【HMVインタビュー】 SALU -前編-

2012年2月29日 (水)

interview

2010年後半頃から既に関係者や耳の早いリスナーの間で話題となっていたSALU。
その卓越すぎるフロウと深い洞察力に導かれた独特のリリックセンスは瞬く間に評判を呼び、2011年はSCARS,SIMON,SEEDA,JAY'ED,KYN(from SD JUNKSTA),NORIKIYO 等、シーンの重要アーティスト達の作品へ客演参加し、日本語ラップシーンは「10年に1人の“イツザイ”」と言えるその才能に異常な盛り上がりを見せている。

先日、SALUのコンベンションライブにお邪魔した。最初の2曲は、OHLDが弾く鍵盤と、コーラスのみという、ほぼアカペラに近い最小限のセット。バックをシンプルにする事で、SALUのスキルとセンスが浮き彫りになる結果となった。「これは凄い!!!」会場を埋め尽くす関係者が舌を巻く中、DJが音を鳴らしSALUがラップするスタンダードなスタイルを披露。
「やはりSALUは“何か”を持っている」
SALUが発する、声が、その振動が、届いていく様が、現場にいるとまざまざと解るのだ。

日本語ラップシーンが、SALUの登場に際し、ここまで大騒ぎをしているのは決して異常な事ではない。正しく異常に盛り上がっているのだ。

今回のSALUのインタビュー。前編では、彼のこれまでの経験、バックボーンを中心に、後編では、リリースされる新作『IN MY SHOES』の事まで、濃く語ってもらった。冷静かつ熱いSALUの人柄、メッセージを感じていただければと思う。


--- ようやく新譜がリリースになりますね。HMV ONLINE では、1年前(2011年1月)にUPした「2011年ブレイク予想」でSALUを挙げさせて頂いて。

それ僕、リアルタイムで読ませて頂きました。で、BL(BACH LOGIC)さんに「こんな事、書いてもらってますよ!!!」「早く仕上げましょうよ!!!」って 笑

--- 僕はSCARSのEPでフィーチャーされてる曲を聴いて、ぶっとばされて。

それしかリリースなかったですもんね。笑
あの時期に、何も装飾ない僕の事をああいう風に書いてもらえて嬉しかったですね。有難う御座います。

SCARS 『EP』 / SCARS
SALUが、いきなり注目を集めたこの作品!「Cash & The Casher」で客演!

--- HMV的にもSALUの新譜は待ちに待ったっていう所があって、今回はインタビューの中で、SALUさんがリリックを書く背景にあるもの、これまでの経験、バックボーンを中心に聞けたらと思っています。

よろしくお願いします。

--- プロフィールを見ていてまず気になったのが、4歳でDr.Dre「Let Me Ride」を聴き音楽と出会う。という部分。この事は、鮮烈に記憶に残っているのでしょうか?

4歳の当時は全然、意識もしてなかったですし、それが誰のどういう音楽なのかも知らなかったんですけど、高校生くらいの時に、西海岸のギャングスタラップとかを一時期すごく聴いていて、そんな時に「Let Me Ride」を先輩のDJの家で聴いた時に「この曲は!!!」と思って。笑
で、レコードのジャケを見せてもらったら、「これ小さい頃に、車の中にあったCDだ!」って思って。

Dr.Dre 『THE CHRONIC』 / Dr.Dre
N.W.A.を離脱したDr. Dreが、Suge Knightとともに興したDeath Rowの記念すべき1stリリースとなった作品。ここから始まったと言えるご存知ウェッサイ/G-Funk黄金期を飾る、Snoop /Kurupt/Daz/Warren G/Nate Doggらが顔を揃えた脅威のアルバム。

--- ご両親がHIP HOP好きだったんですね。

そうですね。親父はもともとジャズ、ファンク、ソウルが好きなんですけど、その流れで、90年代初頭のDr.DREが作り出したG-FUNKのサウンドに反応した当時のヘッズというか。

--- ラッパーSALUの形成にとって、その環境は大きいですよね。

そうですね。今になって考えると。家で、様々な音楽にふれてきましたからね。

--- じゃあ、家庭でふれる音楽ではなく、自分の意思で初めて購入したHIP HOPって何でした?

