「夏と言えば・・・」(許光俊)
Wednesday, July 19th 2006
連載 許光俊の言いたい放題 第58回「夏と言えば・・・」
いよいよ本格的に暑くなってきた。暑さが嫌いな人間としては、冷夏を祈るしかない。よく、「夏は海外でオペラ三昧ですか」などと尋ねられるが、とんでもない。どこへ行っても人が多く、暑苦しいとなれば、家でおとなしく読書したり執筆したりするのが、私にとっては快適な夏なのである。仕事の合間にはプールに行って・・・。
ともかく、夏休みは読書には最高の季節である。クラシックの愛好家は、漫画などあまり読まないかもしれないが、柳葉あきらの最新刊はおもしろかった。この人は、漫画の世界では珍しいのだろうけれど、クラシックが好きで、自身、合唱団でも歌っているという人だ。『外道棋記〜真剣師 小池重明』(集英社)は団鬼六原作で、主人公は賭け将棋のプロ。酒と女にまみれためちゃくちゃで不潔な生活を送っている。この男の奔放きわまりない活躍が痛快だ。
さすがクラシック・ファンだと思わされるのは、破滅的な生活を送りながらも、将棋の盤上だけは完璧に美しい世界という構図が、まさにロマン主義音楽と同じである。シューマンとか、ワーグナーのタンホイザーを思い出させる。
柳葉の作品では、骨董に憑かれた男を描いた『骨董屋とうへんボク』(集出版社)も楽しい。こちらはもっとゆるやかでひなびた味である。
それ以外にもおもしろそうな本がいろいろ出た。ひとつは現代を代表する音楽学者コンスタンティン・フローロスの『マーラー〜交響曲のすべて』(藤原書店)という大著。ずしりと重いが、ものすごく難解な本ではなく、マーラーが好きな人なら大丈夫。
もうひとつは本欄でも紹介したことがある青柳いづみこの『ピアニストが見たピアニスト〜名演奏家の秘密とは』(白水社)。この人のピアニスト論は、演奏家ならではの指摘が興味深くて評判がいい。
どちらも忙しくてまだ読めていないので、この夏のお楽しみだ。
私も愛読者向けに『オレのクラシック』(青弓社)というのを上梓した。ここしばらく、入門書的なものを書いていたら、「もっと愛読者向けのものを出せ」という声が多くなった。なので、いっそ一人称に「私」とか「僕」ではなく「オレ」を使って、言いたい放題してみたのである(まあ、普段だって言いたい放題みたいなものだが)。
ハッキリ言って、愛読者以外は読まないほうがいいかもしれない。ざっと項目を挙げると「オレが認めない指揮者たち」「オレはオタクが嫌い」「オレが日本でコンサートに行くのが嫌いな訳」等々、きっとあちこちで「好き勝手言いやがって」と腹が立つだろうから。「オレの日本」「オレの宗教」・・・音楽以外のことについてもあれこれ書いた。なんでも、鈴木淳史も「私が嫌いな演奏」といったコンセプトの本を書いているらしく、まもなく出版されるとか。「私は嫌い」が、ここしばらくの流行になるのだろうか。
こういう書き方をすると、矛盾や混乱も出てくるが、そもそも生きている人間とは、矛盾や混乱を抱えているものである。だから、この本ではあえて首尾一貫させる努力はしなかった。
で、後半はこのHMVのコラムを集めた(伏せ字なし&オマケ付き)。つまり1冊のうち、前半と後半で、かたや少数向き、かたや不特定多数のウェブ読者向きというふうに、強いコントラストを作ってみたのである。が、そもそもそれが本当にコントラストになっているかどうかというところに、書き手の特徴が表れているというわけだ。
そうそう、この本の印税は、福祉事業に寄付される。チャリティ・コンサートはよくあるが、音楽書ではあまり例がないのではないか。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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