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【連載コラム】Akira Kosemura 『細い糸に縋るように』 第59回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2014年10月10日 (金)

profile

[小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA]

1985年生まれ、東京出身の作曲家・音楽プロデューサー。
2007年「It's On Everything」でデビュー。同年、音楽レーベル「SCHOLE」を共同設立。
これまでに五枚のオリジナルアルバムを発表、いずれの作品も国内外において高い評価を獲得。
2012年にコンテンポラリーバレエ公演「MANON」(演出/振付:キミホ・ハルバート)の音楽、2014年に映画「最後の命」(監督:松本准平、主演:柳楽優弥)の音楽を担当。
やなぎなぎの楽曲プロデュースや、全日空「ANA LOUNGE」の音楽監修、イケアのテレビCMをはじめとした数々の広告音楽を手掛け、NIKON ASIA、KINFOLK、RADO Switzerlandなど国際企業とのコラボレーションも多数。
これまでに米国最重要音楽メディア「Pitchfork」、豪州最大規模の新聞紙「THE AGE」にてその才能を賞賛されるなど、日本国内に留まらない世界的な活躍が期待される音楽家の一人である。




こんにちは。
今週の水曜日は東京・市ヶ谷にあるルーテル教会で「最後の命 EMBERS」発売記念公演でした。



前回のコラムでもお話した通り、11月8日に劇場公開になる映画「最後の命」(英題:EMBERS)の劇伴音楽を担当していまして、そのオリジナル・サウンドトラックが、今週の水曜日に発売だったのです。そこで、発売日に発売記念公演を開催するという、いかにもミュージシャンらしい仕事をしてきました。
こういうと、いや、おまえミュージシャンだろ!?と思われる方もいると思うのですが、僕は元々ミュージシャン志望ではないというか、人前で演奏することよりも、自宅やスタジオで作曲したり、録音したりしてじっくりと作品を作り上げるほうが好きなタイプというか、元々、そうやって作った“演奏できない”音楽のようなものをネット上で公開していたらたまたまデビューできた人間なので、いまもミュージシャンと呼ばれるのには軽い抵抗があるんです。ほら、ミュージシャンっていうと、なんとなく、毎日ばりばり演奏しているイメージでしょう。それと僕とでは、どうにもイメージが結びつかなかったわけです。
とはいえ、ここ数年は“演奏できる”音楽をたくさん作ってきているので、当然、必要に応じて人前で演奏もしますし、れっきとしたミュージシャンなわけですが・・・。
まあ、そんな戯れ言は置いておいて。
水曜日に久しぶりに東京で、しかも教会で、コンサートをしてきたわけなんです。
映画の公開を前に、映画音楽を披露するというのは、これはなかなかどうしたものだろう?とは思ったのですが、というのも、やはり映画のために作った音楽なので、映画のなかでこそ、その力が存分に発揮されるといいますか、まずは映画を観て頂いて、その後でまた音楽をじっくり聴いてもらえると、映画についても、音楽についても、より深く感じることができる関係性だと思うんですね。
なので、普通は映画の公開後にコンサートをやったりすると良いのではないかと思うわけですが、ただね、それだとなにがまずいって、なにより映画の宣伝にならない・・・!まさに、本末転倒な状況に陥るわけですね。
なので、映画公開前に映画音楽だけを先に演奏するコンサートを企画したわけですが、週の真ん中の平日にも関わらず、全200席完売しまして・・・。本当に皆さんの優しさには感激しますね。
コンサートをする度にいつも思うのは、目の前にいる全員に心から楽しんでもらいたいという想いと、絶対に全員には楽しんでもらえないという事実、なんですね。
それでもやはり、出来るだけ多くの人に、今夜ここに来て良かったなと思ってもらえるように、精一杯、心を込めて演奏をするわけです。それこそ、これが終わったらもう後のことはどうでもいい、と思いながらいつも演奏しているので、まさに命掛けなわけですが、おかげさまでいつも何事もなく、無事に終わります。ほっ。
そんなこんなで、今回は、オープニングで監督の松本准平さん、宣伝の鈴木さんと三人でトークセッションをし、演奏一部で映画音楽を初披露、二部でいつも通りのコンサートという、三段階で楽しめる、内容盛りだくさんでお届けしたわけですが、演奏前にトークというのは初めての体験だったので、なかなか不思議な感覚でしたね。まあ、たまにはいつもと違うのもいいですよね。
今回のコンサートでは、初めてピアノトリオ(ピアノ&ヴァイオリン&チェロ)の編成に楽曲をアレンジして演奏したのですが、個人的に、この編成はコンパクトだけど万能だなぁという印象があり、これからもトリオ編成での演奏の機会を作っていきたいなぁと思えるコンサートになりました。リハーサルが前日のみという、かなり少ない時間のなかでの本番でしたが、演奏者の白澤美佳さん、佐藤万衣子さんお二方とも、素晴らしく勘が良くて、おかげさまで良い演奏ができました。
そうそう、これは僕の前からの願いだったのですが、一度、ステージから皆さんの写真を撮ってみたいなぁと思っていて、今回はそれを実現させました。よく海外のミュージシャンなんかが来日すると、ステージから客席の写真を撮ったりするでしょう。それです。実は、僕も中国ツアーの際に、北京公演ではやったことがあるのですが、中国では僕は外国人なので、まあ、客席の写真を撮っても普通なわけです。ですが、日本のコンサートホール(今回は教会でしたが)となると、なかなかやっていいものかどうか、迷いますよね。ライブハウスとかだったら別になんでも良いだろうけど(ビール飲みながらとか、煙草吸いながら演奏する人もいるくらいなので)、だいぶ雰囲気が違いますからね。なので、今回、思い切って実現できて良かったです。
その代わりといってはなんですが、僕も撮るのであなたも撮っていいですよ、と、急遽、短いピアノ小品を一曲演奏する間だけ、撮影タイムを作ってみたのですが、正直、皆さんのフラッシュの連写の音が凄過ぎて、全然、演奏に集中できませんでした。あれだけの人数が一気に写真を撮ると、あんなにうるさいんですね。びっくりしました。面白かったですけどね。次回からはもう少し考えたいと思います。
それにしても・・・楽しかったなぁ。



