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「真性ハチャトゥリアンに感染してみる」

Wednesday, August 30th 2006

連載 許光俊の言いたい放題 第62回

「真性ハチャトゥリアンに感染してみる」

 ロリス・チェクナヴォリアンがASVのために制作したハチャトゥリアン録音がセットになって出回っている。これは楽しい聴きものだ。
 ハチャトゥリアンというと、「ガイーヌ」ばかりが有名で、他はほとんど顧みられない。けれども、生前は日本の作曲家にも少なからぬ影響を与えていたのである。現在注目されているナクソスの日本音楽シリーズを聴いてみれば、わかるはずだ。芥川也寸志など、ずいぶん似た曲を書いているのである。
 チェクナヴォリアンのハチャトゥリアンというと、今はBMGから発売されている「ガイーヌ」が知られている。確かに悪くない演奏だ。しかし、私には決定的に物足りない部分があった。オーケストラはうまいことはうまいし、切れもあるのだが、アングロ・サクソン流儀でいかにもあっさりしているのだ。情感も色彩も薄い。それゆえ、快速のところもゆっくりのところも、単調になってしまう嫌いがある。ガシャン、グシャンとむやみに騒がしい印象が強調され、全曲を続けて聴いていると、いいかげん飽きてくるのである。
 また、「ガイーヌ」では長い間、作曲者がウィーン・フィルを指揮した録音が高く評価されてきた。こちらも美しい演奏で、決して貶めるべきものではない。とはいえ、やはりウィーン・フィルはウィーン・フィルで、あちこちがウィーン風に上品になってしまうのが美しい反面、違和感も感じさせた。
 こうした演奏が賞賛されていること自体、いかにハチャトゥリアンらしいハチャトゥリアンを私たちが知らなかったかという証拠である。もっと泥臭いと言おうか、本場の匂いが漂う演奏があるはずだ。私はそう思ってきた。
 その意味で、アルメニア・フィルによる演奏は決定的に重要だ。論より証拠、どの曲を聴いても、これぞ本場ものならではのピリピリする味に痺れるだろう。弦楽器が旋律を歌うと、粘りつくような独特の艶っぽい響きがする。打楽器が暴れるとたちまち、いかにもローカルな雰囲気が発散される。疾駆するところでは、足取りも軽い。木管も金管も弦も打楽器も、統制が取れている。リズムの取り方、ヴァイオリンの歌い回し、打楽器の決め、こうでなければと溜飲が下がる。交響曲第1番冒頭、民族楽器を彷彿とさせるようなヴァイオリンの濃厚さを聴けば、すぐに納得がいくだろう。これでこそ、強烈な地域性をクラシック音楽の形式と融合させたハチャトゥリアンの音楽が、ロシア楽壇に驚きを呼び起こした理由がわかるというものだ。日本で言うなら、演歌と交響曲を合体させたようなものなのだから。
 もちろん「ガイーヌ」、「スパルタクス」、交響曲第2番など、有名作の演奏は上出来である。が、それ以外にも興味深い作品が存在する。たとえば交響曲第3番。これは狂ったようにうるさい曲で、トランペットの大群が叫びを上げるかと思うと、パイプオルガンが名技を披露。両者が組み合わさって異様な音響空間が生まれる。作曲者が正気だったとはにわかに信じがたい。半ば滑稽なようでいて、半ば怖い。何とも不思議な音楽だ。
 さらに、ハチャトゥリアン以外にイッポリトフ・イワーノフとチェクナヴォリアンの自作も入っている。これがまたいい。土臭さぷんぷんの前者はもちろん、特に後者は、指揮もオケもノリノリで、痛快だ。スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立響あたりが好きな人にはたまらないだろう。
 曲によっては、オケがまるでやる気を感じさせないものもあるが、ご愛敬。気まぐれな土地柄をよく表していておもしろい。はっきりしているのは、この演奏を知ってしまったら最後、他のあらゆる演奏が何か漂白されたように感じるであろうということだ。
 これらのCD,実はかつて日本盤がクラウンから発売されていた。私などはおもしろがっていたが、大して話題になることがなかった。今思うと発売が早すぎたのかもしれない。いろいろなオーケストラや作曲家がそれなりに注目を浴びる現在に発表されていたら、もっと関心を持たれただろう。
 残念ながら、チェクナヴォリアンとアルメニア・フィルは仲違いしてしまったらしい。また、アルメニア・フィルは悪条件下、演奏の質を低下させているとも聞く。期せずしてこのセットが、彼らの短い蜜月を示す記録となってしまったのだ。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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Orchestral Works Collection Tschechnavorian & Armenian Philharmonic (9CD)

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Release Date:13/August/2005

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