ミルトンの70年代のアルバムはどれもお薦めだが、やはり、アメリカで作られたものよりブラジルで作られたものの方が、先に述べたところでいう「神」に近づいている感じがしていて、良い。
70年代前半なら、70年の『Milton』や72年のロー・ボルジェスとの共同名義盤『Clube Da Esquina』がお薦め。この頃の作品はどれも若く未完成・未成熟な魅力に溢れている。
『Clube Da Esquina』なんかは、長尺でとっつきにくさがあるが、一度はまれば、生涯聴き続けるであろう超名作であり、実際にこれを人生の1枚に挙げる人は多いのではないだろうか。
70年代中盤がミルトンの黄金期だと僕は思っていて、75年の『Minas』、翌年の『Geraes』、そして78年の『Clube Da Esquina 2』あたりの出来は圧巻である。
聴いているうちに、ミルトンの声がこの世に在らざる者の声に聴こえてきてしまう。
他人にミルトン・ナシメントを薦めたことはないけど、もし誰かにミルトンの音楽を気に入ってもらう目的でミルトンの楽曲だけを入れたベスト盤を作ったら、凄く楽しそう。そして、好きな曲が多すぎて、凄く迷いそうです。ちょっとそれ考えたらわくわくしてきた。
そして、出来たベスト盤は、ベスト盤のつもりで作ったはずなのに、どう選曲してもさしてポップにならないという結果に終わりそうだとも思った。
ミルトンが名盤『Minas』をリリースしたのが33歳で、それ以降にも名作を作り続けたことを考えると、僕もまだまだこれからなのかな、などと思えたりします。よし、そう思ってがんばらなくては。
僕が最初に聴いたのは、77年の『Somos Todos Iguais Nesta Noite(今宵楽しく)』という黄色いアルバムだった。
このアルバムの特に中盤、「Choro Das Aguas」や「Maos De Afeto」、「Aparecida」など、どこまでも美しい曲が彼の真骨頂と言えるだろう。
僕は、イヴァン・リンスを聴いたりして、今、巷に溢れているようなポップスとはもっと別のポップスが作り得るんじゃないか、などと思ったりしたものだった。
イヴァン・リンスの傑作をもう1枚挙げるならば、74年の『Modo Livre』になる。
1970年頃のミルトン・ナシメントのバック・バンド、ソン・イマジナリオから3人のメンバーが参加しており、そこも、このアルバムの魅力となっている。
このアルバムでもゆったりとした綺麗な曲に耳が行く。
特に、「Espero」や「Avarandado」などで聴けるヴァグネル・チゾのオルガン・プレイは個性的で、且つ魅力的である。
また、「Abre Alas」や「Espero」のイントロなんかは、ヴァグネルのアイディアかと思うような、いかにもミナスな響きをしている。
個人的には、上述の「Espero」や「Avarandado」、それに「Tens」などのスローな曲に惹かれるが、このアルバムは、「Essa Mare」や「Deixa Eu Dizer」、「Abre Alas」などの力強いナンバーも人気がある。
このアルバムは、前述の『Somos Todos Iguais Nesta Noite』以上にポップな楽曲が並び、最初の1枚としては、こちらの方が良いのかも知れない。