中学1.2年の時にラジオで耳にした、KICK THE CAN CREWさんの「カンケリ」って曲でしたね。「これは何だ!?」って感じで。日本語でしたし、僕がそれまでに聴いてきた音楽ともまた全然違ったので。そこで初めて日本語でHIP HOPをしてる人たちがいるって言うのを知って。そっから自分でディグるようになった入り口ですね。

KICK THE CAN CREW 『タカオニ/カンケリ』 / KICK THE CAN CREW
97年リリースのKICK THE CAN CREWシングル。KICKの原点的作品。

--- 日本語でHIP HOPが出来るっていうのを知って、自分でラップをしてみるようになったのは割と自然な流れだったんですか?

自然でしたね。どうしてそう思ったのかは、覚えてないんですけど、授業中に口ずさんでいたり、頭の中で再生したりしていた延長で、ノートの端っこに書いたりしてたのが原点です。

--- 学校内に同じようにラップをする仲間っていたんですか?

一人だけいました。そいつがいたからこそ、行動に移した部分はありますね。北海道のMC松島っていうヤツなんですけど。

--- おぉっ!!!UMB(ULTIMATE MC BATTLE)とかに出てますよね!

そうです、そうです!AAAの日高君に対する「日高への手紙」っていう曲出したりしてて。

UMB(ULTIMATE MC BATTLE)… 2005年よりスタートした、Libra Record主催の究極のMC BATTLE。プロ・アマ問わず、全て観客の判断によるジャッジシステムで「フリースタイル」の日本一を競っている。例年数多く生み出される伝説的な名勝負を収めたDVDは必見!

--- そっか、地元北海道札幌で、そこ繋がってるんですね!今、拠点にしてるのは厚木だと思いますが、こっちに来たのは高校卒業後?

高校卒業するちょっと前に、藤沢の鵠沼海岸のあたりに来て、その後で厚木に。

--- SALUさんのフロウって英語の部分も凄くナチュラルだし、海外での生活の経験もあるのかと思ってたんだけど。

海外は、シンガポールに19歳の時から1年間だけですね。だから英語を流暢にしゃべれるわけじゃないです。

--- 意外ですね。それじゃ、SALUさんのラップの中の英語がこんなにネイティブに近い感じに聞こえるのは何でですかね?

僕、映画が好きで。その映画の中での台詞がかっこよくて。響きとか、タイミングとかも含めて。それは結構意識して聞くようにはしてますね。

--- 何かオススメの映画ってあります?

今オススメしたいのは「Waking Life」っていう、実写で撮った映像をアニメーションにしていく映画ですね。

Waking Life 『Waking Life』
2001年のサンダンス映画祭で脚光を浴び、各国の名だたる映画祭で絶賛されてきたアート・フィルム。実写映像をデジタル・ペインティングで加工するという新手法で製作された本作は、哲学的、氾濫する言語、シュールなややもすると退屈なストーリー展開を補う、その華やかさ、浮遊感のある映像で感性を刺激する、前衛的アート・アニメーション。

--- SALUと名乗るようになったのはいつごろからです?

中学3年くらいですかね。ラップ始めて1年くらいした時ですね。名前はずっと決めようと思っていて。その時は中学生で、ひねくれていたというか、「逆いった方がかっこいいんじゃないか?」って思ってたんで。日本人は黄色いサルって呼ばれてるじゃないですか。そこを風刺した意味合いもこめてSALU。

--- SALUさんのラップスタイルって独特だと思うし、メロディアスなフロウとかが、どうやって養われていったのか興味がある所なんですけど、何かを参考にしていたりっていうのはあります?

