【特集】 前田憲男の世界

2010年8月14日 (土)


前田憲男

 
 〈Deep Jazz Reality〉シリーズのコンピレーション『Groovy Indeed! テイチク / ユニオン編』からのスピン・オフ・リイシュー! 『円楽のプレイボーイ講座12章』や、猪俣猛、稲垣次郎らのジャズ・ロック諸作への参加及びアレンジで知られる天才アレンジャー/ピアニスト、前田憲男が民謡を極上のジャズ・ロックに料理した1970年作品。ついにオリジナル紙ジャケ復刻(見開き仕様)にて世界初CD化!

 
ロック・コミュニケーション 〜八木節
 
前田憲男
 ロック・コミュニケーション 〜八木節
 クリンク CRCD5020 2010年8月20日発売 紙ジャケット
 “常に前進する男” 前田憲男の神懸かり的な編曲と猪俣猛(ds)の叩き出すグルーヴ、鈴木重男(as,fl,cl)、杉本喜代志(g)らのアドリブが最高にスリリングな化学反応を起こす『和ジャズ・ディスク・ガイド』掲載盤にして、 ”民謡グルーヴもの” の最高峰。 レアグルーヴ・ディガー〜カンタベリー系ジャズ・ロック狂も目からウロコのかっこよさ!





前田憲男 「ソーラン節」収録のテイチク / ユニオン音源所蔵コンピ

 
Groovy Indeed! テイチク / ユニオン編
 
Various
 Groovy Indeed! テイチク / ユニオン編
 Pヴァイン PCD7312 2009年12月2日発売
 〈Deep Jazz Reality〉初のコンピレーション『Groovy Indeed !』。『和ジャズ・ディスク・ガイド』の著者でもある尾川雄介氏が監修・選曲した和ジャズ・コンピレーション。和ジャズ黎明期から秀作をリリースしてきた燻し銀レーベル=テイチク。そのラインナップから、隠れた名盤の宝庫として注目される1970年代の音源を中心にセレクトしている。





我が国で生まれた至高のジャズを一挙紹介

 
和ジャズ・ディスク・ガイド
 
塙耕記 / 尾川雄介
 和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s
 リットー・ミュージック 2009年8月発売
 昨今続々とCD化が進み、注目を集めている我が国のジャズ作品。そのレア度ゆえ今まで聴かれる機会の少なかった作品が知れわたるごとに、日本ならではの独特の味わいと欧米モノに劣らぬクオリティが、コレクターやDJのみならず、一般のリスナーにも衝撃を与えている。本書はそれら「和ジャズ」として再評価著しい作品を網羅した初のガイド・ブック。約400枚におよぶディスク・レヴューに加え、アーティスト・インタヴュー、当時の熱気を伝える貴重な写真、そしてマニア垂涎の巻頭「帯付レコード・ギャラリー」など、和ジャズの魅力をあますことなく伝える決定的な1冊。



 決定版! これぞジャズ・ロック
決定版! これぞジャズ ロック    前田憲男=稲垣次郎オールスターズによる1968年9月録音作品。前田の黒いフィーリングのハモンド・オルガンと、稲垣の逞しいテナー・サックス、さらには、杉本喜代志のエキサイティングなギター、猪俣猛の猪突猛進のドラミングが、一丸となって「ジャズとロックビートの迎合時代」を高らかに宣言する。
 円楽のプレイボーイ講座12章
円楽のプレイボーイ講座12章    女、ジャズ、モータースポーツ・・・高度経済成長期のニッポンに大量発生した深夜族たちのクールなエスプリを詰め込んだ、ジャパニーズ・ラウンジのカルト的名盤。プレイボーイになるための心構え12章を五代目・三遊亭円楽が叩き込み、合間に流れる前田憲男、沢田駿吾、日野元彦らが奏でるラウンジ・ジャズ、ジャズ・ロックに踊り、酔う。CKB 横山剣が本作を「自らのルーツ」と公言したことにより話題を呼んだことはつとに有名。谷間をちらつかせるジャケットの美女は若かりし日の松岡きっこ。

