アニャンゴ インタビュー

2011年9月26日 (月)

interview


ケニアのルオー族に伝わる弦楽器・ニャティティを女性として世界で初めて習得、ケニア本国・そして日本のワールドミュージックシーンに一大旋風を巻き起こしているのが “アニャンゴ” こと向山恵理子さん。2009年にはニューズウィーク誌 「世界が尊敬する日本人100人」 にも選出されています。
今回はアニャンゴさんご自身について、そして新境地であり “伝説のレコーディング” となった最新アルバム 『Teï molo』 の制作にまつわる興味深いエピソードもたっぷりと伺いました。


--- アフリカには面白い楽器、魅力的な楽器がたくさんありますが、その中でアニャンゴさんはなぜケニアのルオー族の伝統楽器ニャティティを選んだのでしょうか。

十何年もの間ずっと歌をやってきたんですが、アフリカの音楽に出会ったのが7年前くらい前なんです。その出会いが、ケニアの伝統的な太鼓を演奏するバンドで・・・ 一目惚れというか、 「なんだこのリズムは?!」 と感じてもうその場でそのバンドに加入しました。そこで1年ほど活動するうちにやはり本場に行って見てみたいと思い、実際にケニアに行ったのが最初です。ケニアの各地でいろんな音楽や楽器に触れる中で、ニャティティは飛び抜けてユニークな楽器に見えました。ニャティティは弦楽器でもあり、同時に足に鈴を付けてリズムをつくり出すというパーカッションの役割もあって、さらに歌もうたうという “一人三役” の楽器なんです。世界広しといえど一人三役の楽器は見たことがないな、というところで衝撃を受けました。

--- 弦は両手ではじくんですね。

はい。8本の解放弦を両手ではじきます。ギターを少し小さくしたような大きさですが、ギターと反対で弦を自分の方に向かせて演奏します。重なっている音階もあるので実際にはペンタトニックの5音のみなんですよ。

--- 5音しかないとはとても思えないほど表情ゆたかに聴こえます。

そうですね。5音しかないので、弦を弾くリズムが特徴となってきます。決まった音をいかにリズム、シンコペーションで変化をつけていくかという感じ。私の場合はここに他の楽器やクワイア (コーラス) を入れてといろいろ試しているところです。

--- アニャンゴさんがきっかけでケニアでもニャティティ・ブームが起こっていると聞いています。

もともとニャティティは男性しか弾くことを許されなかった伝統楽器です。なので、私が外国人で、しかも女の子がケニアから見れば地球の裏側にある日本からやってきて、ニャティティを弾いてるぞ!ということでケニアでニュースになったんです。今では、ニャティティそのものも注目されるようになって、ケニアの携帯電話のCMでもニャティティが使われたりしているほどです。

--- では、現在は外国人や女性でもニャティティを演奏する人は増えていますか?

私が演奏している映像をYoutubeで見て、最近はヨーロッパやアジアからもケニアにニャティティを習いに来ている人があると聞いています。何よりもケニア国内でこの楽器が再評価されるようになったり、自分も習いたいという方が増えているというのはとても嬉しいことです。

ケニア・ルオー族の伝統楽器 “ニャティティ” について

バラク・オバマ大統領のルーツであるケニア・ルオー族の伝統楽器ニャティティは、演奏法も音楽そのものもマスターするのがとても難しい楽器。8弦の弦楽器で、演奏者はストリングス・パーカッション・ヴォーカルの三役を1人でこなします。
アニャンゴさんは世界初の女性ニャティティ奏者。元来男性しか演奏することが許されない楽器でしたが、アニャンゴさんの登場によりケニアではニャティティ・ブームが起こり、若者からも敬遠されがちであった伝統楽器に注目が集まっているのだそう。



--- ケニアの伝統楽器だったニャティティが、アニャンゴさんによって一気に日本でも広く知られるようになり、またさまざまな音楽とフュージョンされていくことについて、ケニアの方々はどう思っているのでしょうか。