そうですね。USのアーティストのインストっていうのが出てるじゃないですか。それをゲットして、例えば始めた頃(3年前くらい)はCassidyの曲とかで2バースとフック1つくらいを、Cassidyの英語のフロウに日本語を無理やりあてはめる。そういう風に聞こえる日本語ばかりを、意味は考えずにやり続けたんですよ。20曲くらいでそれに飽きて、今度は意味を持たせた事で、これをやろうと思って。そうなると今度は音が合わなくなってくる。てことは音もかっこよく聞こえるようにやればいい。で、それを30曲くらいやって。で、40曲~60曲くらいには、元の曲を聴かずに、リリックは自分が思った事を落とし込んでいく。聞こえもなるべく英語に聞こえるのではなく、綺麗に聞こえるように。日本語にも音の良し悪しがあると思うんで。そういう勉強を60曲くらいやったんですよね。

--- SALUさんのラップって、言葉、その意味っていうのが、一聴してすぐに入ってくるっていう部分があると思うんですけど、そこにはそんな努力も潜んでたんですね。

努力というか、面白かった事でもあったんで、遊びの感覚もありましたよ。

--- フックだけじゃなくて、バースの部分でも、トラックの音とラップがばっちりはまってますよね。その辺で意識してる事ってあるんですか?

大前提として、自分が聴いて気持ち良くないとダメじゃないですか。自分が気持ち良くても人は気持ち良くないことだってあるわけだから。意識しているとしたらそういう部分ですかね。

--- SALUさんがラップを続けてきた中で、BLさんとの出会いってとても大きなものだと思いますが、それっていつ頃のことだったんですか?

SEEDAさんのSCARSのEPにフィーチャリングで呼んで頂いた時に、BLさんのスタジオに呼んで頂いてって感じですね。2010年の9月くらいだったと思いますけど。

--- 呼ばれた経緯は?

僕が仲良くさせてもらってるOHLD君っていう厚木のプロデューサーがいるんですね。その時OHLD君がSEEDAさんと仕事をしていて、たまたま厚木にレコーディングに来ていたんです。でOHLD君から、「SEEDAさんに渡す音源CDRでいいから持ってきな」って言ってもらえて。で渡したところ、気に入って頂けたみたいで。

--- SCARSのEP以降、また客演で呼ばれる事が増えましたよね。そこからの2011年がSALUさんにとっては重要な一年だったんじゃないかと思っているのですが、今振り返ってみて2011年はどんな年でしたか?

アルバムのレコーディングもメインは2011年でしたし、その中で震災もあって、人間として考える事もまたありましたので、忘れられない年になりましたね。大きく右左を決める事がいっぱいありましたね。

--- リリックからも、物事に対して、じっくりと奥まで考える人なんじゃないかなと思うんですけど。

そうですね。“勘ぐり”ですね 笑
物事に対してホントに勘ぐるんですよ、僕。例えば誰かが何気なく言った一言に対しても「あれってどういう意味だったのかな?」とか。「オレああやって答えたけど大丈夫だった?」みたいな感じで言うと、「考え過ぎだよ!!!」って 笑

--- “勘ぐり”であるが故に、生きづらいと思う事ってありますか?

毎日ですね。もっとシンプルに捉えられたらなって思うんですけど、まぁそれも僕の性格なんで。今回のアルバムはそういう自分で作ったものなんですけど、もうちょっと自分の中でシンプルに落とし込むっていう事も、次のアルバムではやってみたいと思ってます。説明してから書くのではなく、気持ちだけを1曲ぶつけるとか。

--- ヒップホップのシーンの中で、自分がめちゃめちゃ賞賛されている現状を、本人としてはどう見てるんでしょう?

良くも悪くも、この現状があって、僕の音楽を聴いてくれる人はたくさんいると思いますので、そういう点においては凄く感謝すべきことだと思います。著名な方から様々な言葉も頂けて、光栄に感じているんですけど、そこで僕という人間、音楽の価値、意味、存在理由が変わる事は決してないので、そことは直接は結びつかないかなと。ただ、僕の事をいいと言ってくれる事は単純に嬉しい事ですよね。

--- 誰に褒められたのが一番嬉しかったですか?

