HMVインタビュー:AOKI takamasa

2006年10月16日 (月)

☆『PARABOLICA』発売記念インタビュー!




田中フミヤ半野喜弘によって立ち上げられたレーベル、op.disc。

今までop.discはアナログを中心にリリースしてきていましたが、今回初のアルバムリリースとなります。 その第一弾となる作品は、音楽だけにとどまらないその才能を各方面で発揮しつづける気鋭のアーティストであるAOKI takamasa




AOKI takamasaとしては6枚目となるアルバムリリースとなる本作は、どちらかというと今までの作品はエレクトロニカとしてカテゴライズされている楽曲でしたが、今回はダンスミュージックとして機能するクリックハウス的作品に仕上がっています。しかし彼の持つ繊細な音作りに妥協はなく、ホームリスニングでもフロアでも機能する、AOKI takamasa流のエレクトロニックダンスミュージック作品となりました。

今回そのニューアルバム『PARABOLICA』のリリースを記念してインタビューをさせて頂きました。 作品のことから、現在住んでいるフランスのことなどいろいろお聞きしましたのでじっくりとお楽しみください。



Interview with AOKI takamasa


まずは<op.disc>からアルバムとしてリリースすることになった経緯を教えていただけますでしょうか?

AOKI takamasa: デビュー当時からずっと仲良くしていただいている半野喜弘さんと田中フミヤさんから、『日本から世界に発信する日本人による新しいテクノレーベルを始めるから参加しないか』とお誘いを いただいて、断る理由も全く無かったし、今までずっと閉じた状態だった日本のコンピュータミュージックを もっと世界に広める事ができるかもしれない良いチャンスだと思って参加させていただきました。 お誘いをいただいた時は本当に嬉しかった。

デビュー当時からヨーロッパでライヴをさせてもらう機会を沢山いただくようになって、日本の情報が 思ったより外に出てないっていう事に気づいたんです。海外で知られている日本の情報は、大体が 『日本のステレオタイプの結晶』みたいな情報が多く、そろそろそうでない情報や音楽も日本から発信して 良い時期に来ていると感じていたので、本当にベストなタイミングで誘っていただけたと思いました。

今までは個人としてそういう活動をしてきたけど、やっぱり限界を感じてました。 でもこれからはop.discっていうレーベルを通して『日本のステレオタイプの結晶』以外の情報や音楽などを 世界に発信していければ良いなって思ってます。


『PARABOLICA』は今までのSilicom名義や青木さんの作品で強く感じられた音響要素というよりはダンスミュージックとしての要素が多く含まれていると思うのですが、それは意図してのことですか?

AOKI takamasa: 今までも全部のアルバムでダンスミュージックとしての要素を入れまくっていたつもりだったんですが、 ここ数年だんだん自分の頭の中がシンプルになってきたのか、頭に思い浮かぶ音楽も同じようにシンプルになってきたのが原因かもしれません。それまではかなり複雑なリズムばかり思いついたんです。音を沢山使ってグルーヴを出すという事にある程度飽きてしまって、今はできるだけ突き詰めたシンプルな状態でグルーヴを出す方向に僕が向かっているからかもしれないです。それによって今までよりもダンスミュージックに感じられるのかも知れないですね。




AOKI takamasa
『PARABOLICA』

01. Mirabeau
02. Denger
03. Ascari_wet_condition
04. Ascari_dry_condition
05. I'm a part of it
06. Parabolica
07. Lesmo
08. Sf -variation-
09. 27th
10. Abbey






『PARABOLICA』というアルバムタイトルに込められた意味とは?

AOKI takamasa: 『PARABOLICA』はイタリアのモンツァっていうF1などに使用される高速サーキットの最終コーナーの名前なんですね。ちょっとマニアックな話になってしまいますが、Parabolicaの後に続くメインストレートで最高速(360km/h)を出すためにはこのコーナーを凄くバランス良く抜ける必要があって、とにかくチャレンジングなコーナーなんです。

このアルバムでは今まで僕があえて避けてきた4/4っていうリズムを多様しているんですが、アルバムを作るにあたってその行為がこれからの自分の音楽に必要とされる何かを得るための凄く大きなチャレンジになるような気がしたんです。それもあってこのタイトルを選びました。ちなみにイタリア語で放物線っていう意味だそうです。それもまた気に入りました。このアルバムに収録されているいくつかの曲名も、世界中のF1用のサーキットの中でも特にチャレンジングなコーナーの名前から拝借しました。




これがイタリアのモンツァサーキット場


   ↑上のH番のところがタイトルになっているPARABOLICA。

   他のところも、よーく見てみると曲名に使われている文字がちらほら。




『PARABOLICA』を制作する上で、一番重要な点はどういうところでしたか?

