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Review List of チョコぞう 

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     2021/04/25

    控えめに言って、絶叫しながら椅子から転げ落ちるくらいの衝撃を味わえます。そう、ごく控えめに言って。椅子で読んでいない?大丈夫。問題ありません。
    床で読んでいても布団で読んでいても、授業中に読んでいても中央線で読んでいても、間違いなくその場所から転げ落とされます。宇宙空間の無重力状態で読んでいる?甘いです。転げ落とされます。なので、転げ落ちると支障をきたす場所では読まないことをオススメします。

    本書はあらゆるミステリ賞を総なめにした歌野昌午氏による長編ミステリ。「張り巡らせた伏線を回収する」といういわゆるミステリ考察時によくある表現では収まりきらないのが本作。
    「仕掛けた爆弾が終盤で次々に爆発し、いちばん最後に、いちばん最初に仕掛けた爆弾が大爆発する」というのが正しい表現だと思います。

    地の文が面白いので楽しく読み進められるのも本作の美点の1つ。
    長編ミステリ読むなら読み応えがあるものを読みたい、ミステリ読むなら予想もできない角度から騙されたい。そんな期待に見事なまでに応えてくれて、かつ転げ落としてくるのが本作です。
    ビックリしたい方はぜひ本作を。
    転げ落とされる覚悟をして読んでも、きっと無事に転げ落とされます。

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     2021/04/22

    「人は一体何のために、またどのように生きうるのか」そして、「では自分自身は何を選び、どう生きていくのか」。
    本作はとりもなおさずこの「生きる」ということについて徹底的に描いた白石一文氏のデビュー作。
    読みどころは何といっても物語自体の多軸性と、全編にわたり貫かれる思索の深さ、そしてこの二者が緊密に関わり合うことによって立ちのぼる強烈な迫真性であろう。

    日本有数の大企業において、若くして組織の中枢に立つ男を主人公とした話である。彼を取り巻く熾烈な社内抗争、恋人との日々の関わり、過去の回想(主人公にとって本質的な出来事や存在への追憶)、そしてある出会い。これらを主軸としながら物語は進むのだが、それぞれの軸は独立させても1つの作品になり得るほどに骨太なものだ。
    例えば社内抗争のみに特化すれば会社組織における権力闘争や政治・経済ものとして十分に読み応えがあるし、また一方で恋人との関わりや回想の軸にスポットライトを当てれば現代を舞台としたラブストーリーたりうるだろう。だが本作はあくまでこの複数の軸が並行し、時に絡み合いながら展開することで熱を帯び、物語としての推進力を獲得している。そうした中で、いくつかの事件を契機としながら主人公は自分自身としての大きな決断をしていく。

    白石氏の著作ないし作家自体への評として「ジャンル分けが難しい」「ハイスペックな設定の人物ばかりが出てくる」といった内容のものを目にすることが少なくない。

    なるほど本作をとってみても主人公は東大卒のエリートサラリーマンであり将来を嘱望されている設定であるし、前述したように小説としてのジャンル分けは困難だ。またそれは確かに他作品にも共通する点であることは否めない。
    このことが意味するものは一体何だろう。そう考えたとき、氏が本作含め多くの著作の中で主題に据えているもの、すなわち「生きる」ということに揺り戻されるのだ。
    私たちは日々、他者との関わりの中で時に対立・衝突したり、かと思えばある瞬間何かに意識のピントが合い、自分自身の大切なものやそれまで知らなかったものとの僥倖を果たすこともある。意識と無意識のはざまの中で自分自身という存在を絶えず収斂させながら、連綿とあらゆることを飽かず繰り返す人間全般の生や存在は一義的ではありえない。人間の生をジャンルで規定することが無意味である以上、生そのものを主題とした氏の作品の性格・性質がジャンルの垣根を横断せざるを得ないことは必然の帰結である。
    また、この「生きる」という厄介で根源的なテーマに対する氏の姿勢は驚くほどに誠実だ。
    一切のごまかしや無根拠な楽観がなく、それゆえに時に非常に冷徹な印象を読者に与える。

    有名大学を出ていること、大企業に勤めていること、容姿や能力に恵まれていること。
    そういったことが個々人に付与するアドバンテージが仮にあったとして、果たしてそれがこの「生きる」という途方もない難問を前に、一体どれだけの価値を持ちうるというのか。
    外皮を1枚1枚削ぎ落とすように「生きる」ということ自体の本質を熟考したとき、私たちの個別に持っている(と信じている)もの、その表層的な事柄は、自らの生ひいては大切な誰かの生を本当の意味でより良いものとする武器で果たしてありえるのか。
    そうした問いかけを、氏はいわゆるハイスペックな人物たちを殊更に描くことによって、逆説的に私たちに問いかけているのではないだろうか。

    最後になるが、本作はハードな物語である。
    目を覆いたくなるようなシーンや、哀しみに胸がつぶれそうになるシーンも少なくはない。だがそれでも、読み進めるとき心は確かに動いているし、読後に残る感情は爽やかさをともなったポジティブなものだ。
    例えば何か自分にとって確かなものを探しているとき。あるいは現実に倦み心底途方に暮れているとき。はたまた誰かを強く愛しているときでも憎んでいるときでも良いと思う。
    不器用なまでに心のエネルギーを持て余し、生きることと派手な取っ組み合いを繰り広げるすべての人に、この物語のことを紹介したい。
    きっとあなたの心に、この物語は深く深く刺さるだろう。
    「一瞬の光」は私にとってそんな1冊だ。

