【対談】中島ノブユキ×畠山美由紀 pt.2
Tuesday, October 5th 2010
出来上がりつつある作品に向かって行って初めて気付く
- -- 実際の製作期間っていうのは、どのぐらいだったんですか?
中島 いつぐらいだろう…作るぞ〜っていう第一声は、今年のまだ寒い時期だったかな?
畠山 今作は、曲は書き溜めてたモノもあるんですか?
中島 えっとね、アルバムに入れようと思ってたっていうよりかは、「プレリュード」と「フーガ」っていうピアノソロの曲集を、自分の連作として作ってて。それは全部完成すると48曲になるモノなんだけど、そのためにずっと書き溜めてたの。それを「じゃあ今日は北村君がいるからバンドネオンとピアノでやろうか」とかそんな風に、自然にそういうアンサンブルとして演奏する機会がいろんなところであったのね。
で、そういう曲集の中からもリアレンジしてアルバムに入れたら面白いかな、とかだんだん思うようになって。 もちろん何曲かはアルバムのために書き下ろした曲もありますね。- -- アルバムのテーマは「時の循環」ということですが、この意味というのは?
中島 これもね、自分が何かを作る時はいつもそうなんだけど、「こういうコンセプトを提示しよう」とか 「こういう世界観を作ろう」とかっていう風には思わないのね。 むしろ、出来上がりつつある作品に自分が向かって行って、初めてそういうことに気付くことも多くて。
この「時間」ってことであれば、例えば「プレリュード」にしても「フーガ」にしても、時間というものが色濃く反映されている音楽のスタイルなのね。 「フーガ」は1つの旋律が繰り返されていくんだけど、いつも違う響きを纏って(まとって)立ち表れてくる。 調が変わり響きが変わり…だけど基本的には最初に提示される同じテーマだけが1つの曲の中で繰り返されている、というスタイルの曲なのね。 それもある意味では、時間が流れるにしたがって何かが変化していくっていう音楽だし、 その対になる形で置かれている「プレリュード」っていうモノは、比較的自由なスタイルの音楽ではあるんだけども、これも実は「フーガ」のテーマが先行してちょっと鳴らされていたりっていうこともあるわけ。 プレリュードとフーガっていうのはそもそもそういう時間という概念が埋め込まれている音楽なんだよね。
畠山 でもあれですね、例えば決まったメロディーがその人そのものだとすると、時間が経つにつれて色合いや響きが変わる、っていうのは「人生そのもの」っていう感じもしますね。
中島 そうだね。例えば同じ本を読むにしても、10代のころ読むのと30代・40代で読むのでは違うしね。
畠山 決して同じではないもんね。
中島 その「同じものを繰り返す」っていうことのどこかその…気取って言うと「悲しさ」とか(笑)、 そういったモノがこの『メランコリア』って作品の中に息づいてるんだな、って途中から気が付いたのね。
あと「忘れかけた面影」って曲があるんだけど、この曲がまだ曲として完成してない時に、断片だけをチラチラ弾くってことをライヴでやったことがあって。で、その時はまだ「津軽路プロトタイプ」と呼ばれてる曲だったの(笑)。元々は『人間失格』っていう映画のサントラを作った時に何曲か作ったスケッチの内の1つで、 僕はすごく気に入ってたんだけど、映画には合わないなと思ってほったらかしにしてたの。 それを弾いてみたら、山上君が「すごく印象に残った」と。
で、今回のアルバムの選曲をしてる時、僕はあの曲のことを“忘れかけた”どころか“忘れ去って”しまっていたのね(笑)。それで、レパートリーを決める時に「あれ?あの曲なくなってる」ってことになって。 で、実際弾き直してみたら「これが入ると引き締まるかもな」って思い直して曲を完成させたんだよね。 で、バンドネオンの北村君に「なんかコレ聴くとアルゼンチンの路地を思い出すんですよね」って言われて。 それでこの曲は“人の何かを呼び起こす”ような、“時間を遡らせる”ような世界があるのかと思ってね。
畠山 ありますね。何か立ち昇ってきたもん、それこそ忘れかけた失われた時が。 胸が締め付けられる感じっていうか…「タララ〜ラ」って石畳の上を歩くヒロインみたいな(笑)。 すごいドラマチックでもあるしノスタルジックでもあるし…、でもそれだけではない情熱的なモノも感じますしね。
