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Review List of うーつん 

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     2025/04/22

    シューマンと内田光子、実に相性がいいと思う。
    1994年に録音された「クライスレリアーナ&謝肉祭」からずっとそう思う。
    シューマンの多弁な音符と感情の揺れと熱、それをコントロールする理知的で沈潜する思考・・・この作曲家でよく論じられる対照的な二つの気性を表現でき、しかも面白く聴かせるのが内田の特長だと思う。ここで紹介された2曲とも研ぎ澄まされた集中力で一気に聴かせてくれる。ぜひ聴いてみていただきたい。

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     2025/04/22

    仰々しくなく、しかし、一本筋の通った主張が感じられる一枚だと思う。
    シューマンとベルクの相性も「あ、こんなプログラムも合うんだ」と感じさせる。
    現代社会において「女の愛と生涯」は時代にそぐわない気がしないでもないが、シューマンの気持ちがこもった作品なのだからここに添えられたのだろう。果たして、そのプログラミングは正解として聴くことができる。私の好きなリーダークライスOp.39と初期の7つの歌も落ち着いた色調の中にキラリと詩の輝きと言葉の薫りを感じさせるのがうれしい。内田光子が伴奏すると、伴奏がもはや伴奏でなく、見事に一体化された二重奏になってしまうのがすごいところ。とはいえ、歌手を、そして歌をそっちのけで演奏しているという意味ではない。言葉はレシュマンの綿密な歌が余すところなく表してくれていると思うが、詩の雰囲気や行間に含まれた蠢く情感が静かに沁みだしてくる。夜にじっくりと聴いていきたい一枚。おすすめです。

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     2025/04/10

    徹頭徹尾ツィメルマンの意思と表現意欲に貫かれたディスクだと思う。勢いよくフレッシュな音楽が迸っていくのがよく分かる。確かにツィメルマンが主役で弦楽器奏者3人はそれを体現するために共演しているわけだが、彼の意図に従うというより、彼の意図を理解した上でそれぞれの旋律を互いに絡ませているように聴こえる。基本のリードはツィメルマンであるが、手綱を上手に自分側に引き寄せたりヴァイオリン、ビオラ、チェロにバトンを渡して豊かに歌わせている。4人の演奏は、あらゆるパッセージの細部に至るまで実に濃厚なのに驚かされた。

     私が思うに、ここで聴かれる音楽はいわゆる髭を豊かにたくわえたブラームスというイメージはない。若々しく、凛々しく、繊細で、何よりも優しい表情をしたブラームスを想起させる。勢いよく止めどなく溢れるような力強いアレグロやスケルツォと、緩徐楽章での傷つきやすいナイーブさを漂わせた音楽のバランスが実によいと思う。いかにもブラームスそのものの演奏というイメージは湧かず、ツィメルマンの考えるブラームス像を表したディスクと考えるが、ブラームスの優しさと音楽への繊細な愛を4人で共に表現している意欲作と私は考えている。おすすめです。

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     2025/02/15

    「息」を使う2種の楽器が織り成す静謐。聴く前は「サクソフォンと笙? これって合わせられるの?」と思っていた。実際に聴いてみるとなかなかの取り合わせ。時間や空間に対し垂直に楔を打つような強さを持つサクソフォンと、水平に時間や空間を揺蕩う笙の柔らかさの組み合わせが面白いと私は感じた。

      息を使うが音の印象はほぼ反対(製作された歴史を考えても千年以上の時間差や異なる文化背景がある)の楽器だが、だからこそお互いが聴きあうことで渾然一体とした音楽になるし、両極のモチーフや思想、見立てを際立たせ且つ融合・調和させる効果も出てくるのかもしれない。

      タイトルからも判る通りサクソフォン作品集としてサクソフォンの様々な側面を多彩な奏法で探求し表現の幅を楽しむことができた。サクソフォンならではの音の強さは、その強さと雄弁さがあるからこそ鳴った後の静けさや沈黙をよりくっきりと照らし出す。そこに細川の表現の志向を感じる。

