橋本徹の『カフェ・アプレミディ・ブリュ』全曲解説

2020年06月05日 (金) 01:30

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HMV&BOOKS online - ロック

『音楽のある風景』シリーズ、『チルアウト・メロウ・ビーツ』、『素晴らしきメランコリーの世界』、『サロン・ジャズ・ヴォーカル』シリーズ、『ブルー・モノローグ』、“架空のFM”シリーズ、『Good Mellows』シリーズなど常に良質なコンピレイションを発表し続けている橋本徹さん監修の「アプレミディ・レコーズ」より、20周年を迎えたカフェ・アプレミディのアニヴァーサリー・コンピ『Cafe Apres-midi Bleu』が登場しました。

2015年に発売された『Cafe Apres-midi Orange』以来5年ぶりの新規選曲による最新作です。前回は、監修・選曲を手がけた橋本徹(SUBURBIA)さんとアプレミディ・レコーズの担当ディレクター稲葉昌太さんとの特別鼎談を行いましたが、今回はアプレミディ・レコーズ恒例の全曲解説をお贈りします!

山本勇樹  

国内盤CD

Cafe Apres-midi Bleu【Loppi・HMV限定盤】

CD

Cafe Apres-midi Bleu【Loppi・HMV限定盤】

(1)

価格(税込) : ¥2,750

会員価格(税込) : ¥1,925

発売日: 2020年05月29日

2015年にカフェ・アプレミディ・シリーズの15周年を記念した特別企画として限定リリースされた『Cafe Apres-midi Orange』から5年を経て、シリーズ20周年を記念して最新作『Cafe Apres-midi Bleu』が登場します。

心に爽やかな甘い風を感じさせてくれる大充実のセレクション。印象的なブルーのジャケットに映された澄んだまなざし。2010年代に生まれたカフェ・アプレミディ・クラシックの中でも、特に愛された2020年代に伝えたいとびきりの20曲を収めた決定的な一枚で、オーガニック・メロウ・ソウルにフレンチ・アコースティック、AOR〜City Pop感覚のアーバン・メロウ・グルーヴにボッサでフォーキーなサウダージ・フィール、サマー・ブリージンなGood Mellowsに陽だまりメロウ・ビーツ、中南米やアフリカのハイブリッドSSWからアンビエント・バレアリカまで、ゴールデン・エラを彩った多様なジャンル/音楽スタイルから、それぞれを代表する選りすぐりが82分にわたって連なり、20年間かわらず愛されてきた「音楽のある風景」が、現在進行形の新たな息吹によって、いま再び、あの「午後のコーヒー的なシアワセ」を感じさせてくれます。