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     2021/04/12

    “すべての真相が明らかになった瞬間の戦慄”そして“物語そのものの面白さ”。この2点において、本作を超えるミステリをいまだかつて読んだことがない。東京から人里離れた山奥の大邸宅。戦後間もないある夏、詩人・歌川一馬の招待で集まった十数名の男女。作家、詩人、画家、女優、弁護士、劇作家など、アクの強い一癖も二癖もある奇人変人たちが一堂に会し丁々発止のやり取りを繰り広げる中、最初の夜から“事件”は起きてしまうーーーーーー。
    読者は物語の端緒から一気に引き込まれてしまう。ここで1つ大きなポイントとして挙げたいのは、作品世界に読者を引き込む要因が、単に奇抜な設定や人物配置のみにあるのではないという点だ。グラスの触れ合う音と女たちの笑い声。煌々ときらめく洋館の灯りと屋外の暗闇が織りなす真夜中のコントラスト。口紅のついた吸いさしのタバコと、ため息。数年前の因縁の数々や、作家同士により熱を帯びて戦わされる芸術論。皮肉と怒声。事件そのもの(主線)と並行して描かれるこうした1つ1つのディテールやエピソード(副線)が紡ぎ合わされ映像として喚起されていくことにより、読者はこのひとつ異世界とも言うべき作品世界に深く没入させられていく。この没入への深さを裏打ちしているのは、作家・坂口安吾の変幻自在な描写力と展開力に他ならない。文庫版巻末の解説の中で高木彬光氏も触れているが、推理作家の斎藤栄氏による造語の1つに「ストリック」というものがある。ストーリーそのものが大きなトリックとなっている推理小説、探偵小説のことを指す。先に述べた事件そのもの(本線)と並行して展開される、事件とは一見無関係なエピソードやディテール(副線)の話に立ち返るならば、この「一見無関係」かつ、しかしながら読み手の興味を引いてやまない数多のエピソード群は、本作を牽引するストーリーそのものであると言える。そして、本作最大のトリックおよび一連の事件に対する最大の誤認は、この本作を牽引するストーリーそのものによってもたらされる。副線すべてが伏線、と換言することもできよう。ストーリー自体のリアリティによって、事件の真の目的やトリックそして真犯人は完璧に隠蔽され、最終局面で真相を知ることにより、読者はストーリーに立ち返る。そして、真相とストーリーを今一度照合し、戦慄とともに噛みしめることになる。確かにこの人物以外が犯人では絶対にありえなかった、と。その意味で、本作はこれ以上ない至上のストリックと言えるのではないかと感じる。強靱なリアリティを持ったストーリーが大きな装置として、トリックをトリックたらしめることに成功しているからだ。個人的なエピソードとなるが、初めて読了した夜のことをいまだにはっきりと覚えている。10代終わりのある冬の日、帰宅後の夕方に読み始め、食事もとらずに読み進め、読み終えた時は午前1時を回っていた。物語そのものへの戦慄、恐怖。冬の寒さによるものでない鳥肌がいつまでも消えず、これほど面白い小説があったのか、という驚きと興奮で朝方まで眠れなかったのだった。あの晩から20年近く経ち、その間に読んだ作品はミステリ含め他作者含め数えきれない。にもかかわらず、本作は個人的な特別な作品であり続けている。私にとって本作は、ミステリというジャンルに留まらず、小説というものの面白さや可能性を強く深く感じさせてくれた大切な1冊。ミステリファンのみならず、「とにかく面白い小説が読みたい!」と願うすべての人に、本作が届きますように。

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     2021/04/11

    写植を生業としている“おれ”のもとへある晩ふらりと訪れた高校時代の同級生。ひょんなことから彼が詐欺師であることが判明し、なぜか“おれ”も詐欺の片棒を担がされることに。ふたりの詐欺はやがて出版界を巻き込んでの大騒動へ発展していく------という痛快コメディ。自動書記にシュールレアリスム、アルコールにドラッグ、活版印刷の歴史とマスコミ。ヤクザと詐欺と情婦と、そして、笑い。中島らも作品の代名詞とも言うべきモチーフが随所に散りばめられ、軽妙なタッチで物語は描かれ加速していく。主人公が医師会の重鎮たちを相手に一発本番の詐欺のプレゼンテーションをするシーンの面白さはいつ読み返しても圧巻の一言に尽きる。また、主人公の“おれ”が極めて非観念的な存在として描かれている点にも注目したい。例えば胸が熱くなるような感動からも、心底の怒りや悲しみや歓びからも、およそ人間的な生々しい感情から遠く切り離された存在として“おれ”は一貫して描かれている。そんな“おれ”に映る世界や社会へのリアクションが本作品の文体を形作っており、そのことが、作品全体から過剰な意味付けや劇的な要素を排し、登場人物たちの行為そのものの滑稽さを巧みに抽出し表現することに成功している。中島らもという作家の「面白さ」への追求(戯作性)と、おそらくは日々の思考の積み重ねではなかったであろうかと思われる考察性(批評性)が絶妙のバランスでせめぎ合う極上のエンターテイメント。

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