 バート・バカラックの素晴らしき世界
イージー・リスニング・ジャズ バート・バカラックの素晴らしき世界    前田憲男編曲・指揮、ケニー・スミス・オーケストラ(日本フィルの弦メンバー、スタジオ・ミュージシャン・伊集加代子参加のスリー・シンガーズ)によるラウンジーなバート・バカラック集。この時期に早くも “和製バカラック”の異名をとっていた前田が本家の世界に挑んだというだけで注目しないわけにはいかない。アフターアワーズ定番「サン・ホセへの道」、「ウォーク・オン・バイ」を収録。
 サウンドトラック / 3000キロの罠
3000キロの罠    1971年、田宮二郎主演、前田憲男音楽によるホット&クールなシネ・ビート最高峰。名車三菱ギャランGTOが駆け抜けるカー・サスペンス・シネマは、つまるところ日本版「バニシング・ポイント」。ヴィブラフォン、パーカッションを中心として前田憲男がこれまでにない新たな編成で挑んだエポックメイクな1枚。映画本編のDVDも好評発売中。

  猪俣猛・前田憲男・荒川康男 ほか / アローン・トゥゲザー
アローン・トゥゲザー    1975年にオーディオ・ラボ・レコードから発表された歴史的名盤。当時は猪俣猛が中心となり活動していたウエスト・ライナーズによる録音で、前田憲男、荒川康男、西条孝之介、原田忠幸らが参加している。
  Meets 5 Saxophones
Meets 5 Saxophones    前田憲男が、五十嵐明要(as)、J.H.コンセプション(as)、西条孝之介(ts)、三森一郎(ts)、原田忠幸(bs)、荒川康男(b)、猪俣猛(ds)を迎えたスモール・アンサンブル。オーディオ・ラボ・レコードに吹き込まれた1976年10月イイノホール音源。原信夫シャープス&フラッツを手掛けたその手腕を遺憾なく発揮したスインギーなアレンジが堪らない1枚。

 We3 / We Three Jazz
We Three Jazz    ウエスト・ライナーズに在籍していた前田憲男と猪俣猛に、ジュリアードに留学して帰ってきた実力派ベース奏者・荒川康男が加わり、1972年頃から演奏を繰り広げたトリオで、現在も定期的にコンサートを開くなど実に息の長いスーパー・トリオ=We3(ウィー・スリー)。本作は、絶妙なアンサンブルに酔いしれるスタンダード・ナンバーを中心に構成された1978年録音作。オリジナル曲「竹ブルース」を引っさげて飛び入りしたジョン海山ネプチューンの尺八の鳴き方もドープ。
 前田憲男とウインド・ブレイカーズ / ウインド・ブレイカーズ
ウインド・ブレイカーズ    1980年、全編前田自身によるオリジナルで制作した記念すべきファースト・アルバム。沢田駿吾(g)、荒川康男(b)、猪俣猛(ds)、西条孝之介(ts)、稲垣次郎(ts,fl)、数原晋(tp)、伏見哲夫(tp)、原田靖(tb)、原田忠幸(bs)といった国内屈指のプレイヤー達による安定したアンサンブルは随一。紙ジャケット Blu-spec CD。

 ウインド・ブレイカーズ / アイル・リメンバー・エイプリル
アイル・リメンバー・エイプリル    ウインド・ブレイカーズが1981年に吹き込んだスタンダード集。その後数十年も活動を続けていくことになる大型グループの基礎となった1枚。オーソドックスで飽きのこないスタイルの模範。紙ジャケット Blu-spec CD。
 ウインド・ブレイカーズ / 結成20周年ライヴ
ウインド・ブレイカーズ / 結成20周年ライヴ    2001年11月10日、シアターコクーンで行われた前田憲男&ウインド・ブレイカーズ結成20周年の記念ライブ盤。20年の歴史を凝縮した名演を多数収録。ゲストには雪村いづみが参加。

