チッコリーニは仙人の音で、童のように弾く
Tuesday, January 15th 2013
連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第43回「チッコリーニは仙人の音で、童のように弾く」
昨年は、いつもとは違った場所に足を運んで演奏会をいくつか聴いた。春は青森県六ヶ所村でポゴレリチ、秋は大分県大分市でアルディッティ四重奏団、そして、冬に山形県山形市でチッコリーニ。旅行気分を満喫しつつ、東京の大ホールで聴くよりも手頃なキャパシティの中規模ホールで聴く贅沢さが最大の魅力だ。それに、まだ行ったことのないホールは、そこに入るだけで、気分を高揚させてくれるものであるし。
87歳になったアルド・チッコリーニ。舞台に登場するときも杖は手放せない。山形公演のプログラムは、前半はシューマンとショパン、後半にドビュッシーの前奏曲集の第1巻。
さすがに、早いパッセージなどは指がおぼつかないところもある。けれど、その「おぼつかなさ」を糊塗しよう、韜晦しようなどといったカッコつけた思惑は微塵も見せないのである。まるでピアノを弾いて間もない子供のように、自由奔放さがあふれている。それでいて、その音は、おそろしく磨き抜かれていて、山奥でひっそり流れ落ちる滝を見たときのような清麗な気分になる。
まさしく、チッコリーニは仙人の音で、童のように弾く。夢のような時間。アンコールで披露したスカルラッティの澄み切った抒情性をわたしは一生忘れないだろう。
La Dolce Voltaというレーベルがチッコリーニの最新の録音を出している。モーツァルトとクレメンティのソナタを収録したアルバムが最近リリースされたが、そこには幻想曲ハ短調とハ短調のソナタが入っていて、これは以前Arcobalenoレーベルから出ていたアルバムの選曲と一緒だなと気づき、聴き比べてみた。
Arcobalenoのモーツァルトは、2000年くらいの録音で、その澄み切った響きが印象に残っていた。その印象は変わらないけど、今聴いてみると、意外にもドラマティックな味わいがある。たとえば、幻想曲のアダージョ部のニ長調の旋律が繰り返されるうちに不穏な和音を奏で、アレグロを導く部分なのだが、この不穏さを「来るぜ、来るぜ」と凄みを効かせて盛り上げ、アレグロに突入するといった解釈をチッコリーニは採っていた。
しかし、この演奏から約10年後の最新録音では、こういった不穏な和音をチッコリーニはまったく強調しない。まさしく音楽のドラマ性なんて興味ないっすよ、とばかりに、するするとアレグロに移ってしまうのだ。
一昨年リリースされたLa Dolce Voltaのチッコリーニ第一弾には、モーツァルトのソナタ第11番が入っているのだが、この第一楽章もまったく「するする」系だった。この楽章は、変奏曲形式で書かれているのだが、変奏曲の醍醐味であるはずの「移り身の面白さ」はまるでなく、ほとんどギアチェンジも無しに音楽が心地良く流れ出すのだ。そのあまりにもの泰然さ。
壮年期に亡くなったグールドが、チッコリーニの年くらいまで生きたら、あのゴルトベルク変奏曲もこんなふうに「するする」になっていたんではなかろーか、なんてつい妄想してしまった。コアなグールド・ファンは何て言うのかわからないが、こんなグールドもちょっと聴いてみたかった。
この曲の第3楽章は、「トルコ行進曲」だ。若い演奏家であれば、こうした泰西名曲の部類を前にすれば、「隠れていたこんなリズムを強調してみました」とか「テンポをこう変化させれば面白いでっしゃろ」みたいなアイディアを開陳したくなるのは当たり前だし、聴き手だって、それを過分に期待しちゃう。「爆速でゴー!」でも「じんわりと味わうための極遅テンポ」でもいいんだけど。
しかし、チッコリーニのトルコ行進曲には、そういった工夫というか、それを生み出すはずの自我がまったく宿っていないのである。呆気にとられるくらい、無垢そのもの。
このアルバムでは、ソナタ第13番もいい。テクニックが衰えて、ぎこちない部分もあるのだが、それを詩情に換えてしまうマジック。演奏会で聴いたドビュッシーでもそうだったが、チッコリーニの音楽に向かう無垢な姿勢が、ホコロビさえヨロコビにしてしまう神秘。
もともとケレン味を感じさせないピアニストではあったけれど、最近では脂身が完全に抜け切ったという感じだ。そして、その示される音楽の清らかさには、ただただ唖然とするばかり。さきほど例に出した、幻想曲のアダージョ部でのニ長調の旋律には、あまりにもの美しさに言葉を失ったほどだ。こういう音楽は、ギチギチなコントロールからだけでは決して生まれない。
クレメンティのソナタも実に味わい深い。アダージョの後に噛んで含めるような響きで開始される第一楽章の序奏の後、主部におけるふわふわとした疾走感。なんの焦燥も欲望もなく。
現在のチッコリーニには音楽が、あるいは世界がどのように見えているのだろう。悪い生活習慣と生来のカラダの弱さのせいで、わたしは彼の年齢ほどにはとてもとても生きられそうはないのだけれど、せめてモノゴトには真剣かつ無垢に向かわなければのう、という決意を新たにしたのだった。新年だし。いやいや、ホントの話でござるよ。
(すずき あつふみ 売文業)
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
featured item
Import
Mozart Piano Sonatas Nos.12, 14, Fantasy in C minor, Clementi Sonata in G minor : Ciccolini (2011)
Mozart (1756-1791)
Price (tax incl.):
¥3,740
Member Price
(tax incl.):
¥3,254
-
Deleted
%%header%%![]()
%%message%%

featured item
Import
Piano Sonatas Nos, 2, 11, 13, : Ciccolini (2011)
Mozart (1756-1791)
Price (tax incl.):
¥3,740
Member Price
(tax incl.):
¥3,254
-
Deleted
%%header%%![]()
%%message%%

featured item
-
Import Piano Sonata.4, 5, 14, Fantasy: Ciccolini(P)With Sampler Cd
Mozart (1756-1791)
Price (tax incl.): ¥2,970
Member Price
(tax incl.): ¥2,584Release Date:10/January/2001
-
Deleted
-
-
Import Piano Sonata.7, 10, 11: Ciccolini(P)
Mozart (1756-1791)
Price (tax incl.): ¥2,970
Member Price
(tax incl.): ¥2,584Release Date:15/October/2002
-
Deleted
-
%%header%%![]()
%%message%%

%%header%%![]()
%%message%%

FEATURED TITLE
-
-
-
Out of Order
-
-
-
-
Out of Order
-
%%header%%![]()
%%message%%

%%header%%![]()
%%message%%

%%header%%![]()
%%message%%

%%header%%![]()
%%message%%

