【HMV インタビュー】 石橋英子

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2011年1月1日 (土)

interview

インタビュー 石橋英子

各所から絶賛を浴びた前作『drifting devil』発表後、真に注目されるミュージシャンとなった石橋英子。待望の新作はジム・オルークのプロデュースによる、彼女のすばらしき才能が溢れ出した最上級のポップアルバム!

--- 前作『drifting devil』以来、約2年ぶりのアルバム『carapace』の完成おめでとうございます。完成した率直な感想をお願いします。

うれしいです。でも私一人ではこの作品を作れませんでした。長い間このアルバムに力を注いでくださったジム・オルークさんはじめ、いつも私の音楽をあらゆる形で支えてくださっているドラムの山本達久さん、エレクトリックバイオリンの勝井祐二さん、初めてお会いするにも関わらず、曲を理解して完ぺきな演奏をしてくださった、バイオリンの波多野敦子さんや、フレンチホルンの吉野章子さん、一曲の素敵な歌詞を考えてくださったビッケさん、素晴らしいカバーを作って下さった写真家の澁谷征司さん、デザイナーの木村豊さん、いつも良い音楽を聞かせてくれる辰乃屋の店長とスカイバーのずしさん、いつも励ましてくださった七尾旅人さん、たくさんの友人に感謝いたします。

--- タイトルが『carapace』。日本語で“甲羅”という意味があると思いますが、このタイトルにこめられた思いとはどのようなものでしょう?

亀の甲羅から永遠を感じるのです。亀はどんな時間も場所も行き来して人間が乗り越えたくても物理的には乗り越えられないものを持ってるイメージがあります。
そういった永遠性と同時に自分自身を守る役割としての甲羅という意味も、もちろんタイトルにつながっています。
ても、結構レコーディングの間はこもっていましたので、甲羅の内側にむしろ自分の景色が広がっていて、外側をより混沌として掴みきれないものとして感じていました。
甲羅は人それぞれの天蓋だと思ったのです。

--- 前作に増して“歌”への比重が大きくなっているように感じます。“歌うということ”に対して何か意識の変化はありますか?

歌うことは今でも苦手です。でも、ジムさんとの作業の中でリズムや拍子に関しての致命的な自分の弱点を知ってから、歌に対しての意識は少し変わりました。
まだ恥ずかしいので、それが一番の問題かもしれませんが。

--- アルバム全体を通して、ストーリーを想起させる作品のように感じます。コンセプト・テーマのようなものはあったのでしょうか?

いつも、コンセプトは特に設定しません。ただ、私は曲や歌詞の作り貯めみたいなことをせず、その時ダメだと思ったアイデアや歌詞は容赦なく捨てて、二度と復活することはないので、その時に現わしたい"何か"については厳密になり、統一感が出てるのかもしれません。

--- ジム・オルークをプロデューサーに迎えて制作されたとの事ですが、その制作はどのようなものでしたか?

ベーシック2日間、オーバーダビング一ヶ月半とかなり長い間のレコーディングでしたが、ジムさんと2人での作業が多く、毎日が新鮮な驚きに満ちていました。
たとえば、ドラムは私がバスドラとハイハット、ジムさんがスネア、とそんな感じでドラムのリズムを作ったり、 一音一音が曲の中で意味をもって、生き生きと息づくように曲のパーツごとに丁寧にアレンジをしていく事をジムさんから学びましたし、考える時間をたくさんくれました。
本当はジムさんが思いついたことをどんどんやって行ったほうが早かったと思うのですが、辛抱づよく付き合ってくださいました。ジムさんの音楽への眼差しは祈りに満ちていて、音楽に身を捧げているような感じでした。
演奏者としてもプロデューサーとしても厳密だけど、全くエゴがないのです。
私ももっと自分に厳しくならなくてはと本当に思いました。

--- 英子さんから見たジム・オルークとはどのような人でしょうか?

