【インタビュー】 遠藤賢司 ≪その弐≫

2011年12月28日 (水)

interview
遠藤賢司




--- これは以前にもお話しいただいたことなのですが、ギターを弾く前は、瞬間的に彫刻を彫ろうと思い立ったことも(笑)。

 そうだね(笑)。結局はやらなかったけど、あれは不思議な経験だった。二畳の部屋にスクッと立って、具体的なカタチはないんだけど...等身大の原石みたいなものがボーンと浮かんで、それを彫ってみようかなって。

--- モチーフみたいなものもボンヤリと浮かんでいたんですか?

 う〜ん...人間だったかもね、彫ろうとしたのは。かっこいいこと言うわけじゃないけど、もしかしたら自分だったのかも。自分を彫れってことだったのかもしれないね。でも別に彫刻はやってないんだけど...ただ、そこから音楽で宇宙を刻んで彫ってるからね。

--- もしそのとき材料揃えて本当に彫りはじめていたら、今頃すごい彫刻家になっていた可能性もありますね。

 だから、俺には彫刻家の才能がなかったんだと思う。本当にやりたかったら、その辺の消しゴムでも一心不乱に彫り出したはずだよね。少なくとも俺は音楽の方が才能あったんだよ。そのときはギターも全然弾けなかったけど、「何か作りたいな」っていう思いはいつも漠然としながらもあったから。

 高校の頃に探偵小説を書きたいなって思って、でも1ページぐらい書いてやめたんだけど(笑)。それは、俺が放火をするっていう話で。

--- (笑)。

 その燃えてる現場を俺の親父が見て、どーのこーの言ってるっていう内容だったと思うけど。まぁだから、それも最後まで書かなかったわけだから才能がないっていうことなんだよね。色々思い付いたりはしたけど、結局音楽を「やりたい」ってはじめたんだから、才能があったんだと思う。「やりたい」っていうのも才能だと思うから。で、ギターをはじめて弾いた瞬間は嬉しかったからね。「俺はこれだー!」って思ったもん。

--- たしか同級生の能登川さんに新宿御苑でギターを教えてもらったんですよね?

 そうそう(笑)。「バンブー」っていう曲のコードを教えてもらったんだけど、そのとき俺はまだギター弾けなかったら、「じゃあとりあえず弾いて見せるから、遠藤は竹の拍子を叩いててよ」って(笑)。で、そのあとにまずはAmとG、次にスリー・フィンガー、ツー・フィンガーを教えてもらった。能登川くん、俺より一つ上だったのかな。いいヤツだった。「お前うまいよ」っていつも褒めてくれたから、それが調子に乗る原因だったのかもしれない(笑)。

 でも、褒められて乗るって若い頃は絶対必要だと思うよ。長友のゴールがいい例だよね。今すごい調子に乗ってるじゃない?(笑) ここ最近(12/21現在)、3試合で2点入れてるから。長友、かわいいよね。俺、調子に乗ってるヤツ大好きなんだよね。高校出たてのヤツとかいっぱい調子に乗ってほしいよ。かわいいもん。音楽でもスポーツでも何でもどんどん乗ってほしい。変に大人びてるやつとかイヤだね。中にはそういうのがいてもいいかもしれないけど。でも、いくつになっても調子に乗ってるようなヤツが好きだね。

--- あとで恥ずかしいって思うぐらいがちょうどいいのかもしれませんね。

 そうかもね(笑)。でも例えば「本当は音楽をやりたかったんだよ」とか、そういうのはナシだね。俺の前では言ってほしくない。いるんだよときどき。「もしやってたら、エンケンにも勝てたと思うよ」って言ってくるヤツ。俺も昔そうだったけど、「本当は俺もやればすごいんだよ」って言うわりに何にもしてないヤツね。「じゃあやれよ」って。別に俺に勝つとかそういうのじゃなくてさ。音楽でも何でもそうだけど、プロはそんなに甘かあネェよって思うよ。そういう人は大体、俺の音楽をあまり好きじゃないんだよね。そんなに聴いてないんだよ。聴いてるものもまったく違うような気がする。



