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2006年11月4日 (土)

連載 許光俊の言いたい放題 第66回

「これが本当にギーレンなのか?」

 アファナシエフのリサイタルに行った。先日のこのコラムではベートーヴェンの「月光」をやるのが楽しみと書いたが、これは私の勘違いで、同じ第14番でもベートーヴェンでなく、シューベルトのほうだった。いやはや、悪魔が哄笑するようなシューベルトを聴かされ続けてくたびれた。もっともその翌日のサントリーホールでのベートーヴェンはそれを上回る、ここ十数年来でもっとも刺激的なアファナシエフだった。「テンペスト」をはじめ、ことあるごとに記憶の底から蘇ってきそうな、きわめて異常な美しさを持っていたのである。CDにもなるらしい。
 さて、その際に鈴木淳史氏から教えられ、「本当かよ」と思って聴いてみて仰天したのがミヒャエル・ギーレンのマーラーの第10番だ。  だいたい私はギーレンをあまりよく思っていない。かつてミュンヘンで聴いたブルックナーの第7番がまったくつまらなかったうえ(オーケストラのコンサートでは珍しくブーイングが出た)、東京で聴いた演奏も稚拙に感じられて仕方がなかったからだ(オーケストラはいずれも南西ドイツ放送響)。それゆえ、一部でギーレンを賞賛する声があっても、まるで聞く耳を持たなかった。どうせ録音のせいでよく聞こえるのだろうと勘ぐらざるを得なかった。実際、ここしばらくの間に出たマーラーの交響曲シリーズも特筆すべきものとは思わなかった。
 ところが、最近の第10番だけは、異常に濃密なのだ。カサカサで無感動にしか聞こえない今までのギーレンとは別人。表現の密度が違いすぎる。カロリー、塩分控えめの病院食がリッチなごちそうな変わったくらいの差がある。ブラインド・テストで当てられる人はまずいまい。
 頭からギーレンらしからぬ静かで押し殺したような、ドラマティックなたたずまいに意外の感を抱く。が、まだまだ序の口。やがて音量を増しながら音楽がどんどん膨らんでいく様子は、まるでバーンスタインじゃないか。
 この第1楽章を通じてあまりにも強い情感を込めて旋律が歌われ続けるのにびっくり。ほとんど限界まで粘り、大きくうねる。いったいどうしたんだ、ギーレン? リヒャルト・シュトラウスのようにロマンティックだぞ。
 さすがに第2楽章になるとややドライになるが、それでも弦楽器が思いのほか濃い表情を持っている。すべての楽章に共通することだが、ギーレンが強調したい部分が、非常に隈取り深い。オーケストラが溌剌として、各部分が生彩に富んでいる。だから、第3楽章などでもさまざまな要素のぶつかりあいがおもしろく聴ける。この曲が交響曲第7番の延長線上にあることがよくわかる。響きはこの人らしく無色透明系なのだが、普段の殺伐とは印象が異なる。
 フィナーレでのヴァイオリンの広がりも驚異的。そして、センチメンタルなまでにやさしく陶酔的な表情を見せつけるのだ。最後はこれまたバーンスタインの第9番のように激しい嘆きの歌を繰り返しつつ、静かな終結に至る。もう何かが吹っ切れたとしか思えない。ともかく、ギーレンというとドライという印象を吹っ飛ばす大熱演なのだ。この第10番完成版についてはもういろいろな演奏が登場しているが、もしかしたら一番親しみやすい演奏かもしれない。クック版の第10番は、普通は誰で聴いても、やはりマーラー真筆とは思いにくい、隔靴掻痒感がある。けれど、この演奏だと、他のどの指揮者よりもずっとずっとマーラーらしく聞こえるのだ。これも驚きだった。
 こんなわけだから、ギーレン嫌いの私が、大喜びで聴いてしまった(逆にかさついた、無感動なギーレンが好きな人には許し難い演奏に違いないが)。こんな演奏ならどんどん出してほしい。
 それにしてもこの人は変な音楽家である。現代音楽のスペシャリストであるとともに、ベルカント・オペラを愛好し、ベルリンなどではベッリーニを指揮している。どう見てもヘタなのに、難しそうな曲をしょっちゅうやる。1927年生まれというからもうじき80歳。今のうちにもう一度生で聴いておかなくてはと思った。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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