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     2025/01/29

    フランス語表現ならクラヴサン (clavecin)、ドイツ語表現ならチェンバロ(Cembalo)。同一の楽器なのに表現が違うだけで全く違う楽器に思えてしまう。もちろん実際は各国ないし地域で製作方法は違うと思うが、大きく括ってしまえば同じ楽器と素人の私は考えている。しかし、実際にドイツ語圏とフランス語圏で創られた作品を聴き比べてみると「クラヴサンとチェンバロは違うんだ…」と変に感心してしまった。

     当盤はフランスの作曲家たちによる「クラヴサン」の作品集。収録場所の残響も上手に取り込み音楽の雰囲気を大切に活かしながらクープラン、ラモーなどによる幻想や情感を表現し、詩や奇譚を歌うかの様な曲たちを耳にすると、バッハなどの作品とこれほど趣きが変わるものなのかと驚いた。渡邊順生が当盤でフランス系の作品をまとめて出してくれたおかげで、そのお国柄の違いにも考えが及び、よい学びになった。最近ではラモーなど現代ピアノでG.ソコロフなどがよく弾いているが、「元祖」を聴いてその違いも楽しめるようになった。楽器の音も含めてフランス・バロックを楽しみたい方、お薦めです。

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     2025/01/29

    第1番 BWV806の前奏曲冒頭、1624年製ルッカース・チェンバロの音色がかけあがっていく。まるで噴水の様に勢いよく。一転、第2曲目はじっくりと縦と横にじっくり編まれた音楽の織物を堪能していく。そうかと思うと第4番では楽曲の分析を我々にも共有させてくれている。つまり、この銘器をとことん味わい尽くしているのだ。ここで聴かれるイギリス組曲を一番喜んで聴いているのは演奏者本人・渡邊順生氏だと思う。聴いていてもこの素晴らしい楽器を使ってバッハの名作を奏でられる喜びがあふれているように思う。

     演奏は流麗な行書体の書を見るような雰囲気。分析トラックはあるものの、堅苦しい学究的な四角四面な演奏にはなっていないと思う。私が聴いているチェンバロによるイギリス組曲は、当盤のほかに鈴木雅明(BIS、2016年 愛用の楽器を用い、丁寧な楷書の趣きというべきか?)、武久源蔵(ALM、2022年 フォルテピアノも使い、他にない意匠の崩し字でしたためた書を連想させる)の計3点。どれも楽しく聴かせてもらっている。三者三様の楽器を用い、演奏にもアプローチにも個性が出ているが共通するのは楽器やバッハに対する敬意。登る道筋が違っていても目指す頂は一つというところだろうか。どれもおすすめだが、ここでは渡邊順生の銘器との出会いに焦点を絞ってお薦めしておきたい。

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     2025/01/28

    一見不思議な曲目も彼の手にかかれば聴きごたえのあるコンサートプログラムになる。とはいえ、パーセルとモーツァルト? 貴重なソコロフのリサイタル、ぜひ聞いてみたいのは重量級の曲目だろう。が、しかし・・・その希望とは相反するような曲目だが、なかなかどうして「聴いてみたらわりとイケた」感覚になる。パーセルの軽妙なタッチと色彩感から始まり、沈み込むような質感を持ったモノトーンに近いモーツァルトのアダージョ K540への「移ろい」がこのプログラムポイントになるのかもしれない。

     パーセルはいかにもソコロフらしい軽やかなトリルなどで装飾され、ハミングしながら聴きたくなる演奏。トリルひとつとってもそれぞれに違った味わいを出しているのが彼ならではのテクニックだ。モーツァルトのソナタK333も他の奏者と異なり渋みが加わる。モーツァルト特有の軽さ・甘さ・優しさの中にほんの少し苦味が隠されているような味わいがあり、そこから先述のアダージョに繋がっていく。なるほど、そういうプログラムなんだ、とすべて終わってから得心するような趣がある。そして、アンコールは恒例の「ソコロフ祭り」。ラモーやショパンなど程よく彼らしい味付けがなされた作品を披露し、バッハできっちりしめていく。

     誰でも虜にする、と太鼓判を押せる曲目ではないと思う。それでもソコロフの妙味を味わうにはかえってこのくらい(「このくらい」というのは失礼かもしれないが)の曲目でこそ彼の「らしさ」を感じられるのかもしれない。ソコロフに興味のある方、ピアノの味変化を楽しんでみたい方におすすめしてみたい。