01. I Remember / Ady Suleiman

02. El Mundo Va A Cambiar / Banti

03. Balcony / Mae Defays

04. High Five / Irondale & BrandonLee Cierley feat. Jonny Tobin

05. Magazine / Lake

06. Ndivuele / Ami Faku feat. Sun-El Musician

07. PDA / Manatee Commune

08. Fight Or Flight Or Dance All Night / Kommode

09. I Can't Dance / Michael Seyer

10. Wings / Jamie Isaac

11. London London / Monica Vasconcelos

12. LSD / Jamila Woods feat. Chance The Rapper

13. Maracuja / Ge Luz

14. Be Like The Sea / Adron

15. If You Wanna / J.Lamotta Suzume

16. Untitled / Kate Bollinger

17. Spain / Sam Trump feat. SharmonJarmon!

18. Bless Ur Heart (Acoustic) / serpentwithfeet

19. Closer / Jim Alxndr feat. Marcus Prince

20. Camino De Flores / El Buho



  全曲解説 黒字 → 橋本徹/青字 → 山本勇樹

01. I Remember / Ady Suleiman

アディー・スレイマンは、チャンス・ザ・ラッパーが絶賛して彼の作品にも海をこえて参加し、僕が2015年の年間ベスト・アルバムに選んだドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントの『Surf』にもフィーチャーされていた、いかにも自然体のUKアコースティック・ソウルマンといった風情にも好感を抱かずにいられないイギリスの男性シンガー。ジャズやレゲエの風味もほんのり香る多幸感にアコースティックな風合いが快い、彼のファースト・アルバムとなった2010年代UKソウルの新名盤『Memories』(フォーキーな曲ではテリー・キャリアーとニック・ドレイクの間という感じの持ち味も見せてくれます)でもオープニングを飾る名作が「I Remember」で、ここ数年、僕がDJプレイすると最も問い合わせが多かった曲かもしれません。個人的にもどんなときでも前向きな気分にさせてくれる、高揚感あふれるフェイヴァリット・チューンなので、コンピのトップ・バッターはこれ以外に考えられませんでした(というか、収録OKの知らせが来た瞬間に即決でしたね)。(橋本)

02. El Mundo Va A Cambiar / Banti

アルゼンチン・コルドバ出身のシンガー・ソングライター、サンティ・バラヴァーレによる別名義がこのバンティ。ネオ・フォルクロリック・ジャズの色彩豊かな感性と、ミナス・ミュージックの透明感をとらえた音作りは美しく、アカ・セカ・トリオ、クリバス、アレシャンドリ・アンドレスといった新時代の南米音楽シーンを好きなら絶対におすすめの、たおやかでメロウな一曲。そして、こちらが収録された配信限定だった名作ファースト・アルバム『Proyecciones』(やはり注目を集めるロドリゴ・カラソやアシィも参加)は、アプレミディ・レコーズより『Cafe Apres-midi Bleu』と同時に日本盤CD化され、世界初のフィジカル・リリースが実現しました。(山本)

03. Balcony / Mae Defays

今年1月のミニ・アルバム『Whispering』から新年早々の三が日に先行公開され、アメリカとイランが武力衝突の危機を迎える重苦しく不穏な時代の空気に、爽やかな甘い風を運んでくれたフランスの女性シンガー・ソングライターの名曲。清々しくグルーヴィーなフレンチ・アコースティックという第一印象はすぐに、2020フレンチ・フリー・ソウル誕生という感激へと変わり、我が家では冬休みに最もヘヴィー・プレイされ、正月七日から恋に落ちずにはいられませんでした。ナチュラルな佇まいのオーガニック&ジャジーなラヴリー・ソウルという音楽性も相まって、どうしたってコリーヌ・ベイリー・レイが出てきた頃を思いださずにいられない、キュートで可憐な清涼感。パリのアパルトマンの屋上のバルコニーで撮られたMVも素敵で、その情景はCDブックレットに綴られたムッシュ・エスプレッソによるライナー・エッセイでもモティーフとなり、僕がこのコンピを作るにあたって最も大切にした「音楽のある風景」として描かれています。彼女のYouTubeチャンネル(カーティス・メイフィールドの「The Makings Of You」やシャーデーの「Love Is Stronger Than Pride」といった僕の大好きな曲もカヴァーしています)や、彼女が自身の「Peace」という曲になぞらえお気に入りのメロウ・ミディアムを集めたSpotifyの“Mae Defays' Peace Playlist”(こんな趣味のガールフレンドがいたら毎日最高だよね、と僕は友人と意気投合してしまいました)も、ぜひチェックしてみてください。(橋本)

04. High Five / Irondale & BrandonLee Cierley feat. Jonny Tobin

シアトルで活動するプロデューサーのアイロンデイルと、サックス奏者のブランドンリー・シアリーによるデュオ・プロジェクトが放った、これぞサマー・アンセムに相応しい最高に爽やかでメロウなダンス・チューンで、昨今トレンドのジャズ〜ハウス〜ディスコ・ブギーをセンス良く、フレッシュな感性で取り入れています。個人的には、ディスクロージャーの「Where Angels Fear To Tread」(フォー・フレッシュメン「Fools Rush In」をサンプリングして話題になったサマー・フィーリングあふれる名作)と双璧だと思います。(山本)