 バラーズ 〜 ビューティフル・サッドネス
バラーズ 〜 ビューティフル・サッドネス    前田憲男と稲垣次郎による双頭バラード・アルバム。唯一のオリジナルとなるタイトル曲での稲垣の哀愁漂うソロ、「時の過ぎ行くままに」での前田のソロ・ピアノなど歴史を築き上げてきた巨人たちの技に酔う。2曲で旧友・西条孝之介が参加している。インパルス・レーベルのアートワークを模したジャケットもいい。
 前田憲男&大阪市音楽団 / ブラバン! 高校サッカー2
ブラバン! 高校サッカー2    全国高校サッカー選手権大会の応援ソングをブラスバンドで演奏した『ブラバン!』シリーズの高校サッカー編第2弾。大阪が地元となる前田憲男が指揮をとり、大阪市音楽団による熱い演奏が楽しめる。

 トレジャーズ -前田憲男作品集 Vol.1
トレジャーズ -前田憲男作品集 Vol.1    前田憲男の50年以上に亘るジャズ界での貢献に敬意を払い集められた貴重な作編曲集の第1弾。原信夫とシャープス&フラッツ、宮間利之とニューハード、高橋達也と東京ユニオン、猪俣猛とザ・サードなどへ提供したオリジナル曲及びアレンジ曲、または1978年モントルー・ジャズ祭出演時(歌は中本マリ)の音源などレアなものばかりを全11曲。
 トリプルピアノ / プレイ! フェイヴァリット 〈クラシック編〉
プレイ! フェイヴァリット〈クラシック編〉は廃盤となります    前田憲男、佐藤允彦、羽田健太郎のトリプルピアノが繰り広げる三者三様の鍵盤技。大業小業が飛び出す多弁なプレイでクラシックの名曲をスイングさせる。






前田憲男の略歴・概要と関連主要ディスク


前田憲男(左)と猪俣猛
 ある人にとっては「モダンジャズ三人の会」やウエスト・ライナーズの一員として戦後日本のモダン・ジャズ・シーンの興隆を支えたピアニスト、またある人にとっては世紀の珍盤『円楽のプレイボーイ講座』を世に送り出したヒップな作編曲家、はたまたある人にとっては「ミュージックフェア」、「題名のない音楽会」などの有名TV番組のテーマ曲を手がけた巨匠・音楽監督。少なからずも日本のジャズというものに関心を示している人であれば、この「前田憲男」というジャズメンの名を様々なところで目にし、質量共に無尽蔵なるその仕事ぶりに驚かされ続けているのではないだろうか。半世紀以上に亘りジャズ界のみならず日本の音楽界をリードし続ける名ピアニスト、トップ・アレンジャー、前田憲男。その略歴を関連作品を交えながら簡単にご紹介。

 出身地・大阪府在住時代よりプロのジャズ・ピアニストとして活動を開始。元々絶対音感を持っている前田のピアノ・指揮法は、独学で習得した独自の音楽理論に基づいたものであり、2003年からは大阪芸術大学音楽学科教授に就任している。