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     2025/01/27

    キリスト生誕にちなむドラマを6日ワンセットで上演する祝祭音楽を、見事な瑞々しい明るい響きで高らかに歌い上げているのが一聴瞭然。何か浮き立つような、そしてこれから善きことが始まる予感をはらませながら音楽が進んでいく。受難曲と違い、考え込まずに音楽に浸る。キリスト教者ならずともワクワクするような楽器たちの喜びあふれる音が何よりも心地よい。声楽曲だから当然歌手の素晴らしさもあるが、私はそれを評価しつつ、楽器奏者たちの喜びの演奏に最も高い評価をしたい。そして声楽、楽器演奏を最高に幸福な状態で指揮するサヴァールの力に★5つで応えたい。おすすめです。

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     2025/01/27

    「室内楽の愉しみ」と素直に表現できる愉悦感あふれる一枚だと思う。作曲者たちが実際にどのような場面で演奏したのかは知らないが、愉しみながら音楽に触れていたのだろうと想像する。そして現在。彼らが愉しんだであろう音楽をこうして素晴らしい音響と演奏で触れられるのは、なんと嬉しいことなのだろう。

     それぞれ違った楽器で奏されているとのことだが、細かいことは気にせず大らかにバッハの旋律と楽器の絡みあいを満喫できるディスクだと思う。音の響き、楽器で言うなら弦の伸びやかさとチェンバロの音の粒立ちのすばらしさ…。バッハをよく知る大家たちの競演だからこそ、かえって純真な気持ちで「音楽している」ように思える。(入力を見直した際、自分が表現したと同じ単語や言い回しを既にレビューページで使っていたことに気づいた。パクりと思われるかもしれないが、それを見ずに書いていたら同じ表現に辿り着いたのでお許しを。当盤を聴く人たちは大体同じ感動と感想を持つものなのだろう、と勝手に解決しておくことにする)

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     2025/01/24

    内容、情感、演奏の質そしてピアノの音どれをとっても素晴らしい。これだけの品質をライブで維持できるメジューエワの集中力と求心力に拍手をおくりたい。D946の第1曲で、作曲者によって削られた部分をアンコールでそっと弾いてくれるアイディアによって演奏会の統一感も保たれている。小さいがとても大切な想い出を手の中でそっと暖めているような切ない孤独感が美しい。

     前にレビューされた方と同様、私もこのシューベルトの2作品を愛するひとりだ。メジューエワの旧録音も愛聴している。基本の解釈は一緒だと思うが、年を追うごとに解釈の深みとその奥行き・拡がりは着実に増している。凄味すら感じられるほどにシューベルトの晩年の心境に迫っていく。シューベルトがこれらの曲(特にD960)に込めた想い、そして狂気すらも表されていく。他の盤のレビューでも書いた記憶があるが、彼女にとってシューベルトは弟のような存在なのではと考えている。早世した弟が遺した作品を慈しみ、想いのたけを刻み込むかのような没入(と言っても、のめり込むことは避け、きちんと曲の佇まいと構成を保っているから演奏が立体的に立ち昇ってくるのだろう)をこの盤でも聴くことができる。そのくらい作品に肉薄した一体化を果たしているように感じる。切実で、純粋なシューベルトの演奏を聴きたい方はぜひ彼女のディスク(もちろんライブも)をおすすめしたい。

     ところで・・・この盤の録音が2017年、使用楽器はヤマハ。そこから時を経て、この投稿が2025年。最近の彼女は1925年製(投稿の日付時点から見れば100年前)のヴィンテージ・スタインウェイで演奏し、録音することが多くなっている。そして3年後の2028年はシューベルトの没後200年…。タイミングと録音する機が熟してきたら、この盤で聴いた曲たちをヴィンテージ・スタインウェイでぜひとも演奏してもらいたいものだ。きっとさらに深く奥行と拡がりをもった音楽を聴くことができるだろう。当盤を聴きながら、それが出てくるのも楽しみに待ちたい。