繊細だけどガッツがあって、パンクで努力家だと思います。
音楽家としてのキャリアも長く、やっている音楽も即興、実験音楽、電子音楽、歌もの、映画音楽などなどと幅広く、世界的に素晴らしい演奏家、作曲家、プロデューサー、エンジニアであるにも関わらず、それをひけらかさず腰が低くいつも丁寧で、ユーモアに溢れていて、一緒に呑んでいていつも楽しい。
ご自分に厳しい。常に音楽のアイデアがたくさんあって、常に高い基準がある。でも表にでてくる音はすごくさり気なく、ご自分を宣伝しないので、過小評価されていると感じます。

--- 七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一ら多くのミュージシャンの作品・ライブにて演奏家・プロデューサーとしても活躍されていますが、それらの活動は自身の作品にどのように影響していますか?

素晴らしい歌い手の方たちに出会えて、本当に恵まれています。皆さんは歌手として、ステージにたつと不思議な光を放ちます。いつもその光に守られ演奏しているので、私も楽器を使って歌うことができるのです。そういう経験から、自分のメロディを知らず知らずのうちに見つけているかもしれません。

--- アルバムの中で、特に思い入れの強い楽曲を3曲あげて頂き、楽曲解説をお願いします。

Rythm
この曲は本当に作った記憶がほとんどない、というのは嘘ですが、あっという間にできあがりました。ある友人の事を強く思いながら作りました。録音はジムさんのアイデアで歌とピアノを一発どりすることにしました。録音した直後コントロールブースに戻ったらジムさんが泣いていました。

Face
テンポがぐんにゃりと変わりあらゆる景色が交錯する感じが自分にとってはすごく自然です。

Hum
この曲はアルバムの中では最後にできた曲です。
このドラムのジムさんのスネアとベースは本当に大好きです。
実はこの曲は簡単に見えて演奏は1番むずかしいです。
歌詞はこのアルバムの中では一番ある意味わかりやすい内容ではないかと。

--- 2010年は英子さんにとってどのような年でしたか?

今年はtwitterやustreamなどで音楽の世界でも新しい動きがあって、自分もその中に入っていきました。それらのおかげで素晴らしい出来事もあったし、今でも使い方によってはすごくいい動きだと思っています。 でも、私も含め皆が自分のことを宣伝すればするほど、宣伝しない人の事が気になってしょうがないのです。
まだ、埋もれている天才がどこかにいるはずだと思うのです。声を大にしなくても、本物は残っていく事を信じたいという気持ちがかえって生まれました。誰にも知られなくても、評価されなくても、そういう作品を作った人はたくさんいると思うし、私も本物の作品を死ぬまでに一度は自分一人でじっくり作ってみたい、と思います。

--- 最後に今後の予定を聞かせて下さい。

1/8に東京で、3/5が名古屋、3/6に京都でレコ発があります。
1/8は弾き語りで、七尾旅人さんをゲストにお呼びしています。2人で演奏することも考えています。久しぶりの共演、本当に楽しみです。
あとの公演は、ジム・オルークさんと須藤俊明さんと山本達久さんという素晴らしい演奏家との四人のバンド編成で演奏します。

新譜『carapace』 石橋英子
音、そして声が、暗闇、光、あらゆる風景を呼び起こす。
鼓動を打つ、生命のメロディ。

七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一を始め、高くその音楽性が評価されているミュージシャンの作品/ライブにて演奏家、プロデューサーとして活躍。また、年間100本以上のライブや2度のヨーロッパ・ツアー、フジロック出演など、活動の幅を飛躍的に広げているアーティスト石橋英子。七尾旅人や山本精一などが参加し、音楽誌で年間ベストに選ばれるなど、絶賛と共にロングセラーとなっている前作『drifting devil』以来、待ち望まれた約2年ぶりの新作が完成。その稀有な作曲センスはさらに磨きがかかっており、云わば、極限まで美しいバレエ音楽にも成りえる、奇跡のポップ・ミュージック。ジャンルや国境をも簡単に飛び越えて、永きに渡り愛されるであろう、名作の誕生。

