ＳＱＷ～クァルテット・ウェンズデイ

Tuesday, September 18th 2007

東京晴海の第一生命ホールにて主催コンサートを行なうNPOトリトン・アーツ・ネットワークのシリーズ『クァルテット・ウェンズデイ(ＳＱＷ)』は、弦楽四重奏の演奏会がほぼ毎月定期的に開かれるという、ロンドンやニューヨークにもないという世界でも稀有なシリーズ。
その2007-2008年シーズンが9月19日より始まり、日本を代表する弦楽四重奏団や世界で注目を集める団体が出演します。
今シーズンの曲目を予め聴いて演奏会に望むという楽しみもあります。そこで、そのオープニングに際して、ラインナップの作品を予習にお薦めのアルバムをご紹介します。

今回初めて『《SQW2007-2008》公式ガイドブック』が発行され、音楽評論家青澤隆明氏による各クァルテットのチェリストへのインタヴュー＆聴き所、音楽ジャーナリスト渡辺和氏によるSQWシリーズのエッセイを盛り込み、当ディスクガイドを収録しています。シリーズ券（全公演通し券）とPick up 3券（3公演のセレクト券）を購入のお客様に特別に送られる限定品となっています。

【コンサート情報＆公演曲目の予習用CDガイド】
■ベートーヴェン：弦楽四重奏曲
　プレアデス・ストリング・クァルテット
　公演日：2007年9月19日(水)　第12,2,8番
　公演日：2008年3月19日(水)　第3,5,15番

　参考ディスク：アルバン・ベルク四重奏団
　EMI 5736062
1978年～83年ステレオ＆デジタル録音。38年の経歴を閉じようとする、クァルテット界巨星の代表盤。ちょうど中期の集大成となったもので、初めてのベートーヴェン録音ながら、非常に高い完成度は多くの聴き手にも好評です。ヴィーンの伝統の上に、アメリカのラサールＱの許で研鑽を積んだ精密なアンサンブルはどの作品にも表れ、後年の臨場感のあるライヴ録音とは一味違う、練り込まれた密度の高い演奏を繰り広げています。

■ショスタコーヴィチ：弦楽四重奏曲
　古典四重奏団
　公演日：2007年10月3日(水)　第1,2,3番
　公演日：2007年10月17日(水)　第4,5,6番
　公演日：2007年11月7日(水)　第7,8,9番

　参考ディスク：ルビオ・クァルテット
　Brilliant BRL6898
2002年デジタル録音。1991年結成で使用楽器の製作者デイヴィッド・ルビオの名を冠するベルギーの団体。別レーベルに全集の予定で開始した録音が頓挫しましたが、ショスタコーヴィチへの特別な思いを持つ彼らは、最初から録り直して完成させたいわく付きの全集です。美しい音色ともに緊張感を感じさせる演奏は、音符に対する客観的なイメージが感じ取れるアルバムといえるでしょう。

■ハイドン：弦楽四重奏曲第74番ト短調『騎士』
　ヘンシェル・クァルテット
　公演日：2007年11月21日(水)

　参考ディスク：ブッフベルガー四重奏団
　Brilliant BRL93406
2006年デジタル録音。1974年に結成され、バロックから近現代作品までの幅広いレパートリーを持ったクァルテットです。同レーベルに全集を録音中で、作品71&74の6曲のアポニー四重奏曲を収録しています。モダン楽器での演奏ですが、バロックも得意としている彼らの演奏は、ピリオド・アプローチを思わせるアクセントや弓捌きからそのニュアンスが感じ取れますが、現代の演奏感覚とも見事に調和して、透明感のある演奏を聴かせてくれます。

■ヤナーチェク：弦楽四重奏曲第1番『クロイツェル・ソナタ』
　ヘンシェル・クァルテット
　公演日：2007年11月21日(水)

　参考ディスク：ジュリアード弦楽四重奏団
　SONY CLASSICAL SK66840
　SONY CLASSICAL SRCR1791
1995年デジタル録音。かねてより幅広いレパートリーを持ちつつ、特に近現代作品への素晴らしいアプローチを見せていた彼らのヤナーチェク・アルバムです。バルトークなどの録音が代表盤に挙げられる団体だけに、ローカル性より普遍的な洗練さと音符を追求する態度は楽曲の隅々まで照らし出すかのように表現しています。なお、第2番の他、ベルク《抒情組曲》も収録され、別に挙げた1959年録音と聴き比べるのも面白いところです。

■ブラームス：弦楽五重奏曲第2番ト長調作品111
　ヘンシェル・クァルテット
　公演日：2007年11月21日(水)

