WEB版 月刊PHILLY

2010年5月18日 (火)

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WEB版 月刊PHILLY (5月号)

フィリー・ソウルに所縁のある著名人にお話を訊く「月刊フィリー」掲載のインタヴュー、このWeb版では冊子には収められなかった発言を含めた拡大版としてお送りします。記念すべき第一回目は、音楽プロデューサーでR&Bの紹介者としても活躍されてきた松尾潔氏。インタヴューは2時間以上に及び、プロデューサーである氏から見たフィリー・ソウル観を、まさに<Ain't No Stoppin' Us Now>なノリで、たっぷりとお話しいただいた。
(インタビュー・文:林 剛)


 
   

WHY I ♡ PHILLY   松尾潔(音楽プロデューサー)

グループだったらNo.1はオージェイズ。

――まず、フィリー・ソウルを好きになったキッカケを教えてください。

松尾: まず、ざっくり東海岸のサウンドが好きなんですが、僕にとってはワシントンDCのゴー・ゴーにしてもフィラデルフィアのサウンドにしてもNYからそう遠くないという感覚があって。だから、フィラデルフィアの音楽は好きにならずにいられないのでしょう。今考えてみると、少なくとも南部のソウルよりはNYのものが好きなんですよね。以前、90年代にジャーメイン・デュプリダラス・オースティンらがやっていたアトランタのR&Bが好きになって、そこで自分の引き出しが広がったような気分になったんですけど、でも、古いアトランタのサウンドを遡って聴こうっていうのはなくて……やっぱり自分が突き動かされるのはNYモノなんですよ。で、ちょっと行けば手が届くのがフィリーっていう。NYサウンドを聴けばフィリー・ソウルは避けて通れないというね。ある時期のNYサウンドは無条件で全部大好きなんですが、フィラデルフィアはNYのものほど盲目的ではなくて、その中に大好きなものがある、凄く好きな人が何人かいるって感じかな。

――凄く好きな人というと?

松尾:グループだったらNo.1はオージェイズハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツよりもオージェイズのほうが好きですね。オージェイズは85年の『Love Fever』とかも、名作と言われてないですし、音もチープですけど、大好きで。あと、ソロ・アーティストとしてはテディ・ペンダーグラスということになるかなぁ。このふたつだけ挙げると、フィラデルフィア・ソウルの超初心者みたいな答えですけど(笑)。あと曲単位としては、フィリーのイメージの拡散のひとつとして、例えばアーチー・ベル&ザ・ドレルズの「Don't Let Love Get You Down」が好きだったり。


――やはり、グループNo.1はオージェイズですか。

松尾:僕にとってエディ・リヴァートっていうのは特別なシンガーなので。ソウル・シンガーの理想像と言ってもいいかもしれない。で、エディといえば、人生の大半をオハイオのクリーヴランドで過ごしているわけですが、じゃあ、オハイオ・ファンクの流れの人かって言うと、やっぱりフィリーのものっていう。本籍地クリーヴランド、住民票フィラデルフィア、みたいなね(笑)。それで言うと、息子のジェラルド・リヴァートまでそうじゃないですか。親父のイメージのところ(フィリー)に行って、子育ての時はオハイオに帰ったりするという。

――息子たち(リヴァート)に関しては、松尾さんが日本における紹介者みたいなもので(笑)。で、そんな松尾さんもCHEMISTRY「It Takes Two」のストリングス録りでフィリー詣で(@ラリー・ゴールドのThe Studio)を果たしたわけですが。

松尾:ええ。その時にラリー・ゴールドも言ってましたけど、「いやいや、フィラデルフィア・サウンドなんて人々がNYサウンドと思ってるものと一緒だよ」と。もちろんフィラデルフィア・コミュニティっていう磁場があって、それは絶対的なものなんですけど、実質的には東海岸の人材交流ってあるわけじゃないですか。場所もそんなに遠くない。だから、実態とは何かっていうことを追求することよりも、みんなが共有しているイメージって何なんだろうっていう方が僕にとってのフィラデルフィア・ソウル感というか。印象こそリアル、イメージこそが肝である、と。

――深いですね。話がちょっとズレますけど、そもそも松尾さんがソウルを好きになったキッカケって何だったのでしょう?


