『タマフル THE MOVIE』 宇多丸 インタビュー
2012年5月15日 (火)

大人気TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」、通称タマフルがまさかの映画化!『タマフル THE MOVIE』となって、いよいよ3.28にリリース!本作は『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』の記憶も新しく、『SR』シリーズ第3弾の最新作『サイタマノラッパー SR3 ロードサイドの逃亡者』の公開が控える入江悠監督が脚本も手掛けた話題作!タマフルの人気映画批評コーナー「ザ・シネマハスラー」で毎週、映画評論をしている宇多丸さんが映画に関わることとはどんな心境だったのか?今の取り巻く現状について・・・『タマフル THE MOVIE』の枠を越えて伺ってきました。宇多丸さん曰く、『タマフル THE MOVIE』とは「アイドルビデオ」ということで。真相はぜひDVDで☆ INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美
「宇多丸の演技が下手」だとかって言われたら、「そんなことは俺も分かってる!」っていうことはまず言いたい(笑)。何も言われてないうちから言いたいですね。
- --- 本日はよろしくお願いします。
宇多丸 よろしくお願いします。
- --- 『タマフル THE MOVIE』の企画はいつ頃、どうスタートしたのかをまずお聞かせ頂けますか?
宇多丸 去年の秋近い夏くらいの時に「(ライムスター宇多丸の)ウィークエンド・シャッフル(通称タマフル)でDVDを出しませんか?」というお話を頂いたんですよね。TBSラジオで他の番組でもDVDを出した実績があって、例えば、「今までは番組のオフショットを入れたりっていうのもありますよ」っていうようなことも聞いて、タレントさんとかだったらそれでもいいと思うんですけど、うちの場合は普段からポッドキャストとかでオフを流してて全部オフみたいなもんだから、それはちょっとどうなんだろうと。で、「ドラマCDは前にやったけどドラマでもやる?」なんてすっごい軽い感じで言ってたら、橋本吉史名誉プロデューサーが、『SR サイタマノラッパー』(以下、『SR』)シリーズでもおなじみ、日本で今一番才能がある若手監督の一人、入江悠さんに勝手に話を付けて来てしまい(笑)。僕の印象としては、「入江さんにやってもらうことになったんで」って言われて、「え、大丈夫!?いろんな意味で」っていうそんな感じです。気付いたら動き出していたという。
- --- 入江さんが撮ることが決定した後の宇多丸さんへのご報告だったんですね。
宇多丸 「入江さんに頼もうよ!」なんていう大それたことは、僕はちょっと恐縮で出来ないですね。『SR』の3作目(『サイタマノラッパー SR3 ロードサイドの逃亡者』)もまもなく公開されますが、それが作られている最中だというのも知っていたので、そんな時にこの話もあったりで本当にいろんな意味で「大丈夫、入江さん?『SR』あるでしょ?」って。
- --- 宇多丸さんは『タマフル THE MOVIE』の企画段階から関わったとお聞きしていましたし、『SR』を絶賛されていて、「ザ・シネマハスラー」の1位に挙げられていたこともあるので、映画の企画段階で入江さんをご指名されたのかと思っていました。
宇多丸 いやー、それはないですねえ。僕はそんなに図々しいお願いは出来ません。でも、やっぱり、「入江さんなら金になる」みたいなそういうところなんじゃないですかね(笑)。
- --- 実際に企画が動き始めて、主演もされましたが、『タマフル THE MOVIE』の映画作りに参加されていかがでしたか?
宇多丸 最初は20〜30分くらいの尺を想定してたんですけど、頂いた脚本が結構どすんと来てですね、「これはまず20〜30分じゃないよね?(笑)」って。最初の方の「フェイクドキュメンタリー調」は、出てくるのがみんな素人ということを考えると、これはなかなかいいアイデアだなって感じだったんですけど、読み進めるうちに「あれ、ちょっとおかしなことが書いてあるんだけど・・・」って(笑)。どんどんすごい展開になってくるもんで、「入江さん、これ、俺達がやるんですよね?勝算はあるんですか?」みたいな、そういう感じでしたよね。「こんなのホントに俺たちにできるのか」っていう疑問に尽きました。ただ、最年長スタッフの番組アドバイザーであり、ベテラン放送作家の妹尾匡夫の「入江さんはプロなんだから任せようよ」っていう、ある意味ハードルを上げる一言によって、「そうだね。入江さん、お願いします」っていう感じになりました。ただまあ、不安っていうか、もう不安以前でしたよね。何かもうどういう風になるか全く分からないけど、入江さんがいいって言うんだから、とりあえずやってみようっていう、そんな感じです。
- --- 宇多丸さんから具体的にこういうエピソードを入れたいとか、物語を膨らませていくアイデアはありましたか?