AOKI takamasa: 4/4リズムの曲って、ずっと『作るのは簡単だ』って思ってたんです。今から思えば、作った事もないのに、4/4でヒットを飛ばした事もないくせに、よくもまあそんな『簡単だ』なんて思ってたなーと恥ずかしい気持ちでいっぱいなんですけど、いざ作るとなるとテクノっていう音楽に暗黙の了解で存在するセオリーみたいなものを理解して音にするのが本当に難しいと思いました。正直言って今でもまだまだその点においては未熟だと自分で思っています。

音として仕上げる上で一番重要だったのは、低音のバランスと配置でしたね。アルバム全体として言えば、やっぱりテクノDJの方々やアーティスト達が無意識で身につけているテクノセオリーを、どうやってDJもやったことない自分が習得するか、そこが凄く重要だった気がします。ひたすら色々聴いて踊りましたね。これからもまだまだ知っていく必要のある深い領域です。。 自分にしかできない4/4を作りたいっていう気持ちが一番重要だったかもしれません。


「自分をつくりあげた3枚のアルバム」を挙げていただくことはできますか?

AOKI takamasa:3枚挙げるとしたら、Steve Reich『Drumming』 、そしてAphex Twin『Come To Daddy』D'angelo『Voodoo』ですね。   

左から:Steve Reich 『Drumming』/Aphex Twin 『Come To Daddy』 /D'angelo 『Voodoo』 /


前述の音響要素の強い作品を作っている青木さんとして尊敬するアーティストはいらっしゃいますか?もしよければ理由もお願い致します。

AOKI takamasa: 尊敬するアーティストは数えきれません。自分は音楽だけに影響を受けて音楽を作っているワケではないんですが、音楽的な視点でここ数年自分が一番影響を受けて、心から尊敬しているアーティストと言えば半野喜弘さんです。

半野さんの音楽にはあらゆる音楽ジャンルの要素が詰まっています。人種、時代、地域、ジャンル、そんな垣根なんて何一つありません。しかも音楽的にも美しい。こういうアーティストは世界的に見ても凄く稀な存在です。

最近一度聴いたらすぐに覚えられて、またすぐに忘れてしまうような、コンビニの商品みたいな音楽が重宝される世の中になっていますが、そういう状況の中でも、半野さんは周りに流される事なく、常にストイックに美しくて複雑だけどシンプルで心地良い音楽を作っておれるし、あらゆる発表の場においても自分らしさをしっかり発揮しておられるところが素晴らしいと思います。


逆に今作のようなクリックハウス的トラックを制作するアーティストで、気になっている存在はいますか?

AOKI takamasa: クリックハウスが何か知らないです…。


フランスの生活は、日本での生活と比べるとどうですか? 環境の変化で音楽制作における変化はありましたか?

AOKI takamasa: 日本にいた時よりも、ヨーロッパで行われる多くのイベントに参加しやすくなった事が大きな変化の一つとしてあります。それに日本よりも沢山の人種が入り交じって生活している部分が刺激的ですね。フランス人、日本人、アラブ人、中国人、ベトナム人、韓国人、アメリカ人、アフリカ人などなど、沢山の人種の友人ができた事が凄く良い刺激になっています。

『僕はなんで日本語と英語しか話せないんだろう!』って本気で思います。これからはできるだけ多くの言語を習得しようと思うようになりましたし、それによって新しい視点を得れたのは凄く大きい変化だったと思います。またそれらの数多くの異文化の人たちと接する事によって、それぞれの文化からの視点で日本を客観的に観れるようになったのも自分にとって劇的な変化の一つでした。それらの理由から、こっちに来てから自分の頭に浮かぶ音楽に変化があったのは間違いありません。


日本の人がフランスに旅行で訪れた際、訪れて欲しいスポットがあったらおしえてください。

AOKI takamasa: フランスの田舎がお勧めですね。東京が日本で唯一特殊な都市であるように、パリもフランスで唯一の特殊な都市です。パリだけがフランスではないです。


最近よく聴いている作品を3つほど挙げていただけますか?さらにその作品についてのコメントもいただけますか?