松尾:父親がジャズ好きで、最初は家にあったレコードを聴いていたんですが、ソウルっていうのを意識して聴くようになったのは中学生ぐらいですね。中学の終わりぐらいからディスコに年齢を詐称して入ってまして(笑)、で、こういう音楽が好きなんだなぁ俺は……って思ってたんです。決定的だったのは、高校に入る手前ぐらい、シェリル・リンの『Instant Love』(82年)が出た時ですね。

――その『Instant Love』の再発CDのライナーノーツを以前松尾さんがお書きになってましたけど、そこで「ぼくのお気に入りの80年代USブラック・ミュージック・アルバム5選」として挙げられていたうちの一枚が、今回LPをお持ちいただいたテディ・ペンダーグラスの『TP』(80年)だったという。

松尾: そんなこと書いてましたっけ? 今回、凄く迷って持ってきたつもりなんだけど……好みって変わんないもんですね(笑)。でも、フィラデルフィア・ソウルをどれか一枚って言う時に、これを挙げる人はあんまりないですよね。テディペンってソロは最初の3枚が絶対的で。『TP』はテディペンの中で一番NYっぽいアルバムって位置づけになっちゃう。だから、僕はあくまでNYのサウンドに近しいところでフィリー・ソウルを好きになってきたという感じですかね。どれか一曲と言われれば(次作の表題曲の)「It's Time For Love」なんですよ。ウォーキング・テンポのやつ。あれはシカゴ出身のドラマーのクイントン・ジョセフを介してシカゴ・ソウルと繋がっていて、カーティス・メイフィールドの『There's No Place Like America Today』(75年)とかの、あのリズムでテディペンが歌うわけだから悪いはずがない。ですが、作品集としては『TP』の方が好きなんですよね。僕にとってのキラーと言える「Love T.K.O.」が入ってますし。


――では、そのテディがいたハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツについてはどうでしょう?

松尾:ブルー・ノーツのアルバムは『Wake Up Everybody』(75年)が好きだって言い続けてきたんですけど、最近は『Black & Blue』(74年)とかもいいかな。あと(『To Be True』収録の)シャロン・ペイジとのデュエット「Hope That We Can Be Together Soon」とかも、以前はヤワだなぁと思ってましたけど、最近はシャロンのあの歌い方も珍味として愛せるような寛容さが自分の中に芽生えてきました(笑)。この曲はクリストファー・ウィリアムズミキ・ハワードもデュエットしてますよね。確かにクリストファー・ウィリアムズはテディペン・フォロワーのひとりでもあるから適役なんだろうし、ミキ・ハワードもシャロン・ペイジより歌手としてのスキルは上なんですが、でもシャロンが歌うブルー・ノーツのヴァージョンの方がいいんですよ。ヘタな良さというか、作り込んでない良さって、やっぱあるんだなぁと。高校生の時は、何でシャロンより上手いシンガーを連れてこないんだろうと思って聴いていたのに、この歳になってみると、少しずつギャンブル&ハフが見てる景色が分かるようになってきたというか。テディの横にいるべき女は熱唱型じゃなくて、こういう女性だろうっていう。双方の魅力が引き立つのはその組み合わせですよね。プロデューサーとしては非常にクレヴァーですよ、ギャンブル&ハフは。歌い手の資質に見合った曲をあてがうというA&R的なセンスが素晴らしい。

――では、フィリー・ソウルのもうひとりの立役者であるトム・ベルはどうでしょう?