宇多丸 だいたい脚本のままなんですけど、一箇所、最初の方がフェイクドキュメンタリー調で「タマフル」が嫌な感じになってる、みたいなところから始まるので、その前の部分に、基本ファンが観るものとはいえ、それこそ何十年も経ってから観ても一応は理解できるような、「どういう番組で、こんなにいい時代もありましたよっていう感じのフリ、説明はあった方がいいような気がします」っていうようなことはメールでお伝えして。それが「今はこんなことになっちゃった」っていう落差にもつながるし、お話上も必要なんじゃないかと。でも、本当にそのくらいですね。
- --- ラジオのスタッフの方は普段はほとんど顔出しされていないと思いますが、作品に出演して、さらに演技をすることに対して抵抗はありませんでしたか?
宇多丸 人によってだと思いますけど、抵抗はもちろんね、相当あると思いますよ。ただ、うちの番組は他の番組と比べてもスタッフがやたらと出てくる番組だし、ネット上でも顔を晒してたりっていうこともあるので、普通の裏方よりは抵抗なくっていう感じですかね。うちのラジオのリスナーだったら、どんなパーソナリティーでどんな人で顔とかも含めてだいたい知ってるっていうような人ばっかりだから、意外とまんざらでもなかったんじゃないかなって思ってるんですけどね(笑)。
- --- ノリノリで演技されている方もいらっしゃいましたもんね(笑)。
宇多丸 ノッてる人もいましたよね、完全に。いい気になってる人もいましたよね。「上手いって言われちゃったよ」って言ってる人もいて、「みんなに言ってるよ、バカ」って感じですけど(笑)。
- --- 客観的に『タマフル THE MOVIE』をご覧になっていかがですか?
宇多丸 自分自身のツラとか演技とかはもう、全然観てられないですね。僕は自分の本業のビデオとかも観てらんないんですよ、もう。
- --- そうですか?
宇多丸 そうですよ、「もうクソだ!」っていう感じで。観れないんですけど、そういうのは置いておくとして、非常に限られた条件下でとか、いろいろ但し書きが付くにせよ、やっぱね、「入江さん、すげえな」って思いましたね。おもしろいし、60分枠の映像のお話としてちゃんとしてるって思いました。素人ばっかりが出てくるし、撮影の条件とかも本当に限られてるんですけど、話として、映像の語りとして、こことこことここが大事っていうところはちゃんとやってるっていうか、しっかり作ってある。タマフルクルーで初めて観た時に結構みんなが共通した感想だったんですけど、意外とって言ったら失礼だけど、「ちゃんとおもしろいじゃないか!」って。自分が出てるし、もっと「うわー」って感じで終わるかと思ったら全然、「あれ!?おもしろいじゃん!入江さんすげえ」っていう。
- --- 「入江さん、すげえ」ばっかりですね(笑)。
宇多丸 「入江さん、すげえ」に尽きますね。ダメでも入江さんなんですけど、この場合(笑)。
- --- 入江さんから「こういう風にやっていきたい」というようなお話はありましたか?
宇多丸 DVDに入ってる特典映像用にインタビューをさせてもらって、その中で聞いたのはまず、「何でこういう作りにしたんですか?」っていうところ。まず、ラジオ番組の映像化であるという前提があるから、入江さんなりに「ラジオとは何か?」を突き詰めていくと、結局「声」だと。だから、「最終的には声を巡る話に行き着いた」と。あとはもちろんね、素人ばっかりが出てるから、フェイクドキュメンタリーっていう形式は勝算なんだけど、それで終わるんじゃなくて、「最初に観てたものと違う地点に連れていく作品にしたかった」と。で、入江さんがそこで例に挙げてたのは『第9地区』だと。あれもフェイクドキュメンタリーでインタビュー映像みたいなところから入って、途中からあっと驚く展開になっていくというか、最終的に全然違うところに行くような作りじゃないですか?だから、ここまでは勝算として予想が付くっていうあたりと、でもそれは超えないとっていうところが入ってるんだと思います。でも、何にせよ、上手くいってもいかなくても「おもしろいじゃん」っていうところもあったみたいですよ。
- --- そのお話がDVDの特典映像として収録されているんですよね?