音って見えないし、録音は出来るけど、聴いたその瞬間に終わっていくじゃないですか。 その情景を音で作っていく、っていうのはすごく微妙な作業だよね。- -- 聴く人によっても違いますしね。最終的な再生装置はその人その人の脳ですし。
中島 そうなんですよ。
畠山 コミットしてくる作品ですよね。中島さんの作る風景が、自分の人生にもすごく及ぼすモノがある、っていうか。
中島 あ〜嬉しいねぇ。でも、ピアノソロのように完全に自分1人だけで作業したモノじゃなくて…、 演奏してくれているみんなとか、美由紀ちゃんとかの…僕の知らない“その旋律の歌い方”とか、 そういったその人のスタイルとかが重なった時に、自分にとっても衝撃的というか、新しい感情が生まれたりもするのね。やっぱりそういうことがレコーディングとかリハーサルの楽しさとか意味だったりするよね。
畠山 そうですよね。
中島 あと、例えばバンドネオンにしてもチェロにしても、アンサンブルの一員としては低音を弾いたりっていうこともあるけど、どんな楽器に限らず“旋律楽器”として音楽に参加して欲しい、っていう気持ちが僕にはあって。それはパーカッションとかでもそうなのね。ドラムとかもリズムを支えるだけではなくって、その音楽の中の旋律の一部、っていう風に作りたいなっていうのが理想なのね。
畠山 譜面に書ききれないモノがありますもんね。
中島 そう。それが室内楽っていう形態の面白さだと思うんだよね。これがオーケストラとか大きな編成になっちゃうと、どちらかというと個々の個性っていうよりかは、その「いわゆるオーケストラのサウンド」に収まってしまうんだけど。そういう室内楽的な音色の重なり方の面白さをこれまでのアルバムを通じて、研究…じゃないけど推し進めているんだよね。これはでも、まだ全然自分の中でも答えはなくて、先に進める余地はまだまだあると思ってるんだけどね。
畠山 ちょうどこの1週間、山陰地方をport of notesでLiveに行ってて。でその移動の車の中で中島さんの作品をずっと聴いてたんですよ。夕方ぐらいだったのかな?すごい山道を走ってたんだけど、「極上の空間にいるよね」ってその時みんなで言ってて。おかげで忘れられない旅になりました(笑)。
中島 嬉しいね〜(笑)。このアルバムを録音する時、一番最初のアイデアは「北海道で録ろう」ってことを言ってたんですよ。僕は天邪鬼なとこがあるから、北海道で録ってたらどんな風になってたか分からないね。どっちがどうってことじゃなく。
畠山 そういう意味では真逆でしたね。都内の地下にあるスタジオで録ってたもんね。あの音楽の雰囲気からは想像出来ないような深〜い地下でしたもん。
中島 聴いてるとナチュラルな印象になるかもしれないんだけどね。
畠山 「地下から外界に向かう希求心」みたいなモノが無意識にあったような気もするんだよね。- -- ああ、地下だからこそっていう。
中島 確かにそうかもね〜。
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中島ノブユキ /
メランコリア
2010年10月06日発売
1st『エテパルマ 〜夏の印象〜』(06) 、2nd『パッサカイユ』(07)の2枚のソロ・アルバムや、幾多のアーティストに提供してきたアレンジ・ワークスで、幅広いファン層はもとより音楽関係者からも高い評価を獲得。映画《人間失格》の音楽を担当した事で、更にその動向に注目が集まるピアニスト / 作編曲家、中島ノブユキの待望の3rdアルバム。多岐にわたる音楽的造詣に根ざしたオリジナル楽曲に加え、クラシック、ボサノヴァ、アイリッシュ・トラッド、オールド・スタイルなジャズなど、多彩な名曲の数々を独自の視点で取り上げ、彼の音楽に共鳴する豪華なゲスト陣(畠山美由紀、伊藤ゴロー、高田漣、北村聡など)と共に、エレガントなアレンジメントとアンサンブルにより、情感溢れる美しい世界を描き出している。
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- パッサカイユ
中島ノブユキ - 2007年10月17日発売
