「分厚い響きが快適」(許光俊)
2006年10月10日 (火)
連載 許光俊の言いたい放題 第91回「分厚い響きが快適」
めっきり涼しくなってきた。不思議なもので、暑い盛りはあまりオーケストラやオペラを聴く気がおきなかったが、こうなると俄然、分厚い響きが快適になってくるのである。
特に最近私が車の中で気持ちよく聴いていたのが、ヘルマン・アーベントロートのセット。以前、この人の演奏がまとめて発売されたときも、私はさして興味を持っていなかったし、1950年代のモノラルというだけで敬遠していたのだが、今回何気なく車の中でかけて見たら、実にスムーズに耳に入ってきたので驚いた。それぞれの作曲家の最後の交響曲を集めてあるという不思議な選曲で、やたらと熱意あふれるベートーヴェンの第9、細部まで歌い込んだシューマンの第4番、それに重心が低いモーツァルトが特におもしろかった。しょせん昔のドイツのローカル指揮者じゃないかとも思うけれど、それにはそれのひなびた味があっていいのかもしれない。あまり細かいこと言わずBGMふうに聴くのがいい。
知る人ぞ知る(は大げさか)名合奏団、長岡京アンサンブルのメンバーで結成されたユーシア・クァルテットのCDは、いかにも秋にふさわしい美しさ。メンバーは若いのだが、なかなか繊細でニュアンス豊かなのである。ことに最初に入っているパーセルのシャコンヌはきれいで、車の中で何度も聴いてしまった。しばし夢うつつの世界に誘ってくれる。
最後に入っている武満徹編曲の「枯葉」も大いに結構。森進一もビックリのセンチメンタルなまでに溺々とした弾き方が印象的。いずれにしても女性的というか、腕ききの連中がバリバリやるのとは正反対だ。こんな時代にふさわしい癒し系とでも言おうか。
おもしろいことにたった4人で弾いているのに、弦楽合奏団のようなふくらみのある響きがする。会場の残響のせいばかりでもあるまい。
そして、これもまた秋に聴くべき一枚。なんと90才のチェリスト、青木十良のCDである。バッハの1曲と「鳥の歌」、時間にして半時間の収録である。しかし、半時間で十分だ。それ以上は聴いているほうも集中力がもたない。とにかく音が伸びる。力が抜けない。重みがある。演奏とは肉体を酷使する労働である。年齢を感じさせないと言ったらウソになるが、若くて達者な音楽家では出てこない何かがあるのは確かだ。クーラントの爆走など、鬼気迫ると言ってもいいだろう。弾き終わって老音楽家がぜいぜいいっているのが録音されているが、こんな演奏をさせる曲を書いたバッハはすごいと思わせる。もしあなたが老音楽家の演奏を好むなら、絶対に聴いたほうがいい。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
⇒評論家エッセイ情報
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