宇多丸 はい、30分くらいのやつが入ります。
- --- オーディオコメンタリーも収録されていますよね?
宇多丸 「ウィークエンド・シャッフル」の出演者、スタッフの主な出演者が初めてこれを観ながら録りました。だから、「ぎゃー」とか「わー」とか言ってるだけのところもいっぱいあります(笑)。囃し立てるだけのところもいっぱいありますし、その場にいない出演者の悪口を言うとかね、そういうものが入ってます。ラジオファンだったらたぶん、こっちを聞けばもっと安心すると思うんですよね。『タマフル THE MOVIE』は当然ね、一から十まで作り物なので、このオーディオコメンタリーは安心するんじゃないでしょうかね。いつもの感じですから。
- --- 「ザ・シネマハスラー」で映画評論をされている宇多丸さんが実際に映画に関わることはプレッシャーだったんじゃないかと思うのですが。
宇多丸 そのプレッシャーはむしろ、入江さんですよね。僕が褒めてる人が作品を作るということを考えると、入江さんの方がリスクが大きいと思いますね、やっぱり。新作の公開も控えて、本当に下手なもんは作れないっていうか。僕に関して言えば、演技として素人なのはそんなの自分でも知ってるしっていう。「あのハゲがいて台無し」、「うん、俺もそんな気がする」っていう感じで何のあれもございません(笑)。僕個人の意見としては、演者の力量不足とかはあるけど、それはもうこの企画に織り込み済みの部分だから、もし自分がこの映画を評論するとしたら、それは織り込んだ上で入江さんがどこまでよくやってるかっていうことが勝負なんであって、「あのハゲがブサイク」とかっていうのは、「それはそうでしょう」っていうところですね。
で、逆に僕が映画に関してああだこうだ言うっていうことに関してはもうプラスでしかないっていうか、まず勉強になったし、実際に曲がりなりにも映画作りの過程に全部関わってみて、「ああ、思った通りだ」っていう部分もあったし、技術的な面ですけど、物の本で読んだ編集っていうのはやっぱりこっちを優先させた方がよくなるんだとか、撮影の過程でどういうことが監督の中で取捨選択されているのかみたいなこととかも分かったし。で、そこで監督の力量の差が出るなあと。脚本1つを取ってみても、語り口としてちゃんとここにこれを置くことでこの後のめちゃくちゃな展開もちゃんと見れるようになってる。これが入ってるか入ってないかが違うんだみたいな。だから、逆に僕が今までボロカス言って来たような映画はやっぱり、それが出来てないんだよっていう風にも思うし。入江さんは出来てる、だから僕はこの人を評価するっていうところを確認した部分でもある。
あと、新たにっていう部分ではやっぱり、映画作りはおもしろい!上手く行こうが行くまいが、やっぱり映画作りはおもしろいって思いましたね。ないものを作る。ないんですよ!お話もないですし、我々が映画の中で観て、こういう空間だなって思ったあの空間はないんですよ!こことここはつながってないし、僕はさっきはここにいて今はもうここにいるけど、それが映画の嘘っていうか。それを思うがままにとはいかないし、上手く行ったり行かなかったりだけれども、何とかしてないものを作り出していくというこの作業、大変なんですけど、本当におもしろいと思いました。だから、仮にボロカス言ったとしても、基本的には全ての映画を作ってる人を、すごい尊敬してますよ。- --- 今までボロクソに言っていた作品を作った監督に対しても多少の心境の変化はありますか?(笑)。
宇多丸 作るのが大変なのは前提なんだけど、映画というものはすごく複雑な工程を経て、すごいものを作る人は本当にすごい!で、作れない人は普通ですよね。普通は映画なんていうものを作ってたら大混乱するし、上手く語れないのがたぶん普通で。だから、「こんなんだったら金取んじゃねえよ」っていう(笑)そういう話で。だから、そこはそんなにブレないです。入江さんはやっぱりよく出来てる、すごいと思いました。
- --- 監督が編集をやらない場合もありますよね?