ケニアはもちろんのこと、ドバイや韓国、イギリス、中国、日本に住んでいるケニアの方からもメールが届きます。 「みんなアニャンゴを愛している。これからも音楽を作り続けてくれ!」 「いつもアニャンゴのホームページやYoutubeをチェックしている!」 。それから、「いつケニアに帰ってくるんだ?僕の妹の結婚式で演奏してくれ!」 とか、 「アニャンゴ、君の歌のおかげでうちの夫婦喧嘩は解消した!」 といったメールまでありました。

--- (笑)。 でもそれは嬉しいことですね。

はい!とても嬉しいです。ケニアの方々も私の師匠もそうやって私を受け入れてくれて、私にニャティティを授けてくれたうえに 「アニャンゴ、もっと遠くまでいきなさい」 と支えてくださっています。だからこそ、今の私があるといえます。これからもケニアへのリスペクトは表し続けていきたいし、いつか恩返しがしたいなとも思っています。今、日本のNHKのスワヒリ語ラジオでDJをしていて、世界に向けて日本のミュージシャンをスワヒリ語で紹介しているんですよ。世界中で聞くことができるので、ケニアやウガンダ、タンザニア、毎週いろんな国からメッセージが届きます。

--- NHKのスワヒリ語ラジオではどんな方を紹介されているんですか?

はい。美空ひばりさんやサカキマンゴーさん、それからOKIさん、葉加瀬太郎さんといった日本を代表するミュージシャンをこれまでに紹介しました。次は日本の伝統音楽ということで津軽三味線の高橋竹山さんも特集する予定です。機会があればぜひ聞いてみてください。

--- そういえば、ケニアの文化親善大使もされているそうですね。たとえばケニアを旅行してその土地の音楽を聴いてみたいという方々におすすめのスポットはありますか?

ベンガ (ルオーのポップス) が聴きたいのであれば、音楽を一日中流しているクラブや酒場のようなものがタウンにはたくさんあるので、そこに行けばバンドの生演奏が聴けます。伝統音楽の演奏ならナイロビの “ボーマス・オブ・ケニア” がお勧めです。ケニア国内のあらゆるスタイルの伝統音楽を楽しむことができます。私も外国人アーティストとして初めてこのステージで演奏したこともあります。

--- アニャンゴさんがかつてニャティティの修業をしていた村はどんなところなのでしょうか。

ヴィクトリア湖の近くにあるシアヤという地域です。ここは、米オバマ大統領のルーツの地でもあります。首都のナイロビからバスと歩きで10時間。大自然の中で、今も、ルオーの昔ながらの生活スタイルを大切にしている村です。

--- 向こうの生活でびっくりしたことはありますか?

もちろん電気も水道もコンビニもなくて、東京生まれの私にとっては何から何までびっくりすることだらけでした。朝起きたらまず水汲み、薪拾い。週に一回開かれる市場には片道2時間かけて行って。雨季には雨水をためて飲み水にするとか。あと羽アリが出てくるのでそれを食べたり・・・。でも、それも覚悟していったので、びっくりはしましたが、苦にはなりませんでした。

--- さわやかな笑顔でおっしゃってますが・・・アリを食べるんですか?!

はい、食べていました。塩で炒って。食べてみるとこれがけっこう美味しいんですよ (笑)。貴重なタンパク源です。

--- ちょっと想像がつかないんですが、ケニアの女の子たちはどんな生活をしてるんでしょう。

すごくオシャレで、ダンスが大好きだし、同時にすごい働き者。それから、日本女性とちょっと似ているところがあって、シャイだし、お人よしなところもあるし、女性が男性をわざと立てるようなところがあります。アフリカの女性が全部そうかといえば全然違って、今回のレコーディングで行ったカメルーンという国はとにかく女性が強い!ストロング!って感じの国でした。

--- アニャンゴさんの最新の著書 『もっと、遠くへ』 を読ませていただきましたが、最新アルバム 『Teï molo』 のプロデューサーであるサリー・ニョロさんもストロング・ウーマンですよね。

