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2006年モーツァルトへの旅 第1章

Thursday, February 23rd 2006

第 I 章 1756〜1773年 奇跡のはじまり

神童の誕生
 1756年1月27日夜8時、ザルツブルクのゲトライデ通りにある借家で、1人の男児が生を受けた。父レオポルト・モーツァルトはザルツブルク宮廷楽団のヴァイオリン奏者。彼はちょうどこの年、『完全なるヴァイオリン教程試論』という教則本を出版し、教師として名声を得ることになる。母アンナ・マリアは役人の娘で、聡明でやさしい女性だった。
 ヨハネス・クリュソストムス・ヴォルフガングス・テオフィルス・モーツァルトは、この夫婦にとって7人目の子供にあたるが、姉マリア・アンナ(愛称ナンネル)を除く5人は、すでに世を去っていた。
 簡単にモーツァルトの名前について説明しておくと、「ヨハネス・クリュソストムス」は1月27日を祝日とする聖人の名前。「テオフィルス」は代父テオフィルス・ペルグマイヤーの名前からとられたもので、後にラテン語式のアマデウスという表記に変えられている。
 4歳半年上のナンネルは神童として知られていた。3歳のヴォルフガングは、その姉のチェンバロで遊び、やがて3度の和音を見つけ出すことに熱中するようになる。4歳になると父のレッスンを受け、姉の練習帳——いわゆるナンネルの楽譜帳——を消化し、5歳になると即興的に弾きはじめ、作曲をするようになった。レオポルトは奇跡が起こったことを確信し、「神がザルツブルクに生ましめたもうた奇跡を世に知らしめる」ため、旅に出ることを決意する。

少年期の大半を旅に費やす
 1762年1月12日、レオポルトは2人の子を連れて、まずミュンヘンに向けて出発した。そして当地の選帝侯の前で演奏し、賛辞を得た。主に注目を浴びたのは弟だったが、もともと屈託のない性格のナンネルは快く弟の引き立て役をつとめたようだ。一行はいったんザルツブルクへ戻り、今度はウィーンへ。シェーンブルン宮殿に伺候し、やはり賞賛の的となる。その席で、女帝マリア・テレジアは、ヴォルフガングが膝の上に飛び乗り、首に巻きついて何度もキスをしてくることを許したという。また、ヴォルフガングが宮殿内の床で転んだ時、助け起こしてくれた少女に「いつかぼくのお嫁さんにしてあげる」と言ったという逸話も残っている。この少女が後のフランス王妃、マリー・アントワネットである。
 ザルツブルクに帰ったのは1763年1月5日。この時期のヴォルフガングに関して、レオポルトの同僚ヨハン・アンドレアス・シャハトナーの報告がある。それによると、少年はヴァイオリンの調弦が1/8ずれているだけでそれを指摘し、ヴァイオリンを習ったこともないのに見よう見まねで第2ヴァイオリンを弾きこなしたという。
 同年6月9日、今度は家族全員で旅に出た。演奏会では、純粋に楽器を演奏するだけでなく、鍵盤を布で隠してその上から弾いてみせるとか、コップや時計によって鳴らされた単音や和音を正確に言いあてるといった、見せ物的要素も求められた。少年は喝采を浴びても得意にならず、むしろ音楽に無理解な人の前に出るのを極度に嫌がったという。彼は他者の反応に敏感だった。「ぼくのこと好き?」とたずねる癖があり、そこで冗談にでも「嫌いだよ」といわれると涙を浮かべるほど、繊細だった。
 一行は、パリ、ロンドン、デン・ハーグなどを歴訪し、各地で歓迎を受けた。ロンドンでは大バッハの末子、ヨハン・クリスティアン・バッハを知り、少年モーツァルトは大いに刺激を受けている。ただ、1766年11月29日まで続いたこの長旅は病気との闘いでもあった。デン・ハーグではチフスを患い、一時は重体に陥っている。