松尾トム・ベルの世界に関して言うと、部分的にはギャンブル&ハフを超える偏愛があるかもしれない。スタイリスティックスの「Break Up To Make Up」なんかはもう最高ですよ。トム・ベルが手がける曲には誰が歌っても素晴らしいという別の良さがありますね。そんな中でも、トム・ベルはリンダ・クリードと組んだ時が一番素晴らしい。もともと僕は日本人のソウル好きとしては歌詞をちゃんと聴いてるほうだと思いますし、自分が作詞をするようになってから、特にこの10年ぐらいは歌詞を吟味しながら聴くことが多いのですが、リンダ・クリードが書く歌詞は特別に思えますね。愛の普遍というものを常に着地点としている。


EXILEの「Ti Amo」は「Me And Mrs. Jones」

――では、松尾さんのお仕事で“フィリー”が薫る曲ってあります?

松尾:例えば、EXILEの「Ti Amo」は、作っている時は自分で思いもしなかったんですけど、あれは不倫ソングですから、ビリー・ポールの「Me And Mrs. Jones」のような曲を聴いてきた蓄積なんだなぁと思って。ストリングスはフィリー仕様ではないんですけど、夜の不倫ソングにストリングスが似合うという自分なりの落とし前でもあるんですよね(笑)。あの曲については結構たくさんのソウル好きな人たちに「松尾さん流の「Me And Mrs. Jones」ですか?」って聞かれましたね(笑)。


――個人的な意見ですけど、JUJUさんの「桜雨」で鳴っているストリングスには、ちょっとフィリーらしさを感じました。

松尾:そう聞こえるなら嬉しいですね。実はあれを作る時にイメージしていたのは、シルヴェッティの「Spring Rain」なんですよ。それをあえて「春雨」と訳さずに、日本的情緒を加味して「桜雨」とカスタマイズして。シルヴェッティのあの曲はサルソウルですから、ざっくりとフィリーの流れで聴けるものでもありますよね。あと、「桜雨」に関して言うと、メアリー・J・ブライジとかホイットニー・ヒューストンのような女性シンガーと仕事をしている時のジョンテイ・オースティンみたいな感じをかなり意識したんですよ。ただ、日本のマーケットにはおいては、そういった音像っていうのはイヤー・キャッチの第一歩になりますけど、それよりも歌詞を気に入っていただかないと繰り返し聴いてもらえないですから……。いや、でも、実は日本だけじゃなくフィリー・ソウルだって、リンダ・クリードじゃないですけど、クラシックスとして残っているものは歌詞もいいですよ。それに、例えばオージェイズの「For The Love Of Money」の歌詞、あれを良いと言うのかどうか分からないですけど、言葉としての強さはありますよね。やっぱり、歌詞の世界と音の世界は乖離できない。歌詞と音が渾然一体となって溶け合っているというのが理想的な音楽、理想的な歌モノだと思うんですよ。で、その打率が異様に高いのがギャンブル&ハフやトム・ベルといった人たちだったのかなぁっていう気がしますね。


――そういえば、今年3月からはNHK-FMで「松尾潔のメロウな夜」という番組を始められていますが、70年代後半以降のフィリー・ソウルのメロウさ加減についてはどうでしょう?

松尾:今の音楽と地続きで聴けるようなところありますよね。特にデクスター・ウォンゼルの鍵盤の音、メロウですよね。70年代前半のものとハッキリとした断層があるっていうと大袈裟になっちゃうけど、70年代後期のものはスムーズで、ラジオの選曲とかしていても、わりと新譜と違和感なく繋げられますね。まあ、でも、今はソウル・ミュージック以外の仕事、J-Popとかの仕事もやってますから、昔だと、こんな甘ったるいの聴いてらんないよって言ってた(スタイリスティックスの)ラッセル・トンプキンスJr.の声とかも、なんかいい……みたいな。ソウル・ミュージックっていうだけで嫌いなものはないって感じになってきてますね(笑)。