 1955年の上京後は、沢田駿吾とダブルビーツをはじめとして、上田剛とニューサウンズ、高見健三とミッドナイトサンズなどへの参加を経て、1957年からは名門コンボ、西条孝之介とウエスト・ライナーズに在籍した前田憲男猪俣猛(ds)とのコンビはこの時期に生まれ、ここにバークリー帰りの荒川康男(b)が加わることにより、名実ともに日本を代表するトリオ、つまり、ライヴ・ハウス演奏向けに70年代前半から本格的に活動を開始するトリオ、We3(ウィースリー)の原型ができあがった。その初期には、1976年に法鷲院の遍照殿ホールで開催された僧侶との”ジャズと説教の夕べ”なるコラボレート実況録音盤『静と動 その底にいきづくもの』 、翌年の同趣旨の実況盤『仏陀声明 VS ジャズ』という異色作品も残している。1970年、サウンド・リミテッドに続く猪俣の3番目のリーダー・コンボ(ビッグバンド)で、日本初のリハーサル・バンドと言われた、猪俣猛とザ・サードでもレギュラー・ピアニストを務め、ファースト・アルバム『ジャズ・ロック・フォー・グランプリ〜インディ500マイル』、セカンド『ハレ・クリシュナ』では、全編において前田のダイナミックなアレンジを愉しむことができる。その後の90年代には、2人を中心としたオールスターズ・オーケストラ、猪俣猛とザ・キングを結成。また、話は前後するが、1964年の東京オリンピック開催時には、服部克久中村八大山本直純とともに、体操競技や開・閉会式の音楽を担当した。


 
  • ソウルを求めて

    モダンジャズ三人の会
    『ソウルを求めて』
    (1960)

    三保敬太郎、前田憲男、山屋清が結成した「モダンジャズ三人の会」が作編曲を担当、原信夫とシャープス・アンド・フラッツに渡辺貞夫、白木秀雄らが特別参加した日本モダン・ジャズ史を代表するファンキー&クールな...

 
  • すべてが狂ってる

    サウンドトラック
    『すべてが狂ってる』
    (1960)

    監督・鈴木清順、主演・川地民夫による日本ヌーベルバーグの極北。手持ちカメラと即興的ジャズの冴えた響きを取り込み、三保敬太郎、前田憲男の実験的でファンキーなジャズ・サウンドが新鮮に響く...

  • 軽井沢ミュージック・イン Vol.1&2

    V.A.
    『軽井沢ミュージック・イン』
    (1961)

    1961年、軽井沢にて豪華メンバーを集め開催された野外ライヴの全貌。Vol.1は、オールスター・ジャム・セッションの2曲。Vol.2には、前田憲男とウエスト・ライナーズをはじめ、それぞれ自己グループでの熱演を収録...

 
 
  • すべてが狂ってる

    渡辺貞夫
    『サダオ・ワタナベ・プレイズ』
    (1965)

    ナベサダがバークリー音楽院留学から帰国後の1965年に初めて録音したリーダー作。世界級の技量に支えられた品格あるアルト・サックスにはすでに唯一無二の個性が際立ち、時代の最先端をいくビ・バッパーの貫録とオーラが滲み出る...



 正統派なジャズだけにとどまらず、R&Bやジャズ・ロック、ボサノヴァ、さらにはブーガルーといった多様な音楽要素に敏感に反応した前田は、自由でレンジの広い志向性をモダンなアレンジの中に取り込む手法で、一躍ジャズ・アレンジャーとしての頭角を現しはじめていった。その才能が一気に開花した60年代半ばからは、国内のジャズ、シャンソン、ポピュラー・シンガー(弘田三枝子岸洋子ダークダックス布施明など)のステージ、レコーディングにおいて数多くのアレンジを手掛け、またそのほとんどに演奏参加を果たした。1977年には、音楽集団ティン・パン・アレーとの合作『ソウル・サンバ ホリディ・イン・ブラジル』を発表し、各方面で話題を呼んだ。加えて、ピンク・レディーのコンサートにおける編曲を、1976年の彼女たちのデビュー以来手掛けてきたことでも知られ、こうしたクロスオーヴァーな活動こそが前田の真骨頂とも言え、その軽妙洒脱な天性のアレンジ力はジャンルの垣根を越えて広く発揮されていった。

