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「ショパンとラヴェル」

Monday, May 28th 2007

連載 許光俊の言いたい放題 第112回

「ショパンとラヴェル」

 私がショパンの音楽に魅力を感じるようになったのは、大学生のときだった。クラシックが好きになったのは小学校5年生のときだから、ほぼ十年間、まったくいいとも思わないで過ごしたのである。小学生のとき、音楽鑑賞教室か何かで公民館に連れて行かれ、ピアノ協奏曲第1番を聴かされたときも、何だか重くて暗くていやな感じがした。ちなみに、この音楽鑑賞教室のとき、とりわけ私の気に入ったのは「美しく青きドナウ」と「フィガロの結婚」序曲だ。あまりに標準的な初心者で、今となっては笑える。「本当に水が流れているようだ」とか何とか、感想文で書いた覚えがあるが、むろん、将来こうやって音楽の文章を書いて発表することになろうとは、予想だにしていなかった。
 ともかく、ずいぶん長い間ショパンの美しさがわからなかったのだけれど、転機は大学生のときに訪れた。何かの拍子に「あ、この細々した音の動きっていうのは、要するにエッチなわけね」と思った瞬間、突然ショパンが妙に親しみやすくなってしまったのである。以来、この作曲家は、ことあるごとに耳を傾ける存在になった。
 ブリリアントの巨大なショパン全集は、持っていていいセットである。全体は大きくふたつに分かれている。ひとつは、作品全集。音源はさまざまなようで、昔懐かしいピアニストの名前が散見される。アダム・ハラシェヴィチのノクターンは素直な美しさ。当たり前のようにきれいに歌い、あくまで品の良い哀愁がある。ベラ・ダヴィドヴィチのバラードなどはもうちょっと骨太だが、やはりバランスがいい。
 作品全集に加えて、いにしえの伝説的ピアニストの演奏もたっぷり含まれているのがこのセットのおもしろいところ。昔からさまざまな個性的なピアニストが自分流でショパン演奏を繰り広げてきた。パハマン、ラフマニノフ、コルトー、リパッティ・・・手っ取り早くショパン演奏の歴史を押さえることができる。それにしても、パハマンの演奏のいちいちが不思議な生気に満ちていること。改めて聴き入った。ラフマニノフの「葬送行進曲」は昔から有名だが、確かに一聴の価値がある。きわめて明確でいながら幻想的と言おうか、不思議な魅力がある。最後のリタルダントなど、耳に残ってしまう。当たり前と言っては当たり前だが、ショパンの演奏にはいろいろな可能性があるのだ。
 それにしても、今となっては忘れ去られたような演奏家でも、最近のピアニストよりはるかに優雅さや情感の濃さを持っていた。たとえば、時代が下ったコチシュ(よりによってワルツ集の担当)やキーシン(2つの協奏曲の第2楽章における感情ゼロ演奏)には、それ以前のピアニストたちみたいな鷹揚さがない。人間味が薄い。その代わりにメカニックな快感が求められている。やっぱり現代は殺伐とした時代なのだと思わされる。

 アルヘンタ指揮セント・ソリ管弦楽団のラヴェル集も最近心ひかれたCDだ。最近よくある、昔のLPの復刻である。この聞き慣れぬ名前の楽団は、パリの主要オーケストラの楽員を集めたものらしい。「マ・メール・ロワ」にはノスタルジックな雰囲気が色濃く漂う。特に美しく歌うとか、音色が超きれいとか、オーケストラがべらぼうにうまいとか、そういうわけではない。ごく淡々と流れている、それだけなのに、何とも言えない昔懐かしい雰囲気がするのだ。決してしっとり系ではなく、むしろドライでさばさばしているのだが・・・。念のため聴き直しても、印象は変わらない。唯一、終曲のみがテンポをぐっと落とし、情緒纏綿としている。これがまた猛烈に美しくも悲しい。滴るような蜜の黄金色がそのまま枯れ葉の黄金色と直結している。艶美と死が神秘的に同居している。
 「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、管楽器の音色や弦楽器のリズムの取り方が、われわれが知るいかなるこの曲の演奏とも違う独自の味わいを持っている。フランス風でしゃれていると言ってしまうとそれで終わってしまうが、細かなヴィブラートがかかった金管楽器の色っぽいこと。かつて聴いたことがない音色の重なり合いの連続には、驚かされた。この曲って、こんなに色彩的だったっけ? 各楽器をクローズアップした録音によって、色とりどりの響きのおもしろさが強調されているのだろう。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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