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今を生きるピアニスト、至高のピン芸

Tuesday, January 25th 2011


Fred Hersch




エヴァンスもキースも問題としない、今を生きるピアニスト、至高のピン芸


 80年代半ばに H.I.V. ウィルス感染の宣告を受けたフレッド・ハーシュ。2008年、そのウィルスが脳に侵入したことにより、ハーシュは生死の境をさまよった。ニューヨークのセント・ヴィンセント病院。丸2ヶ月間の昏睡状態から目を覚ました後も、流動食はおろか水さえも口にできない状態が続き、致し方なく気管を切開しそこからチューブを通して栄養を摂取。そうした壮絶極まりない闘病生活はおよそ8ヶ月にも亘ったという。

 長期間の昏睡状態が原因で、ハーシュの両手の握力および運動機能は、商売道具のピアノを弾くどころか鉛筆を握ることすらままならないほど低下していた。誰もが、ハーシュの指先から以前のような美しい旋律が弾かれることはないと失意に暮れていたその矢先、朗報は届けられた。

 指先のトレーニング、基礎練習など懸命なリハビリを終えて再び音楽の世界に戻ってきたハーシュ。アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲をハーシュならではの解釈で捉えたソロ・ピアノ作品集『Plays Jobim』。一介のボサノヴァ全集にまとまらないあたりは、さすが確固とした自己カラーを持つ人だけあるなと。その優しく柔らかく、芯のあるタッチに万人が酔いしれた。

 現場への復帰はここからが本番。2009年、ニューヨークのジャズクラブ「ジャズ・スタンダード」に、トランペット、パーカッション、女性ヴォーカルという超変則カルテット=ポケット・オーケストラで出演。このときの模様は『Live At Jazz Standard』として発表された。そしてご存知こちら。もはや誰も到達できないほどに美しく、儚く、しかし生命ある悦びに満ちた、そんなピアノの調べに包まれている作品、2010年1月にトリオ編成で録音されたスタジオ・アルバム『Whirl』が届けられた。ビバップ、ワルツ、アブストラクト、キューバの民俗舞曲ハバネラなどにおいては、ハーシュの激しい息づかいまでもが心地よい振動となって伝わってくるようだ。その世界はまさしく「おかえりなさい」を連呼するに相応しい、より生き生きとした赫きに溢れていた。

 同年5月には、同じくジョン・ヘイベア(b)、エリック・マクファーソン(ds)とのレギュラー・トリオによってVENUS レコードに『Everybodys Song But Our Own』が吹き込まれた。全曲スタンダードで構成されたこのアルバムには、シンプルながら深遠で研ぎ澄まされた美しい音の山脈が ”静かにざわめき合いながら” 連なっている。


Fred Hersch
げんこつ三つ分のこの空間から、上目遣いのピアノの神は見守っている



 ただし・・・できれば、「奇跡の生還」云々といったような謳い文句はもう並べたくない。そんなものを抜きにしたってフレッド・ハーシュが感性豊かなピアニストであることに変わりはないのだから、できればそうしたい。だからして、ここに述べてきた作品が、お涙頂戴的な「カムバック賞」なるものに値するか否かというような議論は、まったくもって不必要とされる。

 2010年の11月30日から12月5日にかけ、丸1週間トータル12回のソロ・ピアノ・ステージが、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で行なわれた。ハーシュ曰く、アドレナリンがとめどなく溢れ出す所謂「ゾーンに入った」 千秋楽の最終2ndセットがそのまま収められることとなった、実況録音アルバム『Alone At The Vanguard』

 ちなみに、2006年3月に同じくヴィレッジ・ヴァンガードで史上初めての「1週間連続のソロ公演」を行なった猛者というのが何を隠そうこのハーシュであったわけで、新しいスタインウェイ・ピアノを持ち込んだ満を持しての「再戦」と相成った。また、ハーシュのソロ・ピアノ・ライヴ作品のリリースは、2005年オランダ・アムステルダムの有名ジャズクラブ「ビムハウス」におけるステージを収めた『In Amsterdam: Live At The Bimhuis』以来となる。

 奇しくもハーシュに師事したブラッド・メルドーのソロ・ピアノ・ライヴ『Live In Marciac』(2006年の仏「ジャズ・イン・マルシアック」フェスティバルに出演した際のパフォーマンス)もほぼ同じタイミングでリリースされる。クラシカルな要素に ニルヴァーナレディオヘッドなどのカヴァー・レパートリーを何食わぬ顔で和える大胆さもそうだが、「My Favorite Things」やボビー・ティモンズの「Dat Dere」あたりの演奏では、それこそハーシュ直伝の力強さの中に潜むリリシズム、リリシズムの奥に透けて見える芯の強さ、その二律背反的なものを「美」とする極みを窺わせる。デビュー当初と較べ近年温かみが増しているそのピアニズムも、きっとハーシュの影響なのだろうなとさらりと感じさせてしまう微笑ましき近親性もある。実際弟子のメルドーやバッドプラスイーサン・アイバーソンはこう口を揃える。「ハーシュに教えを受けていなかったら、今の僕も、現在いる他の多くのピアニストたちもここには存在していない」。


Fred Hersch
2007年、イーサン・アイバーソン(左)とハーシュのソロ共演 @Jazz Standard



 話は若干ソレてしまったが、この『Alone At The Vanguard』、本当に素晴らしい。その素晴らしさをもっと具体的に表現できるような巧い言葉が見当たらないのが悔しいが、先述のVENUSトリオ盤『Everybodys Song But Our Own』所収のオープニング・バラッド「In the Wee Small Hours」の美しさからして早くもため息の連続。一音一音が流れ、転がり、跳ね、揺蕩う・・・フレッド・ハーシュのピアノは、その瞬間をいじらしくも獰猛に生命を焦がす、生き物そのものだ。モンクの「Work」も、ロリンズの「Doxy」もその生き物の見事餌食となる。あまりにも見事な捕り物帖なものだから、観客は拍手を止めない。こうして粉雪舞い散るニューヨークのジャズ横丁、最高の1週間に幕が下りた。

 客観的な時間軸でだらだら語られるような次元ではない。そこにあるのは、エヴァンスもキースも問題としない、今を生きるピアニストの至高のピン芸のみ。『Alone At The Vanguard』のあまりに美しい生々しさに言葉を失いかけるも、季節はしっかりと移り変わってゆく。



> フレッド・ハーシュ オフィシャルサイト




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* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

N.Y.のジャズ横丁、最高の1週間から

Alone At The Vanguard

CD Import

Alone At The Vanguard

Fred Hersch

Price (tax incl.): ¥3,190
Member Price
(tax incl.): ¥2,775

Release Date:02/March/2011

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帯付・国内盤仕様

Alone At The Vanguard

CD Import(Japanese Edition)

Alone At The Vanguard

Fred Hersch

Price (tax incl.): ¥2,200

Release Date:28/February/2011

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2010年5月 VENUS 初吹き込み

Everbody's Song But My Own

CD

Everbody's Song But My Own

Fred Hersch Trio

Price (tax incl.): ¥2,934
Member Price
(tax incl.): ¥2,699

Multi Buy Price
(tax incl.): ¥2,494

Release Date:19/January/2011
usually instock in 2-3days

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2010年1月のトリオ録音

Whirl

CD Import

Whirl

Fred Hersch

Price (tax incl.): ¥3,190
Member Price
(tax incl.): ¥2,775

Release Date:16/July/2010

  • Deleted

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