 60年代半ば〜後半における日本のモダン・ジャズ(ファンキー・ジャズ)・シーンは、洋楽ロックや国内ムード歌謡の出現と、それに伴うナイトクラブからのジャズメンの一斉締め出しなどが行われたこともあり、一様に”低迷期”とされていた。しかしながら、その時期に前田が残したリーダー・アルバムは、「傑作に値」と称賛されるものがほとんどで、モーダルなピアノトリオ・アルバム『アルファ・レイ』 (1967年)をはじめ、当時ソウル・メディアのリーダー/サックス奏者だった稲垣次郎と結成した異色の双頭グループ、前田憲男=稲垣次郎オールスターズ『決定盤!これぞジャズ・ロック』 (1968年)、ダブルビーツ時代の同僚・五十嵐明要(as)や同じくウエスト・ライナーズ時代から旧知の西条孝之介(ts)ら5人のサックス奏者を擁したファイヴ・サクソフォーンの諸作品、さらには、前田を中心に松本英彦(ts)、沢田駿吾(g)、菊地雅章(p)、ジョージ大塚(ds)ら豪華メンバーがユニオン/テイチクに吹き込んだ『エキサイティング・ジャズ・スピリット』(1968年)など、軽快なタッチのピアノ演奏はもとより編曲センスが随所に光る名品を次々に作り上げている。前田が作・編曲を手掛け、1969年11月に行われた見砂直照と東京キューバン・ボーイズの20周年記念リサイタルは、第25回芸術祭「大衆芸能部門」を受賞し、『黒い太陽』、『あがらうざ組曲』として作品化された。


 
  • ロジャース作品集

    原信夫とシャープス・アンド・フラッツ『ロジャース作品集』
    (1967)

    前田憲男の編曲によるシャープスのリチャード・ロジャース作品集。5拍子でスイングする「ブルー・ルーム」、高速テンポに乗るアンサンブルの音圧が見事な「レディ・イズ・ア・トランプ」、ファンキーに弾む「ゾウ・スウェル」など熱い演奏が並ぶ...

 
 
 
  • 琴セバスチャン・バッハ大全集

    沢井忠夫 / 山本邦山
    『琴セバスチャン・バッハ大全集』
    (1969 / 70)

    純邦楽器の沢井忠夫(琴)、沢井和江(琴)、山本邦山(尺八)が中心となり、前田憲男(編曲)、中牟札貞則(g)、滝本達郎(b)、猪俣猛(ds)等日本ジャズ界の名士たちと取り組んだ革新的な「バッハ名曲プロジェクト」。69年第1弾と70年第2弾をカップリング...

  • プレイボーイのテーマ

    原田忠幸
    『プレイボーイのテーマ』
    (1968)

    バリサク奏者、原田忠幸がタクト・レーベルに残した60年代のポピュラー・ヒッツ曲集。演奏陣には、前田憲男(p,arr)をはじめ、猪俣猛(ds)、中牟礼貞則(g)、伏見哲夫(tp)といった馴染み深い顔ぶれに今田勝(p)も参加。イージー・リスニング風のポップなタッチのアレンジと演奏で楽しませる...

 
 
  • 自動車野郎

    見砂直照と東京キューバン・ボーイズ『自動車野郎』(1972)

    東京キューバンボーイズがサンタナ、シカゴのヒット曲をファンキーにカヴァーしたレアグルーヴ感たっぷりのパーティー・アルバム。エキゾースト・ノート(自動車の排気音)が曲間に挿入されて臨場感を煽る...

  • ヒット&ヒット・ボサ・ノバ

    沢田駿吾
    『ヒット&ヒット・ボサ・ノバ』
    (1968)

    当時人気絶頂にあった沢田駿吾(g)と、テナー奏者・村岡健による1968年オールスターズ録音盤。ピアノに徳山陽一、さらにヴィブラフォンには前田憲男を迎え、タイガース、テンプターズ、黛ジュン、伊東ゆかり、筒美京平らのヒット・ソングを痛快にカヴァー...

