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クレンペラーの『フィガロの結婚』
どこまでも澄んだ至上のモーツァルト
クレンペラー晩年の「遅さ」が、なにかと話題になる演奏ですが、トータル・タイムは189分なのでそれほど極端に遅いというわけではありません。
遅く感じる理由のひとつが「フィガロ序曲=エネルギッシュ」というイメージなのかもしれませんが、ここではその序曲ですら細部の音形にいたるまで克明に再現されており、続く本編も同様に情報量の多いアプローチになっているために、一種独特の魅力的な停滞感が生まれているのが特徴的です。美術館で美しい絵画の前からなかなか離れられないような停滞感と言い換えることができるかも知れません。
なにしろここでは、通常元気に演奏されるケルビーノのアリアまでオーケストラに耳を奪われるほどの美しさで演奏されており、その高雅で澄み切った音楽に、改めてモーツァルトの天才ぶりを確認することが可能です。
通常のイメージからは大きくかけ離れた、全情報開示型のきわめてユニークな『フィガロの結婚』ですが、これに慣れてしまうと、ほかの演奏が舌足らずに思えてしまうから不思議。
クレンペラー好きなら一度は聞いておきたい素晴らしい演奏です。録音状態も大変良好。なお、歌詞対訳は付いておりません。海外盤は1999年に廃盤になっています。
【収録情報】
・モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』K.492 全曲
アルマヴィーア伯爵:ガブリエル・バキエ
伯爵夫人:エリーザベト・ゼーターシュトレーム
フィガロ:ジェレイント・エヴァンス
スザンナ:レリ・グリスト
ケルビーノ:テレサ・ベルガンサ
マルチェリーナ:アンネリース・ブルマイスター
ドン・バジリオ:ヴェルナー・ホルヴェーク
ドン・クルツィオ:ヴィリー・ブロックマイアー
バルトロ:マイケル・ラングドン
バルバリーナ:マーガレット・プライス
アントニオ:クリフォード・グラント
2人の少女:テレサ・カーヒル、キリ・テ・カナワ
ヘンリー・スミス(チェンバロ)
ジョン・オールディス合唱団
ジョン・オールディス(合唱指揮)
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
オットー・クレンペラー(指揮)
録音時期:1970年1月
録音場所:ロンドン、アビーロード第1スタジオ
録音方式:ステレオ(セッション)
プロデューサー:スヴィ・ラジ・グラッブ
エンジニア:クリストファー・パーカー