AOKI takamasa:下記の3タイトルですね。


D'angelo
『Voodoo』 

4〜5年前に半野さんから教えてもらってからほぼ毎日聴いてます。
僕のバイブルですね。これを超えるようなグルーヴに今まで出会った事がないので、こればっかり聴いてます。嫌いな部分が無いから飽きない。




Donny Hathaway
『Live』 

これも同じく半野さんに教えていただいてから事あるごとに聴いています。
音から愛情があふれているんです。多分この音源が録音された会場にいたのは黒人のオーディエンスばっかりだったんでしょうね、、みんな凄く団結して一つになってる感じがCDにまで収録されています。この当時も今も、結局は同じような理由でみんな苦しんで訴えて楽しんでいるんだなって感じさせられます。



Oren Ambarchi
『Grapes From The Estate』 

本を読む時とか、ちょっと休憩する時とか、何気にリラックスしたい時によく聴いています。
このアーティストには会った事がないけど、きっと凄く良い人だと思いますよ(笑) 音から彼の人格を感じる事ができる気がする。カッコつけてない地味な所がカッコイイです。




音楽以外で今ハマっていることってどんなことですか?

AOKI takamasa: F1とお茶と、街を歩いてる犬を見る事かな。あとこれからの地球と人類に関してよく考えてます。


インタビューさせていただくことになって、今回初めて青木さんの"AOKI takamasa_web"を見させていただいたのですが、そこでまず飛び込んできたのが「No War No More」という文字でした。その想いを教えていただけますでしょうか?

AOKI takamasa: 一般の市民にとって、この世で一番必要の無いものは戦争です。戦争を必要としているのは、それによって利益を得る一部の大国の権力者と軍事産業だけです。戦争は音楽などのあらゆる文化を破壊します。

自分のエゴなんですが、僕はできれば心おきなく心地いい音楽を作りたいと思ってます。 でもこの地球上のどこかで理不尽な理由によって人々が殺されていると思うと、時々僕には他にもっとすべき事があるんじゃないかと考えてしまいます。でも今の僕にできる事は、できるだけ多くの人たちに楽しんで踊ってもらえるような音楽を作る事だと思ってます。そして僕の音楽に共感してくださる人たちと様々な情報を共有して、戦争をなくすために自分ができる最大限の事をしようと思って、そういう理由からウェブに『No War NoO More』と書いています。日本の政治家の多数、またあらゆる産業もアメリカの戦争に大きく加担していますから。日本人として時々凄く恥ずかしくなります。日本も『戦争のできる国』になる準備が着々と進められていますしね。これは何としても避けないと。そのためのアクションの一つです。


また音楽制作の際にも作品にそのコンセプトは影響しているのでしょうか?

AOKI takamasa: もちろんです。僕の作る音楽には、多分僕が普段考えている事、見ている事、感じた事など、全ての要素が形を変えて存在していると思ってます。他のアーティストもきっとそうだと思います。それにアートは戦争を無くす事ができる。僕はそう信じてます。




AOKI takamasa関連作品



左から:AOKI takamasa 『Quantum』 /AOKI takamasa & Ogurusu Norihide & Takagi Masakatsu 『Come And Play In Our Backyard』 /AOKI takamasa & Tujiko Noriko 『28』 /V.A. 『Hub Solo & Collabo 2004-2005』




世界中では今もいろいろな戦争が起こっていますが、その戦争に対して日本で住んでいるときとパリに住んでいるとでの意識の違いはありますか?

AOKI takamasa: 個人的には同じですね。同じ地球で起きている事ですから。 ただ日本やアメリカやそのほかのヨーロッパなどの戦争に加担してる先進国の大手メディアは、 どうも本当の事を報道していないように感じます。日本を出てからそういう部分を感じ取る意識が発達した気がします。

日本のテレビとか見てた時って、頭がボケーっとして何が何かわからなくなって、ある意味思考停止状態になった様な気がしてたんです。こっちに来てからはテレビの言葉も日本語と違ってあんまり理解できないし、それに僕の部屋はテレビが映らないので、最近もしかしたら日本のテレビで洗脳されてたのがちょっと解けてきたのかも。最近は色々な世界の問題をシンプルに理解できているようになった気がしますね。気のせいかもしれないけど(笑)


音楽に政治的なメッセージを込めることはありますか?

AOKI takamasa: 今の所はありませんね。


今後の活動について教えていただけますか?

AOKI takamasa: 10月21日にop.discからアルバムがリリースされる事にともなって、下記の日本ツアーをやらせて いただく事になっています。それ以降は、いつもと同じようにもっと良い音楽が作れるように地道に楽しく頑張っていきます。



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AOKI takamasa PARABOLICA Release Tour 
 
11/03(金)”Otonoha” @ Kieth Flack 福岡
11/10(金)”Haunted Dancehall" @ Club Mago 名古屋
11/11(土)”A DAY DUB” @ Social 金沢
11/18(土)”STORE 15NOV presents AOKI takamasa PARABOLICA Release Tour" @ Club Ghetto 仙台
11/24(金)”op.disc showcase hub" @ Sunsui 大阪
11/25(土)”op.disc showcase hub" @ Unit 東京

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ありがとうございました!!

協力:op.disc





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