 
  • フール・オン・ザ・ヒル

    沢田駿吾
    『フール・オン・ザ・ヒル』
    (1969)

    当時脂の乗り切っていた沢田駿吾による1969年録音作。前田憲男(p,org)、佐藤允彦(p)、荒川康男(b)、猪俣猛(ds)らまさにオールスターといった顔ぶれでおくる名品。曲によっては前田と佐藤が編曲したブラス・セクションが加わる豪華な1枚。伊集加代子のスキャットが光るタイトル曲が人気...

 
  • Go Go Scat -恋のフーガ

    伊集加代子/沢田駿吾グループ
    『Go Go Scat -恋のフーガ』
    (1968)

    セルジオ・メンデス、ビートルズ、ザ・ピーナッツなど1968年当時の最新ヒット曲を、スキャットの女王・伊集加代子とボッサ・ギターの名手・沢田駿吾らが巧みに料理。前田憲男によるアレンジの妙も聴きどころ。お色気ジャケットも◎...

  • パースペクティブ

    宮間利之とニューハード
    『パースペクティブ』
    (1969)

    日本のビッグバンド史上最も歴史が古く、海外の著名なジャズ祭の出演を通じて国際的にも高い評価を得ている宮間利之率いるニューハード・オーケストラの1969年作品。前田憲男によるアレンジで初めてビッグバンド演奏されたチャーリー・ミンガスの「直立猿人」が圧巻...

 
  • ミュージカル・プレイ・イン・ジャズ

    宮沢昭
    『ミュージカル・プレイ・イン・ジャズ』
    (1969)

    松本英彦と並ぶ日本モダン・テナーの最高峰・宮沢昭のカルテットが、「キャバレー」、「一晩中踊れたら」といったミュージカルの名曲を軽快なストレート・アヘッド・ジャズに仕上げた大傑作にして超コレクターズ・アイテム。前田憲男は繊細なピアノに加え、秀逸なアレンジを施し本作を名盤たるものに仕立てあげている...

 
  • イン・トウキョウ

    ヘレン・メリル
    『イン・トウキョウ』
    (1963)

    『イン・トウキョウ』、『シングス・フォーク』、日本びいきのヘレン・メリルの2枚の1963年日本制作盤をカップリングしたもの。前者は猪俣猛とウエスト・ライナーズとの共演盤で、前田憲男が編曲とピアノ、さらには稲垣次郎がテナーで参加している。後者は山本邦山オールスターズとの共演盤となる...

  • 日本民謡を唄う

    弘田三枝子
    『日本民謡を唄う』
    (1963)

    1963年、初のジャズ作品集『スタンダードを唄う』に続いて制作されたアルバムで、前田憲男の手掛けたグルーヴィなアレンジが、ジャズと日本民謡の相性の良さをさらに強めている。当時飛ぶ鳥を落とす勢いにあったミコ。この3年後には、日本人ジャズ歌手として初めてニューポート・ジャズ祭に出演することとなる...

 
  • 「僕だって歌いたい」は廃盤となります。

    浜口庫之助
    『僕だって歌いたい』 (1967)

    伊集加代子のスキャットを盛り込んだ、ハマクラの極上スタンダード&カヴァー曲集。「マシュ・ケ・ナダ」を筆頭として、本人のラテン好きを反映するかの如くその手の情緒がたっぷり漂う佳曲揃い。前田憲男、沢田駿吾、山屋清のアレンジもキレまくり...

 
  • 「ソング・フォー・ユー」は廃盤となります。

    マーサ三宅
    『ソング・フォー・ユー』 (1975)

    前半にポップ・ソングを、後半にジャズ・スタンダードを首尾よく並べ、ヴァーサタイルな魅力をアピールしたマーサ三宅の1975年作品。流麗なストリングスや表情豊かなホーンなど前田憲男のアレンジが随所に光る...

