女性に、示談の交渉をするべきなのか。この後どうなるのか不安だといった相談の電話をいただいて、弁護士さんを紹介しました。
未だに、警察は繰り返しているんです。3日目に自白してしまったというのも、無実の主張をし続けると、しばらく勾留され会社にも行けず、その後一年掛けて裁判を戦わなければならない。その結果、無実を証明できる保証もない、というのがこの映画からイメージできてしまい、それが耐えられなくて自白してしまったと。
この映画と同じようなことが、相変わらず起きている。

裁判に対する驚きで一番大きかったのは、実際の裁判と僕が映画やTVドラマで見てきた裁判とはまったく違う。実際の裁判を無視した形で、様々な映画やドラマが作られていたんだということです。
だから、僕はほんとにリアルに、実際の裁判を傍聴しているかの気分で観客に観てもらいたいと思って、細かいディテールまで詳細に再現して、実際の裁判というものを観せようと、この映画を作りました。ここまでリアルに裁判を表現できて、この映画を作ってよかったと思います。
だけど、まだまだ怒りは続いているし、勉強も続けていきたいと思っています。

監督は、この映画に関して、リアルに裁判を描くということだけを考えていた。エンタテインメントは目指していなかったと仰っています。一方で、2時間23分にも及ぶ長い映画を、まったく集中力が途切れることなく見せているこのエンタテインメント性は、一体どこから来ているのでしょう。

シコふんじゃった。』という映画を作った時に、ひとつ勉強したことがありまして。物語ってたくさんの選択肢があって、その中で主人公がどういう筋道を行くんだろう。物語の先が読めない。そういうものが、エンタテインメントだと思っていました。だけど相撲って、勝ちか負けしかないんです。その二者択一で、映画は、エンタテインメントになるのかという不安がありました。
結果、『シコふんじゃった。』は、見事にエンタテインメントになったんです。複雑なストーリーを考えなくても、ストーリーのポイントとして勝ち負けがはっきりしていて、そこに行き着く過程でハラハラさせれば、十分エンタテインメントになるんです。
なぜ、今作のような社会問題をエンタテインメントとして見せることができたのか考えてみると、まさしく裁判って、最後に勝つか負けるしかないんです。引き分けもない。有罪なのか無罪なのか。どんな判決が出るんだろうというのを、事件が起きた瞬間から最後まで、緊張感を持って引っ張っていくことができたのが、大きなポイントです。
つまり、この映画がエンタテインメントとして成立したのは、まさにリアルな裁判を描くことができたから。裁判そのものが持っている、最後には勝つか負けるかしかない厳しい世界が、エンタテインメントを作る要素になっているのだろうと思います。
裁判って、エンタテインメントに向いているものなんだと、改めて認識しました。


続きまして、この場にお越しいただいた方から質問をいただきたいと思います。

メッセージ性の強い作品ですが、主要なキャストにはメッセージを託していません。それがリアルな裁判の現実だからなのでしょうか?

そうですね。ほんとにリアルな裁判を描くことしか頭になくて、最初に加瀬君に会ったときにも「主役は裁判だから」と言いました。
僕はシステムが好きで、『Shall we ダンス? 』を観ていただければわかると思うんですけど、社交ダンス教室のシステムというものを事細かに見せている。システムそのものの中に人間の考え方が出てるし、日本人そのものがあるんじゃないかと思ってます。今回も、裁判というもののシステムそのものを見せたかった。逆に言うと、登場している人たちは、裁判というシステムの中で、どういう働きをしている人たちなのかということ。
映画全体としてメッセージを持てば良いわけで、誰かヒーローを登場させて、何かを託すということにはならなかった。それは、この映画の主役は裁判だから。裁判を見せる映画だから。日本の中の裁判を見せることで、日本人が見えてくると思ったし、いろんな驚きがその中にあると考えました。

裁判の様子が、俳優のしぐさに至るまでとてもリアルだったんですが、出演者の方も実際に傍聴に行かれたのでしょうか?

主要キャストの皆さんには傍聴を義務づけました。見てないのは加瀬くんだけです。加瀬くん本人が、シナリオや資料を見て、裁判のことを知らないほうがいいと判断したようです。実際の撮影は、映画の時間軸通りに順撮りにしてます。つまり被告人にとって、明日はどうなるのかわからない。そのリアルな気持ちに自分の演技を持っていく。
ラスト近くの最終陳述で、加瀬くんの芝居に泣きが入るんですが、あれは本番一発目で、図らずも泣いてしまったんです。もともと泣く芝居は演出していないし、シナリオでも、まったく泣きの入らない淡々としゃべる台詞だった。加瀬くんは喋りながら、逮捕されてからその日までのリアルな被告人の日々というものが、彼の中に蘇ってきてしまったんだと思うんです。
あの演技に関しては、後ろで傍聴している役者さんたちも驚いたはずなんです。テストではそんなことはなかったんですから。でも、もたいさんや皆さんが、その泣きに対して反応してくれて、素晴らしい芝居をしてくださいました。
実際にキャストの皆さんが、傍聴してきてくださったのと、撮影現場そのものが、法廷そのものになってましたので、リアルな法廷シーンにつながったと思います。セットに入った瞬間、皆さんドヨーンと暗い気持ちになったそうです。
あと、特殊なやつは注文しました。尾美さんがボールペン回すヤツとか。ボールペンを回す検察官は、ほんとに多いです。異常に上手いです。(笑)

映画を撮るにあたり、苦労したこと、障害になったことなどありますか?

ひとつ心配していたのは、電車を借りられるかということです。痴漢冤罪の話なので、満員電車の撮影は必須だったんですけど、電鉄会社にとってはありがたい話ではないですよね。実際の映画でも駅員批判、鉄道会社批判めいたことに見えなくもないシーンがありますから。もしかしたら、電車を借りられないかもという心配はあったんですが、京王電鉄が普通の撮影と同じように電車を走らせてくれて、撮影することができました。
ありがたくない人が多いだろう映画にもかかわらず、そういう意味では障害は少なかったですね。

では最後に、作り手としてこの映画はどういう人に見てもらいたいと考えていますか?

小学校高学年、年齢でいえば10歳以上の人は必見だと思っています。人が人を裁かなければならないというのは、人間の社会、共同体の中では絶対に出てくることなので、そのことについては、たぶん小学生でも考えられると思ってます。
もうひとつは、この映画だけではなく裁判員制度とか、志布志の選挙違反事件での12人全員無罪富山の婦女暴行冤罪事件とか、世の中の裁判に対する注目も高くなって、傍聴記がベストセラーになったりしています。僕としても人が人を裁く裁判というシステムは、多くの人が知っていた方がいいと思ってる。
僕がこの映画を作った意義というものは、映画を作っただけでは完結していない。おもしろい映画を作ろうというのは二の次で、とにかく裁判をみんなに知ってもらおうという思いから、この映画を作ったので。DVDで、ぜひ多くの皆さんに見てもらいたい。

今回お話できなかった制作裏話などは、DVDのオーディオコメンタリーでもたっぷり語っていただいていますので、
ぜひ、ご期待ください。本日は、ありがとうございました。



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