遠藤賢司


--- オープニングの「エンケンがやってくる!」と、エンディングの「美しい女(ヒト)」は、まったくタイプの違うインスト曲になっていますね。

 「エンケンがやってくる!」は、レコーディングの二、三ヶ月前にできた曲。その頃ちょうど目の手術を終えて復帰したばかりだったから、元々は「帰ってきたケンちゃん」っていうタイトルだったんだけど、実際録音して聴いてみたら「エンケンがやってくる!」の方が自分のテーマソングというか入場曲にするのにいいなって。朝起きたら必ずこれ聴くよ、本当に。どんなに眠たくても細胞が起きる。

 「美しい女」は、女の人はいつまでもキレイでいてほしいなって。女の人っておばあさんになっても「キレイだね」「かわいいね」って言ってもらいところがあるでしょ? 俺、慎ましやかにそう言われたいと思ってる人が好きなんだよね。そういうところが女の人ってかわいいなと思って。しかも、そういう人って外見だけじゃなくて心も清潔だったりするから。この曲、半分はできてたんだけど、もう半分は録音の当日にピアノを弾いてたらでき上がったんだよね。  

--- 「ブルースに哭く」は、これまた情けなくていいなと。

 いいでしょ(笑)。でもこれも俺だしね。ずっと“不滅の男”なわけじゃないから。もはや疲れて死んじゃってるよ(笑)。

--- (笑)疲れ果てている人がこんなに濃厚なアルバムは作れませんよ。

 (笑)だけど、そんなヤツいないもの。瞬間的に人前で歌うときはちゃんとやるってことを含めて“不滅の男”なわけで、いつも「俺は不滅の男!!」って、イヤでしょそんなヤツ?(笑) プロレスラーにもそんな人いないと思うから。「痛かったよォ」って自分の母ちゃんに甘えて、「お〜ヨチヨチ」ってやってもらってるに決まってるじゃん(笑)。人間はそうだと思う。だから人間が好きなんだけどね。

--- エンケンさんの曲、すべて人間くさいですからね。

 人間くさくなきゃ歌いたくないし、聴きたくもないよね。

--- 特に「ブルースに哭く」は、聴いていると好きな女の子の手を握りたくなってくるというか、何だったら、ひざまくらなんかもしてもらいたい気分になってきますよ。

 ひざまくら、いいねぇ。誰かを好きになって触りたくなるっていう気持ちは、宇宙のビッグバンと一緒だから、それは根本だと思ってる。「かわいい」ってことは「触りたい」ってことだから。俺は「かわいい」って言葉大好きなんだよね。男でも女でも「かわいいなぁ」「触りたいなぁ」っていうところから人類はここまで来たと思ってる。ただ、「ここまで」って言っても別に成長なんかしていないんだけどね。着物を身に着けてるだけで、まったく変わってないよね。だから、「かわいい」っていうのはすべての原点だと思ってる。

 魚なんかでも自分の口の中で卵を孵すヤツがいるけど、やっぱりかわいいんだよね。哺乳類でも爬虫類でも自分の子供は守るじゃない? それをごく身近で見せてくれるのが犬だったり猫だったりするから。猫はすばらしい動物だと思うよ。野生=自分の姿っていう、生物がカタチとしてここまできた過程を見せてくれるから。ゴキブリだって、一匹潰すと必ずどこからかもう一匹出てきたり。多分夫婦愛に溢れてる気がするんだよ(笑)。それを見るとかわいいなって思っちゃうよね。人間が好きだから歌ってるんだけど、その人間も含めて動物は何でも好きだよ。


遠藤賢司


 人間が好きってことは自分が好きなんだろうね。自分のイヤな部分も含めて全部。それを見せるのが音楽だと思うし、その最たるものが俺はサッカーだと思う。ずーっと人生を走り続けてても、ちょっとサボってるとみんなから指さされるじゃない? 監督にしても選手にしても。「何でここにボール出さないんだよ!」「それはお前の責任だろ!」って。だからサッカー好きなんだよ。中には転び方のうまいヤツもいるしね。そういうのも含めて好きなの。サッカー見てると、「あっ、人間だ」って思うんだよ。だから世界中でサッカーがこんなに人気がある理由って、そういうことなんだと思うよ。多分みんなどこかで、ズルい転び方をして反則をもらった選手を見て、「あのズルい姿はオレのことでもあるんだ...」って、でも「ゴールを決めた姿もオレなんだ」って思ってるはず。審判も含めてすごく人間くさいよね。国交間の色々があって敵国に不利な判定を下したりとか。そういうのもおもしろいなぁって思う。