宇多丸 たぶんほとんど全ての監督でいい編集者と付いてない人はやっぱり大変でしょうね。編集で台無しになることとかがいっぱいあると思いますよ、それは。
- --- この映画に関しても編集ですごく変わったとお聞きしました。
宇多丸 変わってます。むしろ、編集が勝負の映画ですよね。1個1個の素材はたぶんね、結構キツイ素材なんですけど(笑)、まさに編集で生まれ変わる映画ですよね。今までの入江さんの作風ってどっちかって言うと長回しがウリなので、今回みたいにカメラを4台とか5台とか同時に回してそれを編集でっていうやり方は入江さん自身されてなかったみたいだし、もっと言えば複数の場所で同時に撮影を進行させてたくらい限られた条件だったんですけど、それってまさに編集勝負じゃないですか。入江さんがチェックしてない映像もいっぱいあるわけですから。例えばね、編集のテンポとかも本当にオーソドックスな感じなんですけど、少しずつ編集のテンポが上がっていく様が分かるんじゃないでしょうか。そのことによって、単調になりがちなところをちゃんと補ってたりとか。あるいは、ずーっとむさ苦しい男のトーンが続いたら、女の人を入れてちょっと柔らかい色調を持ってきたりとか。特にインタビューだけで成り立っている前半分を退屈させずに見せるのがこの映画は結構大変だと思うんですけど、すごく様々なテクニックを使って、ゆったり始まって、だんだんテンションが上げていってるのがよく分かるんじゃないかと思います。だから、本当に入江さんの力量っていうのも如実に分かる作品だと思いますね。演者は最低なんですから。
- --- 映画作りはおもしろいとおっしゃっていましたが、ご自身で映画を作りたいと思ったりはしませんか?
宇多丸 いやー、映画ってもう本当にね、とにかく無数の段取りの集積なんですよ。で、その段取りの集積の先に完成像を何となく描ける人じゃないとダメで、それはやっぱり入江さんの経験値とかもあるし。でも、僕の場合は音楽でさえいっぱいいっぱいなのにって思いますよ。無理、無理、無理!段取れない、段取れない!(笑)。映画が好きであることと映画を監督出来る才能は別ですよね。まあ、別とは言わないけど、プラス500個くらいの才能が必要ですね。段取りです、全て。もうめんどくさい!本当にめんどくさい、映画は(笑)。
- --- 映画を評論することも大変ですよね?
宇多丸 でも、作る苦労に比べたら全然ですよ。作る方が大変だと思いますよ、どんなにクソな映画でも。
- --- どんなにクソ映画でも・・・(笑)。
宇多丸 うん、クソはクソなんですけど(笑)。よっぽど時間をかけて取材しない限りはやっぱり知り得ない部分も多いですし。まぁ、それでも分からせるのが力量ってこともあるけど。とにかく映画は、あらゆる意味でめんどくさい!(笑)。
- --- プロの映画評論の方は映画評論だけですけど、宇多丸さんは音楽を本業にしながら、「ザ・シネマハスラー」で毎週、映画評論されていることに対してプレッシャーはありませんか?あのコーナーはどんどん反響が大きくなっていますし。
宇多丸 うーん、どうなんですかねえ。例えば、僕だって自分の作品を出していろんなことを言われてる立場なわけですよ。で、その大半はね、僕からすれば「何言ってんだよ」ってことばっかりですけど、それはそんなもんだと思ってるし。ただ、それは「何言ってんだ」っていう取り方をされるレベルなんだって思ってますけどね。上手く伝えられなかった部分がやっぱりあるなとか、そういうことでしょう、それは。だから、僕が言うことに対しても、作った側は「分かってねえな」って思ってたりするんだろうなっていうのも分かるっていうか。作った側は当然いろんな論理があると思うし。僕も同じ立場なんで分かりますって感じですよね。でも、そもそも公の場で言うか言わないかだけの差じゃないかって思いますよ。何か作ってる人ならみんな、人の作品に対して絶対いろいろ思うはず。「俺ならこうする」とか「ここがよくない」とか「なんでこんなにすごいんだろう?」とか。だから、そんなに大そうなことじゃないんだけどなって思いますけどね。で、逆にね、「プロの評論家です」って言ってお金取ってる人の中で、僕より全然ちゃんと出来てない人だっていっぱいいると思ってるので、「そういう人は反省して下さい」っていうだけのことで。でも、当たり前ですけど尊敬する人の方が全然遥かに多いですから。僕なんかペーペーもいいとこですよ。
- --- 評論するにあたって映画館で映画を2回観に行ったり、監督の著書を読まれたりと準備にも毎週時間がかかりますよね?