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     2025/01/23

    この盤には、気のせいか日本の風土が色濃く滲んでいるように感じられた。他の同曲盤と比較して仄かな諦観や寂寥感が少しずつ積もっていくような音楽づくりに感じられた。それは特に最終楽章「告別」の出だし…夕暮れに低く鳴り響く寺の鐘の音を連想し、フルートの音色はフルートというより東洋の横笛のような雰囲気を思わせ、だからこそヨーロッパの雰囲気でなく日本のそれを想起させられた。

     日本の楽団、指揮者、歌手による「大地の歌」という先入観があるのかもしれない。あからさまにこってりとした質感をだした油絵というより、さりげない色を塗り重ねていく彩色画を想起させる。

     紹介文にもある特殊な環境下で録られた事情は少なからず演奏者の心にも影響するのだろうか。曲が曲であるだけになおさら深く沈潜していくような音楽の佇まい。華々しい音響というよりも、重心が低く落ち着いた響きに乗って、シニカルで感傷的で諦観をしのばせた厭世的な歌が訥々と歌われていく。2021年、コロナ禍における春の東京のサントリーホールは、大野和士の筆の下で、秋の夕暮れの森閑とした山中の光景に染め変えられていく。おすすめです。

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     2025/01/11

    不思議な夢を見ているような感覚を持たせてくれる作品が詰まっていると思う。

     ディスクリリースにとことん慎重なツィメルマンが1994年の収録から寝かし続けた曲も含み2022年収録の曲まであしかけ28年かけてようやくつくり上げたシマノフスキの作品集。ポーランドの音楽がどのようなスタイルなのか正直解らないが、当盤の曲について聴いてみると、どこか鄙びていて懐かしくてそして仄かに暗い憂愁のようなものを感じてしまう。しかしそれが単なる一地方の民族音楽的なものに陥らない新しさや熱も感じるのがシマノフスキの特色なのだろうか…。

    メインに収録されたOp.10は実演でも聴いたがかなり手の込んだ奥行きと美しさを持つ作品。ツィメルマンの美しすぎる(しかし随所に気持ちの迸りもある)ピアノは同郷の先達への敬意を感じずにはいられない。ただツィメルマンがこのリリースに込めたのは「お国もの紹介」だけでなく、シマノフスキの作品がもっと知られて聴かれるべきものであるとの自負なのだろう。

    生誕150周年ならわかるが140周年を記念するという売り文句は少し発売側のこじつけにも思えるが、記念と言わないとなかなか見向きもされないのだろう。しかし、ツィメルマンの想いがこもった当盤ならそんな中途半端なアニバーサリーに頼らずとも世に問う意義があると思う。何周年であろうと聴く価値のある一枚、おすすめします。

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     2024/12/07

    現代音楽でなく、日本の音楽として紹介したらいいな、と感じる一枚だ。
    この中で聴かれる音楽はゲンダイオンガクが苦手な方に聴きやすく、懐かしい。逆に現代音楽を聴きたい方には物足りなさを感じてしまうかもしれない。
    ケッレルマンの委嘱により「12の日本の歌」が生まれたそうだが、どれもが懐かしい歌ばかり。黒田節や五木の子守唄など細川がよく編曲する作品や万葉集をテキストにした歌もある。エーレンスの声にのり、いにしえの歌を聴くことができる。
    ギターによる作品集だが、どれも静謐な美しさと強さを持っている。琴の音を連想させるパッセージも時々出てきてじっくり聞きたくなる作品揃い。 そういえば、武満徹もギターによる「12の歌」を編曲していた。それとセットで収めたディスクや演奏会があったら楽しいだろうな、と感じた。


    ひとつ残念なのは演奏者がすべて日本国籍でないこと。むしろ日本人が積極的に参加し様々な国の方に紹介していきたい作品ばかり。日本人でないと…というつもりは全くない、日本の歌を「紹介してもらわないと気づけない」自分の浅い気持ちが恥ずかしい。
    細川は今もドイツを拠点にしているのだろうか。外国にいるほど自国のことがよくわかる。国内にいるとなかなか気付こうとしないものだ。 以前とある美術展で日本の美術品がヨーロッパの美術館に渡り収蔵されているのを聴かされた女性が係の方に「外国人に日本の美術が分かるのかしらねぇ」と自慢げに語ったところ、係の方は「日本美術が評価されたのはむしろ外国の方が価値を認め評価したからです。対して日本人は外国で評価されたから『日本美術はすばらしい』と又聞きで評価している向きもありますよ」と応えていた。なるほど、と思ったものだ。

