ユダの窓 創元推理文庫
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エンタメ追求者 | 千葉県 | 不明 | 15/June/2021
トリック解説本などでもよくとり上げられている名作ですから、その解決編で明らかになる密室殺人のトリックのおおよそはネタばらし気味に、知ってはいました。 しかしそこを差し引いても面白い密室ミステリであったと記憶します。 この作品も出だしにごく短い密室殺人状況の説明にあたる章があり、次章から急にロンドン中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の場面へと飛び、殺人犯として被疑に立たされた絶体絶命の青年の苦悶と、彼を巡る裁判劇の進行が描かれる。 いきなり法律の専門用語が飛び交う法廷に場面を変えて、青年も訴追者側に追い詰められてゆく。普通に考えると殺人が可能だった人物も青年をおいて他にはいないから――。 この物語の創りもたったひと通りの可能な別のトリッキーな殺人手段を準備しておき、そうなったらあとは動機といい機会といい揃って圧倒的に不利な状況に被疑者をおいてみせる。そうやって作者がサスペンスを強調し、ハラハラドキドキを否応なく盛り上げて楽しむように物語を綴ってゆく。 しかるべき解決編を念頭に置いておけば、あとは被疑者にとり、いくらでも暗雲を垂れ込ませた方がスリリングな味が出てより面白い設定が可能になるからです。特大のスリルの味わいに青年自身にも自ら手にかけなかったという確証もなく、意識が途絶えている。この箇所。 ここにこそカーが演出したかった格別の戦慄のムードで読者へのサーヴィス精神満点な設定の狙いがゆき届いています。寄る辺なき青年にとり唯一の救いも密室トリックの専門家のような名探偵H.M卿が味方についたこと。 ここら辺に仕かけられた作者の計算が巧みに利いてお見事。カー(カーター・ディクスン)の得意満面な表情が窺がわれてくるようです。 準備された密室トリックもいわゆる扉もの。そう呼ばれるトリック群に準拠して、独特の心理の陥穽(かんせい)を突いてみせます。不可能興味と法廷物ミステリの面白さが見事に融合マッチした物語構築術のお手本のような逸品。0 people agree with this review
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