北欧エヴァンス派大本命の殿盤
Thursday, January 5th 2012
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新春慶事☆ 北欧きってのエヴァンス派ピアニストから”殿盤”
2010年は「没後30年」、また昨年は「ワルツ・フォー・デビィ録音30周年」と節目の年が続けざまに訪れたこともあり、ここ1、2年何かと話題のリリースが多かったビル・エヴァンス関連作品。
ことさら”エヴァンス派”ピアニストによるトリビュート・アルバムには目を見張る傑出プロダクツが多く、チック・コリアがエディ・ゴメス、ポール・モチアン（2010 R.I.P.）とのトリオで出演した2010年N.Y.ブルーノート公演の実況録音盤『Further Explorations: ビル・エヴァンスに捧ぐ』をはじめ、米西海岸のディック・フレグリア『Re: Person I Knew -Tribute To The Bill Evans Trio』、同じく西海岸のアラン・パスクァ『Twin Bill: Two Piano Music Of Bill Evans』、フランスのマニュエル・ロッシュマン『Touch Of Your Lips： Tribute To Bill Evans』（2010年発売）、さらには日本人ピアニストの吹き込みを中心とした『PIANIST 〜Waltz For Bill Evans』など、いずれも筋金入りのエヴァンス・ファンをしっかり納得させる仕上がりになっているのはすでにご周知のとおりでありましょう。
さて、2012年。数多存在する”エヴァンス派”の殿とでも申しましょうか、デンマーク・ジャズ界きってのラブ・エヴァンス・ピアニスト、トーマス・クラウセンによるエヴァンス愛奏曲集『For Bill』が登場します。ニールス・ペデルセンらと吹き込んだ1983年のBaystate盤『The Shadow of Bill Evans』（廃盤）以来二度目のエヴァンス・トリビュートとなりますが、前回は半分程をクラウセンのオリジナルが占めていたこともあって、こちらはエヴァンスへの心情三派のようなものをよりストレートに具体的に表現した愛奏曲集になっている、と位置付けてよいかもしれません。
まずはそのジャケット写真を見るにつけ、即座に「！」と声なきひと声。そうです。かのチャック・イスラエルが参加しているのだから、ますますもって音への期待感を煽るというもの。過不足なくトリオ・サウンドを支える”縁の下のイスラエル”、その本領をたっぷり味わえることをお約束。「I Fall In Love Too Easily」、「Summertime」あたりはさぞかしムフフ...と。
ドラムには、デンマーク・シーンを代表する新世代グルーヴマスター、クレステン・オズグッド。 ロニー・スミスとのオルガン・カルテットやポール・ブレイとのデュオ、他サム・リヴァース、マイケル・ブレイク作品など、ファンキーからモーダル、ECMヨロシク空間創出系インタープレイまで何でもござれの若き巧者。この大胆な起用も本盤の大きなポイントとなっているのです。
『For Bill』 収録曲
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クラウセンの前作は、その名のとおりアルゼンチンやスペインに題材を求めた『Spanish Blue』、前々作はセリア・マニェイロス、カルロス・マルタと作り上げたコンテンポラリー・ブラジリアン・アルバム『After The Carnaval』と、リーダー・アルバムとしてはピアノトリオはおろか純正ジャズ作品がこれまた久々になるわけなのですね。ニルス・ヴィンディングらとの三頭作『Breathspoken』、あるいはコペンハーゲン録音の『Back To Basics』以来となるのだから実に五年近くご無沙汰だったということ。
それは裏を返せば、近年多岐的な活動を行なっていた多目型ピアニストが ”エヴァンス派”というある種の原点に立ち返って、その愛奏曲と向き合ったということに他ならず。勿論、もはやクラウセンのキャリアをエヴァンス云々で語りきることは到底不可能なことなのですが、それでも「？？」という印象が少なくなかったブラジル音楽傾倒作品群と比較してしまえば、やはり『PSALM』、『My Favorite Things』（廃盤）など要所で送り出されてきたピアノトリオ・アルバムに”エヴァンスの影”を感じながら多分に惹かれてしまう...これは致し方ないというべきか、日本のピアノトリオ・ファンの悲しい性とでも言うべきか。とにかくは、待ってましたの純正ピアノトリオ作品にしてエヴァンス愛奏曲集という、これ以上なく理想的な様式で届けられたこの新録アルバムに慶ばずにはいられないのが率直なところと言えるでしょうか。
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チャック・イスラエル（左）／クレステン・オズグッド
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ブロードウェイ古典としてはもとよりポール・モチアンのレパートリー（『The Windmills Of Your Mind』収録）としても知られる冒頭曲「Let's Face The Music And Dance」を皮切りに、イスラエル作の「Minor Tributary」、マイルス・グループ在籍時にキャノンボール・アダレイらと吹き込んだ「People Will Say We're in Love」、極めつけはMJQのジョン・ルイスが音楽を担当した映画「拳銃の報酬（原題：Odds Against Tomorrow）」のスコアより「Social Call」と、なかなか渋く迫った選曲にもニヤリ。
とは言え、主賓はやはり「Some Other Time」、「I Fall In Love Too Easily」といった鉄板どころ。前者のこの上ない清々しさ、絶世の美旋律、モニカ・ゼタールンドとの共演ヴァージョンをも想起させるうたごころ...北欧慕情をほのかに薫立たせながらジャズ史に刻まれた名演が今宵もまた語り継がれてゆく。
後者も然り。「リリカル」と平べったく表現してしまえばそれまでよ。その表題と同様、甘く切なく、奥ゆかしくもアンニュイなひととき。月光下で揺らめく恋心に囁きかけるイスラエルの包容力のあるベース、オズグッドの繊細なブラシワーク。クラウセンのピアノが激しい吐息のような響きでそこに応える。「あぁ、また好きになっちまった」とお決まりの寅次郎...もといシナトラ節。ピアノトリオならではの色気や風情がなければこんな与太話だってできません。
2012年一発目のエヴァンス・トリビュートとなる『For Bill』。おとそ気分の抜けきらないピアノトリオ・ファン、エヴァンス・コレクターどちらにとっても新年から縁起の良い一枚になることは勿論、なんだか久しぶりにクラウセンらしい衒いのない凛々しさ・瑞々しさにも出会えたかのような、すこぶる福まみれの上玉であることをここに断言させていただきます。
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北欧ジャズ界きってのエヴァンス派
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For Bill
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クラウセン、イスラエル、オズグッド
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エヴァンス・トリビュート色々
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Further Explorations
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