あんな女性みたことない!って感じの強い人ですね (笑) 。 『もっと、遠くへ』 をお読みいただきありがとうございます。サリー・ニョロさんの音楽は大好きでサリーのCDは全部持っているのですが、実際にお会いしてみると本当に素晴らしい方でした。ミュージシャンとして、シンガーとして、プロデューサーとして、そしてまた母として、ワールドミュージックの最前線で何十年も活躍し続けるためには、豊かな感性を持ち合わせると同時に、とびっきりタフでストロングでなければやっていけないのだと思いました。サリーさんから、たくさんのことを学ばせていただきました。

(次項へ続きます)


CDTeï molo テイ・モロ
アニャンゴの待望の3rdアルバム。プロデューサーに元ザップ・ママのメンバー、サリー・ニョロを迎え、パリ〜カメルーンにてレコーディングを敢行。元ジョー・ザヴィヌル シンジケートのパコ・セリー (ds / per) をはじめワールドミュージックシーンで活躍する名だたるミュージシャンが多数参加。マスタリングはフェラ・クティやサリフ・ケイタの作品を監修したパリの超名門トランスラボスタジオ。全てのアフロビート、ファンク、ジャズ、フュージョン、ダンスミュージック、ワールドミュージックファンに。
BOOKもっと、遠くへ
ひとつの旅の終わりは、次の夢の始まりだった。
夢に向かってあきらめずに進めば、道は必ず開ける!
世界が尊敬する日本人100人 (ニューズウィーク) にも選ばれたアニャンゴの次なる体当たりワールドミュージック挑戦記!
>> 最新アルバム 『Teï molo』 の制作過程や舞台裏が細部までテンポよく綴られた、アニャンゴ自身による著書。サリー・ニョロの印象深い言葉、音楽の核に迫る言葉も満載。CDと併せて読めば 『Teï molo』 の世界がより広がるはず。


profile

アニャンゴ (向山恵理子) Anyango
ニャティティの世界初の女性奏者。単身ケニア奥地の電気も水道もない村に住み込みニャティティの修業をし、ニャティティの習得と演奏を許された世界最初の女性となる。Anyango (アニャンゴ) とはルオー語で、「午前中に生まれた女の子」という意味。

・東京に生まれる。2005年、単身ケニア西部ルオー族の村に住み込み、 ルオーの伝統弦楽器であるニャティティの修業をする。ケニアの国立劇場ともいえる 「ボーマス・オブ・ケニア」 でケニア建国以来初の外国人によるライブパフォーマンスを行う。

・2007年、ケニア国内で一躍有名になり、数々のテレビ・新聞・ラジオに出演。ヴィクトリア湖の近くの町で開催された国連主催のSTOPエイズコンサートでは、5万人を前にライブをする。

・2008年5月のTICAD (第4回アフリカ開発会議) の式典で、アフリカ各国の大統領・首脳人の前で演奏。

・2009年7月、 「ニューズウィーク」 誌の 「世界が尊敬する日本人100人」 に選ばれる。8月、角川学芸出版より 「夢をつかむ法則 〜アニャンゴのケニア伝統音楽修業記 」 発刊。発刊初日にアマゾンノンフィクション部門1位。2009年度のアマゾン年間ランキング 「Best Books of 2009」 ノンフィクション部門で第10位。9月、ファーストアルバム 「Nyatiti Diva」 をリリース。

・2010年5月、セカンドアルバム 「HORIZON」 をリリース。バイオリニスト、葉加瀬太郎氏のレコーディングに招聘され、世界初のニャティティによるクラシック楽曲のレコーディングを果たす。8月、日本で一番大きな野外ロックフェスティバルであるFUJI ROCKに出演、ワールドミュージック部門のベストアーティストに選ばれる。

・2011年2月、サードアルバム制作のため、渡仏。プロデューサーに元Zap Mamaのサリー・ニョロを迎え、フランスおよびカメルーンで録音。7月29日、シングルCD 「声をきかせて」 をリリース。同日、2冊目の本となる 『もっと、遠くへ』 (学芸みらい社) 発刊。アマゾン売上ランキング1位を記録。9月25日、サードアルバム 「Teï molo (テイ・モロ) 」 リリース予定。
(アニャンゴ 公式サイトより抜粋)