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「アーノンクールと海の幸」

2006年7月18日 (火)

連載 許光俊の言いたい放題 第83回

「アーノンクールと海の幸」

 いよいよ今月、秋に来日するアーノンクールのチケットが売り出される(東京以外の公演はすでに発売中のものもある)。
 頻繁に来日するウィーン・フィルだが、とっかえひっかえ連れてくる指揮者は、とっくの昔にわれわれが知っている人たちであり、正直言って、新鮮味はまるでない。別に新鮮でなくても高水準の演奏が達成されればいいが、そうとは限らず、昨今ではとうとう売り切れなくなってしまったというから、お客は正直である。
 だが、今回のアーノンクールの、とりわけウィーン・フィルを指揮してのコンサートは、おそらく近年稀に見るチケット争奪戦を引き起こすのではないか。何しろ、この人は飛行機が嫌いなんだか、なぜなんだか、日本にずっと来ていなかったのだから。しかも、すでに80才近くなり、体力の限界に達しつつある。彼の音楽からはここ数年来、最晩年ならではの寂しげな情感が強く感じられるようになっているし、ゴリゴリの前進力はなくなった。ある筋によると、本人はこれが最後の来日と言っているらしい。
 最高席の値段は3万円を超える。デフレの日本ゆえ、これを高いと感じてもおかしくはないし、私自身も、抵抗感を持たずには払えない価格と言うほかない。しかしながら、この値段が不当だとは言えないのだ。実は本拠地におけるウィーン・フィルの定期演奏会のチケットはまったく安くない。ザルツブルク音楽祭や、このオーケストラがパリやドイツやイタリアで行うコンサートの値段は、定期以上に高い。本場ヨーロッパのコンサートやオペラは安いものというイメージがある。実際、その通りのことも多いが、ことウィーン・フィルに限っては当てはまらないのだ。とするなら、めちゃくちゃなユーロ高の状況下、この価格でも我慢して聴いておくべきだと思う。今回の来日公演、私は割り切ってチケットを買うつもりでいる。海外で聴く手間暇お金を考えても、そうしたほうが賢明と思えるからだ。念のため記すと、私は何も主催者の片棒をかついでこんなことを言っているのではない。事実そうだから、こう言うしかないのである。
 では、どのコンサートに行くべきか? これもまたきわめて正直に言おう。アーノンクールは、ちゃんと自分の音楽を持っている人だが、指揮の技術的には大したことがない。というより、ハッキリ言って、ヘタだ。だから、大編成の曲をやると、緩い。焦点の甘い響き、整理されない響き、明快さを欠いた音楽になりがちなのだ。これはたとえオーケストラがベルリン・フィルであっても、そうなのだ。だから、金や時間に余裕があるのなら止めろとは言わないが、もし1回だけ行くとしたら、モーツァルト三大交響曲を選ぶのが賢明だと思う。アーノンクールがやりたいことがもっとも明快に表れるのが、このプログラムのはずである。むろん、コンサートでは何が起きるかわからないし、ウィーン・フィルでブルックナーが聴きたいとか、シューマンが聴きたいというのなら、好きずきではある。ただ、素人が喜ぶ程度にいい演奏である可能性は高いだろうが、もっともうるさい人たちを満足させるレベルにはいかない可能性が高いと私は予想する。まあ、それでも興味深い解釈に触れることができるというおもしろさはあろうが。
 今回はウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとのコンサートもある。この団体はアーノンクールにとって家族のようなものだし、編成も小さい。よって、アーノンクールならではの鮮明な音楽に対面したいのなら、こちらを選ぶべきとも考えられる。チューリヒのオペラハウスもそうだが、アーノンクールの場合(彼に限らないが、特に彼は)、単にオケのうまいへたより、自分のやり方を徹底できる楽団のほうが濃い演奏になるからだ。
 ただし、なぜか、各地で合唱つきの曲が演奏されるのが腑に落ちない。確かに彼は宗教曲をはじめ、合唱、声楽つきの作品を熱心に取り上げる。が、これまたきわめて正直に言えば、そのような音楽をやると、やはり密度が薄くなる傾向がある。残念ながら、アーノンクールは合唱までひっくるめた人数を統御し切るだけの技量はないのだ。
 というわけだから、実は今回のアーノンクール、演奏回数やプログラムが多いわりには、絞り込みにくい。ズバリ、私が狙うとしたら、ウィーン・フィルとはモーツァルト三大交響曲、コンツェントゥス・ムジクスとはバッハの夕べ、このふたつということになる。後者は東京では都民劇場公演しかないゆえ、私は札幌公演のチケットを買った(すでに発売中)。休日だし、終演が早いので終わってからでも東京に戻れるのだ。スキーシーズンはまだだから、飛行機やホテルも安いはず。ズバリ、格安ツアーで行って札幌公演+北海道の海の幸を堪能する、なんていうのが一番楽しいのではないか。
 ずいぶん厳しいことを書いたかもしれないが、以前から私の書くものを読んでいる人ならわかるはずだ。アーノンクールはたとえばチェリビダッケとかヴァントとかテンシュテットとかクーベリックとかのように、指揮棒の一閃で世界が変わってしまうほど偉い芸術家ではない。が、少なくとも今生きている音楽家の中では最良のひとりなのである。とするなら、聴いておくべきだろう。
 これもまた念のため言っておけば、細かいことにこだわるアーノンクールゆえ、席は絶対にオーケストラに近いほうがいい。間違っても1階後方、2階後方などを買ってはならない。繊細なニュアンスが聞こえなくては、何の意味もない。もし後方席しか買えないのなら、たとえ定価以上を払ってでもインターネット・オークションなどで入手したほうが絶対にいいと思う。
 なお、来日プログラムはCDで聴いておくことができるが、やはりモーツァルトの演奏が飛び抜けて精度が高いことが確認できるはずだ。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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