2013年6月24日 (月)
――今年の10月にグレープでのデビューから40年が経過し、7月の日本武道館公演はソロでの4000回目、4001回目のコンサートになるわけですが、まずはそれだけのライブを続けてこられたことの感想からお聞きかせください。
さだ:やっぱり、まずはお客様に対する感謝ということに尽きますよね。よく来続けてくださったな、と。過度なショーアップするようなこともあえてせずに長いことやってきこられたわけですし。他と差別化してこられたとするなら、一番の要因はコンサートのつくりそのものだと思います。
――音楽だけを聴かせてきたのではないということですか。
さだ:いや。音楽を聴かせるのだけれど、音だけでいいとか、逆に画を見せて驚かせる、感動させるとか、そういうやり方ではなかった。もっと別のところに働きかけるというか、音楽を置きに行く場所が違っていたという感じです。
――トークも有名ですが、それも含め、人間の脳の中でも違うところに働きかけてきたということですか。
さだ:たぶんね。トークについては仲間から、「面白すぎるんじゃない?」という意見をもらっていたこともありました。音楽会を超えて、演芸会のようになってしまうのではないか、ということなんですが、僕はいつも「全然心配する必要はない」と答えていた。なぜなら、コンサートに来てくださったお客様にちゃんと音楽を伝えてきているから。まず大事なのは、お客様に足を運ぼうというパワーを維持してもらうことで、来てくれさえすれば、必ず音楽は伝わっていると、ずっと話してきたんですよ。
――それにしても、4000という数字はいくら積み上がってきたものとはいえ、あり得ない数字です。
さだ:確かに考えにくい数字ですよね。ただ、そのために、ひどい声で歌っていた時期もありますよ。喉が壊れちゃって。
――年間160本くらいやっていた頃ですね。
さだ:それでも、お客さんは僕を見捨てないでいてくれたんです。
――それは単に音楽を聴かせるだけではなく、いろいろな感動を与えきたからだと思うのですが。
さだ:音楽を置くところが違いますからね。楽曲というのはあくまで自己表現の中の「聴こえるもの」じゃないですか。でも大事なのは「聴こえない部分」なんです。それを上手に説明できない人は多いし、それを感動の種にして火を点けていける技術を持った人が日本にはあまりにも少ない。もったいないと思います。この人、もうちょっとここをこう説明して、こういうトークをすれば、もっとお客様に伝わるのにな、と思うこともある。音楽会としては、音楽だけをすれば本当はいいんですが、ショーとなると、僕はそれだけではいけないような気がする。ただ、今は音楽家が音楽だけやっていればいいという時代でもないですよね。ある人が「ミュージシャンはアーティストなんかじゃない。サービス業なんだよ」と言っていたんですが、これは今の音楽業界の状況をよく表していると思います。もう音楽家はいなくなって、音楽業者で埋め尽くされているのかもしれない。その中で自分の音楽のクオリティーをどう守っていくかというのは、ものすごく難しいですよね。ポピュラリティーを失っていくと、楽曲は説得力を失っていくじゃないですか。そうすると、あれほど感動したはずの楽曲なのに、歌がくすんでくる。
――さださんの場合は、曲の輝きを失わせないためにも、トークで違う脳に働きかけ、輝きを維持しているという感じなのでしょうか。
さだ:それもありますが、ポピュラリティーを失った「懐かしのメロディー」にさせないために大事なのは「忘れさせないこと」なんです。ずっと耳元で言うしかない(笑)。例えば、僕のコンサートで「精霊流し」を聴いて、「ああ、懐かしい」と言う人はあまりいないんです。「北の国から」だって、ドラマ放映が終わって30年以上経つのに、「懐かしい」とは誰も言わない。
――コンサートでいつも聴いているからということですね。
さだ:そう、それらは常に歌っていますから。「案山子」なんて、今回のリクエストでも相当上位に入っていましたよ。
――6月26日に発売する『天晴〜オールタイム・ベスト〜』はファンによるWEB投票とアンケート結果をもとに39曲が収録されているということですが、納得できる曲目リストですよね。
さだ:僕にとっては意外な曲も入っていますけどね(笑)。この曲が入るんだったら、こっちの曲のがいいんじゃないか、とか。でも、評価というのはやっぱり「出来」だけによるものではないんですね。昔の曲などでも「これ、スタンダードになるほど、音楽的に優れているかな?」と思うような曲なのに、何回聴いても「やっぱりいいな」というものはいくらでもあるでしょう?音楽で得られる感動って、「出来」によるものだけじゃない、何か別のものなんですよ。でも、そうすると、ヒットって何なんだろうなと、本当に思います。今回の投票結果でも、「償い」や「修二会」とかが入っている。いわゆるヒット曲ではないのに。
――でも、ファンの間ではとても有名な曲です。
さだ:ファンは知っていても、普通の人は知らないでしょう?
