ポール・ルイスの風流なシューベルト
Monday, December 10th 2012
連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第42回「ポール・ルイスの風流なシューベルト」
相変わらずのズボラな人生である。こういう性格だと、演奏会のチケットを入手するのに、ひじょうに手こずる。とくに、キャパの小さいホールで行われる、発売当日にだいたい売り切れてしまう演奏会などはほぼ全滅の有り様だ。発売日を忘れていたり、覚えていたとしても、電話がなかなか繋がらない、ネット接続が重い、猫がエサをくれくれわめき出す、親類縁者が危篤になる、などといった障害復旧にかまけているうちに、気がつけばソールドアウトになっていることが多いのである。
根性が足りないのかもしれない。チケットなぞ徹夜で行列に並んで取るものぞ、とその甘さをたしなめられたことは数知れず。当日券目当てで売り場に並んでたら目の前で「今日は販売終了」宣告され、寒風吹く暮れなずんだ街角で呆然としちまったり、それでも最後の力を振り絞って「もう一枚なんとか出ませんかね」と食い下がって受付のお姉さんの目が「あっち行って野垂れ死ね」といわんばかりに釣り上がったりと、散々。そんな気の滅入る出来事を思い出すなどして、早急に根性を鍛え直すべきなのであろうが、性の根が淡々としているので、再び同じことを繰り返し、底冷えする町の中を阿呆面下げて歩いていたりする。
目下、王子ホールで行われているポール・ルイスのシューベルト・チクルスなんて、一度行かねば、と思いつつ、こういった理由で、いまだ足を運べていない。まさしく怠慢というほかはない。
ふーん、怠慢でもよかもんね、と寝そべってポール・ルイスのシューベルトの新譜を聴く。最初は《さすらい人幻想曲》なのだけど、思いの外鋭い演奏だ。このピアニスト、音がとても柔らかで、すばらしく透明感があってディスクで聴いていると、ソフトな印象を持ってしまうことがあるのだけど、ダイナミズムは結構あるほう(何年か前に、一度だけ実演を聴いたことがある)。この《さすらい人幻想曲》も、そうした振幅を生かした演奏のようで、かなり強くキレの良いタッチで弾かれているのだが、さすがというべきか、音が全然濁らない。
続けて、4つの即興曲、ソナタ第16番と聴き続けたのだが、声部の描き分けの絶妙さ(ソナタ最終楽章など)も見事ながら、やはり、その音がホントに気持ちいいのであるよ。複数の音が同時に弾かれるとき、まるで竹林に風が吹き抜けてカラカラと音を立てるような響きがする。こういった音で、シューベルトだのベートーヴェンだのを聴くことができるなんて、風流の極みとしかいいようがない。
ブレンデルの弟子らしいけど、なるほどこの淡々とした進行や構成力、少し高音がかったドライで軽みのあるタッチなど、師匠に通じるところも少なくない。でも、ブレンデルよりもずっとテクニックがあるし、ブレンデルの妙に淀みがちなテンポ感などは無縁だ。少なくとも、ブレンデルがルイスと同じくらいの年齢にときに録音した、キンキンと鳴ってるような演奏とは比べものにならないくらいに完成度が高い。
どちらかといえば、聴き手に浮遊感さえ与えてしまう、その繊細なタッチ・コントロールは、ピエール=ロラン・エマールを思わせる。エマールもまたそのタッチにやたらにこだわるピアニストだ。
わたしは、アファナシエフの弾く泥沼で身動きが取れなくなるシューベルトも好きだし、世界を突然変化させてしまうシュタイアーのシューベルトも愛聴している。もちろん、リヒテルやアラウも。
これら表現力の強いシューベルトに対して、ルイスのそれは実にあっさりとしている。アーティキュレーションをガラリと変化させることなく、細やかな音の動きとグラディーションの遷移によって、飄然とした運びのなかに、憂愁さをそっと忍ばせる。日が暮れかかっている空の情景を思い起こさせるような繊細な感受性で聴かせるシューベルトだ。
ポール・ルイスは、ベートーヴェンのソナタも良かった。
最近の若いピアニストは、ベートーヴェンの初期ソナタを本当に面白く弾く。往年の巨匠による「全集だから仕方なくやってるだけだしー」みたいな風情の演奏を聴かされたせいなのだろうか、どうも軽く見られがちな初期ソナタ。中期などの強いテーマ性も、後期の流れの良さもないけれど、作曲家のアイディアが容赦なく繰り出され、これって作曲当時はかなり前衛だったんじゃないか、とワクワクするような作品ばかりだ。
ルイスもそうしたベートーヴェンのアイディアを飄々と流れに乗せる。小気味いいトリル、よく整理された声部、そして澄んだ音色。力んでしまってバランスを崩すようなこともない。
後期になると、その音楽はシューベルト作品に聴こえてくるような憂愁さがそこに自然に加わる。第32番など、堂に入ったバス声部の動きのおかげもあって、実に大曲然として聴かせてくれる。
個人的には、ポール・ルイスは中期ソナタを評価したい。あの淡々とした響きによって、あのドラマティックに弾かれている作品が、いささか違った表情をもって聴こえる。第17番《テンペスト》など、その軽やかな音空間のなかに内的なドラマが渦巻いているといったように。
淡々としながらも、芯がある演奏。そんな人間に自分もなりたいものだ、あやかりたいものだ、とディスクを聴いているうちに、気持ち良くなって、そのまま寝てしまった。道はまだまだ険しい。
(すずき あつふみ 売文業)
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
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Piano Sonata No.16, Wanderer-fantasie, Impromptus D.935, etc : Paul Lewis (2CD)
Schubert (1797-1828)
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¥3,509
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¥3,054
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Piano Sonata, 20, 21, : Paul Lewis
Schubert (1797-1828)
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Piano Sonatas Nos, 15, 17, 18, etc : Paul Lewis (2CD)
Schubert (1797-1828)
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Import "Piano Sonatas Nos.14, 19 : Paul Lewis"
Schubert (1797-1828)
Price (tax incl.): ¥1,694
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(tax incl.): ¥1,474Release Date:17/October/2008
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Beethoven (1770-1827)
Price (tax incl.): ¥12,749
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(tax incl.): ¥11,092Release Date:27/October/2009
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