70年のソロ・デビュー作から、昨年リリースされた『I, Flathead』、さらには、完全未発表曲となる「Let's Work Together」までライのキャリアをほぼ網羅できる全34曲を収録。監修は息子ヨアキム・クーダー。
その他の編集盤
ライの音楽遍歴を知れる編集盤としては、ヨーロッパ編集の『River Rescue』が、現在比較的容易に入手できるものの中では昔から有名。ソロ・デビューから『Get Rhythm』までの楽曲を網羅し、さらに、アルバム未収録の「River
Come Down(Pka Bamboo)」を収録しているため人気が高い。また、80年代以降仕事量の多くなるライの映画用スコアに焦点をあてた『Music by Ry Cooder』も、2枚組50曲入りというヴォリュームで、ライの映画サイドの入門編として重宝されている。
ヴァン・モリソン、エリック・クラプトン、Tボーン・バーネット等の作品で相変わらず巧みなギター・プレイを聴かせる一方で、70年代後半から80年代にかけては、”垣根のない”音楽性の裾野をさらに広げていきます。ちょうどその頃、旧友デヴィッド・リンドレー(79年には共に来日)が沖縄音楽に惹かれていたこともあり、沖縄音階のみならず、沖縄独特の”チャンプルー”という文化概念そのものにも興味を示したライは、喜納昌吉&チャンプルーズ『Blood Line』に参加。その後も『Get Rhythm』では「Goin' Back To Okinawa」という楽曲を発表したり、94年には、チャンプルーズと北米ツアーに回ったりと現在に至るまで深い親交を続けています。それら異文化圏コミュニティとの交流で熟成されていった音楽性は、80年から始まった映画音楽制作にも違和感なく反映されることとなります。78年の『Jazz』にいたく感銘を受けた映画監督のウォルター・ヒルの強引な説得により当初しぶしぶ引き受けた(?)という『The Long Riders』では、自らのギターに松居和(Kazu Matsui Project)の尺八を絡ませたり、2年後の『Border』では、フラーコ・ヒメネスのアコーディオンやフレディ・フェンダーのヴォーカルを効果的に導入したりと、ライでしかなし得なかった”異文化交流音”の登用が見事に功を奏した結果を招き、自らも映画音楽家としての(一部顔としての)キャリアを軌道に乗せていくことになります。
90年代に入り、インド、アフリカへの旅路の成果が、本来ライのキャリアとは縁遠い”グラミー賞受賞”というカタチで何とか結実したものの、どことなく散漫な印象を持たせるこの頃の映画音楽の仕事、さらには、79年『Bop Till You Drop』以来自己のソロ・アルバムが長らく制作されない(共演作品はあり)というこもあって、往年のファンにとって、ライ・クーダーという名前は、一部セッションのクレジットを除き、もはや過去のものとなってしまいそうなほどその輝きを失いつつありました。ところが、現在に至る、ワールド・ミュージック(ナショナル・フォーク・ミュージック)の現役伝道師としての形容、そしてその健在ぶりを決定付ける1枚のアルバムが97年にリリースされました。『Buena Vista Social Club』がそれです。エリアデス・オチョア、コンパイ・セグンドといったキューバの老快ミュージシャンを中心とした現地でのジャム・セッションは、マンネリ化していたところへの一発奮起というよりは、ライ自身が本当に生活に密着した”生きた”音楽に出会えたことへの喜びを純粋に爆発させているものとして感動を呼び、「私がこれまでに体験したセッションの中で最高のもの」と振り返る、本人にとってもファンにとっても唯一無二の作品となったことはご存知のとおり。95年に、ライがたまたまキューバを旅行で訪れた際に出会った、この”絶景”。スペインの旋律、アフリカのリズム、アメリカのジャズ・・・異文化圏の様々な音楽要素が絡まり合ったところで生成されたキューバ音楽にライが惹かれるのはむしろ自然。出会うべくして出会ったライとキューバの至宝たちとの密月は、その後のイブラヒム・フェレールのアルバムや自身の2003年のソロ作『Mambo Sinuendo』(マヌエル・ガルバンとの共作)等でも交わされ、魅惑のハバナ・エキゾチカを振り撒きます。00年代は、ライにとって、これまでの異文化交遊録をさらに飛躍させた年になる・・・と思いきや、逆に、その交遊録を生かしつつも、ソロ・キャリア初期のような純粋なアメリカン・ルーツへの探訪を再度試みる、そんな10年になったと捉えることもできそうです。所謂カリフォルニア3部作となる『Chavez Ravine』、『My Name Is Buddy』、『I, Flathead』では、フラーコ・ヒメネス、チューチョ・バルデス、ジェイムス・ブラ・パヒヌイ(ギャビー・パヒヌイの息子)、デヴィッド・ヒダルゴらによるエキゾチックなエキスが注入されながらも、しっかりと自己のルーツと対峙するライの姿が聴いてとれるでしょう。