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アクセル・クリヒエール インタビュー

Friday, February 5th 2010

interview
アクセル・クリヒエール インタビュー

--- Shhhhh(以下S): BUENOS AIRESで産まれ育ったのですか?

Axel Krygier(以下A): そうです。ブエノスアイレス出身です。

--- S: あなたは様々な楽器を演奏できますが、子供の頃からやっていたのですか?

A: まず最初は、リコーダーを演奏することから始めました。それからピンクージョ(pincuyo)などの様々なインディヘナ(中南米の先住民)のリコーダー・タイプの笛を習得しました。同時に10年あまり、いわゆる(西洋の)フルートを勉強して、その後、クラシック・ピアノも習いました。
14歳の時にはフォーク・ルーツ的な音楽をやるグループで演奏していました。エレクトリック・ベースからボンボ・レグェーロ(南米のフォルクローレで多用される伝統的な大太鼓)までやりました。
そして、18歳から自分の作品の録音を始めて、新しい音色を作り出すために楽器を集めるようになりました。

--- S: あなたの音楽やアートワークはサイケデリックだと思います。変な映画や小説 を読んでるようです。影響された映画や小説があれば教えてください。

A: 映画からは相当影響を受けていますね。それに素晴らしい映画音楽、例えば、ヒッチコック監督にはバーナード・ハーマンの音楽、フェリーニにはニーノ・ロータとかを知りました。と同時に、ルイス・ブニュエルの映画の美学やマン・レイの写真、ジャン・コクトーの諸作品も大好きです。
それと、たくさんの推理小説やSF小説をコレクションしていた大叔父がいたので、子供の頃は表紙を見るだけでも楽しみでした。実際、僕の家はそういったものがぎゅうぎゅうに詰め込まれた場所でした。

--- S: 一方であなたの音楽はとてもPOPです。特に影響されたMUSICIANを教えてくだ さい。

A: まず逃れようがなかったのは、両親が大ファンだったビートルズですね。少し大きくなってからは、ローリー・アンダーソントーキング・ヘッズフランク・ザッパトム・ウェイツザ・レジデンツなんかを聴くようになりました。それから、フランスのボリス・ヴィアンセルジュ・ゲンズブールエールリタ・ミツコなんかもね。 マラトゥ・アスタツケ(エチオピアン・ジャズの父)、坂本龍一エルメート・パスコアルにも影響を受けましたし、影響を受けたミュージシャンは他にもたくさんいますよ!

--- S: HIP HOPやTECHNO、DUBSTEPといったDANCE MUSICは聞きますか?
また、CLUB/PARTYにはよく行きますか?

A: ダンスは大好きだし、クラブのフロアーでかかるダンス・ミュージックからはいろんなアイデアやヒントをもらいますね。そいう勢力はどんどん大きくなってるしね。

--- S: DJはやったことありますか?なかったらどんな音楽をかけたいですか?

A: 自宅でのパーティでならやったことはあるけど、かけるのはかなりエレクトリックな音になります。そっちの経験はあまりないかも。

--- S: ZZK RECORDSやDIGITAL CUMBIAは日本でも一部で流行りました。その後、 BUENOS AIRESの、その辺のパーティの様子はどうですか?

A: 僕もZZKのパーティに招かれて、ソロで出たことがあります。ここ3年ぐらいの自分のライヴで使っているサンプラーでの音をもっと深くして、強く踊りやすい感じでやりました。

--- S: 個人的にすごくすきな作品である、あなたの新作アルバムのタイトルの『PESEBRE』の意味は?キリスト教徒ではありませんが「飼い葉桶」が何かはわかります。でもなぜこの言葉をタイトルにしたのかを教えてください。

A: 気に入ってもらえて嬉しいです。僕もカトリックではありませんが、Pesebreとは、家族と生誕のひとつの象徴的なものとして深い意味があります。実は母と父を最近亡くしたもので。
それとジャケットの屠殺された仔羊、あるいは眼前の死とも関係があります。 そして、裏ジャケには慈愛に満ちた母がその幼い息子と描かれています。これは僕の母に似せてあるんです。
アルバム・タイトルと同名のトラック「Pesebre」には、宗教的な合唱のように動物の鳴き声を使って、おもしろさを出しました。いずれにしても、愛と痛みとユーモアが表現できたと思います。


--- S: LOS ANOS LUZ DISCOSのアーティスト達とは普段交流があるのですか?