宇多丸 でも、最低限レベルじゃないですか、それは。僕のやってる映画評はラジオという場ですし、他の映画評論家の人よりもちょっとここはあんたより難しいことやってるんだよって部分はね、門戸の取り方だと思いますね。聴く層をものすごく広く取らなきゃいけない。あのコーナーは映画に関して何にも知らない人も聴いてるし、すっごい映画に詳しい人も聴いてるし、映画を観た人も観てない人も聴いてるし。そこで一応ね、その人たち全員に門戸を開いた状態で、なおかつある程度の割合を納得させなきゃいけないっていうのは、「結構難しいのよ?」っていうのがあって。で、2度観るのは、出来るだけ素で観た状態と、ある程度情報を入れた状態とでの偏差を計りたいというか。「何にも知らない状態」には二度と戻せないから、そこで感じたことは貴重なんですよ。だから、1回目が大事なんですよね。で、そこでよく「印象批評」って言葉が・・・こんなところまで話さなくていいですかね?(笑)。
- --- とても興味深いお話なので、ぜひお聞かせ下さい(笑)。
宇多丸 よくね、「印象批評」って言葉が批判的に使われますけど、「映画って“印象”でしょ?」とも思うんですよね。もちろん、作品の背後にロジックがあったりとか、僕も物を作ってるから当然分かるしその分析にも意味があると思うけど、例えば「ある映画を観ました」って言う時、それはその人がスクリーンの前に座っていた2時間なりを思い出して、頭の中で再構築して「こういう映画でした」って言っているわけですよ。むしろそこにしか「映画を観た」という体験は存在しないとも言える。で、その孤立した体験に裏付けが欲しくなるからこそ、人は映画を語り合いたくなるんじゃないかと。だから、その人にとっての“印象”はやっぱり大事だと思うんですよね。そこから、何でこういう印象だったかを検証してゆく作業も始まり得るというか。
- --- 宇多丸さんの映画批評に対して、ファンのリアクションやリスナーの層などに変化はみられますか?
宇多丸 うーん、どうだろう。風当たりが強くなってるのは間違いないですよね、やっぱり。ただ、人目に晒される分しょうがないというか、それくらい広く聴かれてて、つまるところ影響力が大きくて、多くを求められる存在になっちゃったからってことだと思うんで、それは喜ぶべきこと、ということにしておきましょう! ただ、とにかくね、まあ・・・大変ですよ(笑)。いや、大変じゃない、大変じゃない!作ってる人たちに比べたらね。確かに「それ、ただの言いがかりだろう・・・」みたいに思うことは多いですけど(笑)、それを言ったら僕の言ってることだってそういう面だらけでしょうし。まあ、どいつもこいつもお互い様ってことで。ネガティブの連鎖ってことで(笑)。
- --- 映画を観るのが嫌になったりはしませんか?
宇多丸 完全に自分の中での問題ですけど、「ために鑑賞」が増えちゃってるのはちょっと嫌だなとは思ってます。映画なんて本当は100%無駄な時間だったからいいはずなのに、「後々の何かのため」に映画を選んで観ることが増えちゃってるのは本当に貧乏臭いっていう。でも、基本的にはありがたいことだと思ってますよ。「宇多丸さんはこの映画をどう観ましたか?」なんて、聞いてもらえないですよ、そんなこと普通。
- --- 賽の目をやめちゃうってことはないですか?
宇多丸 でも、あれは大事なんですよね。これは普通の映画評論家の人より僕が難しいところをやってる部分だと思うんですけど、毎回違う相手と、時にはよく知らない競技でも戦わなきゃならない。ヘタすりゃ競技のルールから勉強するみたいなことを毎週やってるわけで。あのコーナーはそういう風に、「来週、宇多丸がこの相手とどういう組み方をするのか」みたいなところがおもしろさでもあるんですよ。だから、サイコロは絶対必要なんです。自分の得意なことだけやってたら、それはもちろん今より精度が上がったりはするんでしょうけど、そういうことだけやるんだったら、もっと適してる人がいっぱいいるだろうし。つまり、第一にはやっぱりラジオのエンタテインメント枠なんですよね。「来週、こんなもん当たっちゃったよ。さあ、どうする!?」みたいなところだと思うので。あれがないと、さっき言ったような「ために鑑賞」が増えちゃってつまんなくなると思うんですよね。逆に、サイコロのおかげで、思いもよらなかったもの、例えば『けいおん!』や『琉神マブヤー』テレビシリーズのおもしろさとかを知ることが出来たときは、すごい嬉しいし。
- --- 『タマフル THE MOVIE』完成後、みなさんの中の結束間がさらに強まった感覚はありますか?