05. Magazine / Lake

ギリシャ・オリンピア出身の3人組レイクが2017年にドイツのインディー・ポップ・レーベルTapeteから発表したアルバム『Forever Or Never』よりエントリー。スタンリー・カウエル「Sienna : Welcome My Darling」のピアノ・フレーズを心地よくループしたKenichiro Nishihara作品の素敵なカヴァーで、けだるい雰囲気のヴォーカルと青く爽やかなサウンドは、どこか80年代のネオ・アコースティックの作品たちも彷彿させます。MVを観ても、その影響は顕著に表れていて興味深く、同世代のユミ・ゾウマやメン・アイ・トラストといったグループがお気に入りなら間違いないです。(山本)

06. Ndivuele / Ami Faku feat. Sun-El Musician

最近特に目が離せないほど活況を呈している南アフリカの音楽シーンから登場したブライテスト・ホープで、とりわけ僕好みの美しい歌声の持ち主として愛してやまない女性シンガーがアミ・ファク。トレゾーの『Nostalgia』も年間ベスト10に選ぶほど愛聴盤だったレーベルVth Seasonから去年秋に出た、幕開きのアコースティック・メロウ・チューン「Oh My My」から素晴らしい彼女のファースト・アルバム『Imali』の中でも白眉だった曲で、フィーチャリングされているサン・エル・ミュージシャンは、南アのジョー・クラウゼルと言いたくなるようなビューティフル・ダンス・ミュージックの名クリエイター。これに先立って昨年夏に出たこの二人のコラボ曲「Into Ingawe」(名義は“Sun-El Musician feat. Ami Faku”)も、アーバン・ダンス・ミュージックの鏡のような絶品でした。サン・エル・ミュージシャンとアミ・ファク、そしてもう一人の女性歌手Msakiの南アフリカ・トライアングルからは、今後もたくさんの身も心も揺らす美しいナンバーが生まれてくるだろうと期待しています。(橋本)

07. PDA / Manatee Commune

マナティー・コミューンは、ポートランドを拠点に活動するインディー・シンセ・ポップ・デュオで、僕の周りでも本当に人気があります。その理由は、Good Mellowsシリーズに収録されてもおかしくない、このバレアリックでチルアウトな気持ちよさにあるのではないでしょうか。ファンタスティックでありなあがら、FKJやBibioにも通じるメロウでレイドバックした独特のトラック・メイキングも素晴らしいです。今回の『Cafe Apres-midi Bleu』は、こうしたエレクトリックな楽曲が全体の良いアクセントになっていて、橋本さんならではの選曲の妙を感じました。(山本)

08. Fight Or Flight Or Dance All Night / Kommode

コモードは、カフェ・アプレミディ・ファンにはお馴染みのノルウェイを代表するデュオ、キングス・オブ・コンヴィニエンスの片割れエイリック・グランベック・ボーを中心に結成されたバンドです。キングス・オブ・コンヴィニエンスは、フォーキーな持ち味ながら、ときおりグルーヴィーでソウルっぽい曲があって、それがかっこいいのですが、このコモードはそういう要素がよく出ていると思います。ちなみに、エイリックは自身のバンドのサウンドについて、「フランス南部、真夏の海辺で太陽にキスをされ、友人たちと開催するパーティーのサウンドトラック」と表現しています。素敵すぎます。至福ですね。(山本)

09. I Can't Dance / Michael Seyer

とろけるようなスウィート・サイケデリアと極上のローファイ・ベッドルーム・ソウル〜チルアウトAORで、「21世紀版シュギー・オーティス×マイケル・フランクス」とも絶賛される、カリフォルニアの若き男性シンガー・ソングライター。フランク・オーシャンやベニー・シングスやモッキー、トミー・ゲレロから坂本慎太郎のファンにまで、幅広くおすすめできる俊才だと思いますが、この曲は去年秋に出たミニ・アルバム『Nostalgia』に先駆けて夏の終わりに発表された、DJプレイしても大人気の西海岸産現行アーバン・メロウ・グルーヴの逸品(シティー・ポップ感覚のギター・カッティングも心地よいですね)。今のところ彼の最新作となる『Nostalgia』と2018年の名作『Bad Bonez』をカップリングした日本盤スペシャルCDも、アプレミディ・レコーズから6/19にリリースされますので、ぜひ楽しみにしていてください。(橋本)