イタリアでの栄光
 1769年12月、父と子はイタリアへ向かった。オペラの国で成功することが、息子を一流の音楽家として認めさせる最善の手段——レオポルトはそう考えたのである。「楽しいことばかりで、僕は有頂天です」と母親宛の手紙にあるように、イタリアは好奇心旺盛な少年にとって天国だった。彼は各地でオペラを観まくり、マントヴァでは新作の交響曲やチェンバロの即興演奏を披露して絶賛され、ミラノではオペラの作曲を依頼された。また、ボローニャでは、イタリア最高の音楽理論家、マルティーニ師の指導を数回にわたって受けている。
 ローマのシスティナ礼拝堂ではアレグリの「ミゼレーレ」を聴いた。これは9声の合唱曲で、この礼拝堂でしか聴けない秘曲とされ、楽譜の持ち出しは禁じられていた。しかし、なんとモーツァルトはこれを一度聴いただけで記憶し、宿に戻って楽譜に書きおこしてしまったのだ。そして、細部を修正するため、もう一度聴きに行き、完全なものに仕上げた。「ミゼレーレ」を流布させたのは14歳の子供だったのである。
 旅行中、彼はローマ教皇から「黄金の軍騎士勲章」を授与された。本人も父親もさぞ誇らしかったことだろう。名前をアマデウスに変えたのはこの旅行からである。
 2回目のイタリア旅行でも、オペラ『アルバのアスカーニョ』を成功させて名をあげたが、ザルツブルクに帰ると悲しい出来事が待っていた。モーツァルト家に対して寛大だった大司教、シュラッテンバッハが亡くなったのである。3回目のイタリア旅行は、実り少ないものだった。渾身の新作オペラ『ルーチョ・シッラ』はさほど成功せず、気まぐれな貴族たちは、しかるべき職を提供してくれることもなかった。こうして1773年3月13日、父と子は失意のままザルツブルクへと戻ることになる。


1756年〜1773年3月に書かれた代表的な作品

交響曲第1番 変ホ長調 K.16
ロンドンに滞在していた1764年末、8歳の時に書かれた最初のシンフォニー。3楽章構成のイタリア風交響曲で、クリスティアン・バッハの影響が認められる。それにしても、第2楽章のメランコリックな美しさなど、とても子供の手によるものとは思えない。ちなみにこのアルバムには、第1番を含む交響曲計11作品を収録(3枚組)。アーノンクールとその孫がモーツァルト父子の手紙を朗読しているのも聴きどころだ。
ニコラウス・アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

バスティアンとバスティエンヌ K.50
12歳の時にウィーンで作曲された(11歳の時から書き始めていたという説もある)。舞台はコルシカ島。羊飼いの娘バスティエンヌと恋人バスティアンが仲直りするまでを描いた牧歌的なジングシュピール(※)である。小規模で聴きやすいこともあり、人気が高い。序曲のメロディーがベートーヴェンのエロイカ交響曲第1楽章の主題に酷似していることでも有名。ベートーヴェンはこのオペラを聴いたことがあったのだろうか?
ダグマール・シェレンベルガー(S)他/マックス・ポマー指揮/ライプツィヒ放送交響楽団

ディヴェルティメント ニ長調 K.136
ディヴェルティメントは18世紀半ばに流行したジャンルで、一種の器楽組曲。イタリア語の「divertire(楽しませる)」に由来し、日本では「嬉遊曲」と訳される。このK.136は、2度目のイタリア旅行から帰ったばかりの1772年1月から3月にかけて書かれた傑作で、イタリア風の開放感あふれるメロディーとリズムが春風のように心地よい。なお、この作品の後、立て続けに2つの嬉遊曲が書かれている。
トン・コープマン指揮/アムステルダム・バロック管弦楽団

エクスルターテ・ユビラーテ K.165
1773年1月上旬、3度目のイタリア旅行の際に書かれた。題名はラテン語で「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」の意味。宗教曲ではあるが、瑞々しい生命の躍動を感じさせる華やかな作品である(1779年頃、テクストを変えて編曲された)。この演奏は1954年に録音されたもので、フリッチャイのきびきびした指揮と、シュターダーの素直な歌声が魅力的。ほかに、エディト・マティスやクリスティーネ・シェーファーが歌った録音もお薦めだ(ただし現在は入手困難)。
マリア・シュターダー(S)/フェレンツ・フリッチャイ指揮/ベルリンRIAS交響楽団


モーツァルトゆかりの作品

グレゴリオ・アレグリ:ミゼレーレ
アレグリはローマ楽派の作曲家。モーツァルトが記譜したミゼレーレのスコアは1771年に英国で出版されたといわれている。
ピーター・フィリップス指揮/タリス・スコラーズ

レオポルト・モーツァルト:おもちゃの交響曲
カッコウ笛、ガラガラなどを用いた風変わりな交響曲。作曲者は特定されていないが、レオポルト作とする説が有力である。
クルト・レーデル指揮/ミュンヘン・プロ・アルテ管弦楽団

ミヒャエル・ハイドン:レクイエム ハ短調 MH.154
シュラッテンバッハ追悼のために書かれた。モーツァルトの『レクイエム』に影響を与えたと考えられている。
ツォマー(S)他/クリスティアン・ツァハリアス指揮/ローザンヌ室内管弦楽団

J.C.バッハ:交響曲 ト短調 op.6/6
モーツァルトが手本にしていた先輩作曲家、J.C.バッハの交響曲。内なる感情を音楽に投射したような、劇的要素の強い作品。
ステファン・メイ指揮/ベルリン古楽アカデミー


(阿部十三 [あべとみ]) 

* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

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