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許光俊の言いたい放題 『謎の指揮者コブラ』

Monday, February 6th 2006

許光俊の言いたい放題 第3回 『謎の指揮者コブラ』

 一部でゲテモノと取りざたされているコブラを初めて聴いた。曲はモーツァルトの「レクイエム」。なんと82分もかかるという超ノロノロ演奏で、CD2枚組なのである。 最初のうちは、遅いと言っても、まだ理解の範囲内。各声部の動きがよく聞こえてきて嬉しい。
 だが、「怒りの日」が始って、腰を抜かした。普通の倍ではないか。一瞬まったく違う曲が始まったと思ったほどだ。「ラクリモーサ」も止まりそうだし、恐ろしいほど気が抜けていて衝撃的。特に最後の「アーメン」は情けなくなるほどだ。
 「遅いだけ」「表情が死んでいる」という意見も聞いていた。確かに、はっきり言って、大した指揮者ではないと思う。せっかくいろんな音が聞こえてくるのに、それぞれが明快に位置づけられていない。歌詞の意味への配慮もない。思い入れがあるわけでもない。バス声部がもうちょっとキリッとしていたらなあとも思う。遅いだけ、と言われれば、否定はしがたい脱力演奏だ。
 しかし、ここまで遅いと、至らぬ部分を自分の脳の中で補いながら聴けるのだ。この速度、妙に想像力や思考を促すのである。異化効果というやつがあるのである。その点において、聴き手を選ぶ熟練者向け演奏と言えるだろう。波長が合う人にとっては、たまらなく刺激的なはずだ。
 どうしてこんなテンポになったかは金子建志氏あたりに解説願うとして、とりあえず私はこの怪しい音楽がとても気に入った。さっそく第9も買わなくては。フィナーレが40分以上かかるというから、今から楽しみ。
 さあ、これで禁断の封印は破られた。次は誰がこれをやるかだ。(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授)


ヴィレム・レッツェ・タルスマ教授ほか、ドイツやオランダの一部の音楽学者たちが唱える個性的な音楽理論、テンポ・ジュスト(Tempo Giusto theory、昔は指揮棒の一往復をもって一拍と定義していた、云々)に基く超スロー・テンポ演奏をおこなうフランス系ブラジル人の指揮者で音楽学者のコブラ(パリ在住)指揮による演奏をリリースしています。  今後のリリース予定には、《マタイ受難曲》やブランデンブルク協奏曲全曲、管弦楽組曲全曲、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》全曲、ベートーヴェンの交響曲の残り8曲&序曲、ブラームスの交響曲全曲、ベルリオーズの幻想交響曲、ワーグナーの管弦楽曲集3枚、シューベルトのグレートなどのコブラによる演奏のほか、バッハの鍵盤楽器作品集(Richard Loewe)、ベートーヴェンやショパン、リストの鍵盤楽器作品集(William Shire)などがあります。

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Sym.9: M.cobra / Europa Philharmonia Budapest (+dts 2cd)

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Beethoven (1770-1827)

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Release Date:27/December/2002

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