―― まずNagano Kitchenというユニットの結成の経緯からお訊きしたいと思います。今回のパートナー、Hideo Kobayashi氏と初めて会ったのはいつ頃でしたか?
Jerome Sydenham: Hideoとは数年前にサンフランシスコで出会って一緒に何曲か制作したことがあってね。そのときにお互い音楽の方向性が同じだということに気づいたんだ。これが最初の仕事上の、また個人的な関係の始まりかな。
―― Nagano Kitchenというユニットのコンセプトは?
Jerome Sydenham: 一緒に制作に入る際に、長野の山々に囲まれたHideoのスタジオで制作しようと決めたんだ。長野でレコーディングをしながら生活してみてNagano Kitchenという名前がこの音楽に一番ぴったりだと思ったんだよ。
―― 本作は長野のスタジオで録音されたそうですね。録音時期や期間はどのくらいだったのでしょうか。
Jerome Sydenham: 2007年の1月から作業開始して終わったのは3月だった。Hideoの素敵なスタジオや、僕たちの素晴らしい関係があったからこそ、こんなに早く制作が終わったんだ。制作方法は至ってシンプル。明日への音を作るだけだった。
―― 本作の大きな特徴のひとつとして、「有機的な楽器の響きと、テクノ/ハウスミュージックの融合」が挙げられると感じました。
Jerome Sydenham: たしかに僕らはフュージョンの感じを出そうとしていた。そして世界中からいい感触が得られるように、と願ったよ。これは都会から田舎へ、そしてまた都会という行程を連想させるプロジェクトだ。だからこそ君が言うような色々な現実を感じるんじゃないかな。
―― この作品のインスピレーションの根源は、長野での様々な体験によるところが大きいと思いますが、その中でも特に印象的なエピソードを教えてください。
Jerome Sydenham: 美しく、まさに圧倒的な活火山である浅間山をスタジオから眺める事ができた。素晴らしかったね。浅間山の雰囲気が毎日変わっていくのがわかるんだよ。あの山には美しさと力強さが共存していると思うよ。
―― もともと登山や野外での散策はお好きだったんですか?クラブミュージック業界でアウトドアが趣味というアーティストも珍しいと思うのですが…
Jerome Sydenham: 自然な田舎の生活スタイルは大好きだよ。けど、都会での生活と常にバランスをとっていかないといけないけどね。
―― 今作にはデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスのエッセンスも多分に含まれていると思います。アルバム自体はそういったタイプの影響下にあると言えますか?
Jerome Sydenham: トラックの一つにデトロイト・テクノの影響をうけた楽曲があり、もう一つ、シカゴ・ハウスの影響を受けてる曲があるけど、どちらもレコーディング中には抵抗があったんだよ。いまだに僕はこれらのジャンルを尊敬しているからね。けど、基本的なアルバムの流れは新鮮で、前向きな考え方が根底にあるんだ。
―― 現在のハウス/テクノシーンの流れにもうまく合致していると思いますが、テック・ハウス、プログレッシブ・ハウス、ミニマル・テクノなど現在大きな流れを作っているジャンルについて、それぞれ何か思うことはありますか?
Jerome Sydenham: 思うに、どんなタイプの音楽でも半分以上はたいした事がないんだよ。でも、ものすごい楽曲が中にはあるんだ。そういったものは非常に興味深いね。
―― では、最近のアーティストで最もシンパシーを感じるDJ/プロデューサーは誰ですか?
Jerome Sydenham: 伝説的なDJ、Carl Craig、Joe Claussellらには常に尊敬を払っているよ。若い世代を例に出すなら、Len Faki,、Guido Schneider、 Dusty Kid,、Joris Vroon、Guy Gerber あたりかな。
―― 今回参加している韓国のユニット、East 4AとRomantic Couchが参加した経緯は?
Jerome Sydenham: もともと彼らは友達で、韓国にDJをしに行ったときには会ったりする関係なんだ。才能あるハウス/エレクトロニカのプロデューサーで、彼らと一緒に仕事ができてほんとに嬉しく思うよ。
―― 韓国のクラブミュージックシーンにはどのような特徴があると言えますか。
Jerome Sydenham: まだ比較的新しいシーンといえるけど、新しいクラブが次々オープンしたり、海外からたくさんのDJが来てる。日本のDJも頻繁に訪れたりしていて、盛り上がっているよ。これからの韓国のシーンにはとても期待してるんだ。
―― 今作からのシングルはあなたの新レーベル<Apotek Records>からのリリースです。このレーベルはどのような意図で立ち上げたのでしょうか。
Jerome Sydenham: <Apotek Records>はテクノというジャンルをもっと押し進めるために始めたんだ。これは前からずっとやりたかった事だったんだよね。このレーベルは『Sandcastles』 や 『Timbuktu』を出した<Ibadan>のTen Inchシリーズの延長線上にあると思う。
―― あなたは世界有数のビッグレーベル、<Ibadan>のオーナーですが、設立当初、<Ibadan>がここまで大きなレーベルになるとは思っていましたか?そしてその成功の理由は?
Jerome Sydenham: <Ibadan>を始めてから今まで一度もこういう事になるとは思っていなかったよ。ただ一生懸命に楽曲を作ること、世界中の音楽知識を駆使してクオリティを重視するという信念を持ち続けることが大事なんだ。成功の理由なんてないよ。ただ音楽と生活への情熱を世界中の兄弟たちとともにわかちあっているだけなんだ。
―― あなたが思う「レーベル・オーナーに必要な資質」とはズバリ何でしょうか。
Jerome Sydenham: 音楽の知識、コミュニケーション能力、いろいろな音楽を聴く事はレーベルオーナーにとって、ものすごく大切なことだよ。そしてもちろん、何でも経験することが重要だと思う。結果は辛抱していたら必ずやってくるんだ。基本的にはとても大変な仕事だよ。
―― Nagano Kitchenというユニットは今後もパーマネントなプロジェクトとして続いていくのでしょうか。今後のビジョンなどもあわせて教えてください。
Jerome Sydenham: Nagano Kitchenは今後も続いていくよ。年末には次のアルバムの制作にとりかかるしね。次のアルバムも期待してほしいな。
―― 本作のリリースパーティーでまた来日がされています。そのときにプライベートの時間で一番したいことはなんでしょう?
Jerome Sydenham: 都会を離れ、自然を楽しむこと。もちろん東京や他の都市のパーティにいくのも楽しみだよ。あとは日本食を食べて、焼酎を飲んで、レコードを買いにいきたい!みんなと会えるのを楽しみにしてるよ!
―― ありがとうございました!