「Continental Drift」からの「Start Me Up」。それはつまり、藤波辰爾でいうところの「フルネルソン」からの「ドラゴン・スープレックス」。「1990年2月14日」をよく知る極東のストーンズ・ファンにとっては、それぐらいのインパクトと破壊力を持つ一連の流れ。イントロにしてフィニッシュ・ホールドとも言える、このSEを背に本日のMC、越谷政義さんが「Steel Wheels Tour」仕様の黒のスタジャンに身を包み登場。開口一番「20年前の今日は何曜日だったか憶えています? 確か水曜日じゃなかったかなぁ? 」と、誰よりも早く20年前の今日にタイムスリップし、あの日のことを振り返りはじめる越谷さん。わずか10分足らずのオープニングMCタイムにもかかわらず、ストーンズ(+@)の情報をこれでもかと盛り込む盛り込む。あげくの果てには「ダディ竹千代」(おとぼけキャッツ!)の名前も飛び出す相変わらずの舌好調ぶり。そして、会場を十分に温めたところで、まずはオープニング・アクトを紹介。アコギの弾き語りスタイルでハスキーな歌声を聴かせてくれる新世代シンガー・ソングライター、loach(ローチ)が登場し、「ロックをころがせ! 〜KEEP ON ROLLIN'〜」がブルージーにキックオフ!
トム・ウェイツ? いや、ハウリン・ウルフ? いやいや、この感じは、完全にブラインド・ウィリー・ジョンソンかチャーリー・パットンの世界でしょ! ヤサ男風なルックス(失礼しました・・)からはおよそ想像もつかないディープでダーティ、且つ色気漂う歌声で「Out Of Time」、「Jumpin' Jack Flash」の2曲を披露したloach。「Jumpin' Jack Flash」に至っては、「ミシシッピ・デルタ・ミックス」とでも命名したい程のずぶずぶにマディなアレンジ。これはホントに恐れ入りました。ストーンズ好きだけじゃなく、戦前カントリー・ブルース、フォーク・ブルース、ラグタイムなんかがお好きな方も、是非、loachのライヴに足を運んでみてください。
のっけからドスの利いたブルース魂を注入され面喰っていると、お次は早くも本日の目玉。Mr.チャールズ(vo)、市川James洋二(b)、大島治彦(ds)、木村秀穂(g)、石田コータ(g)による、KEEP ON ROLLINGSが登場。THE PRODIGAL SONSの百戦錬磨のリズム隊を核に、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみなところ。セッティング中の越谷さんの軽妙な”演者いじり”も興に乗ってきたところで、あのズンドコ・タムの耳慣れたイントロが! ストーンズ、1981年の北米ツアーのセット・リストに組み込まれたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのモータウン・クラシックス「Going To A Go Go」でKEEP ON ROLLINGSのショウはスタート! ストーンズ経由でブルース、R&B、ソウルといったブラック・ミュージックの世界に足を踏み入れるようになった人のツボをしっかり刺激する選曲。ナイスです。 そして、ヴォーカル、Mr.チャールズの本領が発揮されたのがここから。「Last Time」、「Time Is On My Side」、「Tumbling Dice」の秀逸なオリジナル日本語訳カヴァー3連発。忌野清志郎、岡林信康、友部正人、仲野茂、どんとらが体を張って教えてくれた「カヴァーであっても自国の言葉で歌ってこそ本物のロック」という精神が、ボス亡き今もしっかり受け継がれていることを感じさせてくれました。なんだかんだ言っても、日本語の言葉・文章ってとても深みや面白みがあるなと思います。 ラストの「Let It Bleed」は、原曲どおりの英詞ヴァージョンでしたが、木村秀穂、石田コータのコンビネーション・ギターに冴えをみせたロックンロール色の濃いアレンジで大満足。即席とは言え、やっぱりこれだけのキャリアを持っているタレントたちが、愛するストーンズめがけて自身のソウルをぶつけているわけですから、バンド・アンサンブル、バリエーションを含めてかなりハイグレードなステージになったことは言うまでもないでしょう。役者が違います。
さて、3杯目の生ビール(ROCK JOINT GBの大ジョッキは規格外のデカさで、のんべえにはオススメ) をひっかけはじめた頃、ステージ上では、なにやら艶かしめな姿見のお姐様たちがスタンバイ中・・・そう! レペゼン福生のルシールと言えば、かつて、あのムッシュかまやつ御大の肝煎りでデビューを果たしたガールズ・バンド。ニューウェーブ〜ビート・ロック全盛の80年代当時から、ゴリゴリのブルース・ロックやR&Rを吐き出していた本格派のアネさん4人組。今回は再結成メンバーでの登場。「Crazy Love」、「Lullaby」といったオリジナル・ナンバーを交えながら、注目のストーンズ・カヴァーは、「Tell Me」、「Out Of Time」といった60年代楽曲からのナイス・チョイス。ラストは、ストーンズがデビュー・アルバムでもカヴァーしていたおなじみのルーファス・トーマス「Walking The Dog」を粘り腰のブルース・ロック仕様でぶちかまし、会場を沸かせまくってくれました。