そんなわけで、僕のビッグ・デイはようやく終わりを告げて、肩の荷が一気に軽くなったので、公演翌日は朝から映画館を三館ハシゴして、三つの映画を観てきました。
有楽町スバル座では「太陽の坐る場所」、TOHOシネマズ六本木ヒルズでは「アバウト・タイム」、そしてヒューマントラストシネマ渋谷では「シアター・ナイトメア」を観ました。どれもまったく違うタイプの映画ですが、面白かったです。
タイプとしては、「太陽の坐る場所」は辻村深月さんの小説が原作なので、非常に文学的な内容です。映画なのですが、演出が非常に舞台的で、コンテンポラリーな要素が所々に散りばめられていたように思います。
「アバウト・タイム」はですね、もうハート・ウォーミング。これに尽きます。この映画を嫌いな人っているのかな?って思ってしまうくらい、人を、人と人との繋がりを、そして人生を美しく描いています。「ラブ・アクチュアリー」の監督最新作という触れ込みでしたが、確かに情報はそれだけで十分でした。生きることを、これでもかってくらいに愛おしく描いています。タイトルにもある通り、時間がテーマの起点になっている点も個人的にはポイントが高い。タイム・トラベルが盛り込まれると、それだけで男の子は楽しめますからね。
そんなこんなで、心がほかほかに温まっていた僕が最後に観たのが「シアター・ナイトメア」でした。これは、、、「アバウト・タイム」からの落差があり過ぎて震えましたが、なかなか面白いB級映画でした。若い監督の作品なんだと思うんだけれど、着眼点が独特で、いままでにないテーマでした。面白いです。そして、まさにB級映画だな、っていう完成度。それも含めて、面白いです。
ただひとつだけ残念だったのが「シアター・ナイトメア」を観たせいで、渋谷の人身事故に引っかかってしまい、タクシーもバスも大行列で、結局1時間半掛けて家まで歩いて帰ったこと。
「アバウト・タイム」で優しくなれた心のまま、おとなしく帰宅していれば・・・と、道中幾度となく思いました。帰宅する頃には、足はパンパン、心は荒んでいました。

まあ、なにはともあれ。
一仕事終えた後に飲む、劇場のコーラは格別でした。



  映画「最後の命」公式サイト
  「最後の命 EMBERS」スペシャルサイト
  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/





Akira Kosemura 最新作

Akira Kosemura 『最後の命 EMBERS』  [2014年10月08日 発売]

劇場映画「最後の命」のオリジナル・サウンドトラックを発表します。
本作品は、芥川賞作家・中村文則の同名小説を新進気鋭の映画監督・松本准平が映画化、主演に柳楽優弥、共演に矢野聖人、比留川游、そして滝藤賢一、りりィ他が出演した純文学作品。
柳楽優弥演じる主人公・桂人を始めとした登場人物の心の機微を、ピアノと弦楽四重奏によって細やかさに、そして丁寧に掬い取った非常に繊細な映画音楽です。
監督から伝えられた「彼らを肯定する。」という決意の言葉を頼りに作曲されたという本作は、かすかな希望と救いを感じさせる、静けさのなかに熱を帯びた小瀬村晶特有の胸を打つ音楽が随所に散りばめられた、ミニマルで且つ豊潤な作品に仕上がっています。

映画「最後の命」は11月8日より新宿バルト9他、全国ロードショー。



Akira Kosemura 今月のオススメ

[.que] 『water's edge』  [2014年09月15日 発売]

2013年SCHOLEよりデビューした [.que] の4枚目のアルバムがリリースされます。
彼の故郷でもある内妻海岸(徳島)の波の音や、瀬戸内国際芸術祭2013に参加するために訪れた香川の小豆島の港の音など、海沿いでのフィールドレコーディングが随所に用いられた作品です。また、演奏で訪れる事となった三好百年蔵(徳島)で録音したピアノを元に構築した楽曲(7.Homeward)も収録するなど、彼の故郷への思いが詰まった作品に仕上がっています。
心躍る故郷への出発前、寄せる波の透き通った音で記憶が甦り、夕暮れの余韻とともに懐かしさが漂い、あっという間に引いていく波のように旅は終わっていく。
そんな夏の帰郷の思い出を元に制作された、[.que]らしい清涼感のあるサウンドが夏の終わりを鮮やかに彩ります。



次回へ続く…。






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