  • 「リザレクション」は廃盤となります。

    西条孝之介
    『リザレクション』 (1974)

    “日本のスタン・ゲッツ” 西条孝之介の1974年録音のワンホーン・アルバム。前田憲男(p)、荒川康男(b)、猪俣猛(ds)らウエスト・ライナーズの盟友をバックに、ときにペッパーの如きアグレッシヴな咆哮を聴かせる...

 
  • 「ソウル・サンバ」は廃盤となります。

    前田憲男とティン・パン・アレー
    『ソウル・サンバ』 (1977)

    ルイス・ボンファ、ジョビン、ジョルジ・ベン、マルコス・ヴァーリ、エドゥ・ロボらのサンバ、ボサノヴァ名曲群を、前田憲男の酒脱たアレンジとティン・パン・アレーの都会的でグルーヴィな演奏でおくる「和製ブラジリアン・サウンド」の見本市。エドゥ・ロボ名曲「Reza」のカヴァーが白眉...

 
  • We Are Sexy

    ピンク・レディー
    『We Are Sexy』
    (1979)

    デビュー以来前田憲男が編曲を手掛けていたピンク・レディーのコンサート。そこでも定番レパートリーであった洋楽ヒット曲をあらためて録音した通算5作目となるカヴァー・アルバム。ここでも「Kiss In The Dark」以外のアレンジを前田が手掛けている...




 一方で、70年代からは多くのテレビ番組のテーマ音楽を手がけることとなった。1975年からNTV番組にレギュラー出演し、大橋巨泉とユニークなトークを展開し、お茶の間で人気を博した。これをきっかけとし、1977年からは、TBS「サウンドインS」の音楽監督をはじめ、テレビ東京「ポップス倶楽部」、フジTV「ミュージックフェア」、NHK「ザッツ・ミュージック」、テレビ朝日「題名のない音楽会」等の音楽を担当し今日までに至っている。特に、テレビ番組で競演した大橋巨泉とは親交も深く、「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」、「世界まるごとHOWマッチ」、「ギミア・ぶれいく」といった大橋出演の番組テーマ音楽を多く手掛けていた。

 1980年、西条孝之介(ts)、稲垣次郎(ds)、原田忠幸(bs)ら日本最高のジャズメンを集めた、前田憲男とウインドブレイカーズを結成。このビッグコンボは、結成来不動のメンバーで今年活動30周年を迎え、1980年リリースのデビュー・アルバム『ウインド・ブレイカーズ』、1981年のセカンド・アルバム『アイル・リメンバー・エイプリル』がそれぞれ紙ジャケ高音質Blu-spec CDとしてめでたく初CD化されている。そのレパートリーは、スタンダード、ジャズ、ウエストコースト・ジャズに加え、ポップスやクラシックまでと幅広く、全曲前田憲男がアレンジを担当し、そのサウンドは個々のソロ、アンサンブルの両面を重視したものとなっている。


  • 「アドリブ」は廃盤となります。

    石黒ケイ
    『アドリブ』 (1980)

    1977年に筒美京平プロデュースの「恋人時間」でデビューした本牧出身のブルース・ロック系シンガー、石黒ケイ。アート・ペッパーをはじめ海外の大物ジャズ・ミュージシャンとの競演を果たした、通算4枚目のアルバム...

 
  • Nice To Meet You!

    江利チエミ
    『Nice To Meet You!』
    (1981)

    江利チエミが1982年に発表したアルバム。旧知のカール・ジョーンズに加えて、前田憲男、山屋清がアレンジ、原信夫とシャープス&フラッツが演奏を担当し、江利の生前最後の作品に花を添えている...

 
  • クラッシャー・ジョウ〈交響組曲 音楽篇〉

    アニメ・サウンドトラック
    『クラッシャー・ジョウ』
    (1983)

    高千穂遙・原作、ガンダムの安彦良和・監督による、1983年に公開された人気アニメのサントラ作品2枚をカップリング。前者は東京交響楽団演奏による入間市民会館での録音。後者は東京フィルハーモニー交響楽団演奏によるスタジオ録音。どちらも前田憲男が音楽・指揮を担当...

