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現代最強! イスラエルの精鋭集団

Wednesday, October 12th 2011


Third World Love
最近一段と恰幅のよくなってきたオマー・アヴィタル(手前中央)。若き日のジェリー・ガルシアにクリソツだ...




N.Y.=イスラエル発のニューストーム集団 「サード・ワールド・ラブ」


 5作目にして最高傑作登場。昨今ニューヨークのジャズ・シーンを盛り上げ、席巻し、ジャックしそうな勢いをみせるイスラエル勢。一過性のムーヴメントを超えて、もはやメインストリーム・ジャズの新しい潮流を形成するまでにその勢いを拡大中。サード・ワールド・ラブは、そんなイスラエル出身の精鋭ジャズメンによる、「第三世界からジャズに乗せて愛を叫ぶ」、カルテット。

 ニューヨーク・ジャズの ”イスラエル・コミュニティ” でアヴィシャイ・コーエンと人気を二分するベーシスト、オマー・アヴィタルに、フレッシュ・サウンド・ニュー・タレント(FSNT)から飛び出し今や押しも押されぬヘヴィ級トランペッターの大エースとしてシーンを切り裂くアヴィシャイ・コーエン(先述の同名プレイヤーとは勿論別人)、そのアヴィシャイ作品でもおなじみの若手ピアニスト、ヨナタン・アヴィシャイというイスラエル上京組に、ニューヨーク出身のドラマー、ダニエル・フリードマンを加えた、あまりにも旬で、あまりにも強力な布陣。

 2006年のSmalls盤 『Sketch Of Tel Aviv』(残念ながら現在取り扱い終了...)、本作同様アナ・コーエン主催のAnzic Recordsからリリースされた『New Blues』が割と一般的に知られている彼らのアルバムかと思われますが、実はそれ以前にもデビュー盤となる『Third World Love Song』(2002年 Fresh Sound)、『Avanim』(2004年 Assal Records)という2枚のアルバムをリリースしており、どちらもその内容の素晴らしさに反して日本ではなかなか入手が困難につき、十分な販路の確保&拡大が待たれているのですが・・・ともかくも、本作『Songs And Portraits』が通算5枚目のアルバムにあたるというわけです。



『Songs And Portraits』 収録曲

  • 1. Im Ninalu
  • 2. Song For a Dying Country
  • 3. Sefarad  bass intro
  • 4. Sefarad
  • 5. The Abutbuls
  • 6. The Immigrant's Anthem
  • 7. Song for Sankoum
  • 8. Alona
  • 9. A Night in Zebulon

Omer Avital (b) / Avishai Cohen (tp) / Yonatan Avishai(p) / Daniel Freedman (ds)




 中東特有のエスニックな旋律が随所に顔を出しながら、ジャズのエキサイティングな即興性や(特にメインストリーム・ジャズならではの)洗練された流儀と融合してゆくという、サード・ワールド・ラブひいてはN.Y. 在イスラエル・ジャズ勢の真骨頂あるいは十八番とも言える楽曲のつくりは、前作『New Blues』以上に自らの ”出自” に従順な印象。とは言え、ありきたりのエスニック・ジャズにとどまらないのもやはり彼らの ”ニューストーム” たる所以。

 中でもオマー・アヴィタル作の「The Abutbuls」はまさにその最たる1曲。アラビックなテーマに乗って、太く芯のあるハイノートでアドリブを繰り出すアヴィシャイは、マイルスの ”アガバン・バンド” を軽々想起してしまいそうな電化エフェクトまでもを駆使しながら激しくも優雅に空間を泳ぎ回る。間違いなくアルバムのハイライトと言える1曲でしょう。昨今(局地的ながら)盛り上がる「辺境ビーツ」好きのダンナにもオススメです。

 ほか、同郷テル・アビブの名シンガー、オフラ・ハザが取り上げたことでも有名なイエメン民謡「Im Ninalu」をはじめ、「Song for Sankoum」や「A Night in Zebulon」にも、エチオピアン・グルーヴや幻の名盤解放系ディープ歌謡などとも共通する哀愁と妖猥さの入り混じった中毒性高きメロディがたっぷりと含有。特に、ヨナタン・アヴィシャイのよく転がるピアノとコーエンのちょっぴりセンチなラッパが琴線を弄りまくる「Song for Sankoum」の後半部、この何とも言えない一種独特の甘酸っぱさ、黄昏、恍惚感は、そこいらの ”腕利き程度” の演奏からでは極めて得難い、唯一無二のフィーリング。リズム隊の緩急自在の律動掌握ぶりもお見事です。

 このヨナタン・アヴィシャイ、日本ではまだ馴染みの薄い名前かもしれませんが、アヴィシャイ・コーエンの人気アルバム『Flood』では表情豊かなピアニズムでトリオ・アンサンブルを巧みに牽引。イスラエル・ジャズ・フリークの間では、オマー・クライン、シャイ・マエストロらに続くブレイクが期待される目下売り出し中の精鋭ピアニストなのであります。ちなみに本作では、「Im Ninalu」のアレンジ、さらには「A Night in Zebulon」のコンポーズを手掛けています。「A Night in Zebulon」における緊迫感、たまりません!