宇多丸 いや、逆にギスギスしましたよ、今回に関しては(笑)。みんな完全に役と現実がちょっと見境付かなくなりましたね。それぞれのキャラクターがちょっとタイプキャストというか、その人の中にあるものを誇張してる役なので、ぶっちゃけね、結構不愉快な感じがしましたよ。結束力は全然逆ですね(笑)。みんな一度にいるわけじゃなくて、バラで撮ってる部分も多かったので。でも、まあ、「こんなことが出来ちゃったんだ」っていうのがあるから、これから何でも出来るなあとは思いましたけどね。でも、とにかくね、これは入江さんのおかげなんでね、および入江組の。本当に彼らの力あってのこのクオリティーなんで。
- --- 入江さんのお話が本当によく出て来ますが、入江さんファンに向けての作品でもありますか?
宇多丸 入江さんファンもそうですし、日本の若手映画監督のなかでも、明らかにトップクラスの有望株の地力が見えるっていうのは大きいと思いますね。逆に僕達を使ってね、「じゃあ、他にどういうやり方があるっていうんですか?」ってことですよ。実際、他の人に頼んでたらどうなってたんですかね・・・タマフルクルーを素材に有名監督が競作とかしたらどうなるのか。でも、もう同じ手は使えないのでね(笑)。
- --- 「THE MOVIE」となっているので、映画館上映が実現したりなんていうことはないですか?(笑)。
宇多丸 それはないですね(笑)。これはアイドルビデオなんで、基本的には。だから、まずはやっぱり番組ファンの方に観て頂くためのものですよ。作りも実はちゃんとアイドルものになっていて、最後にはファンの方が安心してDVDを取り出して頂けるようになっているので。『タマフル THE MOVIE』に出てるのはみんなアイドルですから!(笑)。
- --- 宇多丸さんの思うアイドルビデオというのは具体的にどういうところですか?
宇多丸 例えば、基本的にはフィクションなんだけど、その向こうにそれぞれの人物の素のパーソナリティも透けて見えるし、エンタテインメントとして作り込んであるんだけど、最後に「あ、これは作り物なんだ」ってちゃんとね、「みんなホントはやっぱり仲いいんだ」って、安心して着地出来るという部分が、アイドルものとして正しい作りだと思います。特にエンドクレジットのNGシーン、あれはアイドル的な要素の最たるものだと思いますね。
- --- 今までいろいろとお話して頂いたのですが、最後に『タマフル THE MOVIE』をこれからご覧になる方に「これだけは」ということがありましたら、ぜひお願いします。
宇多丸 「宇多丸の演技が下手」だとかって言われたら、「そんなことは俺も分かってる!」っていうことはまず言いたい(笑)。何も言われてないうちから言いたいですね。その上で、そんなのを使って、よくぞここまでってあたりじゃないでしょうかね。本当にね、映画作りのテクニック的なところが実はすごく透けて見える作品だと思うんですよね。「ああ、こうやってやれば素人でもかっこよく見えるんだ」とか「おもしろく出来るんだ」みたいな。「タマフルの闇に迫るセミドキュメンタリー」って付いてますけど、セミでも何でもないからね。ドキュメンタリーじゃないよ、これ(笑)。1から10までウソですからね。
- --- 本日はありがとうございました。
宇多丸 ありがとうございました。
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「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」の舞台裏を実在の人物とフィクションが入り混じるセミドキュメンタリータッチでドラマ化!
【映像特典】
●副音声コメンタリーを収録!宇多丸をはじめとするタマフルグループがドラマの裏側をまったり語ります。
●宇多丸×入江監督スペシャルトーク
●特報
※収録内容は予告なく変更となる場合がございます
STAFF&CAST
監督・脚本:入江悠
出演:宇多丸/しまおまほ、古川耕、妹尾匡夫、高橋芳朗、高野政所、コンバットREC
/近藤夏紀、橋本吉史 他
「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」発、映画評論コーナーの書籍化! !
最新映写技術「マッピング」を導入したことでも話題!ライムスターの全国ツアーが待望リリース!初回盤には新曲「Don't Think, Feel…」を収録したCDが同梱!
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宇多丸(ライムスター)
1969年生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー。また第46回ギャラクシー賞「DJパーソナリティー賞」受賞のラジオDJ。自身のTBSラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、映画評論の「ザ・シネマハスラー」は単行本化される人気コーナー。最新映写技術「マッピング」を導入したことでも話題となったライムスターの全国ツアー『King Of Stage Vol. 9 POP LIFE Release Tour 2011 at Zepp Tokyo』は、Blu-ray & DVDとなって3月21日待望リリース。初回盤には新曲「Don't Think, Feel…」を収録したCDが同梱される。
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