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- エテパルマ
中島ノブユキ - 2006年07月26日発売
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- 人間失格
Original Soundtrack - 2010年02月10日発売
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- Chronicle 2001-2009
畠山美由紀 - 2009年06月24日発売
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- Luminous Halo
Port Of Notes - 2009年11月04日発売
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- Live at Liquidroom
Port Of Notes - 2009年01月30日発売
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中島ノブユキ [Nobuyuki Nakajima]
東京とパリで作曲法 / 管弦楽法を学ぶ。ピアニストとしては勿論の事、時に作・編曲家として多種多様な音楽的造詣に根ざしたエレガントかつスリリングなアンサンブルを構築。菊地成孔 諸作品に作/編曲、ゴンチチ、高木正勝、畠山美由紀、沖仁らの作品に編曲等で携わる。ソロアルバムとしては『エテパルマ〜夏の印象〜』(06)『パッサカイユ』(07)をEWEより発表。また2010年2月公開の映画「人間失格」の音楽を担当した。2010年8月にはタップダンサー熊谷和徳氏と東京フィルハーモニー交響楽団が共演する「REVOLUCION」へ音楽監修/編曲/ピアニストとして参加。また3年振りにして3作目のソロアルバムとなる『メランコリア』を10月6日、SPIRAL RECORDSよりリリース。

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畠山美由紀 [Miyuki Hatakeyama]
“Port of Notes”や “Double Famous”のヴォーカリストとして活躍する中、’01年、シングル「輝く月が照らす夜」でソロ・デビュー。唯一無二の透明感溢れる歌声と圧倒的な存在感は、音楽シーンの中で確固たる地位を築いている。ヴォーカリストとして、他アーティストの作品、トリビュート・アルバム、映画音楽等の参加や、ジャズアルバムの選曲も行う。‘09年、長澤まさみ主演映画「群青 青が沈んだ海の色」にて、主題歌を担当。同年6月、初のソロ・ベスト・アルバム『CHRONICLE 2001-2009』(主題歌「星が咲いたよ」収録)を発売。その後、Port of Notesの活動を本格始動。11月には、全曲NY録音、ジェシー・ハリスプロデュースによる約5年振りのオリジナル・アルバム『Luminous Halo 〜燦然と輝く光彩〜』を発売し、全国ツアーを開催する。‘10年は、畠山美由紀、Port of Notesのライブを、全国各地にてゆるやかに遂行中。
- 関連サイト(外部サイト)
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【中島ノブユキ】
中島ノブユキ『メランコリア』リリース記念パーティー
《同時開催》"メランコリア" ジャケット原画のアーティスト・
平体文枝 展覧会 『絵と音 - Eto Oto』
2010/10/7(木)@フクモリ
open : 19:00/close : 22:00
※ 20:00〜 中島ノブユキによる演奏(20分程度の演奏予定)
※イベント詳細 : http://fuku-mori.jp/
【畠山美由紀】
11月26日「畠山美由紀 Live”Fragile”」
@キリスト品川教会グローリア・チャペル ※チケット即日完売!
12月19日「Port of Notes “まちのおと” ツアー」
@丸の内・COTTONCLUB(http://www.cottonclubjapan.co.jp/)