近年、共演も多く、彼女の才能を認める仲間の一人でもあるジム・オルークをプロデューサーに迎え制作された本作。ジムはプロデュースのみならず、録音・ミックス・演奏に渡り全面参加している。また、石橋英子には欠かせないパートナーであり、今や最注目のドラマー山本達久をはじめ、管弦楽器でROVOの勝井祐二、波多野敦子、吉野章子らがゲスト参加。1曲はbikke(Lovejoy)との歌詞共作となっている。写真家の澁谷征司、デザイナーの木村豊(Central67)によるジャケット/アートワークも必見。パッケージも含めた一つの作品として手にとってもらいたい。

    商品ページへ

     石橋英子
    『carapace』

    2011年1月6日発売

    音、そして声が、暗闇、光、あらゆる風景を呼び起こす。
    鼓動を打つ、生命のメロディ。

    七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一を始め、高くその音楽性が評価されているミュージシャンの作品/ライブにて演奏家、プロデューサーとして活躍。また、年間100本以上のライブや2度のヨーロッパ・ツアー、フジロック出演など、活動の幅を飛躍的に広げているアーティスト石橋英子。七尾旅人や山本精一などが参加し、音楽誌で年間ベストに選ばれるなど、絶賛と共にロングセラーとなっている前作『drifting devil』以来、待ち望まれた約2年ぶりの新作が完成。その稀有な作曲センスはさらに磨きがかかっており、云わば、極限まで美しいバレエ音楽にも成りえる、奇跡のポップ・ミュージック。ジャンルや国境をも簡単に飛び越えて、永きに渡り愛されるであろう、名作の誕生。

    近年、共演も多く、彼女の才能を認める仲間の一人でもあるジム・オルークをプロデューサーに迎え制作された本作。ジムはプロデュースのみならず、録音・ミックス・演奏に渡り全面参加している。また、石橋英子には欠かせないパートナーであり、今や最注目のドラマー山本達久をはじめ、管弦楽器でROVOの勝井祐二、波多野敦子、吉野章子らがゲスト参加。1曲はbikke(Lovejoy)との歌詞共作となっている。写真家の澁谷征司、デザイナーの木村豊(Central67)によるジャケット/アートワークも必見。パッケージも含めた一つの作品として手にとってもらいたい。

    【プロデュース/ 録音/ ミックス】
    ジム・オルーク
    【参加アーティスト】
    ジム・オルーク(ギター、ベース、クラリネット etc) /山本達久(ドラム)/勝井佑二(エレクトリック・ヴァイオリン)/波多野敦子(ヴァイオリン)/吉野章子(ホルン)

    【七尾旅人『carapace』コメント】
    石橋英子さんほど不思議なミュージシャンは居ない。
    創造性に満ちたドラマーでありピアニストであり、アンダーグラウンドの音楽家たちを国境を越えて出会わせ結びつける優れたオーガナイザーでもあるが、まず何よりも今彼女はこの国最高のシンガーソングライターなのだ。今年「emptyshout」を聴くことができた意味は大きい。この星をおおう無数の小さな叫びがまるで結晶のように歌化され眼前にある。どのような力学が私たちを生き延びさせたのだろう。10年代初頭、久方ぶりの高揚があった。新たな音楽たちの胎動があった。実りにあふれていた。だけど何かが足りなかった。甲羅。夢見る甲羅。よく熟れた熟れ過ぎた惑星の薄皮。白い骨。誰もいなくなってしまった家。時代の中で放置されたままの巨大な真空のなきがらに音楽を注ぎ込もうとしたのは、ただ英子さんだけだったのでは。これからも音楽が、歌が、誰一人見殺しにしませんように。永遠に。このような作品が存在することに感謝します。

    [収録曲]
    1. coda
    2. shortcircuit
    3. rythm
    4. splash
    5. shadow
    6. emptyshout
    7. face
    8. hum


【石橋英子 profile】
茂原市出身の音楽家。大学時代よりドラマーとして活動を開始し、いくつかのバンドで活動。映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、2枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一の作品に参加。