周防監督 インタビュー 3
Tuesday, June 26th 2007
Q 監督は、裁判に対して、どこがおもしろいと思ってますか?
おもしろいって言うよりね、人が人を裁いてる時のルールっていうのが、人間の生きてきた歴史そのものなんですよ。たぶん、共同体ってものができて、所有ってことが起きた瞬間から、 人の物を取るっていう行為が絶対、始まってるはずですよ。人の物を取った奴は、どうするんだ。 それは、共同体で決めることですよね。法律は最初から、自然界にあったものじゃない。人間がみんなで生きていきましょうって言った瞬間から、法律っていうのを考えざるを得なくなってできたんです。その長い歴史の中で、ようやく、「疑わしきは、被告人の利益に。十人の真犯人を逃すとも、一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」ってところへ到達してるんですけど、そこに行くまでが本当に、長い歴史がある。
裁判っていうのは、手続きなんです。ルールなんです。 そのルールっていうのは、人間が犯してきた間違い、つまり、誤って人を処罰しないように、 こういう時には、こういう手続きを決めて、間違いを起こしにくくしておきましょう、っていうものなんです。裁判で行なわれる一つ一つの手続きには、人間が長い歴史の中で試行錯誤してきた全てが詰まってるんですよ。 それがすごいんですよ。
人が人を裁くって時に、人間がどれだけ考え、努力し、また間違いを犯してきたか、 って言うのが、裁判には、凝縮されているんですね。人間が作らざるを得なかった、本当に人間が考え出さなきゃいけなかったことだけで、成り立ってるんです。それは、死とかね、自然界の現象とは違って、法律そのものは、本当に人工のものですよね。 自然界の掟なんて言い方があるけれども、人間社会の法律っていうのは、本当に人間が考えざるを得なかった、考え出してきた、その、人間の考え方そのものを、裁判で観ることができる。
で、それだけ、人が人を裁くってことに、人は間違いを犯してきた。だけど、まだ間違えるんですよ、いっぱい。これは、果てしないと思う。これが、どういう風に、これから変わっていくのかってこと。 過去を見ながら、未来のことについても考えるっていう意味で、奥が深いというか、難しい。 なかなか簡単に答えが見つからない。だから、嵌ってしまうんだろうなあって思いますね。
Q 実際に傍聴していて、「あ、この人本当にやってるな」とか、そんな風に思った瞬間はありますか?
それは、よく訊かれたんですけど、そういうことは、考えなかったんです。要するに、どういう理由でこの人を有罪にするか、無罪にするか、そこだけなんですよ。だって、その人が本当にやったかやらなかったかなんて、わかんないんですよ。だけど、今ここにあらわれている証拠で、この人を有罪って、決められるのか、決められないのか、決めていいのか、そこだけが問題なんです。その人がやってても、やってなくても、関係ないんです。その人がやったって言えるために、どれほどのことを裁判で調べたのか、っていうのが気になった。 「あ、それだけのことで有罪って言うんだ」っていう驚きが強かったです。僕らは本当に、その人がやったかどうかは、はっきり言って、永遠にわかんないんです。
ただ、こういう調べをして、こういう証拠でその人を有罪にしました、っていう記録だけは残るんです。僕らは、その記録だけは、チェックできるんです。その有罪の認定の仕方がよかったのか悪かったのかは、 永遠に争えるわけですよ。意見を言えるはずなんです。だから、そのことに注目して、一つ一つの裁判を、 「あ、こういう理由で、有罪にしたんだ。こういう理由で、無罪にしたんだ」って、それは本当に果たして、 よかったのか悪かったのかを、一人一人考えられるんですよ。
で、そこにしか裁判の真実って、実はないんです。 その人が本当に犯人かどうかは、本当に誰にもわからない。本人しかわからない。 もしかしたら本人だって、勘違いしてるかもしれない。やってないって思い込んでるだけかもしれない。 やったって思い込んでるだけかもしれないってこともあるんで。そうすると、わかんないんですよ。
誰かが言ってたけど、考古学に近いかもしれない。発掘現場で発掘したその地層で、同じように発見されたものの関係から、およそ何年前の、どういう時代の、どういう人達の、こういう痕跡だったんではないかって、推測するしかない。
刑事事件と同じなんです。だって、起きたその現場を誰も見てないわけですから。残されたものから、それがいつどのようにして起こったかってことを、特定していかなきゃいけないんです。 だから本当は、真実はわからない。だけど、残されたものから、本当にどこまで言えるのかっていうのが裁判なので。それも、裁判の本質というか。そこが、僕にとってはおもしろいなって思います。
Q 映画の中で、起訴までの時間がすごく短かったですが、あんなにすぐ、起訴されちゃうものなんですか?
痴漢事件はね、調べるものが少ないんですよ。で、起訴する一番大きな決め手は、被害者証言にブレがないこと。一貫性があることなんです。なおかつ、その被害者が裁判になった時、法廷に来て、きちんと証言できる人かどうか。そこを見て、被害者の意思が変わらないことと、きちんと証言できるっていう確信があったら、起訴します。
で、殺人事件みたいに、連日取り調べられることもないんです。逆に言うと、放っておかれるんです。23日間も勾留されているのに、取り調べはその間、3日間しかありませんでしたってことがある。だから本当は、釈放して、在宅で取り調べればいいんです。サラリーマンは会社に通いながら、検察官に呼び出された時に、検察庁へ行って、取り調べを受ければいいんですよ。 それで僕、なんの不都合もないと思うんだけれども、日本のシステムが、否認していれば勾留することになっている。だから、人質司法って言うの。誰だってね、会社も行けなくなって、やってない、やってないって言って、本当にやってなくたって、会社23日間も休んだら、クビですよ。民間企業は。 だったら、やったって言うでしょ?