 音楽はさらに何やってもいいからね。本当に自由なんだよね。こんなに何でもできる芸術ってほかにないと思う。何か叫ばずにはいられなくて人類が叫び出した「アッ!」っていうのが音楽のはじまりだからね。すごいことだよ。

--- まさに「ア!ウ!」であり、「言音一致」であり。

 はじめて叫んだ瞬間を歌いたかったんだよね。それ以外は歌いたくない。いつも自分とせめぎ合ってギリギリのところで踏みとどまって、そこでシンプルな言葉がポンッと出てくる。それがいちばん自分を打つと思うんだ。「為に、音よ言葉よ俺の心に突き刺され」はそのことなんだよね。本当にこの通り。俺は「自分の為にしか歌ってない」って言いきれることで、その言葉と音は全部自分の責任になるから、全部自分に突き刺さるんだよね、良くも悪くも。良くなかったら痛みとなって突き刺さる。嬉しければ「よかったぁ!」って。努力したら、音楽はそれで全て表現できると思っているから。

--- 努力も才能。

 努力しないヤツは才能がないんだと思う。何でもそうだけど、好きだからやっぱり努力するんだよね。努力することはツライけどね。俺が、かっこつけたり、いい子ぶったり、哲学ぶったりするのが好きじゃないのは、最終的に日本がいい国になってほしいなぁって思ってるからなんだよ。素直に何でも言おうよって。

 例え大人でも「大人は大人で大変なんだよ」ってちゃんと見せてやるのがいちばん子供のためになると思う。余裕ぶって「大したことないよ」っていうのもいいけど、あるときは「オレだって大変なんだよ。オマエのことなんか知らねーよ」っていうのも必要だと思う。

 原発問題で何でもかんでも「大人が子供に謝るべきだ」って言ってる人もいるけど、俺はそんな必要はないと思う。そうしたら、原発にかぎらず全てのことに謝らなきゃいけなくなるよ。これはあくまで東電の仕事だから。俺はお金もらってレコードを売って、ライブをやって生きてるわけじゃない? 東電は俺たちからお金をもらって電力を売って給料をもらってるんだから。どう考えても東電っていうイチ企業のせいなんだよ。大人のせいじゃない。いたずらに大人が子供に謝る必要なんてどこにもないよ。俺は、謝ったらかえってダメだと思う。

--- 大人が東電にちゃんと謝らせないとダメかなとは思います。

 そうだね。少なくともそれが彼ら東電にとって責任ある仕事であるんだったら、そうするべきだと思う。でも実際子供を見ていると「ごめんな…」って思うよ。猫にもそうだけど、子供たちには本当そう感じてる。農家の野菜にしても「申し訳ないな」って思う。全部食べてあげたいなっていう気持ちもあるけど...でも俺は、まず第一に自分の体は自分で守って歌っていくことが、もし聴いてくれる人がいたらそれが何かしらの力になるかなと思っているから。自分が生きて自分のことをちゃんとやっていくことがいちばん大事なんだよね。みんなそうあるべきだなと俺は思ってるし、そういうことを言う人がもっといっぱい出てきてもいいと思う。「安心しなよ、みんな大変なんだから」って。俺はそれ以上の励ましの言葉はないような気がするよ。一生懸命生きてる子供に失礼なんだけど、そういうことを子供に見せてあげる姿があった方が、もっといい国になると思う。

 俺は根本的にお笑いの人って昔からすごいなって思ってるんだよね。子供の頃って、テレビで由利徹三木のり平森繁久彌だとかを観てても何も考えずに大笑いしてるだけじゃない? でも今になって観ると、滑稽でブザマな姿を見せながらちゃんとやってる喜劇の人は何てかっこいいんだろうって。今特にその思いが強いから、自分のことを大人だって思う人はなおさら、仕事で自分がちゃんとやっている大変な姿を見せてほしいね。だから、「ちゃんとやれ!えんけん!」、なんだと思うな。