Third World Love
左から:ダニエル・フリードマン(ds)、ヨナタン・アヴィシャイ(p)、オマー・アヴィタル(b)、アヴィシャイ・コーエン(tp)
 


 金曜ロードショーが幕を開けるかの如き、トランペットの旋律が夕焼け色に染まる「The Immigrant's Anthem」、オマー・アヴィタルのしなやかなベースソロにも酔う哀愁のタンゴ「Sefarad」、ダニエル・フリードマン作の切なくも美しいバラード「Alona」など、メンバーそれぞれによるオリジナル・コンポジションは ”かの地” を想わせる、憂いを帯びた慕情を満遍なく漂わせながらも実に楽想豊か。飽きさせることなく全9曲を一気に聴かせてくれます。

 イスラエル・ジャズメンを知らずしてリアルタイムのN.Y. ジャズ・シーンを語ることは不可能となった昨今。ここにまたしても1枚のマスターピースがっ! と、幾ばくかハイプにスピットせずともその魅力は、オフィシャル・サイトもしくは各動画サイトなどにアップされている楽曲をいくつか耳にしていただければ、十分すぎるほどに伝わるはず。

 ただ、「話題騒然」とは言え、例えば国内盤がリリースされることも滅多になく、それどころか流通自体が不安定であったりするなど、まだまだ好事家レベルでのお祭り事といった雰囲気も否めない、彼らN.Y.=イスラエル発 ”ニューストーム” 勢の活躍とその好況ぶり。メインストリーム特有の白々しさを伴う軟なムードや、一見さんを寄せ付けないようとする敷居の高さや難解さがあるわけでもなく、単純に「イスラエル」という言葉だけで半ば避けて通っている方がいらっしゃるのであれば、それは確実に良い作品とのめぐり逢いを逃してしまっているのでは・・・と懸念せざるをえません。エキゾ嗜好の「ワールドミュージック・ファン」どころか、「クラブジャズ」はては「女子ジャズ」界隈のリスナーだってオルグできる当たりのよさをも持ち併せている、と信じてやまない至極全方位的な彼らの作品。この『Songs And Portraits』が、さらなる、と言うか本当の全国区への第一歩となることを祈らんばかりです。




Third World Love are:


Omer Avital

Omer Avital オマー・アヴィタル (bass)

1992年にニューヨークに移住。初リーダー作『Think With Your Heart』を発表した2001年に一度故郷に戻り、音楽教職や現代音楽の作曲など母国のジャズの発展に尽力。今もイスラエルとニューヨークを股にかけて活動している。重く分厚いサウンドと類稀なコンポジション・スキルで「ミンガスの再来」とも言われるイスラエル・ジャズ・シーンを代表するベーシスト。アーロン・ゴールドバーグ(p)、マーク・ミラルタ(ds)とのOAMトリオやアヴィシャイ・コーエン(tp)との活動でもその比類なき演奏力と作曲能力、さらにはバンド・リーダーとしての資質をみせる。本職ベースのほかに、ウードやヴォーカルも担当する。





Avishai Cohen

Avishai Cohen アヴィシャイ・コーエン (trumpet)

1997年にボストンに移住しバークリー音楽院に在籍。同年の「セロニアス・モンク・コンペティション」のトランペット部門で3位に入賞。2003年には、フレッシュ・サウンド・ニュー・タレント(FSNT)から『The Trumpet Player』で華々しくデビューを飾ったアヴィシャイ・コーエン。太く豊かな音色で吹き上げるその豪快なサマは、原田和典氏をして「70年代のハンニバル・マ−ヴィン・ピーターソンに匹敵」と言わしめたほど。 ”イスラエル慕情”とでも言うべき郷愁感溢れる旋律を紡ぎ上げる一方で、エフェクターを巧みに駆使した変幻自在の電化ラッパ・サウンドに ”今” を感じる。





Yonatan Avishai

Yonatan Avishai ヨナタン・アヴィシャイ (piano)

上掲アヴィシャイ・コーエンとは、地元イスラエルはテル・アビブのアートスクール時代から20年来の付き合いになるというピアニスト。ニューヨーク上京もアヴィシャイとほぼ同時期だ。サード・ワールド・ラブ以外における両者の絡みは、定期的に行なわれているデュオ・ライブや、2008年のアルバム『Flood』(ドラムは、ダニエル・フリードマン)などで聴くことができる。オマー・クライン、ヤロン・ヘルマン、シャイ・マエストロらに続いてブレイクが期待される注目株。サード・ワールド・ラブでは、ヴォーカルも執っている。





Daniel Freedman

Daniel Freedman ダニエル・フリードマン (drums)

コンポージングにも定評のあるニューヨーク出身のドラマー/パーカショニスト/プロデューサー。90年代よりSmalls クラブ周辺で活動を開始し、その後、ジェイソン・リンドナー・ビッグバンドやオマール・アヴィタル・セクステット、さらにはアンジェリーク・キジョーのバックバンドなどに参加。2001年には、オマールらが参加したリーダー・アルバム『Daniel Freedman Trio』をFSNTからリリース。ほか、アヴィシャイ・コーエン『After The Big Rain』、『Flood』、オマー・アヴィタル『Think With Your Heart』、アナ・コーエン『Notes From The Village』などにおいて、緩急自在でイマジネーション豊かなドラミングが聴ける。






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* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

第三世界から愛を...TWL新録です。

Songs And Portraits

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Third World Love

User Review :5 points (1 reviews) ★★★★★

Price (tax incl.): ¥2,409
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Release Date:15/January/2012

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「Joy of Life」!

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Third World Love

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Release Date:04/March/2008

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アヴィシャイ・コーエン(tp)参加

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ファンクもアヴァンギャルドも

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Avishai Cohen (Trumpet)

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Release Date:28/September/2010

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オマール・アヴィタル(b)参加

Daniel Freedman Trio

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Daniel Freedman Trio

Daniel Freedman

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Release Date:30/October/2001

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