A: もちろん。ドラマーのフェルナンド・サマレアには『つぐみ(Zosal)』と『Pesebre』に参加してもらいました。トレモール(Tremor)も良い友達で一緒にライヴをやります。あと、マルティン・ブスカグリアもね。ブエノスアイレスのミュージシャンは、みんな仲が良くて、大きなファミリーみたいな感じです。

--- S: 同時に発売されたTANGO/OPERAのプロジェクト、3TANGOSについて教えてください。

A: このアルバムは同名の『3 Tangos』という演劇のサウンドトラックです。『3 Tangos』は、2009年の11月にパリのシャンゼリゼにあるロン=ポワン劇場で上演されました。監督は30年以上パリに住んでいるアルゼンチン人のアルフレード・アリアスです。
この作品に関わるために、全身全霊を捧げたと言っても過言ではありません。30分以上の曲を3曲ですから。まずは1930年代のスペイン的なアルゼンチンという設定で、次は大西洋を交錯する50年代のイタリア、そして70年代のパリという設定でした。
物語は、ひとりの女性が愛人の助けで夫の殺害をしようとするというもので、とてもドラマティックです。40年代の探偵小説とシュルレアリストのグレタ・スターン(Greta Stern)の写真にインスパイアされています。

--- S: 日本のMUSICIANで知っている人、あるいは好きな日本音楽はありますか?

A: 音楽を含めた日本文化は大変素晴らしいと思います。坂本龍一の名前はすでに出しましたが、テイ・トウワコーネリアス、ほんとにすごいパスカルズとか、いろいろ好きですよ。

--- S: 最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

A: 僕はあなたたちの国と文化が大好きです。皆さんの前で演奏する、というのが僕の大きな夢でもあります!


(インタビュアー:Shhhhh)
(スペイン語訳:高橋めぐみ)
(取材強力:アオラ・コーポレーション)



新譜Axel Krygier / Pesebre
01. Cucaracha / 02. Campo De Marte / 03. Serpentea El Tren / 04. Pesebre / 05. Agnus / 06. La Fiera / 07. Llega Enero / 08. Cumbieton Rutero / 09. Esclavo De Olor / 10. Tucumana / 11. Ansia / 12. Charlone
(2010年01月24日発売 / 日本盤 BNSCD-757 / ビーンズレコード)
アルゼンチン新世代を代表する大鬼才にして大変態、アクセル・クリヒエール。数年前の”音響派”として注目を集めた、アレハンドロ・フラノフやサンティアーゴ・バスケスよりも一足先にマドリードのダンス/ラウンジのレーベル、HI-TOPより紹介された逸材です。

その”音響派”周辺が大挙ゲスト参加した『つぐみ』(BNSCD-728)が05年に国内盤化され、そのストレンジなポップ/ラウンジ感、さらに南米のフォーク・ミュージックをも飲み込んだミクスチャー・センスでコアなダンスミュージック好きにも注目され、デジタル・クンビアのレーベル、ZZKにはAXEL-K名義で参加。09年発売のコンピ『ウニコリスモ』(BNSCD-755)にも収録。一方でHYPNOFONというコンセプチュアルなジャズ・プロジェクトに参加、またもノスタルジックで変態的なアンサンブルを披露していました。

今作はようやく届いた待望の4年ぶりの4thアルバム。ベース、ギター、オルガン、ムーグ、アコーディオン、クラリネット、シンセ、サンプラー、ピアノ他、そして自身のヴォーカル!ノスタルジックでロマンチック、エキゾチックでエレガント。時に変態ながらも、計算しつくされた引き際を心得た最新のセンスで、09年最新の奇妙なポップ・ソングを歌ってます。ZZKコンピ収録の名曲もセルフカバーして収録。新しい音楽もすぐに自分のものにしてしまう才能はピカイチ。また、50年代ラウンジ風やジプシー・ブラス風の曲があったり、自国のフォルクローレをダブ化してしまったりと、やりたい放題にアクセル・クリヒエールの世界を具現しています。

相棒は前作に続きフェルナンド・サマレア。彼のドラムもダンス・ミュージック以降のクロスオーバーなビート・センスで世界観を演出。ゲストは今作は特にいませんが、この完璧な世界観を演出するのに余計なプレイヤーはいらないのでしょうか?その辺も充実と自信を感じます。