    細川氏はドイツから日本の歌や芸術を見つめてそこにインスピレーションを得ているのだろう。当盤に収録されている「故郷(ディスクでは「Kokyo」と書かれているが「ふるさと」と読むべきだろう)」の歌詞が特に思い出される。実際には分からないが、細川俊夫氏も同じような心持ちを胸に抱いているのかもしれない…。「故郷は、遠きにありて、思うもの」という言い方があるように、細川氏も日本から遠く離れたドイツより世界を見つめ、日本を見つめている…。何となくそう感じられる。
      

    こころざしをはたして

    いつの日にか帰らん

    山はあをき故郷

    水は清き故郷

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     2024/11/04

    こんな魅力的で深く心に沁みる版があったのか。交響曲「大地の歌」でなく、リートとしての「大地の歌」。レビューや解説書を読んでみると歌曲の編成のためのしっかりした「正規版」とのこと。普段から交響曲版は愛聴しているが、寝る前に「告別」を静かにしっとり聴きたくなった時に偶然見つけたディスクがこれ。

     交響曲版では、マーラーの駆使した管弦楽のうねりがものすごく、聴いていても歌唱(詩)への注意力がそがれてしまうことがある。しかしこの歌曲版は歌詞と歌唱にじっくりと耳をそばだてることができる。テノールもバリトンもじっくりと詩の世界を表してくれている。交響曲の亜流という見方はここでは成り立たない。立派にリートとして味わうことができる。ピアノ伴奏は(おそらくだが)管弦楽の「あの楽器をこの音で補ってみた」という視点でなく、歌を支えるために最善の音で構成されていると思える。当然、管弦楽版との密接な関係はあるが、もしもこの歌曲版を最初に聴いた場合でも変な違和感なく完成されたリートとして認められるのではないだろうか。

     マーラーが晩年に出会い、曲をつけたくなった6編の詩。どれも味わい深く、歌曲として心に沁み込むものばかり。じっくりと聴いてみていただきたく、ここに薦めておきます。

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     2024/11/04

    ゲルハーヘルが辿るシューマンの歌曲の旅路。現在なかなか発表されることがない「歌曲全集」に結び付けたゲルハーヘルと伴奏者ゲロルト・フーバーの成果にまず拍手を送りたい。歌曲という花園にようやく気付き、いろいろ聴きはじめた私にとってシューマンは詩と音楽の幸せな花々として大切に思えるもの。これらをすべて聴くのは骨が折れることであるが、今後もかみしめながら聴いていきたい。そう思わせる良き歌唱の連続。

     ほどよく艶がおさえられた落ち着いた声でシューマンの詩への想いを案内してくれるゲルハーヘル。特に力唱するということはなく、かといって淡々としているわけでもない。「リート歌手」としてのツボをおさえた滋味深い歌唱はじんわりと歌曲に耳を傾けやすい声と歌唱を持ち備えているように感じた。 CDにして11枚、全299の歌の花々には派手ではないが丁寧な心配りがされているように思う。他の歌手の歌もスタンスは同様。ピアノ伴奏がフーバーひとりで通されているが故の統一されたバランスなのかな、と感じる。その意味でゲルハーヘルの偉業もさることながらフーバーの伴奏あっての全集としてのクオリティ、仕上がりというべきなのかもしれない。歌手が「花」とするなら、伴奏者は葉の付き具合を調整し剪定をつかさどる「庭師」なのかなと思う。

     ディースカウがあらゆる「百科事典」を編んでくれたが、その後「〇〇〇全集」はリリースされなくなっている。売れるもののみで攻める商業的な理由なのか、歌手がじっくり掘り下げる時間が無くなったのか、そもそも全集という考えが古くなってしまったのか、それは判らない。しかし、全集として聴いてみると見つかることがあり、その価値はなくならないだろう。私自身でみても11枚全部一気に聴くつもりもないし時間もない。ただ、その時々でふと手に取りシューマンの花園をそぞろ歩いてみる…。そんな愉しみを持たせてくれた。おすすめです。

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