 

Profile

松尾
 

松尾潔 kiyoshi matsuo

1968年、福岡市生まれ。音楽プロデューサー/作詞家/作曲家。大学在学中からブラック・ミュージックに関する文章を多くのメディアで執筆。その後、久保田利伸との交流をきっかけに90年代中頃から音楽制作に携わり、平井堅やCHEMISTRYらをプロデュースし成功に導いた。2008年には、作詞/作曲/プロデュースを手掛けたEXILEの「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞を受賞。今年3月からはNHK-FMでレギュラー番組「松尾潔のメロウな夜」(毎水23:00-24:00)、6月からはブラック・ミュージック&カルチャー専門誌「bmr」にて12年ぶりの連載がスタート。

⇒オフィシャルサイト
⇒NHK-FM 松尾潔のメロウな夜

 


 
 
文中出てきたアーティスト/作品
 
 
  ジャーメイン・デュプリ
TLCやマライア、アッシャー等のヒット曲を手がけたアトランタのプロデューサー。ジャネット・ジャクソンの元恋人。
 
 
 
  ダラス・オースティン
90年代以降のR&Bを代表するプロデューサー。マドンナやボーイズIIメン、マイケル・ジャクソンなどを手がけた。
 
 
 
  オージェイズ
PIRを代表する3人組ヴォーカルグループ。「裏切り者のテーマ」が代表曲。
 
 
 
  ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ
フィリー・ソウルの王道グループ。テディ・ペンダーグラスがリードVoとして所属。
 
 
 
  テディ・ペンダーグラス
今年1月に亡くなったソウル・シンガー。ソロ転向後は、特にセクシーなラブ・バラッドを得意とした。
 
 
 
  アーチー・ベル&ザ・ドレルズ
「Tighten Up」(68年)が代表曲。70年代後半はフィリーソウル・アクトとして復活。
 
 
 
 
  エディ・リヴァート
男臭くパワフルなゴスペル唱法でグループをトップへ導いたオージェイズのリードVo。
 
 
 
  ジェラルド・リヴァート
エディ・リヴァートのDNAを受け継いだR&Bシンガー。06年に急性薬物中毒で急逝。
 
 
 
  ラリー・ゴールド
MFSB〜サルソウル・オーケストラのチェロ奏者で、現在はR&B作品のストリングス・アレンジなどを手がける。
 
 
 
  シェリル・リン
倖田來未がCMでカヴァーしたことでも知られるディスコ・クラシック 「Got To Be Real」で知られるシンガー。
 
 
 
  シャロン・ペイジ
ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ作品に参加している女性シンガーでエレガントな歌い口が魅力。
 
 
 
  ギャンブル&ハフ
ケニー・ギャンブル&レオン・ハフ。フィリーソウル・シーンを確立したプロデュースチームでありPIRの設立者。
 
 
 
  トム・ベル
スウィートソウルの名曲を数多く生み出したPIRの作曲家。エルトン・ジョン等外部アーティストにも作品を提供。
 
 
 
  リンダ・クリード
作詞家。代表的なものに、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love of All」、スタイリスティックス「You Are Everything」。
 
 
 
  ジョンテイ・オースティン
マライア・キャリーの「We Belong Together」他で注目を集めたソングライター。
 
 
 
  デクスター・ウォンゼル PIR後期を支えたプロデューサー。 パティ・ラベルの『I'm In Love Again』などを手がける。  
 
 
  ラッセル・トンプキンスJr.
スタイリスティックスのリード・シンガーで、彼のファルセットは世界一美しいと絶賛された。
 
 
 
紙版 月刊PHILLY!
 
 

WEB版では読めない林氏による特集「フィラデルフィアって、どんなトコ?」、PHILLY eats Philly(フィリーを使ったソウルおつまみ)など掲載!
 
 
 
 
 
 
これがフィリー・ソウルの新定番!

NSOP