――楽曲がひとり歩きしているということではないんですか。例えば、「胡桃の日」などは、さださんが重ねてきたライブで育てられた楽曲という気がします。
さだ:たしかに。「主人公」もそうかもしれない。この曲は、シングルヒットしていませんからね。「風に立つライオン」も「奇跡〜大きな愛のように〜」も。「案山子」はベスト10近くまで上がっていきましたから、シングルヒットと言わせていただいていいかもしれませんが、アルバム「夢供養」に収録された「まほろば」はシングルを切ってすらいない。そもそもオリコンチャート的な意味でのヒット曲って、僕にはあまりないんですよ。……「雨やどり」とか「精霊流し」とか「防人の詩」とか、そんなところじゃないですか。「親父の一番長い日」「天までとどけ」「関白宣言」「道化師のソネット」……、ま、結構あるか(笑)。
――1位になったアルバムの収録曲というものもありますからね。
さだ:そうか、そう考えれば、「まほろば」なんかもヒット曲なのかな。失礼しました(笑)。
――これまでにもベストアルバムをリリースされていますが、今回のオールタイムベストと、それらとで一番違うのはどういうところですか。
さだ:毎年ほぼ1枚オリジナルアルバムを制作しているんです。これからも新しい曲を書き続けていくわけだから、こういったベストアルバムというものは基本的に、「俺が死んだ後にリリースしてくれよ」と思っているんですよ。でも、発表してきた曲数が500曲を超えてくると、初心者はどこから入っていいかわからないということもありますよね。これまでのベスト盤は、そういった人たちへの「入口はここですよ」というサインのようなものだったと思う。でも、今回のベストは、お店の入口に入った人が「何頼もうかな」という時に、お店ではなく、常連さんがススメてくるメニューみたいなものかなと思います。「ここに来たら、これ食べなきゃダメだよ」という。
――さださんから見ても、そういう意味で、ツボを押さえた選曲だなという感じはしますか。
さだ:500曲以上の中からですから、あの曲が外れたり、この曲が入ったりというのは当然ありますが、みんな、よく選んでくれたなと思いますね。
――選曲を見ても想像できますが、さださんのファンにはこれまでの約4000回のコンサートのうち、200回、300回と来ている熱いファンの方も多いでしょうね。
さだ:そうですね。
――これまで何回コンサートに足を運んだかをファンの方に聞いたことはありますか。
さだ:いや、それはないです。畏れ多くて聞けない。いったい僕のためにどれだけの労力と時間を費やしてくれているのだろうと考えると(笑)。しょっちゅうコンサートに来てくださるお客様の顔はやっぱり覚えてしまいますよね。そのお客様が最前列に座っていたことがあって、僕が歌い出したら、タオルを出して号泣するんです。それを見たら、僕も涙が出そうになる。「あ、本当にさだまさしを好きでいてくれるんだ」と思った時、「さだまさしって何だろうな」と思いましたね。
――その時は、自分であって自分ではないわけですね。
さだ:自分ではないですね。ある意味、さだまさしは自分ではないですよ。自分のためだと思ったら、こんな無理なスケジュールはこなせないかもしれない。僕はみんながたいせつにしてくれるさだまさしのためだから、こんなに無理が出来る。本当は“さだまさし”をやめようかと思ったこともありました。でも、最前列で泣いてくれるお客様を見て、「こんなにもさだまさしの何かを受け取ってくれている人がいる」と想うと、「『はい、ここで終わり。』だなんて言えないな」と思うんですね。それぞれの家計の状況まではわからないけれど、間違いなく言えることは、必死に働いて、さだまさしのコンサートに行くために頑張ってくれている人がいるということ。だから、僕はその人たちに働きかけることを絶対怠らない。
――さださん独特の曲とトークとのバランスや、客席の空気のつかみ方などはおそらく自然に培ってきたものでしょうが、何か秘訣のようなものはあるんですか。
さだ:人間って、ワーッて笑った瞬間に、心がパーンとほどけるんですよ。タガが外れた状況になって、それまでに何を聴いてきたかを一瞬忘れる。そうすると、6曲、7曲歌ってきたことが、そこでいったんニュートラルになるんです。笑いにはそれだけのパワーがある。
――トークでの笑いのあと、次の音楽がまた、すっと入りこんでくるんですね。
さだ:そうなんです。僕のコンサートは長いと言われるけど、だからそれだけ座っていられるんですよ。でも聴かせたいのは、あくまで歌なんです。それで、体調が良いにこしたことはないんだけど、声が出るから良いコンサートができるというわけでもない。声が出る時は、無意識に自分の中にも余裕が生まれたりするんです。「どうだ、声が出ているだろう」という歌い方をしている時があって、それに気づいた瞬間、鳥肌が立って、冷めてしまうこともある。逆に、音程は取れているけど、自分の中で声が納得できない時は、言葉を置きにいくんです。そうすると、思っている以上にお客様に伝わる。それと、声が出ていないなという日は、楽屋で声出しをしてからステージに出るんですが、それでも声帯が奥に入ってしまっている時は、前に出すためにトークを利用して出していることもありますよ。トークで自分を探っていく。