【取材協力:遠藤賢司 仕事室/MIDI INC. 】





ちゃんとやれ!えんけん! / 遠藤賢司
純音楽生活43年。2012年1月13日に65歳を迎える遠藤賢司の17作目となるオリジナルアルバム! あの名曲の弾き語りにカリスマ・ギタリスト山本恭司(BOWWOW)がエレキ・ギター・ソロで泣かせる「夢よ叫べ」の新録バージョンや、震災直後の日常を歌った、しみじみと心に響くピアノ弾き語り「もう少し頑張ってみよう」、自身のバンド“エンケンバンド”での演奏で、誰もが思う自分の生き様を訴える「俺が死んだ時」。山本恭司率いるハードロックバンド“ワイルドフラッグ”を率いてのロックンロールの原点を披露する「ア!ウ!」最新バンド、“エンケン&アイラブユー” でのパンク歌謡ロック「心の奥まで抱きしめて」など全10曲を収録。HMV ONLINE/MOBILEでお買い上げのお客様から抽選で5名の方に「エンケン直筆サイン入り色紙」をプレゼント!





遠藤賢司 ライブ情報


祝!生誕65周年 遠藤賢司 “ 第三回純音楽祭り”




profile

遠藤賢司
(えんどう・けんじ)

 1947年1月13日、茨城県勝田市(現ひたちなか市)生まれ。大学時代にFENでボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」を聴いて、自作の歌を歌うことに目覚める。数々のフォークの集いにて自作の歌を歌っているうちに、折からの60年代後半のフォーク・シーンにおいて徐々にその頭角を現すようになる。69年2月にシングル「ほんとだよ/猫が眠ってる」でデビュー。70年4月には、デビュー前のはっぴいえんど(大滝詠一を除く)が参加した1stアルバム『niyago』を発表。デビュー作にして早くも現在にまで通ずるエンケンの音楽の魅力を濃縮に詰め込んでいた。72年、三島由紀夫の割腹自殺の日のことを日常のいち風景として歌った「カレーライス」が大ヒット。その後も『東京ワッショイ』(78年)、『宇宙防衛軍』(80年)といった傑作を発表。また、82年にはその2作品に影響を受けたという長嶺高文監督の映画『ヘリウッド』に主演。音楽以外にも活動の幅を広げた。83年に細野晴臣、越美晴が参加したEP『オムライス』を発表後は、活動の場をライブ中心へと移し、ひとりでエレキ・ギターとマーシャル・アンプで豪快なライブを展開。88年にスリーピースのロック・バンド「遠藤賢司バンド」(エンケンバンド)を結成。91年にはベースに元・子供バンドの湯川トーベン、ドラムスに頭脳警察のトシが加入して、現在のラインナップに至る。96年、実に16年振りとなるスタジオ・フル・アルバム『夢よ叫べ』を発表したのを皮切りに、デビュー30周年となった99年には、生ギター1本によるセルフ・カヴァー・ベスト『エンケンの四畳半ロック』、デビュー33周年・55歳のゾロ目となった2002年に『幾つになっても甘かあネェ!』を発表し、再びアルバム・レコーディングを活発化させる。2005年には、日本武道館に於ける無観客ライブ『エンケン対日本武道館』を自らが監督・主演・音楽を務め映画化。翌年のアルバム『にゃあ!』に続き、還暦を迎えた2007年にはシングル『惚れた!惚れた!』を発表。デビュー40周年を迎えた2009年、通算20枚目となるニュー・アルバム『君にふにゃふにゃ』をリリース。「フォロパジャクエン NO.1」には、2009年におけるエンケンの、歌い始めた頃から変わらぬメッセージが込められている。2011年、3月11日に起きた東日本大震災、そして原発事故と対峙したエンケンは「もうちょっとだけ頑張ってみようかな …2011年3月14日月曜晴れ…」をピアノの弾き語りで創作した。2012年1月11日には、生誕65周年を目前にしてニューアルバム『ちゃんとやれ!えんけん!』をリリースする。