　参考ディスク：ベルチャ四重奏団　トマス・カクシュカ(Va)
　EMI 5576612
　EMI TOCE55642
2003年デジタル録音。1999年大阪国際室内楽コンクールでの優勝。以降第一線で活躍し、EMIレーベル一押しSQのブラームス・アルバム。師匠筋のアルバン･ベルクQのカクシュカを第2ヴィオラに迎えています。第1番に比べ社交的に感じられるこの作品の特徴を全体的に活かした美しい音色やロングトーンの艶やかさは素晴らしいものです。また、時折現れる内省的な場面では、繊細で内向的な表情を活かし、『翳り』を効果的に聴かせるところなど、作品内での対比を際立たせる所は見事です。

■ツェムリンスキー：弦楽四重奏曲第2番作品15
　エルデーディ弦楽四重奏団
　公演日：2007年12月5日(水)

　参考ディスク：カザルス四重奏団
　Harmoinia Mundi HMI987057
2004年デジタル録音。1999年結成のスペインの弦楽四重奏団。2000年ロンドン国際弦楽四重奏コンクールなどに優勝している注目の団体。自国のアリアーガなどを発表していますが、この第2作アルバムでは、ロマン派末期の当曲とドビュッシーを収録した意欲作。濃厚な作品を素晴らしいアンサンブルと明快な表現力で融合し、ツェムリンスキーの新たな魅力を聴かせてくれる演奏と言えます。

■ベルク：抒情組曲
　エルデーディ弦楽四重奏団
　公演日：2007年12月5日(水)

　参考ディスク：ジュリアード弦楽四重奏団
　TESTAMENT SBT1374
　BMGジャパン BVCC37328
1959年ステレオ録音。この《抒情組曲》の盤歴ほぼ最初期の録音。比較的近現代作品へのアプローチが多い時期の演奏で、音列的要素の強い奇数楽章と旋律的要素の濃い偶数楽章との色分けが見事になされ、さらに楽章ごとの多彩なアプローチを聴かせるのが魅力です。なお、この17年後にベルクの秘められた愛のメッセージがあるという事が発見されていますが、この録音では純粋に音符からのイメージによる演奏で、当時のジュリアードSQの真骨頂といえる演奏でしょう。
輸入盤はカーター：第2番、W.シューマン：第3番と、国内盤はヴェーベルン：弦楽四重奏のための5つの楽章、6つのバガテルとの組み合わせとなっています。
　参考までに、終楽章にボードレールの詩を用いた録音がクロノスQ＆アップショー(NONESUCH 7559796962)できくことができます。

■武満徹：ランドスケープI、ア・ウェイ・アローン
　公演日：2008年2月6日(水)
　クァルテット・エクセルシオ

　参考ディスク：アンサンブル・かい
　BIS BIS920
1998年デジタル録音。2曲を1枚に収録した現在唯一のアルバム。当時フランスの第一線で活躍していた日本人演奏家『アンサンブル・かい』による録音です。武満作品の比較的柔らかなサウンド構成に、若干楷書的なアプローチで相対しているところが、作品の魅力を倍増させています。特に笙をイメージした《ランドスケープI》では効果的に響いています。
　なお、『ア・ウェイ・アローン』の初演者東京Q（メンバーの異動がありますが）による演奏はBMGジャパン BVCC37657(11月7日発売予定)にて聴くことができます。

■武満徹：アントゥル＝タン（オーボエと弦楽四重奏のための）
　クァルテット・エクセルシオ
　公演日：2008年2月6日(水)

　参考ＣＤ：ジェフリー・クレリン(Ob)、アルディッティ四重奏団
　FONTEC　FOCD9227
　1988年デジタル録音。現代音楽界で右に出るものがいないアルディッティQと作曲家でもあるホリガーに学んだメルボルン響の主席クレリンによる演奏。比較的繊細なアプローチが全面に打ち出されて美しく響き、更に弦の幽玄さとオーボエの切ない音色が、場面によって変化していく様は魅力的です。

■クセナキス：テトラ、テトラス
　クァルテット・エクセルシオ
　公演日：2008年2月6日(水)

　参考ＣＤ：アルディッティ四重奏団
　NAÏVE/MONTAIGNE MO782137
　1991年デジタル録音。現在、上記2曲を収めた唯一のアルバムで、いずれもここで演奏しているアルディッティQのために書かれた作品です。アルディッティQは現代音楽のための特殊奏法のパレットを数多く持ち、『できない表現方法はない』、とまで言われ、ここでもクセナキスの意図した再現には最適任者の演奏といえるでしょう。

NPOトリトン・アーツ・ネットワーク
http://www.triton-arts.net/