10. Wings / Jamie Isaac

アルバム・デビュー前のEPから気に入っていましたが、僕は2016年のファーストLP『Cauch Baby』(ジャケット写真の散らかった部屋には盟友キング・クルールやハービー・ハンコック、ディアンジェロのレコードなどが発見できて、興味が募りました)の冒頭に入っていたメロウ&ダビーなR&Bジャズ「Find The Words」でチェット・ベイカー×ジェイムス・ブレイクという印象を受け完全に心をつかまれた、ご存知サウス・ロンドンの男性シンガー(今ではトム・ミッシュが表ならその裏は彼、という感じでしょうか)。ダブステップ以降のUKシンガー・ソングライター〜ジャズ・ヴォーカルという趣で、その歌声は儚げでレイジーでメランコリック。僕はいつも、彼の音楽は“映画のような音楽”だな、と思います。僕が選曲/パーソナリティーを務めているdublab.jp suburbia radioでは、新曲が出るたびにオンエアしていますが、一昨年の秋の来日時にはアフター・パーティーで一緒にDJもして、自分がコンパイルした『Chet Baker For Cafe Apres-midi』『Chet Baker Supreme 〜 Moonlight In Copenhagen』という2枚のCDをプレゼントしたりもしました。そしてそのときにサインももらった、やはり一昨年にリリースされ僕が年間ベスト・アルバムの第3位に選出したセカンド『(4:30)Idler』は、正真正銘の生涯の愛聴盤になると思います。その中でもとびきりのオープニング・ナンバーとして出色なのがこの曲ですが、初めて聴いたときから懐かしいような、無性に愛おしいような気持ちになったのは、その英国らしいボッサ〜ジャズのフレイヴァーが、高校生の頃に夢中になった青春の一曲、エヴリシング・バット・ザ・ガールの「Each And Every One」を彷彿させるから、と気づいたのはしばらく経ってからのことでした。(橋本)

11. London London / Monica Vasconcelos

サンパウロ生まれで今はイギリスで活躍するブラジル人女性ジャズ・シンガーがモニカ・ヴァスコンセロス。彼女が2017年にロバート・ワイアットのプロデュースで発表した(二人は2007年のロバート・ワイアット『Comicopera』で共演して以来、親交を深めていたようです)アコースティック・ブラジリアン・アルバム『The Sao Paulo Tapes : Brazilian Resistance Songs』の感動的なラスト・ナンバーだったのがこの曲。ロンドンへ亡命中のカエターノ・ヴェローゾが何気ない日常を歌いながらも故郷に思いを馳せ、深い喪失感と寂寥感をにじませる名曲中の名曲の、儚げな歌声に惹かれる素晴らしいカヴァーで、そのサウダージ漂う心情が託された“While My Eyes Go Looking For Flying Saucers In The Sky”という歌詞のリフレインに、心打たれずにはいられません。(橋本)

12. LSD / Jamila Woods feat. Chance The Rapper

この二人の名がカフェ・アプレミディ・コンピに刻まれるのは、やはり感慨深いですね。2010年代に生まれたアプレミディ・クラシックを集めた2020年代に伝えたいコンピレイションということで、最も輝いていたと言ってもいいシカゴ・シーンからは何か収録したいと思って、やはりチャンス・ザ・ラッパーのラップとジャミラ・ウッズの名唱をフックにフィーチャーしたドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント「Sunday Candy」と共にアプルーヴァル申請リストに入れていたのですが、この曲に許諾OKが来て歓喜しました。メロウなエレピのイントロから胸を打つ2010s シカゴ・アンセムですね。“LSD”とはシカゴ近郊のミシガン湖沿いを走るフリーウェイ、レイク・ショア・ドライヴのこと。サンプリング・ソースのドネル・ジョーンズ「Where I Wanna Be」もシカゴ・コネクションです。僕が2016年の年間ベスト・アルバム第4位に選んだ『Heavn』からで、僕のまわりにこの現代シカゴを代表する女性シンガー/MCを嫌いな人はいませんね。(橋本)

