TOP > Music CD・DVD > News > Classical > Chamber Music > 「暑くてじっとりにはフランス音楽」

「暑くてじっとりにはフランス音楽」

Thursday, May 25th 2006

連載 許光俊の言いたい放題 第79回

「暑くてじっとりにはフランス音楽」

 川崎でフェドセーエフ指揮モスクワ放送響を聴いてきた。「展覧会の絵」がメインで、あちこちに興味深い部分があって楽しめたが、特に最後、常識的には考えられないバランスで打楽器がうち鳴らされるのが強烈だった。こうやってみると、確かにロシア風としか言いようがないギラギラした黄金の音響がホールを満たすのだ。へえ、と思わされた。アンコールはチャイコフスキーの「雪娘」。むろん、オケのパワーを全開にしたフェドセーエフ+モスクワならではの痛快な音楽だった。
 会場のミューザ川崎は、近頃私のお気に入りである。首都圏には本格的なコンサートホールがあれこれできたが、目下、一番のお気に入りかもしれない。以前たまたま出かけてみて、想像以上の音響にすっかり感心した。
 基本的に私は、オーケストラと指揮者の様子が聴覚的にも視覚的にもよく把握できる舞台サイドの席を好むのだが、そこで聴くと、音のひとつひとつが異常に明快で、粒だちがいいのに唖然とする。まるで最高級オーディオのようにくっきりとした音なのだ。論より証拠、まずはLAブロックあたりにすわれば、音楽が始まる以前の拍手の音からして、何だこれはとびっくりすること間違いなしである。目が覚めるように鮮烈な、こんな分離のよい拍手の音は、東京のどこでも聴けないだろう。
 一方、一階席ではもっと残響が乗った、重厚な響きが楽しめる。といっても、だぶだぶというほどではない。私は今回はプログラム前半を舞台サイドで聴き、後半を一階席で聴いた。弦楽器や金管楽器がこれでなくてはという重みと柔らかさで響く。実に気持ちよい。
 川崎駅周辺は私などもまったくなじみがなかったが、品川から10分、しかもホールは駅の隣、濡れずに行ける至近の場所にある。これは穴場だ。後日、サントリーホールで同じ演奏者によるショスタコーヴィチの交響曲第10番を聴いた。サントリーだって、ちゃんとした席を選べば国際的に見て十分まともな音がするのだが、川崎のあとだといかにも分が悪い。

 ところで、今年は天気がめちゃくちゃである。こうなると、重量級のオーケストラはあまり聴く気が起きない。実はフェドセーエフにしても確かに立派で魅力的な演奏なのだが、天気のせいで今ひとつ、どうしても聴きたいという気が起きにくかった。
 そんなことを思っていたところ、快適なアルバムを見つけた。ひとつは、プーランクのピアノ曲、室内楽曲のセット。私は常日頃プーランクやミヨーを聴いているわけではないが、実は嫌いではない。大まじめであることを、少なくとも大まじめを大まじめに表現するのを嫌った彼らの音楽の、醒めた感じ、軽快な感じは心地よい。聴くのに特別な興味や知識はいらない。フルート・ソナタなど、誰でもすなおに受け入れられる曲だろう。フランスは管楽器の名手をたくさん輩出しているが、このセットでも彼らの妙技が楽しめる。
 同じフランスの作曲家、フォーレの作品をコラールが弾いたピアノ曲集もいいセットだ。特に夜想曲。ショパンをいっそう繊細にしたような瞬間的な気分の交錯が何とも言えない味わい。フォーレというと、「レクイエム」やいくつかのオーケストラ曲ばかりが知られているが、彼の音楽のきめの細かさは、ピアノ曲にこそよく表れている。
 私は、なんだかぐったりする日は、こんなプーランクやらフォーレやらを聴くともなしに部屋に流しているのである。

 ところで、拙著『コンヴィチュニー、オペラを超えるオペラ』(青弓社)がようやく書店に並んだようだ。諸事情で遅くなってしまった。コンヴィチュニーのさまざまな演出について批評した、世界で最初、唯一と言っていいような内容である。今回のは値段がいつもよりちょっとばかり上がっているが、これは私の取り分が増えたから、では残念ながらなくて、これだけしっかりした内容の本は売れる数が少ないかもしれないからである。うぬぼれではなく、これだけしっかりした本は久しぶりで書いたと自負している。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


⇒評論家エッセイ情報

Chamber MusicLatest Items / Tickets Information

* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

featured item

Piano Works, Chamber Works: Tacchino Menuhin Fevrier Fournier Etc

CD Import

Piano Works, Chamber Works: Tacchino Menuhin Fevrier Fournier Etc

Poulenc (1899-1963)

User Review :4 points (3 reviews) ★★★★☆

Price (tax incl.): ¥3,630
Member Price
(tax incl.): ¥3,158

Release Date:11/May/2006

  • Deleted

%%header%%Close

%%message%%

featured item

Complete Piano Works : Collard, Rigutto (4CD)

CD Import

Complete Piano Works : Collard, Rigutto (4CD)

Faure (1845-1924)

User Review :4 points (5 reviews) ★★★★☆

Price (tax incl.): ¥2,934
Member Price
(tax incl.): ¥2,553

Release Date:13/April/2006

  • Deleted

%%header%%Close

%%message%%

featured item

コンヴィチュニ-、オペラを超えるオペラ

Books

コンヴィチュニ-、オペラを超えるオペラ

MITSUTOSHI KYO

User Review :4.5 points (2 reviews) ★★★★★

Price (tax incl.): ¥2,200

Release Date:May/2006

  • Out of Order

%%header%%Close

%%message%%

featured item

  • 世界最高のクラシック 光文社新書

    Books

    世界最高のクラシック 光文社新書

    MITSUTOSHI KYO

    User Review :4.5 points (4 reviews)
    ★★★★★

    Price (tax incl.): ¥792

    Release Date:October/2002


    • Add to wish list
  • %%header%%Close

    %%message%%

  • オペラに連れてって!

    Books

    オペラに連れてって!

    MITSUTOSHI KYO

    Price (tax incl.): ¥1,760

    Release Date:March/2003


    • Add to wish list
  • %%header%%Close

    %%message%%