【全曲解説】人間椅子『色即是空』

全曲解説テキスト by 和嶋 慎治（Gt/Vo） 鈴木 研一（Ba/Vo） ナカジマ ノブ（Dr/Vo）

1. さらば世界

あれれ、なんだか世の中変だぞ──私は○○に対して断固反対するものである──かつてはそのような主張を、一部のフォーク／ロックはしていたものである。いつの間にかそれらは言ってはいけないとする風潮が生まれ、今に至る。しかし、表現とは本来自由なものだろうし、僕はまだその可能性を信じたい。現今の違和感を、特定のものを攻撃しないように、誰かを傷付けないように、むしろそこから脱却できないか、願わくば気が付いてくれないか、そんな気持ちで曲にしてみた。リフはズンズクズン、ズンズクズンを基調とし、ヘヴィーさを崩さぬようにそれを4拍子にしたり3拍子にしたり。必要なのは希望。中間部で幸福な未来を表すべく、長調に転調している。（和嶋慎治）

2. 神々の決戦

世界各地の古い伝承では、善の神と悪の神が永遠の戦いを続けているといわれている。ハルマゲドンに引っ掛け、それを歌にしてみると面白いと思った。サビの「はっけよい のこった」は、相撲がもともと神事であることに由来。タイトル「神々の〜」は、グラハム・ハンコックへのリスペクト。（和嶋慎治）

シャッフルの曲はアルバムに一曲は入れたくなります。今回は遅くて重いリフにしてみました。中間部のドラムソロとギターソロで戦いの攻防を表現したつもりです。（鈴木研一）

3. 生きる

我々の楽曲「針の山」、これはカバー曲なのだが、なかなか越えられない。毎度乗り越えるべくチャレンジしていて、本曲もその一つ。力強いリフが出来上がったので、「生きる」とした。なんと人間らしく生きることの難しさだろうか、本当は簡単なはずなのに……そんな思いが込められている。中間部は凝った展開。Cm→G→B7→Em→Aの和声的部分は、いったん心を静めて自分に帰ろう、みたいなパート。（和嶋慎治）

4. 悪魔一族

悪魔って本当にいるのかな、いや、マジでいるかもしれない……歌にしようと思ったが、彼らの所業を克明に描いては心が痛いし、シャレにならないので、「一族」とすることでポップさを狙ってみた。「エロイムエッサイム」は神にも呼び掛ける言葉であるので、大丈夫、呪われません。（和嶋慎治）

悪魔の笑いで始まり、笑いで終わる曲です。二拍三連の決めを執拗に繰り返します。和嶋君が作ってくれた「エロイムエッサイム」の歌詞はお気に入りです。みんなで歌いましょう。（鈴木研一）

5. 狂気人間

狂気に陥っている人間から見れば、世界が○っているのであり本人は正しい。○っていると思われる人々から見れば、本人たちが正気なのであり、○っているのは彼の方ということになる。そんな状態を、歌にしてみようと思った。タイトルは、特撮番組『怪奇大作戦』の封印回「狂鬼人間」から拝借。歌の合間に毎回「おお〜っ」とやるのは、狂気人間の叫びと思っていただければ。中間部（間奏）は、あえて歌わず、キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」を目指した。（和嶋慎治）

6. 人間の証明

最初鈴木君のジーン・シモンズ風のデモを聴いた段階では、神目線の歌詞にするはずだった。だが今回のアルバムの方向性──人間らしく生きる──を考えて一転、「人間の証明」とした。人間だもの。それにしても、毅然として雄々しいタイトル。あらためて、オリジナル作者である森村誠一さんに敬意を表したいとともに、氏のご冥福をお祈りいたします。（和嶋慎治）

KISSっぽい曲が出来たので、KISSっぽいギターとドラムにしてもらいました。KISSっぽい振り付けはこれから考えます。（鈴木研一）

7. 宇宙電撃隊

アメリカ軍が正式にUFO（発表ではUAP）を認めたことを睨んでか、自衛隊内に宇宙作戦隊なる部門が発足した。宇宙作戦隊！　カッコよすぎる。宇宙軍の曲を作るほかあるまい。まんまでは何かに抵触しかねないので、ヒーローものっぽく、宇宙電撃隊とすることに。そうだ、僕はヒーローソングを作るのだ。尊敬してやまない渡辺宙明先生の方法論を参考に、ちょっとばかりメタリカに似たりしながらも、完成。いわば彼ら（歌の中での話）は、帝国軍に対する反乱同盟軍。「宇宙の闇をやっつける」部分がお気に入り。「ファンファンファファン」は、宇宙電撃隊の凱旋の声。（和嶋慎治）