13. Maracuja / Ge Luz

サンパウロ出身のシンガー・ソングライターで、バイーア地方で盛んなアシェ音楽の名手でもある男性アーティストによる、2017年に配信限定で発表された楽曲ですが、僕は今回のコンピで初めて知りました。その歌声とメロウな感触のあるMPBサウンドは、やはりジャヴァンの影響でしょうか。特に中盤のスキャットなんて、まさに70年代のジャヴァンそのもの。ほんのりと切なさがにじむ爽やかメロウなサウダージに、ほのかに香るアーバンなR&Bのエッセンスも絶妙で、ゆったりと身を任せたくなる心地よさがあります。(山本)

14. Be Like The Sea / Adron

アドロンは、アトランタ出身でLAを拠点に活動する女性シンガー・ソングライター。彼女のオフィシャルHPには、「ギター演奏はルイス・ボンファとカエターノ・ヴェローゾに影響を受けて、作曲はハリー・ニルソンとマーゴ・ガーヤンに影響を受けて、歌は鳥たちに影響を受けた」と書かれています。もうこれだけでも間違いないのですが、僕はサマー・メロウなこの曲を初めて聴いたとき、フリー・ソウル・シーンで人気を呼んだ、レスリー・ダンカンの「I Can See Where I'm Going」の現代版だと思いました。つまり、サバービア・フレンドリーなアーティスト、とにかくいろんな意味でシンパシーを感じます。(山本)

15. If You Wanna / J.Lamotta Suzume

J.ラモッタ・スズメは来日公演の経験もあるので、もしかしたら知っている方も多いかもしれません。エリカ・バドゥを彷彿させるシルキーな歌声も素敵なのですが、なんと演奏もビート・メイキングも自らすべて行うというから驚きです。彼女は熱狂的なJ・ディラのマニアということで、その独特のジャジーでルーズなリズムは、彼の影響なのかもしれません。あとはジル・スコットに代表される2000年代のネオ・ソウル〜R&Bのフレイヴァ―も、ふんだんにちりばめられていて、アコースティックな風合いにゆったりとしたグルーヴが心地よいこの曲は特に、FMでもスマッシュ・ヒットして、フリー・ソウル・ファンならずとも必聴であることは言うまでもありません。(山本)

16. Untitled / Kate Bollinger

ケイト・ボリンジャーは、ヴァージニア州を拠点にする女性シンガー・ソングライターで、僕もここ最近注目しているアーティストの一人です。ぜひMVを観ていただきたいのですが、まるで女の子が読むファッション誌から飛び出てきたような、キュートなルックスもさることながら、テレキャスターを抱えて歌うかっこよさといったら、男女問わず、一瞬で虜になるはず。サウンドは、女性版マック・デマルコと表現したくなるような、ドリーミーなソウル・ポップといった趣で、休日の昼間とかに聴くと最高にリラックスできます。可憐な歌の表情の中には胸を疼かせる切なさもあって、橋本さんとも「ぜひ来日させたいですね」と意気投合し、実現に向けて計画中です。(山本)

17. Spain / Sam Trump feat. SharmonJarmon!

ヒューストン出身で近年は活況著しいシカゴのジャズやソウルやヒップホップが交錯するシーンで活躍するトランペッターであり、マルチ・インストゥルメンタリストがサム・トランプ。ソーシャル・エクスペリメントの兄弟的な存在と言えるかもしれませんね。この曲はdublab.jp suburbia radioで2017年10月の“Song Of The Month”に選出して、クリスマス・シーズンに聴いても心暖まるだろう名曲、と紹介したハートウォーム・ミディアム。サム・トランプは今回のコンピ収録をとても喜んでくれて、わざわざ自らマスタリングをやり直してくれ、配信リリースのときより音質も格段によくなっています。この曲以外でも“Sam Trump & Acoustic Andile”名義の「Go Where The Love Is」などにも象徴的なように、僕は彼の音楽を聴くといつも、ロマンティストだな、と嬉しく思うのですが、これもそんなサム・トランプらしい素敵なエピソードですよね。(橋本)

