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「田園」と第9でベートーヴェン三昧

Thursday, January 24th 2008

連載 許光俊の言いたい放題 第132回

「田園」と第9でベートーヴェン三昧

 ザンデルリンクの「田園」は期待をはるかに上回る演奏だった。最近のせかせかした古楽ではなく、ゆったりたっぷりした美しい「田園」を聴きたい人にはたまらないはずだ。
 第1楽章の冒頭からして平均よりずっと遅い。そのテンポの中で、弦楽器をたっぷり歌わせ、響きを重ね合わせていくのだ。この弦楽合奏の豊かなハーモニーは録音で聴いてもすばらしい。この楽章のもっとも魅力的な演奏のひとつであることは間違いない。これからの日差しが強くなる季節にぴったりだ。
 「嵐」は慌てず騒がず、ひたすら大きい。まさに大家の芸という感じ。
 フィナーレも雄大。ケルン放送響は、むろん決してまずいオーケストラではないが、このような大きな構えの音楽をやった経験はあまりないはずだ。だが、そんなこととは無関係に指揮者がやりたい音楽が流れ出てくるのである。
 音質は良好。

 しかし、「田園」はともかくも、ブラームスの二重協奏曲が楽しめたのが意外な驚きだった。この曲、時々演奏されるが、正直なところ、いたってつまらない音楽である(と少なくとも私は思っていた)。書いたのがブラームスという有名作曲家でなかったら、葬り去られていたかもしれないと言ったら言い過ぎか。録音だろうが生だろうが、いまだかつて魅力的と思ったためしがない。モゴモゴといろいろしゃべっているのだけど、要するにあんた何が言いたいの?という苛立ちを覚えずにはおられなかったのである。
 ところが、この演奏では、2人のソロとオーケストラのバランスがとてもいいのだ。ツェートマイアとメネセスは、特にドイツではそれなりに知られているが、決して大スターではない。が、それゆえに妙な個性の押し売りがないのだ。チェロの冒頭ソロを聴いただけで、強すぎず弱すぎずのほどのよさが感じられるだろう。そのソロを引き取って、オーケストラが弱音で弾き始める・・・再びチェロに戻る・・・。そういう音楽の進み方が実にスムーズで理にかなっているのだ。そういえば、かつて私はザンデルリンクが伴奏するモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を聴いて、ひどく感心したことがあった。そのときも、大した独奏者ではなかった。この指揮者は、そうした、独奏者をもひとつの要素として包み込んだ協奏曲をやるのが得意なのだ。特にソロを支えるオーケストラのピアニッシモの妙技に注目すべし。これがどれだけソロを引き立て、かつ音楽に奥行きをもたらすか、その効果は計り知れない。

 ところで、昨年末には第9のCDがいろいろ発売された。
 まともなものでは、メルクルの演奏。フランスの楽団を指揮しているだけあって、ドイツ流の重たい和音やリズムの刻みを期待してはならない。明るく明快な線の動きで聴かせるのだ。特にフィナーレ、例の歓喜のメロディが登場してからが、驚くほど美しい。

 笑えるのは、「歓喜の歌〜第9のすべて」(キング)だ。いろいろ変な演奏や版のさわりが入っている。ザンダー指揮の異常快速演奏、コブラ指揮の超ノロノロ演奏。このふたつなど、クラシックに詳しくない人に聴かせてもおもしろいだろう。後者は何度聴いても唖然とできる珍演奏である。
 意外にいい感じなのが、パイプ・オルガン版。壮大かつ厳粛かつ祝祭的なのが曲にぴったりなのだ。躁的に元気のよい演奏で、僧侶も尼僧も踊り出しそう。
 シンセサイザー版では、電子音効果はだいたい予想がつくところ。歌は、若者がふざけて歌っているようにしか聞こえず、まともなクラシック・ファンなら激怒間違いなし、ヴォーカリストの首を絞めたくなるはずだ(私も超むかついた)。行進曲調の編曲も実に安っぽい。
 それ以外にも、第9と「蛍の光」を同時に弾くというアクロバット、アラビア風編曲、ジャズ・ドラム編曲など盛りだくさん。おそらくこのアルバムを作った人は、普通のクラシック・ファンを挑発したかったに違いない。もしあなたがきわめて真剣なクラシック愛好家なら、このアルバムの約半分はまさに拷問であろう。私も風邪をひいているときに聴いたら、神経を猛烈にいたぶられた。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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