2010年 ローリング・ストーンズ・ファンクラブ特製カレンダー(非売品)などの豪華商品がほろ酔いのストーン・ピープルたちに手渡されたプレゼント大会を挟み、お次はVESSE。ストーンズ〜フェイセズ〜村八分の系譜を21世紀につなぐ、ネクスト・レイジー・ロック・シーンの注目株と言われるだけあって、そのパフォーマンスの一部始終がキレております。ミック・ジャガーにチャー坊を足してジャック・ダニエルで割ったようなヴォーカル、JUNのアブない存在感は相変わらず。「She is Monkey」、「退屈天国」、「あの娘わがまま」などのオリジナル・ナンバーに挟み込んだストーンズ楽曲「I'm Free」、「Stray Cat Blues」は、ややもすると「これも彼らのオリジナルか?」と思うほどのさすがの昇華ぶり。ルシール同様に60年代楽曲からのチョイスとなったわけですが、それにしても、この頃のストーンズ楽曲ってよくできてますよね。シンプルなコード進行なのにメロディにフックがあって、ポップなのに黒っぽくって。ビートルズ同様、この時代特有の様々な要素が混ざり合って構築された60sストーンズ・サウンド。死ぬまで聴き続けるんだろうなぁ。 さて、”ストーンズ孫世代”代表格の貫禄を十二分に見せつけたVESSE。こちらもライヴは要チェックです。
ドン・マツオ登場! 吉祥寺発 文京区経由 トロント行きの宴の行方は・・・
”ロニーの気になる近況”を皮切りに、初来日時のミック、キース、チャーリーとの思い出話、さらには、ジョニー・デップが監督を務めるというキースのドキュメンタリー映画の話(間もなくクランクイン?)など、越谷さんの息つくヒマもない「ストーンズ秘話」を存分に楽しんだところで、いよいよステージには真打登場。日本を代表するストーンズ・トリビュート・バンド、THE BEGGARS。爆音の「Continental Drift」が鳴り始めた瞬間、吉祥寺ROCK JOINT GBが、たちまちあの日のビッグ・エッグにタイム・スリップ! 1990年2月14日を境に、ロックンロール・ハイスクール日本支部の校歌に認定された「Start Me Up」から、あの日あの時と同じ狂乱ムードが充満。ミック・ジャガリコの白地に青のストライプ・ジャケットは、コンサートの協賛元でもあったポカリスウェットのブランド・カラーにも見事シンクロ。「Sad Sad Sad」、「Mixed Emotion」と、THE BEGGARSにとってもレアとなる楽曲は、今後二度と聴けない可能性大につきお得感も2倍。残念ながら初来日ツアーでは聴くことができなかった「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」、そして、皆恍惚の表情で魅惑のオフ・ビートに腰を振った、こちらはあの日のハイライトのひとつとして語り継がれている「Miss You」。いい流れです。
酒と蒸気で紅潮しっぱなしの頬をここで少しクールダウン。本家は「Ruby Tuesday」に続いて披露し、心のヒダをこれでもかと濡らしてくれた「Angie」。当時、一部好事家からの「ちぇっ、<Angie>かよ。<Beast Of Burden>か<Wainting On A Friend>やってくれよ」なんていう心ない声も懸念されましたが、ストーンズ史上最も切なく美しいバラードをナマで耳にしている、それだけで感極まってしまった日本のストーンズ・ファン。名曲と呼ばれ続ける曲というのは、それぐらい不思議な力を持っているものなんですね。と、そんな思い出とともに酔いしれた「Angie」に続き、その余韻に浸る間もなくホットなロックンロール大会と化した「Star Star」へ。結果、『山羊の頭のスープ』から3曲という絶妙なチョイスは偶然か必然か?
さて、イベントもいよいよフィナーレに向かって激しくアクセルが踏み込まれ、THE BEGGARSの後半戦は、90年代ストーンズのセットリスト、さらには『Get Yer Ya-Ya's Out』完全版に同時にオマージュを捧げたかのような名曲ラッシュ。69年のマジソン・スクエア・ガーデン公演を観ているような感覚にも襲われかねない「Midnight Rambler」に「Honky Tonk Women」。続く「Jumpin' Jack Flash」、「Sympathy For The Devil」では逆に、近年の本家さながらにブラッシュアップされたタイトでスピード感溢れるヴァージョンを披露し、走馬灯の様に駆け巡ったあの日の思い出とともに、あっという間に大団円。アンコールは、出演者全員がステージに集まっての「Brown Sugar」、「Satisfaction」。 「1990年2月14日」を東京ドームで過ごした人もそうでない人も、ここまできたら関係なし! 本能むき出しのロックンロール・リビドーにただただ正直になるだけ! 本家の初来日公演同様、熱狂、興奮、感動、歓喜、酩酊、驚愕、空虚・・・十人十色の様々な感情に会場が支配されながら、「ローリング・ストーンズ初来日20周年 ロックをころがせ! 〜KEEP ON ROLLIN'〜」は幕を閉じました。
バッド・ボーイズ・ロック系ストーンズ・チルドレンが生んだ、ジャパニーズ・ロック・シーンに燦然と輝く金字塔。「Boys Jump The Midnight」(発売当時は、”スライダーズらしくない”と物議も・・・)、「Special Woman」、「Back To Back」、「Angel Duster」、「Party Is Over」といった彼らの代表曲がたっぷり収録されている。
ドン・マツオ vs 総勢25名の京都アンダーグラウンド! ロックンロールもエクスペリメンタルもポップも全部飲み込んだ奇跡の1枚。ドン・マツオの記念すべき初ソロ・アルバムにして、ドン・マツオという男の荒削りな生身のグルーヴが詰まっている快作。語りかけるような独特のドン節で歌われる「アフリカの夢」が秀逸。
伝説の第1回フジロックフェスティバルに当時新人として出演を果たし、そのファンキーかつカオティックなウルトラ・グルーヴでオーディエンスのド肝を抜いた97年。その出演2ヶ月後にリリースされた2ndミニ・アルバム。「ジャンボ」、「Builbone Blues」といったファンキーでローファイでハイテンション、しかしながら、きちんとポップなものに仕上がっているしたたかな名曲を多数収録。翌年の『Let It Bomb』で遂に大爆発することになる。