――お客さんの反応を探るようなこともありますか。
さだ:もちろん、あります。お客様の反応というのは、僕だけではなく、バンドにも影響するんです。反応が良い時は、やっぱりバンドの演奏も生き生きしてくる。例えば、僕を含め5人で演る時は、やはり一音たりとも油断できない緊張感をみんな持って演奏するので、お客様が多少重たい雰囲気でも、アンサンブルは作れる。でも、もっと大人数になってくると、メンバーひとりひとりのマインドに重点を置かなければならなくなってくるから、難しいんです。特にそういう時、お客様の反応がメンバーを支えるんですよ。
――これまでやってきた会場の中で、「ここは」というところはありますか。
さだ:海外も含めれば、やっぱり、ロイヤル・アルバート・ホールはちょっと違っていましたね。国内だと、フェスティバルホール(大阪)は異質ですよね。もともとポップスのアーティストはステージに立てないとされていた頃から使わせてもらっていますが、ロイヤル・アルバート・ホールにしても、やりたいと言って出させてもらえるところではありませんでしたから。とにかく「音」ということで言うと、フェスティバルホールは傑出している。
――フェスティバルホールは今年、リニューアルして再始動しましたが、音は違いましたか。
さだ:それは、違いましたよ。初日はアウェイ感があった。あの会場で202回もやっているのに、203回目という気持ちにはなれませんでした。「これが初回」という感覚。お客様は最高の拍手をしてくれたんですが、フェスティバルホールの拍手の音じゃなかったんですよ。それでも2日目、リハでステージに上がった瞬間には、もう空気感が全然違っていました。本番での拍手も滝のような、フェスティバルホールの音になっていた。「あ、神様やっぱりいるわ」って思いました。3日目はまた、「ホーム」という感じでやれましたね。正確なデータをまだ見ていないんですが、残響が以前と少し違っているので、上手な人はものすごくいい音になると思うけれど、そうでない人には厳しいホールと言えるでしょうね。
――では、あのホールは今後も欠かせないホールになったんですね。
さだ:昔のフェスティバルホールって、僕が体調的にダメな時でも、良くしてくれるホールだったんですよ。ホールが助けてくれていた。今は、「自分のことは自分でしなさい」と言われているような厳しさも感じるし、「ああ、やっぱり良いホールだな」と思いますよ。やっぱりあそこは格別なホールです。
――過去のコンサートで、ここはちょっとすごかったなと思うような経験はありますか。
さだ:立見のお客様が殺到し、お客様にステージに上がってもたったことはあります(笑)。この間も、今回の4000回にはカウントされていないチャリティコンサートを北見工業大学でやったんですが、550人のホールに750人のお客様が来てくださったので、ステージに100人くらい上がってもらいました。ステージに上がったお客様が緊張してるという(笑)。それとやっぱり、昨年4月10日の60歳のバースデーコンサートはちょっと異常でしたね。
――デビュー40周年記念プロジェクトの第1弾として、60 歳の誕生日だった12年4月10日にさいたまスーパーアリーナで開催した「The Birthday Party in Masashi Super Arena」ですね。60 名のゲストが出演した中での、あのコラボレーションの連続は、さださんでないとちょっと対処できなかったでしょうね。
さだ:あれはすごかった。もう1回やるかと言われたら、遠回しに断ります(笑)。
――あれだけパートナーが入れ替わり立ち替わりだと、段取りを覚えるのも大変だったでしょう。
さだ:段取りはなかったんです。進行リハも一切やっていない。だから、コンサートが終わるまでに5時間以上もかかってしまったんですよ(笑)。
――あれを経験したことで、何か変わったことはありましたか。
さだ:大いにありました。音楽に不可能はないと思えましたから。今後誰とコラボレーションするにしても照れませんね。(笑)僕の歌は聴いていると易しそうに聴こえるけれど、歌ってみると、意外にややこしかったりするんです。そういう仕掛けをしている。だから、他の人にあまり歌ってもらえないだろうし、コラボレーションするにしてもそのフィールドに自分が出かけていかないと難しいんだろうな、と思い込んでいた。でも、そんな考えはあの時に完全に変わりましたね。
――7月17日、18日の日本武道館公演で4000回目、4001回目を迎えますね。
さだ:もう、さいたまスーパーアリーナのような、あんな無茶はしない、……と思う(笑)。バンドのメンバーはもう決まっているんですが、何をするのかは、実はこれから決めるんです。だから、僕が何をやるか、僕の楽曲をどうするのかは、まだわからない。それが楽しみだし、不安でもありますね(笑)。
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