18. Bless Ur Heart (Acoustic) / serpentwithfeet

ボルティモア出身、サーペントウィズフィートという奇妙な名前をもつアーティスト。フランク・オーシャンやソランジュといったアンビエントR&Bのシーンとも共鳴するエクスペリメンタル・ゴスペルの鬼才で、2018年に発表されたアルバム『Soil』に先駆けて発表されたこの曲のオリジナル・ヴァージョンに、橋本さんはいたく胸を打たれて、自身の様々な選曲でヘヴィー・プレイされていました。こちらはその名曲の、知る人ぞ知るアコースティック・ヴァージョン。慈しむようなファルセット・ヴォイスが優しく心を撫でてくれるような孤高の素晴らしさです。静かに力強い、まさに崇高でポジティヴな輝きをたたえた名唱ですね。(山本)

19. Closer / Jim Alxndr feat. Marcus Prince

リズムもコードもセンスよくて、メロウで瑞々しくて人懐こさもあって、本当に愛すべき音楽を奏でるなあ、と聴くたびに思う、オーストラリア・メルボルンを拠点にする若きプロデューサー/ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリスト。僕がdublab.jp suburbia radioの“Album Of The Month”に選び、2019年の年間ベスト・アルバム第2位にも選出したファースト・アルバム、タイトルも微笑ましい『Retro Future Love Sound Machine』からのセレクションで、メロウ・ビーツとチルウェイヴとフューチャー・ファンクが無邪気に溶け合ったようなチルアウト・チューン。この作品の直後に出たシングル「Slave」も女性ヴォーカルを迎えた美しい曲で、去年夏にオランダのChillhopから出たミドル・スクールのナイスEP『The Finish Line』に参加して、やはり可憐な女声と共にフィーチャーされた「Helplessly」と並んで、僕のかなりのフェイヴァリットです。(橋本)

20. Camino De Flores / El Buho

最後は注目を集めるエレクトロニック・フォークロアのシーンの中でも僕が最も愛するアーティスト、エル・ブオことロビン・パーキンス。オーガニックな美しいテクスチャーと麗しい南米モダニズムが魅力的で、ポスト・ニコラ・クルースという惹句はもう必要ない特別な存在ですね。ラテン・アメリカ由来の伝統的なサウンドと現行エレクトロニクスの融合による、スロウでセクシーなグルーヴで話題を呼ぶ電子フォルクローレ〜フォルクロリック・バレアリカ/アンビエントですが、彼の作風は群を抜いてエレガント。僕が南米エレクトロニック・フォークロアに決定的に惹かれるエポックメイキングな一枚となり、2019年の年間ベスト第3位に選んだ至福のアルバム『Camino De Flores』(“花の道”というタイトルも素敵で、ジャケットからも芳しい花の香りが漂ってくるようですね)から、とりわけ美しく優雅なそのタイトル曲です。彼の作品はどれも珠玉で、僕は最近ならチリ・サンチャゴ出身のスローモー・ビートメイカーDJ Raffの「Memoria」に施したリミックスや、Shika Shikaというエレクトロニック・フォークロア重要レーベルを共同で主宰するバリオ・リンドとのユニットHistory Of Colourの「Apu Punchau」、古くはニコデマス主宰のWonderwheelからのファースト・アルバム『Balance』(こちらも花があしらわれたジャケットです)に収録された「Xica Xica」(バリオ・リンドとZZKのウジも参加)なども大のお気に入り。いつかこうした名作を集めたコンピレイションCDも作れたらいいですね。まさしく音の桃源郷という感じですので。(橋本)



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HMV&BOOKS online-ロック|2020年05月29日 (金) 21:30


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