8. 宇宙の人ワンダラー

ワンダラーとは、宇宙人の魂を持ったまま地球に転生してきた人のことを表す。すでに1950年代にジョージ・ハント・ウィリアムソンが唱えていた説だが、僕はこのことを、スコット・マンデルカーの著書で知った。転生、なぜか。地球の人を宇宙意識に目覚めさせるためとのことだが、果たして、ワンダラーは今のこの世界を目の当たりにして、何と思うだろうか。（和嶋慎治）

スペースロックが好きなのでまた宇宙シリーズの曲を作りました。「ベントラ ベントラ／スペース ピープル」をみんなで唱えれば本当に宇宙人が来てくれるかもしれません。（鈴木研一）

9. 未来からの脱出

昭和の子供が描いていた未来は、貧困のない、便利で豊かで、そして平和な未来だった。2023年現在、どうもそれらが実現しているようには見えない。この曲の歌詞は、子供の素朴で純真な心を持ったまま大人になった人の視点で、書いた。SF的に。そうなればよい、ではなくそうなってほしくない、の意を汲み取っていただければ。（和嶋慎治）

疾走感あるリフの曲を作りたいと思いました。2バスを踏みながら歌うサビは、ノリノリになるはず！ライブで一緒に盛りがろうぜ！（ナカジマノブ）

10. 地獄大鉄道

因果応報。悪人は皆地獄が待っている。そう断定するのも何か無慈悲な気もするが、悪業によって苦しめられた立場の人からすると、またそうも思いたくなるだろう。何かに衝き動かされ、代弁してみた。踏切を模した間奏部分は、我ながら出色の出来。続く幻想的なマイナーシックスのフレーズは、ブライアン・メイへのオマージュ。（和嶋慎治）

鉄道が好きなので作りました。中間部の踏切を表現したギターは本当に素晴らしいです。悪いことをすればあなたのところにも地獄大鉄道のお迎えがやって来ますよ。（鈴木研一）

11. 星空の導き

今年の3月に、高校時代の音楽仲間──彼にはいろいろなコード、楽曲の作り方を教わった──が亡くなった。彼を偲んで、僕は曲を書き出した。彼の気に入るように。悩んだ際には、まるで彼が横から助言してくれるようだった。何度も泣き、しばしば嗚咽でメロディーが口ずさめなくなった。歌詞を書く手も、悲しみがこみ上げる度に、止まる。それでも──不思議な安らぎのようなものを僕は感じていた。いまだに、曲を僕一人で書き上げた気がしない。この曲が、身近な人を亡くされた方々の何らかの慰めになれば、幸いです。（和嶋慎治）

12. 蛞蝓体操

どんより、じめじめした暗い曲です。土着的なリズムのメインリフにふさわしく体操の歌詞にしました。中間部にお経の中で鳴らされるシンバル、妙鉢を入れてもらいました。（鈴木研一）

13. 死出の旅路の物語

死は身近なものだ。いずれ僕にも、あなたにも訪れる。だから、それまでどう人として、あなたとして生きるか──今作で繰り返し語られているテーマだが、アルバム最後の曲でもさらに念押しして述べてみたく思った。念頭に置いたのは、母親の言葉。「あんた、もう少し綺麗な曲を作りなさい」いつも以上に、楽器の調和、和声学的に聴こえるように頑張ったつもりだ。中間部は、新約聖書「ヨハネの黙示録」から引用している。そのままではパーソナルな部分から乖離してしまうので、恐れ多くもアレンジし、個人の人生とリンクするようにした。「パラッパラー」のコーラスはチャーチリバーブ、語りはプレートリバーブ、昭和の特撮っぽい音響により、キャッチーさを演出できたのではないだろうか。（和嶋慎治）

人間椅子『色即是空』

GENRE：HARD ROCK, HEAVY METAL
ヘヴィネスの担保とメロディの充実でさらなる新境地へ
不変の実体を持つものなど存在せず、万物は移ろいゆくという考えを表す仏教用語を冠した23rdオリジナル・アルバム。死生観にもとづく抽象的な歌詞など一見難解に思える部分もあるかもしれないが、ひとたび聴けば耳を離れないメロディは広く親しまれる楽曲の要件を充分に満たしている。緩急をつけつつラストにかけて盛り上がる構成はまさにオリジナル・アルバムという表現形態の醍醐味。8分超えの壮大な「さらば世界」で幕を明け、力強くディストピアに警鐘を鳴らす「未来からの脱出」、圧倒的にヘヴィな“生きものシリーズ”の「蛞蝓体操」などバラエティ豊かで、特にドゥーミーに始まりMETALLICA調のメイン・リフで走り出す「宇宙電撃隊」は、数ある人間椅子の楽曲の中でも異彩を放つサブカルチャー・テイストのポップネスが楽しい。
清家 咲乃【ライター推薦】