  • ブルー・アイズ

    松原みき
    『ブルー・アイズ』
    (1985)

    デビュー前は米軍キャンプなどでジャズやR&Bを歌っていた松原みきが、海外のスタンダード名曲を取り上げた初のカヴァー・アルバム。全曲、前田憲男のアレンジとなっている...

 
  • ロマネスク

    宮本文昭
    『ロマネスク』
    (1985)

    現在は演奏活動から第一線を退いているオーボエ奏者宮本文昭の1985年の作品。前田憲男はピアノ、シンセで参加。ほか、猪俣猛(ds)、荒川康男(b)、中牟礼貞則(g)らジャズメンのバックに支えられ、「Round Midnight」といったジャズ・ナンバーからクラシックまでを小粋にアレンジ...

 
  • ジャジー・ウィンド

    宮本文昭
    『ジャジー・ウィンド』
    (1988)

    上掲『ロマネスク』で「ジャズ・オーボエ」という新しい領域に挑んだ宮本文昭の限りなく甘く、時に切ない音色と、前田の小気味良いピアノとが旨く融合した1988年作品。バックは『ロマネスク』と同様のカルテット...

  • 「スロー・ソングス」は廃盤となっています。

    佐野元春
    『スロー・ソングス』(1991)

    過去のアルバムから12曲を厳選した佐野元春のバラード・ベスト。中でも「情けない週末」、「バッドガール」は、前田憲男によるフル・オーケストラ・アレンジでリメイクされている...

 
  • 「Love」」は廃盤となっています。

    前川陽子
    『Love』 (2005)

    「ひょっこりひょうたん島」のテーマ曲や「キューティー・ハニー」のオリジナル・シンガーとして知られるテーマソング界の第一人者・前川陽子が、前田憲男監修の下、日本ジャズ界のトップ・プレイヤーたちとの夢の競演盤を録音...

 


前田憲男
 ビッグバンド向けのアレンジを数多く手掛ける他、東京フィルハーモニー交響楽団のポップス部門音楽監督として、編曲・指揮を担当し、1983年には、日本レコード大賞「最優秀編曲賞」を受賞。ジャズ界最高位に値する「南里文雄賞」もこの年に受賞している。1988年からは、羽田健太郎佐藤允彦らと共に、それぞれまったく異なる個性を持ち合わせた日本を代表するピアニスト3名による3台のピアノの共演「トリプルピアノ」を開催。羽田が亡くなった翌年の2008年までこの「トリプルピアノ」コンサートは行われた。また、2009年8月3日には、今年5月にこの世を去った「ミスター・スタンダード」、ハンク・ジョーンズと、日米二大巨匠による夢のピアノ・デュオ・コンサートも実現した。

 ざっと駆け足で紹介してきた前田憲男の軌跡、いかがだっただろうか。あまりにも膨大な仕事量につきフォローしきれていないところも多々あるのだが、それでも前田憲男という人物がいかに日本のジャズ界、ひいてはクラシックを含めた現代音楽界に貢献したきたかということだけはお分かりいただけたかと思う。少なくともジャズにおいて元曲の持ち味を生かすも殺すも、そもそもの「アレンジ」という作業にそのほとんどがかかっているのだから、前田のこの半世紀に亘る歩みにはもっと光が当たって然るべきだと思ってしまう。もはや「和ジャズ」という枠組みだけでは括ることができないその守備範囲の広さ、受容力の逞しさは、世界のジャズ界を見渡せども、クインシー・ジョーンズか、この前田憲男しかいないのでは? 学年的には1つしか違わないこの両者。お互いの「傘寿」の記念には、「日米ビッグバンド頂上決戦」なぞを是非観てみたいもの。 とその前に、『アルファ・レイ』や『エキサイティング・ジャズ・スピリット』などの重要作品、切に再CD化を望む今日この頃だ。






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