実際本当にきのう、相談を受けたんですけど、痴漢で捕まったって。 彼は、3日目で音を上げちゃったわけですよ。3日ですよ?でも、辛いですよね。だってそのまま否認を続けたら、会社にあと20日間行けないんですよ。こんな取り調べある?彼がね、殺人犯で、そういう罪の重い嫌疑だったら、また話は違うと思いますけど。また殺人を犯されたら堪らないって考えたり、逃亡の恐れもあると裁判官は思うかもしれないけど。もっともアメリカなら、殺人容疑でも、巨額な保釈金を積めば出られますが。
だけど、痴漢で、痴漢が軽い事件だとは言わないけど、もう一度起こして捕まったら、それこそ確定的でしょ。なおかつ、罪障隠滅なんてできますか?隠滅すべき証拠もないんですよ。じゃあ、逃亡の恐れがあるか?会社を捨てて、家族を捨てて、痴漢の罪で逃亡しますかね?それこそ、一生を棒に振ることじゃないですか。だったらなんで釈放して、在宅で取り調べないんだろうって。そんなの、誰だって思いますよ。 でもしてないんですよ、本当に。釈放しないんです。人質司法って、本当にそうなんだなって思います。
なんだか、怒りが収まらなくなってきちゃったな。
Q DVDになって、ここは見て欲しいってところはありますか?
あのね、コメントいっぱいしてるんです、コメンタリーで。だから、コメンタリー見て頂いて、もう1回見て頂くと、違った意味の、ただ単にシステムとしての裁判だけではなくて、 その裏側にある、考え方がわかりやすくなると思うので、ぜひ、コメンタリーに期待してですね、 DVDを手にする方は、観て欲しいなって思います。
あとは、傍聴してる役者さん達が、みなさん、いい反応をしているんです。 たぶん映画を既にご覧になっている方は、いくら大きいスクリーンとはいえ、加瀬くんだったり、 役所さんに注目していると思うので、傍聴席の隅々まで目を配って頂けるとおもしろいと思います。 あの、傍聴席に座ってて、なんのセリフもない人たちも、全部オーディションで決めてますから。 エキストラじゃないですから。名の売れた俳優ではないけれど、みなさん役者さんだったり、役者さんの卵だったりして。で、それぞれに芝居をしてますので。 傍聴席にもリアリティーがあると思います。そこをちょっと、DVDで。
Q 今後も、政治や社会の問題点について、取り上げられる予定はありますか?
予定はないんですけど、本当に共通してるんですよ。出発点は、いつも驚き。 僕はそんなに、自分の作るものについて自覚的にはなってないんですけど、 ピンク映画でデビューした、『変態家族 兄貴の嫁さん』って映画があるんですけど、 あれだって、今思えば、小津安二郎について驚いた。 だから、小津安二郎についての映画を作ったって思うんですね。 それ以降も全部、出発点は驚きなんですよ。なおかつ、僕の知らなかった世界がそこにあった、 それが全部、映画作りにつながってるので、これからだって、政治になるのか、なにになるのか、 分からないですけど、僕が驚いたことについてが、映画になっていくと思いますね。
Q それでは最後に、次回作の構想は、ありますか?
構想はあるんですが、身が入らないんです。まだこの映画が、すごく尾を引いていて。 なおかつ、傍聴を続けているものがあるし、弁護士さんの勉強会にも参加させて頂いたり、 裁判に関する本も読んでいたりするので。次やろうと思ってるのは、全く違う世界の話なんで。 なんかね、抜け切れないんですよ、困ってるんです。早く抜けないと、また11年経っちゃうよって。 最も早くて、たぶん来年の夏くらいに撮影ができればいいなって思ってるので、最も早くて、2年後かな?でも、最も早くてですからね。 抜けられないことは絶対抜けられないんで、うまく折り合いをつけていかなきゃいけないんですけどね。 またいつか、裁判ものをやろうと思って勉強を続けているので。 うーん、どうなんですかね。だけど、また結局、次も、裁判だったりして。
Q ありがとうございました。
後日、反芻による体験記♡
周防監督と初めてお会いして、もう本当にですね、
すーっごく、やさしくて、チャームな方で、
本当に、すてきな体験をさせて頂きました。
そんな監督が表現された裁判、 というシステムについてのお話をゆっくりとお伺いすることができまして、 裁判について抱いていたイメージを覆られたことはもちろん、 堅苦しく考えてしまう裁判についてを、ポップにお伝え頂けて、
勉強になったのは、言うまでもありません。
裁判について、もっと知りたくなるような、 巧みな話術で、
内容の濃い、凝縮された一日となりました。
食事の写真は、毎回撮る、なんてエピソードが、わたしと同じ! などと、勝手にうれしさも、倍増してしまったのでした。
そんな監督の、最新作について、
詳しい特集は、こちら→それでもボクはやってない
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