なお、タイトルのPESEBRE(ペセブレ)とはいわゆるベレンのこと。キリスト降誕の場面を人形や小道具で表したもので、クリスマス時期になると特にカトリックの各家庭などで飾り祝う習慣があります。クリヒエール独特で意味深なタイトルですね。

ブエノスアイレスのハイセンス・レーベル、LOS ANOS LUZ DISCOSの09年末の贈り物。いつものようにこのレーベルのアートワークは逸品です。次の10年を占う挑戦作にして、アンダーグランド・ポップ・スタンダード。わけのわからない映画をみているような39分をお楽しみください。
関連作品UNICORISMO / Selected by Shhhhh
・MUSIC MAGAZINE誌「ベストアルバム2009」ハウス / テクノ / ブレイクビーツ部門5位!
・MUSIC MAGAZINE誌2009年9月号「アルバム・レヴュー」10点満点獲得!
今回のインタビューアを務めて下さったShhhhh氏が、ブエノスアイレスの最注目レーベルLOS ANOS LUZ DISCOSの音源をフロア/ダンスミュージック目線でセレクトした心憎いコンピレーション。
電子クンビアなどを例に、今や世界的ブームにまで波及するアルゼンチンのフロアミュージックの勢い、そして現場の熱気をそのままパッケージ。アクセル・クリヒエールをはじめハミロ・ムソット、ウーゴ・ファットルーソ、サンティアゴ・バスケス・・・そこには刺激的でファンタジックな音楽体験が。"日本のアングラ・ヒーロー"ALTZがRe-editで参加。
⇒ さらに詳しい特集記事はコチラ
profile

アクセル・クリヒエール Axel Krygier:
1969年、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。
音楽好きの一家に育ち、幼い頃からフルート、ピアノ、作曲などの音楽教育を受 けた。80年代後半からプロとしての活動を始める。90〜96年には、アルゼンチン のワールド・ビートの重鎮バンド、La Portuariaのサポートメンバーとして4枚 のアルバムに関わる一方、多くのライヴに参加。
99年、新世代によるユニークなポップ、フォルクローレ、またはジャンル分け不 可能なダンス・ミュージックをリリースしてきたLOS AÑOS LUZ DISCOSから初の ソロ・アルバム「ECHALE SEMILLA!」を発売し一躍メディアに注目される存在と なる。03年にはセカンドとなる「SECRETO Y MALIBU」を発表。バルセロナのBAM フェスティバルを始め、パリ、ロンドンでの公演を実現。05年には所謂「アルゼ ンチン音響派」周辺が大挙ゲスト参加した3rdアルバム『つぐみ(原題: ZORZAL)』(BNSCD-728)が国内盤化。そのストレンジなポップ/ラウンジ感、さ らに南米のフォルクローレをも飲み込んだミクスチャー・センスでコアなダンス ミュージック好きにも注目されている。07年からAxel K. Soundsystemとしても 活動を開始し、ZZK Recordsのコンピレーション、ライヴ・ツアーにも参加する など、その活動は多岐に渡り、HYPNOFONというコンセプチュアルなジャズ・プロ ジェクトにも参加している。
09年には、トルコのチルアウト・フェスティバルを始め、イギリス、フランス、 ベルギー、スペインの各地で公演を行う傍ら、本作「ペセブレ」と「3 (Trois) Tangs」という同名の演劇のサウンド・トラックを発売している。

Shhhhh:
活動の拠点でもある東高円寺GRASSROOTSでのレギュラーパーティを毎月開催。 “ビーンズ・レコード”より09年リリースの、アルゼンチンの摩訶不思議レーベル =LOS ANOS LUZ DISCOSの音源を使ったコンピレーション、「ウニコリスモ」の 選曲/監修を担当。同作はミュージック・マガジン誌にて、ダンス部門で年間5 位に入るなど、ワールド/ダンスを超えた評価を得る。
00年代初頭よりパーティ人生をスタート。“FLOWER OF LIFE”“FUTURE TERROR”“POWWOW””eleven.”らの最重要アンダーグラウンド・パーティでDJ。 BURNING MANからサラエボまで、世界をたまに放浪し、近年では独自の視点に基 づいた新しい解釈のワールドミュージック発掘活動がパーティピープル/DJ陣に 絶大な評価を得ている。
JUZU a.k.a. MOOCHYのレーベル“Proception”よりMIXCDも2枚リリースしている。

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