地元の先輩ですね。ホント怖い人なんですけど 笑
「お前、最近頑張ってんじゃん」って言われたのが一番嬉しかったです。笑

  後編に続く
後編はアルバムについて掘り下げます。

取材協力:LEXINGTON Co.,Ltd.
インタビュー/文:松井剛・馬場洋弥

SALUの最新作はコチラ!

SALU 『IN MY SHOES』 / SALU
[2012年03月07日 発売]


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     SALU
    『IN MY SHOES』

    2012年03月07日

    2010年後半頃から既に関係者や耳の早いリスナーの間で話題となっていたSALU。その卓越すぎるフロウと深い洞察力に導かれた独特のリリックセンスは瞬く間に評判を呼び、2011年はSCARS,SIMON,SEEDA,JAY'ED,KYN(from SD JUNKSTA),NORIKIYO 等、シーンの重要アーティスト達の作品へ客演参加し、日本語ラップシーンは「10年に1人の“イツザイ”」と言えるその才能に異常な盛り上がりを見せている。そんな中、遂にSALUのデビューアルバムがBACHLOGIC全面バックアップの元リリースされる事が決定した。シーンからの期待の高さは、先ごろ公開された映像『Album Trailer「To Come Into This World」-Full Ver.-』(YouTube)にも深く刻まれている。この映像では、BACHLOGIC , NORIKIYO , SIMON , AKLO , OHLDというSALUと縁の深いシーンの最重要人物達がSALUのヤバさを語っている。メディア露出が全くない事でも有名なBACHLOGICが、姿を露にし、SALUを神輿する為に『ONE YEAR WAR MUSIC』を立ち上げたと語るあたりからも、SALUの才能がこれまでになかった程に何かを動かし始めている事がわかるだろう。この作品に収録された14曲がシーンに変革をもたらす事は、既に約束されている。

    [収録曲]
    01. BALANCE(Pro.by BACHLOGIC)
    02. BURN IT(Pro.by OHLD)
    03. STAND HARD(Pro.by BACHLOGIC)
    04. JUST A CONVERSATION(Pro.by BACHLOGIC)
    05. DAREDEVIL(Pro.by OHLD)
    06. ITS YA BOY..(Pro.by OHLD)
    07. THE WATCHER ON WOODS(Pro.by BACHLOGIC)
    08. KAZE(Pro.by BACHLOGIC)
    09. TAKING A NAP(Pro.by BACHLOGIC)
    10. BUTTERFLY EFFECT(Pro.by OHLD)
    11. THE GIRL ON A BOARD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
    12. IN YOUR SHOES(Pro.by OHLD)
    13. 夢から醒めた夢(Pro.by OHLD)
    14. TO COME INTO THIS WORLD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
profile

1988 年北海道生まれ。現在、神奈川県在住。
4歳でDr.Dre "Let Me Ride" を聴き音楽と出会う。
14 歳からラップを書き始める。MONSTARS STREET 所属。
SEEDA, NORIKIYO, SIMON,SD JUNKSTA らが絶賛する若手RAPPER。HIP HOP のジャンルを越え響くリリック、着眼点やテーマ、他には真似できない日本人離れしたフロウスキル。
ブレる事の無いフリースタイルや人間性、作品そのままのLIVE が彼の魅力。どれをとっても、同年代の青年が持ち合わせているものでは無い。彼の曲中に溢れる感情、知性、表現に多くの人が虜になり聞き入ってしまう。23 歳にしての豊かな人生経験、彼個人の持つ才能が抜群に発揮されている今回の1stALBUM はこれまで数多くのクラシックを生み出しているプロデューサーBACH LOGIC、新世代プロデューサーOHLD(7070PRODUCTION) 二名がサウンド面で支え、間違いなく2012 年にリリースされる作品の中でもトップレベルであり期待を裏切らない「大型新人アーティスト」と言っても過言ではない。当然の様に洋楽のリスナー、邦楽のリスナーを問わず魅了してくれる。


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     SEEDA
    『23edge』

    SEEDAの9枚目となるオリジナルアルバムにも注目!