【訃報】 ユセフ・ラティーフ



 1956年からサヴォイ、プレスティッジ、リバーサイド、インパルス、アトランテック、CTI、また自主レーベルYALなどに60枚以上のリーダー作を残すマルチ・リード奏者ユセフ・ラティーフが、12月23日、米マサチューセッツ州にある自宅で息を引き取りました。享年93歳。

 90年代以降、ヒップホップやクラブ・ミュージックなどの文脈を介した「Love Theme From Spartacus」が若いジャズ〜レアグルーヴ・ファンから愛され、またバンブー・フルート、シャーナイ、アルゴルといった世界各国の民族楽器を駆使した楽曲も、瞬く間に”Other Sounds=異端な音”から同時代以降のニュースタンダードへと評価が一転。

 コルトレーン、ドルフィー、ファラオ、チェリー、誰とも違う唯一無二のスタイルをもつユニークなジャズマン。そしてバラードを吹かせれば誰もが納得のジェントリー・テナーマン。ユセフ、その永遠の音楽宇宙を今いちど。




90年代以降、ジャズのオリエンタリズムの評価によって
彼もまた神として浮かび上がった


 毎年、年末になるとジャズ・ミュージシャンたちがこの世を去っていくような気がする。つい先日、12月10日には、ジャズ・ギタリストのジム・ホールの訃報が伝えられたばかりだが、またしても偉大なるレジェンドの悲しい知らせが届いてしまった。

 ユセフ・ラティーフ、その名を耳にして心の奥をグッと掴まれるリスナーはきっと多いはず。私なんかは、コルトレーンのブロウに目覚めると、自然と次はファラオを訪ねて、そしてユセフに辿り着いた、というレールに乗ったのだが、つまりクラブ・ジャズ以降の、“スピリチュアル”とか“モーダル”というキーワードの中に、ユセフが先に並んで君臨していたわけである。さらに言えば、ソウル、ファンク、ヒップホップといった、これまた所謂レアグル世代においても彼の存在は別格というわけである。NujabesやINO hidefumiがユセフの代表曲「スパルタカス 愛のテーマ」をモティーフにしたことも特筆すべきだろう。

ユセフ・ラティーフ  ユセフはその人生の中で、サヴォイ、プレスティッジ、インパルス、アトランティックというように、まるで渡り鳥のように多くの作品を残してきたが、やはり一貫して、どれも宗教や哲学、とくに東洋思想に関しては色濃い。よって50年代や60年代の日本のジャズ・ジャーナリズムでは異端とされてきたが、前述のように90年代以降のイギリスのジャズ・カルチャー発信とする、ジャズのオリエンタリズムの評価によって、彼もまた神として浮かび上がった。

 多作なミュージシャンであるために、さすがに全てを聴いていないが、「スパルタカス 愛のテーマ」が収録された『Eastern Sounds』は名作として絶対に手に入れて頂きたい。そして個人的には72年にアトランティックに残した『The Gentle Giant』がフェイヴァリット。エリック・ゲイル、チャック・レイニー、アルバート・ヒース、ケニー・バロンら、いぶし銀のサポートがいい意味で無骨なサウンドを作り出している。そしてユセフのフルートの音色が、なんともクールで神秘的な雰囲気を醸し出している。数あるアトランティック盤の中でも傑作だと思う。年の瀬は彼のブロウに耳を傾け、冥福を祈りたい。

文● 山本勇樹 (ローソンHMVエンタテイメント)



土着を匂わせ宇宙を感じさせ
尚ジャズの不文律をしっかり保った独特のユセフ節


 今宵、ユセフ・ラティーフのインパルス盤『Live At Pep’s』('64)を聴いている。まだ小僧だったぼくが初めてユセフの音に触れたのは、同世代(R40)の中で “神曲”として崇め奉られていた「Love Theme From Spartacus」を収録した『Eastern Sounds』ではなく、実はこの『Live At Pep's』にて。大好きな梅津和時氏とその容姿を重ねる入道のような風体。どこか知的な薫りをただよわせる黒ブチ眼鏡。フルートをくわえたジャケットが“タダごとではない”ジャズの音を連想させた。とくに冒頭の「Sister Mamie」に白目を剥くほど高揚したのを憶えている。

 インドでは冠婚葬祭などの儀式で用いられるという民族楽器(木製の笛)「シャーナイ」から、妖しい旋律が伸縮しながら途切れることなく繰り出される。「ユセフの東洋思想がコルトレーンに影響を与えた」という知識を得る前段階、この曲が東洋モーダルをベースにしている云々など勿論知るよしもなく、瞬く間に心を奪われ、ぼくの中でのユセフ・ラティーフというジャズマンの印象が決定付けられた。

ユセフ・ラティーフ  リチャード・ウィリアムスのトランペット・ソロ、マイク・ノックの短いピアノ・ソロを挟み、とらえどころのないシャーナイの音がまたグルグルと渦を巻く。正味5分強の演奏ではあるが、強烈に後を引く。中毒症状を引き起こすと言ってもよい。「危険だけどおもしろいジャズだなぁ」と、しばし取り乱しながら享受。シリアの民族楽器アルゴル(こちらも笛)を使った「The Magnolia Triangle」も何だかよくわからないが、呪われた祝祭めいたムードの音が海馬を刺激する。のちにイスラム教名ということが判明する「ユセフ・ラティーフ」という名前も実に神秘的に響いたものだ。

 「Sister Mamie」は、1979年のCTI作『Autophysiopsychic』でも再演されているが、まったくもって比ではない。こちらの初演ヴァージョンがとにかくユセフ・ラティーフという一筋縄ではいかない音楽家の実相を見事に体現していると思う。

 この「Sister Mamie」のほか、「Before Dawn」、「Brazil」、「Happyology」、そして「Love Theme From Spartacus」など、一介のオリエンタルを超えた、土着(グローカル)を匂わせ宇宙を感じさせ、尚ジャズの不文律をしっかり保った独特のユセフ節が宿る名曲たち。特異さが際立ち、当時のジャズ喫茶での評判はきっとイマイチだったのかもしれない。しかし彼こそが、ジャズに新しい価値観をもたらした黒衣の、裡面のジャイアンツだったんだと、「Sister Mamie」に揺られながらそう強く感じている。

文● 小浜文晶 (ローソンHMVエンタテイメント)

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